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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online 間話『死』

 魔力を操作できるようになった。

 その事実を受け止め、両親はレオトールにスキルオーブを買う。


 もしかすれば、その時から明確な予兆があったのかもしれない。

 北方最強になる可能性があると言う、その予兆が。


 とはいえ、この時点では誰も知り得ない話であり。

 また同時に机上の空論以下の妄想話でもある、結局は本人が死ぬほど努力し環境がその努力に応えてくれたと言う事実に他ならない。


 そう言うわけでレオトールは、インベントリを手に入れた。

 水晶大陸の多大なデメリット、内臓やその他の臓器の修復修繕に一年余りを要求することとなったが彼はインベントリを手に入れることに成功したのだ。

 インベントリを手に入れたレオトールは、まず最初に鍛錬の方向性を変更した。

 レオトールの今までの鍛錬は只管に実践を積み上げるだけでしかない、そこに座学の要素は殆ど介在していなかった。

 これは幼さゆえの思考の未熟さや、実践を積み重ねれば積み重ねるほど結果が得られたと言うのも理由に挙げられるだろう。

 だが、そんな話はどうでも良い。

 彼は理屈をわからず、武器を扱うだけだったと言う事実があり。

 そして年齢を経て知恵を獲得した彼は、戦い方を学ぶ。


 戦いというのは、平たく言えば詰将棋だ。

 この場面、この状況でこの行動をすればこの結果を得られる。

 それが無数に連続し、無数に広がっていく詰将棋。

 時にマスが大きくなったり、駒が変な場所に飛ぶこともある詰将棋でしかない。

 ただ剣を振れば勝てるのなら、そもそも戦いはここまで複雑化しないのが通りなのだ。


 故に無数の定石を彼は叩き込んだ。


 AをすればBをする。

 BをされればCはしない。

 CをしたらAで返す。


 そんな単調にも思える複雑怪奇な定石の数々、もちろん戦うごとに定石の数は増えていく。

 となればそれに対応するための定石を用意し、だがその定石は既存の定石で対応される。

 そうする内に、いつしか一つの回答に辿り着いた。


 剣で対応できるのは剣の間合いのみ、槍の間合いは剣で戦えない。

 槍の間合いでは剣の間合いで戦えない、剣の間合いで戦えるのは剣の間合いのみ。


 武器によって決まった間合い、決まった戦い方がある。

 その、一見当たり前とも思える真理に辿り着いた。

 ここまでの道筋は酷く長い、数多の強者に師事し幾つものアドバイスを受けて考え抜き。

 その答えを得た時には、インベントリを獲得してから2年が経とうとしていた。

 つまり、7歳。

 彼は7歳の時に、戦い方の基礎を漸く得た。

 これは武器を振るだけでは得られない基礎だ、スキルを扱うだけでは持つことがない基礎だ。

 だからこそその基礎を待った途端に、全ての世界が変わって見え始める。

 

 ただ剣を振る動作一つで、スキルによって振り回されながら最適化されていることを知った。

 ただ剣を握り歩く動作で、重心が振れながらも安定していることを知った。

 スキルと言う自動補正機能は、一つ一つの行動の最適解に近づけるモノと理解した。

 そしてその最適解を、レオトールは捨てる。


 彼の戦い方、後に彼自身が呼称する名称である『集積する(スグラッチ)』と言う戦い方はこの時点で形作られ始めていた。

 

 彼の戦い方は複雑であり、極めるのは困難だが基本的な構想はシンプルだ。

 簡単に言えばインベントリに多様な武器を大量に用意し、戦闘中にそれを取り替えながら戦う闘法。

 非効率ではあるものの、魔術を使えないと言うハンディキャップを克服するには魔術を行使するに等しい結果を齎さなければならない。

 

