Deviance World Online 間話『戦争』
新たな出会い、その相手は後にこう呼ばれる男との出会いだった。
そう、『征服王』イスカンダルと呼ばれる男との。
初めて会った時の印象は、愚か者だった。
何せ、その男の語る夢とは北方に乱立する国家全ての統一だったのだから。
北方には様々な国と貴族が存在している、わけではない。
寧ろ、国と呼ばれる境目などなく貴族を名乗る有力者が互いに顔を効かせ合い年がら年中戦いに明け暮れている大地なのだから。
ただその中でも、北方において最大規模の権力を有する貴族が三つ存在する。
一つ目はレオトールの家である『リーコス』一族、はるか昔から水晶産業を主に様々なモノを提供し竜の進行を防いできた一族。
単騎での戦闘能力は当然ながら群での戦闘能力も相応に高い、高価な魔物産の素材を多分に用いた武器防具を貫くことは名匠の業物でなければ難しいとすら言われているほどだ。
二つ目は『リーコス』とは敵対していない中立を貫く『ムセイオン』家。
前にも出ていた『賢者の叡智』が所属する貴族家でもあり、北方においてどの勢力にも寄与しない独自勢力と言った存在だろう。
所属している人員のほとんどは優秀な魔術師であり、若年はともかく老齢な魔術師と相対すれば生半可な人間ならば即座に死ねる。
独自の領地運営を行っていたり、他にも様々なことに手を出しているためある意味北方で最も進んだ場所だろう。
そして最後、三つ目となるのは『リーブスシア』だ。
この勢力、この貴族は他二つと大きく違い全方面に喧嘩を売り売られている勢力でもある。
大きな理由としては彼らが保有する大地はなだらかな草原であり、農作物を作るのに最も適している環境と言うのが一つ。
二つ目に彼らは北方の中心に近い場所に陣取っており、国交交通の面で最も優秀であるから。
そして三つ目、それは北方の冒険者ギルド改め傭兵ギルドの本拠地がそこに存在しているからだ。
土地的価値は計り知れず、北方の考え方のほとんどである略奪上等と言う方向性。
そして戦争をし続けてきた歴史により、禍根は癒えることなく今なお戦争大国として君臨している。
その三つを統一し、北方に最大級の国を作る?
夢物語も程々にしろ、そう一喝しようとしてだがやめた。
夢物語だ、もし成功すればこの男は大英雄となるだろう。
後世の歴史に伝わる、史上最大の王として。
そして夢物語ではあるが、不可能ではないと言うのも痛感していた。
レオトールはチラリと、横に控えるヘファイスティオンを見た。
彼女は何も語らない、ただ王の側で黙るのみ。
おそらく彼女も、今のレオトールと同じ結論を弾き出しているのだろう。
夢物語でしかない、その理想を。
結局、レオトールはその場で答えを出すことを放棄した。
この男ならばやる、そんな予感はあるのと共に自分の若さゆえの未熟さの見間違いというのもあり得る。
彼自身が自分の人の見る目を信用していなかったのも大きい、合理的な人間だからこそ主観を最も信用しなかっただけではあるが。
そしてもう一つ気になったのが、ヘファイスティオンと言う人物の存在だ。
一見してわかる、アレの強さは自分に匹敵すると。
20歳時点でレオトールの全てのステータスは1800に当たっていた。
前人未到の域でこそ無いが、そのステータスは人類が保有して良いものではない。
また普通の人間ならありえない第三次成長も発生していた、このままいけば肉体はより精強により強靭になることだろう。
そんな自分と同格の存在、正面から戦えば勝てるかも怪しいと思わせるその雰囲気。
はっきり言おう、もう既にレオトールは明確に幻視していた。
あの王が、この北方を統一する未来を。
三日後、レオトールは結論を出した。
熟考に熟考を重ねた上で、全ての引き継ぎを行い北方に自分が居なくとも問題ない機構を作り上げた。
また大量の武装も用意させた、その数軽く千に及ぶ。
他に領地に残さねばならない傭兵と、着いて来る意思のない傭兵を選別しそのままレオトールは『伯牙』として征服王の軍門に下った。
その時に、『盟主』という制度も決まる。
基本的に征服王の元に傭兵たちは皆平等だ、誰しもが特別なことなく『王の軍』である。
だがそれではダメだ、そのようにしてレオトールはそこに口を挟む。
王の元で全てが平等? そんな話は馬鹿馬鹿しい、指揮系統の統一など真っ先にするべきことだと苦言を提した。
ならばとイスカンダルは笑い『白の盟主』を与える、この時ばかりはレオトールも呆気に取られたと言う。
新たな制度を作る時、普通は複数の工程を挟みその制度を広め価値を見出す。
この時は酒の場だった、普通は雑談で終わる話だった。
だがこの征服王は雑談で終わらせず、有言実行とばかりにレオトールへその座を与えたのだ。
もうその時のレオトールの感情と言ったら筆舌出来ないモノだ、次の日からレオトールは散々に荒れ狂った。
