Deviance World Online 間話『過去』
深い渓谷、深淵のようにひどく暗い底を見つめ傭兵団『伯牙』の一人は首を振る。
悪くいえば生死不明、良く言えばおおよそ死んでいるだろうという結論。
その結果は、彼らにとってやはり納得できないものだった。
「……死んだと思うか? ユダ。あの、レオトールが。」
「言うな、俺だって……。俺だってそう思い込めたらどれほど楽なものか!!」
叫ぶように吐き捨て、首を振り泣きたくなる顔を隠す青年。
傭兵団『伯牙』、副団長のユダはそう吐き捨て呪詛を吐くかのようにブツブツと呟く。
彼らの目的は、『伯牙』レオトールの殺害だった。
なぜ、レオトールを殺害しようとしたのか?
その答えは、単にレオトールという人物に対して並々ならぬ恐怖を覚えていたからだ。
北方最強と揶揄されるレオトールの人生は、激動と殺戮によって描かれる。
出生は今から25年ほど前の秋、豊穣と収穫の季節にその生を受けた。
その命は、決して恵まれたものではない。
彼は先天的かつ北方では最上級の欠陥を抱えて生まれた。
病名はない、同時にその症例は世界で殆ど存在しない。
その病気は肉体ではなく、魔力を蝕む。
主要属性を帯びた魔力を生成できないと言う病気、障害としてこれ以上ない代物。
この影響はスキルにも及び、彼は魔法を前提とするスキルを一切使えなくなっていた。
彼が幼少期に殺されなかったのは、両親の寵愛があったからこそ。
先代『伯牙』であり傭兵団『伯牙』を率いていた先代団長である、プリアサンド・リーコスがその名声を捧げてまで彼を生かそうとしたからこそ彼は生きて……。
いや、正確に言い換えるのならば生かされていた。
生かされたからこそ、レオトールはそれに報いるため文字通り死ぬほど己を鍛え上げる。
最初に剣を握ったのは、僅か3歳の頃だった。
長さ30センチ、刃渡15センチ程度の剣。
短剣と言うのも烏滸がましいほど小さな剣を只管に振り続け、殺すための技術を得た。
剣を振り上げ、降ろす。
振り上げ、降ろす。
振り上げ、降ろす。
振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。振り上げ、降ろす。
振り上げ、降ろす。
初めてアーツを獲得したのは、『極剣一閃』を得たのは剣を振り続けて半年経った頃だ。
アーツを獲得するには魔力を知覚する必要がある、スキルで行われていることを自力で行なっているからこそ。
だがレオトールの魔力は属性を帯びておらず、水晶のように透き通った無色透明だ。
それを知覚するのはひどく難しい、そのはずだ。
そのはずなのに、彼は無駄と思えるほどの鍛錬を経て知覚できないままにアーツを発現させた。
人はソレを神の気まぐれという。
齢3歳、朝から夜まで。
日が上る前から剣を振り、日が沈んでも剣を振る。
異端を超えた鍛錬は彼を成長させ、その精神を歪めた。
剣を振り続けた結果、彼の精神は先鋭化する。
一つの物事に対して無駄な思考を挟むという、人間らしい余分が消えた。
人間らしい自由が消え失せ、同時に人間らしくない感性を得てしまう。
精神が完成した結果、無駄な思考が無くなり他のアーツも次々に発現し出した。
魔力を知覚していないはずなのに、アーツはその幼い身に増え続けた。
魔物を殺したのは、生を受けてから僅か3年と八ヶ月を過ぎた頃だ。
一人、砂漠のオアシスで剣を振っていたレオトールに近づいたゴブリンをただ切り殺した。
抵抗させる暇などなく、ただ思考を巡らせることなく。
殺さなければ死ぬ、だから殺した。
その様子は誰にも知られていない、当の本人すら忘れ去っている。
だがあえてその様を描写するのならば、愚かしいほどの死闘だった。
間合いは精々30センチ程度、もしくはソレより狭い。
三歳児の肉体など戦いに耐えられるものではない、だが只管に剣を振ることしかしなかった彼の肉体は多少はマシだった。