 そのため、彼はこの戦い方を極める方向へと心血を注いだ。

 魔術の理屈や魔術に関する神話の知識も一通り納め、無駄と全てを捨て去り全ての能力をただこの戦い方を極めるのに用いていく。

 足りないと感じれば貪欲に全てを学んだ、一度覚えたアーツすら納得がいかず何度も動きを変えた。


 レオトールは、どちらかと言えば天才の部類に当たる。

 大きなハンデを抱えながらも、それを言い訳にすることなく一代で新たな武術を完成させた彼は天才と呼称する他ない。

 その才能は有り余るほどに滾り、後天的に得たあらゆる無駄を捨てる精神性と融合して彼をより強化していく。

 そして同時に、あらゆる人間からも拒絶され始めていた。


 元々大きなハンデを抱えており、それを取り戻すために必死になっていたことから孤立しがちだったのはある。

 また両親が領主と言うこともあり家族間ですら碌な関係は保てておらず、仲が良いとされるのは精々数年遅れで生まれた妹だけだろう。

 だが悲しいことに、孤独感や孤立を感じる精神は遠い昔に消えていた。


 彼の両親が死んだのは、レオトールが10歳の頃だった。

 特に特別な話ではない、老い始めていた体が突然出てきたレイドボスに及ばなかっただけだ。

 あっさりと、彼の両親は死にレオトールはそのまま繰り上がるように領主と『伯牙』の席を得た。

 そこから5年近くは激動の日々だ、体を限界まで酷使し慣れない領主の仕事を行いながら度々現れるスカーレット種やバイオレット種の討伐にも勤しむ。

 領民からの不満は可能な限り解決するように最大限の誠意を持って対応し、だがその誠意は容易く裏切られ。

 それすらも定めとして受け入れ、無心にタスクを熟す。

 人の醜さを見ながら、北方の流儀を考えながら。

 自分の行うことの正しさを問い続け、問いかけの無意味さに呆れ笑い子供は大人へと変貌していった。

 鍛錬は欠かさず、その技能は完成を目前としながらも漠然と日々を過ごす。

 ある意味この時期が最も彼にとって平和な時期だろう、だがその日々も長くは続かない。


 15歳の夏、彼にとって一つ目の試練が訪れる。

 レイドボス『スカーレットサンドワーム』が、発生したのだ。

 事態は緊急を要し、予断を許さなかった。

 レイドボスと言うのは、基本的に恐ろしく強い。

 レイドボス『ヘラクレス』然り、レイドボス『ヒュドラ』然り、レイドボス級『エキドナ』然り。

 あくまでここで勝てたのは、何らかのメタを張っていたからに過ぎずまたそれでもギリギリの接戦とならざるを得ない。

 そして、このレイドボスに対してはこの大地に生きる人間ではメタを張ることが不可能だった。


 だがそれでも、倒さなければ明日がない。

 ならば倒すしかない、その一心で街を飛び出し剣を握り切り殺さるとするレオトール。

 その戦い様は、神話の戦いの一端かと思うほどに美しく。

 だが、見るもの全てを恐怖させた。

 笑い話だろうが、笑い話にはならない。

 

 当時はまだ未熟だった。

 まだ未熟であるはずだ、それなのに。

 それなのに一秒未満の無駄やズレなく、無限にも思えるほどに無数の武装が現れる。

 剣が現れ、蹴られ刺さる。

 槍が現れた瞬間魔力が流され、発射される。

 魔術が使えないというハンデは、いつの間にか霧散していた。

 