役職に特別感を出すためにイスカンダルが擁していた傭兵団総勢100名程度とレオトールが連れてきた『伯牙』の面々とで初対面から二日まであるのにも関わらず大々的な交流会を行い序列制度の導入とその詳細の説明。
また『盟主』に与えられる権限と、責任を事細かに制定しそのための草案をまとめヘファイスティオンにも盟主の座を与えるためイスカンダルへと打診し。
もうそれはそれは大変だったと言う、何せ所構わずイスカンダルが盟主盟主と言うものだから公的な公開などと言う準備をする暇すらなかった。
彼に対しての文句は尽きたことなどない、はっきり言って彼の性格は気分屋と同じぐらいに適当なものでもある。
だがそれと同じく、彼は遥かな現実も見ていた。
今回の一件もそうだ、レオトールの試案が有用だと感じたから彼は採用した。
その行動には理由があり、ただイスカンダルの行動は性急すぎている。
そして公的な場でそれを諌められる対等の人間が存在していなかったと言うのも大きい、今ここに初めてイスカンダルと対等のレオトールが現れるまでは。
彼は政治的能力は平凡的に存在する、そのためイスカンダルに王として足りない部分を指摘することも出来た。
特に今回の『盟主』という制度が出来上がったのも大きい、立場としては対等に最も高い立場であるからこそ重箱の隅を突くような指摘ができる。
イスカンダルも、王としての在り方は重要だった。
彼も一応は弱小貴族の出身であり、貴族の一員ではあったがその程度では海千山千の老獪な存在に太刀打ちできない。
それどころか、半端な貴族が彼に与することはないだろう。
レオトールが与したのは、彼が『伯牙』と言う立場でありながら貴族としての実権の全てを妹に引き継いでいたことが理由のほとんどでもある。
また『伯牙』の人員を無理矢理引き抜いたわけでも無いと言うのも大きな理由だろう、彼の影響力を彼自身が余り自覚していないのは問題だが彼なりに最大限配慮はしていた。
まぁ、細かい事情を語り始めると止まらないので色々省略しよう。
とりあえず、イスカンダルは最強の矛と権力を手に入れたと考えれば良い。
そうして快進撃は始まっていく、北方全土を巻き込んだ快進撃が。
全ての戦場で全戦全勝だった、レオトールが出れば大抵の魔物は敵ですらない。
また『伯牙』の権力をイスカンダルは上手く利用した、当の本人が大抵のことを許諾したからこそその無法っぷりは酷いものだった。
自分をそもそも相手にしない存在は『伯牙』が対面しにきたと言い無理矢理会いにいく、交渉が通じないのならば『伯牙』の面子を潰すことになったとしても即座に諦める。
自分の話に傾倒しそうならば無理矢理引き入れ、そして引き入れれば明確な利を示す。
イスカンダルのカリスマは高い、スキル『王者の覇気』、スキル『覇王の素質』などといったモノがレオトールと会ったことで開花したのも理由の一つだろう。
人々を引き込み様々な道を確率し、物流を流れやすくしたのは全面において敵でも味方でも無い北方の存在を脅かすこととなる。
後に『王の道』と呼ばれるその街道は、様々な利益が存在した。
一つに軍隊の派遣、大規模な戦争となった後でもイスカンダルが魔物が少ない街道を確立したことで大規模な軍事移動が可能となり兵力の派遣に役立つこととなる。
一つに物資の補填、レイドボスによる大災害が発生してもこの道があれば即座に復興を行うことができた。
北方と言う戦国時代が如き様相を呈していた自然環境入り混じる広大な大地は、征服王の支配によって繋がっていく。
結果を出せば北方の人間はその結果に応える、戦列は一気に増えていき表舞台に立っていなかった『忍の隠れ里』や北方の中でも偏屈揃いの『大國』。
他にも海上都市をメインとする『ドラコ』や霧と魔術の科学都市である『ロンニア』、小人系譜の種族が殆どとなる『ラッド』に語るまでも無い『ムセイオン』。
他にも山のように存在する有力者が、征服王の下に付いた。
時にして僅か2年と少し、その時点でもう既に征服王は王として崇められ『盟主』は十二人まで膨れ上がっている。
つまり現在の征服王軍は、この時点で完成していた。
北方はこれにて支配仕切った、戦乱と魔物が跋扈する土地は征服王という圧倒的なカリスマによって支配された。
完全な支配では無いし盤石な支配でも無い、だが支配したと言う事実はこれ以上なく真実だ。
また彼の戦列にならぶ傭兵たちも元々敵対していた関係などすっかり忘れたように仲良くなっていた、と言うよりならざるを得ないように仕向けられていた。
とは言え、戦いを経て得た絆は本物でもある。
特に北方でも最難関の戦いだった『炎龍帝』の討伐、こればかりは多量の死者をだし敵味方問わず全員が協力しあった戦いとも言えるだろう。
その中でも一際異彩の活躍を誇ったのがレオトールだ、彼は最初から最後まで事実上の休みなく数日間寝ることも無しに北方でも最強種とされる竜の最強格に挑み最後のダメ押しとして『水晶大陸』まで用いて圧倒的な実力を披露する。