近づいてきたゴブリンは棍棒を振った、当時のレオトールは剣を振ることしかできない。
だから頭を犠牲にして、切り殺した。
自分の急所を晒し、ソレで死ぬかもしれないという可能性を孕んで切り殺した。
そこから先は早い、真っ先に親が剣を取り上げた。
今更ながらに齢3歳の子供が剣を振り、魔物を殺したという異常さは北方の傭兵といえども看過できなかったのだ。
しかしソレでは止まらなかった、止まることができなかった。
剣を取れば棒を握った、傭兵の戦い方を見て学び見様見真似で独自闘法を作り上げていった。
彼にとってそこかしこにあるもの全てが、武器に他ならなかった。
落ちている石も武器だった、生えている木も武器となる。
そして無駄を省く精神性により、その闘法は先鋭化し合理化され削ぎ落とされていく。
僅か5歳、僅か5歳で武術系スキルの一つの到達点である『武芸万般』を手に入れていた。
彼は加速的に強くなる、だがどれだけ強くなっても彼は当然のように弱かった。
同年代の子供は全員魔術を使えていた、レオトールはファイアボール一つで負ける。
近づけば全員殺せる、だが近づくことができない。
その致命的なハンディキャップは、レオトールに無数の敗北を覚えさせる。
結果として、レオトールは次にスキルに目を向けた。
才能関係なく得られるスキル、スキルオーブさえあれば獲得可能な代物。
その中でも最上級のスキル、『インベントリ』というスキルを。
愚かにも思えるが、彼はソレを得るために街を飛び出した。
もうすでに両親はその奔放さゆえに下手な手出しはしなかった、彼自身が並大抵の相手に負けなくなったのも理由の一つだ。
もちろん、心配がないわけではない。
だがもう一子孕んでいたこともあり、大きく止めに入るのが難しいのは事実だった。
自由を得たレオトールは街の周囲を巡り、雑魚とされる魔物を倒し城下町を練り歩き様々な知見を得て武器を更新した。
あの小さな剣は、いつしか大きなナイフに。
武器は長柄の代物や、投げ道具が主体に。
だが身辺を守るための剣も備え、常に三つは武器を持ち歩いていた。
また街によく現れる小さな傭兵として領民には慕わる、領主の息子だったこともソレを加速させていく。
普通なら気が大きくもなるその甘さ、だが無駄を削ぎ落とした彼にはその人間など目にも入らない。
大地を駆け回り、自然発生した迷宮に潜ることもあった。
スキルオーブを求め、幾度となく迷宮に突っ込み死にかけながらも突き進んだ。
魔法系のスキルオーブも幾度となく発見した、だがソレら全ては彼のスキルとはなり得ない。
属性魔力を作成する器官がない以上、属性魔力を要求するスキルも結局使えなかった。
だからこそ彼は属性を帯びない魔力でも使えるスキルである、『インベントリ』を必死になって探す。
ソレを発見したのは、スキルオーブを扱う市場。
そのオークションの中で、発見する。
取引価格は数億G、子供では逆立ちしても購入不可能な金額。
初めて、その子供は親におねだりをした。
勿論、そのスキルオーブを買うことは大貴族である彼らでも難しい。
だがその真剣さと、そしてレオトールの将来性に期待して購入を約束する。
一つの条件を加えて。
条件とは、彼がオークションが始まる3日以内に自身の魔力を操作できるようになること。
彼にとって、それは恐ろしく難易度の高い話だった。
確かに魔力を流しているように見せかけることはできる、制御できないが剣を振り続けたことで魔力の動きがどうなっているのかを感覚的に掴むことはできた。
いわば空気の流れ、空気がどのように流れているのかは見えなくとも感覚的にわかるものだろう。
ソレが魔力に置き換わっただけだ、そうただそれだけ。
しかし普通の人間は、魔力に属性という色が乗っているためより鋭敏に感覚が掴めるがレオトールの場合はソレが存在しない。
だからこそ、彼が属性を操作するのは不可能だった。
不可能なはずだった、その筈なのに。
ーーーー出来てしまった。
これは異常だった。