 もちろん、そのハンデは消えてはいない。

 消えてはいないが、同時にソレがハンデとなり得るなどと思うような戦いも彼はしていない。

 雪崩のように大量の武器を間髪入れず掴み利用し、必要無くなればそのまま収納する。

 その戦い方は、魔法や魔術を扱うよりも高等で難しく無駄で。

 だが極め切れば、これ以上がない戦い方でもあった。


 その戦いに、傭兵団『伯牙』は参戦しなかった。

 出来なかったと言い換えることも可能だが、ここでは敢えてしなかったと言おう。

 理由は幾つもある、同時にソレを否定する理由も無数にある。

 だが一つの理由を挙げるのならば、その戦い方は戦士であれば誰もが見届けなければと考える戦いだったことだろう。

 武術には、闘法には完成という概念はない。

 あるのは永久的に昇華され続けることだけ、故に後代に伝わり続ける武術は日に日にその精度が増す。

 だがレオトールの武術はそうでは無かった。

 その武術を収めた時点で完成している、そして収めた後は武器を増やすことでしか練度は上がらない。

 ありとあらゆる合理の結末がその闘法であるからこそ、完全な合理でなければ収める事は儘ならず収めればそれ以上の成長はない。

 だからこそ、見届けなければならないと感じた。

 齢十五にして完成された武術を扱う、その子供を。


 戦いの結末は、泥試合という経過こそあったがその結末は酷くシンプルにレオトールの勝利で終了した。

 無限とも思わせる体力で大地を蹂躙し瀕死となったレオトールに致命傷を与え、だがその瀕死から苦し紛れの『水晶大陸』に手を出し一気に制圧する。

 そして今度は2年余り、万全な消化活動が行えなくなった。


 水晶大陸、そのスキルを人生で二度以上使った存在は数える程しかいない。

 一人目はレオトールの父、彼は記録に残る話では三度用いたという。

 その最後の死も、水晶大陸を用いた結果だ。

 全盛期を過ぎた事による肉体の劣化、成長が介在しないのにスキルは最善の時期を想定した出力を発する。

 その反動が襲いかかってきたというのもまた、彼の死の理由の一つだ。

 二人目はレオトールの曽祖父、彼は竜の谷に100年に一度生まれるという『炎竜帝』を殺すために一度。

 そして、他国との戦争を行っているときにもう一度用いて死亡した。

 

 三人目は『⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎』

 名はとうの昔に忘却され、システムに刻まれるのみとなった過去の偉人。

 レオトールの祖先に該当し、今日の傭兵団『伯牙』に受け継がれることとなったアーツの数々の原型を作成した存在。

 数多のレイドボスを殺害し、南の王と比類する功績を挙げた英雄。

 

 レオトールは、その錚々たる面々に名を連ねることとなったのだ。

 そしてもう一つ、彼にとっての朗報が存在していた。


 『環境適応:水晶』のレベルアップ、これこそが長期に渡り消化不全を起こした原因でもあり彼をより最強へと導くきっかけになったのは当然のことだろう。

 レオトールが水晶大陸を完全な形で使用したのは、スカーレットサンドワーム戦が初めてだ。

 幼少期に使用した一度目は、発動こそしたが十全には程遠く無限の魔力を開いたのもただ一度のみ。

 だが今回は肉体が完成に近づき発動時間の安全ラインが更新されたことで、その使用時間や無限の魔力の供給時間は増えた。

 つまり今日まで彼が扱う、ステータス10倍化の水晶大陸の運用がここに完成したのだ。

 

 そして時間はさらに進みゆく。

 スカーレットサンドワームの素材を用いた外套の作成、18の貴族としての成人を迎えたことによる『水晶剣』の授与。

 領地の安定に全てを注ぎ、そして自分の欠点を自覚した彼は側近を雇用する。

 この時期は彼の人生の中で最も忙しかった時期だろう、自分の能力以上を求められ応えようと苦しみながらも成果は領民の笑顔と増え募る資産になって帰ってくる。

 増える資産は全て自分の武装のために用いた、スラムへの対策のために雇用を創出したと言い換えても良いだろう。

 元々家には大量の貨幣が存在していたことも幸いした、歴史も実もある貴族家だからこその自己資産の無茶苦茶な使い方もできる。

 

 また彼は魔術の重要性を再認識する、不可能を可能にする奇跡の力を。

 彼が知っている魔術とは戦うための魔術でしかなく、だが領主となって知り得た魔術の方向性のほとんどは生活のための魔術だった。

 真っ先に耳に飛び込んできたのは、『賢者の叡智』と呼ばれる存在だ。

 曰く、彼は魔術を学ぶ学術院の中でも群を抜いた天才であり魔術的な才能は知り得た全ての人物の中でも最高峰と噂されている。

 そんな彼が編み出したのは、『拠点魔術』と言う新たなジャンル。

 短期間で即座に拠点を作成する魔術、作成された街には自然を用いた魔術の基盤である魔法陣を仕込み防衛戦で最高峰の才能を誇る代物。

 戦術、戦略的な価値は計り知れない。

 だがレオトールが目をつけたのは、その魔術ではなく彼が育った環境だった。

 