その上で限界ギリギリまで体躯を動かし、殺しきった様はまさに『大いなる英雄譚』と言うべきモノだ。
故に、恐怖は加速する。
英雄というものは憧憬と共に、理解されず。
身直に存在していればただの恐怖の感情以外は芽生えない、芽生える筈がない。
英雄というものは等しく人の生き方をしていない、レオトールも同様だ。
人の通りから外れた生き方をするからこそ、英雄として呼称される。
いつしかレオトールは恐怖を伴った憧憬でしか見られなくなり、理解者とでもいうべき存在は消え。
だがレオトールはソレに気づかず、その溝は深まっていった。
ソレでも彼らが北方から飛び出るまでは良かった、彼らが北方の中にいるのならば敵の殆どは人間ではなく魔物でありその絶対的な能力はモンスターに向けられる。
しかしそうは成らない、結果として彼の圧倒的な力は人間に向けられることとなる。
レオトールが23歳の時に、北方の軍勢は北と南を分断するエルフの森へと辿り着き。
レオトールが24歳の時に、グランド・アルビオンとの戦争が始まった。
ここから先は深く語る内容はない、だが同時に浅く語れるものでもない。
最初の衝突、ソレはグランド・アルビオンにとっても『王の軍』にとっても予想外の結末となる。
まずは『王の軍』、彼らにとって予想外だったのは北方での『王の軍』の規模を縮小させたことで予想以上に戦力が低下していたこと。
そしてグランド・アルビオン王国の力が予想以上だったことだ。
第一次侵攻の時、征服王が引き連れていた軍勢はおおよそ4000。
だが二ヶ月近くにわたる戦いを終えた後は、3000にも減っていた。
ある意味、初めての敗北だろう。
傭兵と違い、規律の取れた騎士というのは遊撃とゲリラが基本の傭兵にとって最も崩しにくい敵だった。
今回の戦いで大きな戦績を挙げた存在は少ない、精々がレオトールだけだろう。
勿論、全員が全員必死で戦ったのは違いない。
しかし全力を発揮する事が難しかったのが、今回の敗北の原因ともいえる。
ハッキリ言うと、環境に左右されない安定した土地だったからこそ北方の傭兵は全力を出せなかった。
何らかの環境に規定される北方、だからこそ制限が掛かる。
その制限を克服するために全員が必死で足掻き、実力を高めると言うのもまた北方のやり方だ。
だがその規定という名の制限が消えた事で、本来出せていない実力が発揮され予想以上の差が発生し戦列が乱れた。
ただ誤算があったのは、『王の軍』だけではない。
当然、『グランド・アルビオン王国』にも誤算は存在した。
その一つは、根本的な実力不足。
開砲がわりに発生させられたレオトールの『絶叫絶技』、ソレは『万里の長鎖』によって放たれたものでその一撃だけでレベル40未満。
全ステータス合計が500を下回る存在は完全な行動不能に、またステータスが1000以上となる上澄の正規兵でも影響から逃れる事はできず。
ソレを振り払い、単独で迫れるものはたった一人戦場に立っていたレオトールに虐殺された。
『銀剣』のスクァートや、『飾弓』などはここに該当する。
他にも誤算は多い、征服王自身が戦争での掠奪を禁止したとはいえある程度の自給が可能な傭兵団と戦えば国力は大きく疲弊していく。
征服王が率いる所詮は4000の兵、対抗するのはグランド・アルビオン正規兵のみでも2万弱。
だがその二ヶ月で、グランド・アルビオン王国の正規兵は半数以下まで数を減らさせられた。
粘り強く、粘り強く戦いはしたが結局勝ち筋など見えずグランド・アルビオンは完全にイスカンダルにその国を征服されかけたというのは語るまでもない。
ただ、奇跡は存在していた。
例年より早い冬の到来、近くに海があり人類生存圏の中では有数の豪雪地帯へと変貌するグランド・アルビオン王国。
寒いだけならば耐えられるが、こうなって仕舞えばまともに戦う事はできない。
双方共に矛を収めることにし、征服王とグランド・アルビオンの国王は休戦協定を結ぶ。
その翌月、神からの宣告がなされた。
この世界に紛れ込む異分子、『異邦人』という存在が。
そして外部に出ないことで、水面下で発生していた不満が露呈し始める。
その中でも最も溝ができていた、傭兵団『伯牙』とレオトールの闇が完全に露出し始めた。
『炎龍帝』についてはまた今度。
ただレオトールが戦った中で一番強い敵です。
レオトールは耐久戦なんかは強い傾向にあるんですが(MP切れが発生しにくく、MPをスタミナに変換するスキルも持ってるから)、数日間の完全耐久をして弱らせたにも関わらず最強スキルの『水晶大陸』を使わせてますからね。
しかも単騎ではなく、同等の実力があるとされる『盟主』全員が団結して戦った上でギリギリですから。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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