レオトールの魔力に属性は存在しておらず、曇り一つない無色透明な魔力。
普通はソレを知覚することなど不可能としか思えない、だがその不可能は不可能ではなかった。
彼は最初に魔術師を見た、ひたすらに観察した。
魔力の法則性を見つけるため、魔術を魔法を永遠と観察する。
最初は何も分からなかったが、見続ければ何かわかるもの。
徐々に徐々に、魔力というものに理解が及び始めた。
彼は最初、魔力とはただのエネルギーと認識していた。
人から生まれ現象に変化するエネルギー、それ以上も以下でもない。
だが深く観察するうちに、その理解は正しいが正解ではないと痛感する。
魔力はエネルギーだ、同時に生物的な動きがある。
例えば炎、荒々しい人が使えばその炎は激しく燃え盛り優しい人が使えばその炎は静かに燃えていく。
例えば風、不安症の人が使えば心細く吹き自信家が使えば力強く吹く。
その結果を見て、レオトールは魔力に動きがあると確信し自分の動きを考えた。
彼の心は冷え切っていた、本来あるべき熱が見えない吹雪の夜。
灯も人も無く、そこにあるのはただの冷気。
日が存在することのない、深夜の雪原。
だがどこかに、明確に燃え上がるような熱がある心象世界。
ソレこそが、レオトールの魔力の動きだった。
ソレを知ってからは早かった。
そもそも意識的に扱えないだけで、元々魔力は扱えている。
魔力の動きの法則となる己の感情を把握すれば、その先は険しく辛いが容くはあった。
まずは座学だ。
彼は一日の全てを費やし、魔術の知識。
その中でも自分に有用な理論だけを把握する、特に彼の一族の特色についてを。
時間は掛からない、先祖代々が受け継いできた生まれながらに保有する最悪にして最強のスキルである『水晶大陸』を調べ尽くした。
曰く、ソレは『侵略者』が残した産物である。
曰く、ソレは無限の魔力を齎すものである。
曰く、ソレを扱えるのは『環境適応:水晶』を保有する存在である。
曰く、ソレは本来死ぬものである。
曰く、ソレは『リーコス』一族の努力により制御可能にされたものである。
他にも大量に記されていた数々の話、御伽噺が大半の中で。
幼きレオトールは、最も知りたかった一つの文言を発見した。
曰く、ソレは水晶属性の魔力を供給する。
レオトールは魔力が捉えら得ない、その理由は色がついていないから。
だが、水晶大陸を用いれば話は変わる。
水晶大陸が帯びる水晶属性の魔力、ソレがあれば魔力を操作できる。
彼は未来のために、命を賭けた。
彼が最初に水晶大陸を発動したのは、5歳の夏だった。
幼く物の道理もわかっていない少年は、無意識に苛まれていた劣等感と後天的に作成された性格からそのスキルを発動してしまった。
結果は暴走。
水晶大陸のスキルは無限にも等しい魔力を供給する、だがその魔力は世界にとって猛毒でもある。
抵抗力が高くなければソレを使用した時点で知能なきモンスターへと変化し、殺す以外の選択肢が消え失せていく。
ソレを踏まえて考えればこの暴走は幸運だったのだろう、ある意味では。
無限にも等しい魔力、ソレを扱うことのできない小さなレオトールがソレを対処するためにできたのはアーツに莫大な魔力を流すように願い武器を振る。
膨大かつ莫大な魔力でで中から壊れていく体を感覚的に理解しながら放っていく『極剣一閃』、死ぬ直前だったことや無色透明に混ざったことを理解したため僅か1分未満の発動しかできなかったが魔力の操作の仕方は理解した。
その代わり、代償も酷いものとなる。
レオトールの体内のうち、半分近くの臓器が機能不全に陥っていた。
また剣は折れて壊れ、原型が思い出せないほどに壊れている。
息は半分出来ておらず、意識は朦朧と消えかけていく。
立っているだけで体の骨は折れ、筋肉は断裂し。
だがそんな中で、レオトールという人間は魔力を操作できるようになった。
レオトールの過去です。
なお現在、まだ五歳児程度の進捗。
裏切られた理由はまだまだ先になりそうです、orz