 学術院、これはレアトールの領地にはない存在だった。

 と言うより、座学を学ぶ暇がある人間がいなかったと言い換えるべきだろう。

 北方の中でも最大級の魔境、竜たちの棲家が周辺に存在しそうでなくとも二つの環境がぶつかり合い時期の概念が壊れるほどに農産などの一次産業に向いていない土地。

 度々スカーレット種は湧き出てくるし、ただのゴブリンですら他の土地より精強であると言う無法っぷり。

 勿論、先祖代々が死物狂いで土地改革を行いだいぶ改善はしているのだがそれでも一次産業と呼べるのはやはり漁業と狩猟以外ではどこの大地でも生えている『ゴブリンイモ』の生産しかない。

 そんな状態であるからこそ、そんなものを悠長に作って学ばせることは無駄とされていた。

 だがレオトールはそうは考えない、そうは考えなかった。

 彼の苦労と挫折、その結果から魔術を体系化しその精度を高める事の必要性を理解している。

 だからこそ、簡易的とはいえ学院を成立させた。

 

 結果は不明、だが出だしは上場だった。

 教えるための人員は裂かれるが、それ以上に人材が残る。

 本物の無能ならば勝手に淘汰され、残るのは平凡以上の人間となっていく。

 他に適した職種に着くよう、様々な手法で其々の工房やギルドと提携したのも功を奏した。

 そして、この学院の完成からレオトールは政治の場を退くこととなる。

 これは淘汰ではなく、どちらかといえば代替わりに相応しい。

 簡単に言えば、レオトールはより政治に向いている己の妹に領主の座を明け渡したのだ。

 彼の思考はどこまでも合理的だ、だからこそその判断は正しい。

 レオトールという存在は私人ではなく公人となり、最大戦力であり戦術戦略級の存在となっている。

 彼が動くだけで生半可な敵は滅ぼせ、並大抵のモンスターは殺せる。

 さらに言えば前述した彼の領地改革は当時の人々からすれば不満が多く、カリスマ性が高くないレオトールの指示に従うのを嫌う人も少なくはない。

 そんな彼を認めたのは単に彼が強すぎるが故、歯向かうと言うことを考えさせもしないその実力により聞かざるを得なくなっていたと言い換えるべきだろう。

 それは彼の側近に対しても同じことを言える、表面上は不満など無いが自分の立場を弁えない強引な改革やその身軽さは少なからず反感を勝っていたりもした。

 ただ一つ市民と違うのは強さに魅せられたことにより、その反感は塗りつぶされ憧憬という偶像に潰されたのは事実だろう。

 

 さらに言えば反感こそ買っていたものの、彼自身を悪く言う人間は酷く少なかったのも彼の禍根を酷くする原因かもしれない。

 レオトールという存在がどれほど苦労し、必死に踠き苦しんだかは誰もが知っている。

 だからこそ、レオトールという男を表立って悪く言う存在はおらず寧ろ庇う意見も散見された。


 そうして20歳を迎えた時、彼の人生は一変する。

レオトールは嫌われていると言う事実を正しく理解してません。

だって誰も嫌っているような態度はとってなかったからね。

それに能力には恵まれなかったけど、環境には割と恵まれてるのもあるし無駄を省く性格から対人では視野が狭くなることも多かったんだよ。

あと、黒狼と出会う前はもっと無駄のない性格だったし…。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
この話だけ読むとレオトールが機械の様な印象を受ける。黒狼と一緒に迷宮に潜っていた時は冗談を言いながらも真剣に楽しく戦っていたイメージがあるけど黒狼と出会う前の伯牙としては戦う事は義務の様な感じがする
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