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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『決戦』

 やはり始まりは、『極剣一閃(グラム)』だった。

 神速の一閃、煌めき輝く最強の初手。

 音速をも超越した、だが万全でないが故の疾速の一撃。

 飛び散った光のエフェクトは周囲へと飛び散り、飛び込んできた矢を破壊する。


「『英雄必剣(プルートガング)』」


 直後、二つ目のアーツが放たれた。

 先ほどの『極剣一閃』を最上の初手とするのならば、こちらは最上の妙手。

 戦闘中の自己強化でしかないが、その自己強化は重ねられる。

 使えば使うほど、微量ながら自己の力が増していくアーツ。

 それこそが『英雄必剣(プルートガング)』という、レオトールが保有するアーツの一つ。


 『極剣一閃』のエフェクトが終了した直後、黄金と深紅のエフェクトが煌めく。

 そのまま、襲いかかってくる長槍を弾き飛ばした。


「随分な挨拶だ、そうは思わないか? ユダ。」


 その槍を突き出した人間を見る。

 傭兵団『伯牙』、副団長ユダ。

 彼の槍はレオトールの剣を弾き、石突で追撃を図る。


 口が動いた、スキルかアーツの発動が確定する。

 それを捉えた瞬間、レオトールは大きく背後に飛び退き。

 その背後から短剣が煌めき現れ、その背を刺そうと動く。

 それをノールックで発動したインベントリ、そこから現れた別の剣で弾くと剣から片手を手放しそのまま右から現れたもう一人へと拳を向ける。


「『八極拳』」


 魔力が迸り、エネルギーが滾り、血管が浮き出る。

 純粋な破壊を狙うその拳は現れた人間に丁寧に流され、踏み込んだ足を軸に流された勢いを利用して放たれた裏拳を受けながら後ろに飛ぶことで衝撃を緩和した。

 直後、インベントリから現れきったポーションがレオトールにあたり彼を回復する。

 限界ギリギリの体躯は、だがその回復行動で大きく改善した。


「一先ず、ここで剣を交えるのはやめておこうじゃないか?」

「……、『氷海魚剣(ミスティルテイン)』。」


 膨大なエフェクト、海を思わせる光輝。

 それが一斉にレオトールへと蠢く、彼を確実に殺さんと。

 だがその発動は、一瞬の思考を挟んだことで遅れた行動に。

 レオトールは嗤い、その一瞬で取り出していた武装を振り回した。


 スキルもアーツも発動しない、当然だ。

 スキルもアーツも発動する必要などない、発動する暇などない。

 ただ取り出した武装を、彼は振り回した。


 一瞬たりとも油断できない、確実に仕留める気で全員が動いている。

 演武ではない、殺意のみで構成された泥臭い戦場。

 死ぬか生きるかの綱渡り、それこそがこの戦いであるからこそ。

 取り出した武装、すなわち鉤縄。

 それを振り回し、周囲の木々に引っ掛け振り回す。

 どれほど強くなろうが、大質量には原則叶わない。

 レオトールは一部例外に値するが、だがそれでも決して無視できるはずのものでなく。

 振り回された大木を犠牲にすることで、そのアーツを無効化する。


「『鉤縄規矩』」


 そして、そのままスキルを発動した。

 一気に鉤縄が直線上に伸び、数メートル上空に存在する木の枝に引っかかる。

 その手応えを感じたレオトールは思いっきり縄を片手に跳躍を行い、一定の高さへ辿り着く。

 一定の高さ、引っかかった枝を中心に縄の高さへ。

 

「『規矩準縄』」


 そしてそのまま、二つ目のスキルを発動。

 引っかかった点を中心に、一気にレオトールを振る。

 大回転、空を地としスイングするように飛んでいくレオトール。

 それを見た傭兵団『伯牙』の面々は、即座に進行方向へ結界を張ることで対処するが。

 結界の展開を予見していたレオトールはその結界を破壊するため、『剣限』を発動。

 飛来してくる剣を勢いのまま掴み取り、手に持っていた鉤縄をインベントリへ仕舞いつつ双剣となったレオトールは結界に対してアーツを発動した。


「『貪断食暴(グレイプニル)』」


 直後、結界の魔力が剣によって奪われ破壊される。

 アーツ『貪断食暴(グレイプニル)

 決して万能ではなく、クールタイムも相応に存在するアーツだがこの一度においては有用に働く。

 結界を破壊し、そのまま森の枝葉をクッションに着地したレオトールは地を駆け始め。

 背後から襲いかかってくる矢の攻撃に、冷や汗を掻く。


 再度、骨が折れた。

 肋骨が幾らか、右上腕骨、左橈骨、両大腿骨にヒビが入っている。

 筋肉繊維は複数箇所断裂し、右手の感覚はだいぶ薄い。

 魔力による補助で剣を握り込んで入るが、一体いつ剣を手放してもおかしくない状況だ。

 そしてこの着地で股関節もややズレた、体がその異常を感知し悲鳴を上げるがこの際無視するしかない。

 僅か0.1秒以下で背後に先ほどの三人に他の四人が迫る、それ以外にも多種多様な飛び道具も迫っている。

 確実に殺す気でこの戦いを動かしている、存外にまずい状況だと再認識したレオトールは水晶剣を仕舞い他の剣をインベントリに入れた。

 徒手空拳、人類最古の武器にして現代にも続く闘法が一つ。

 先でも後でも拳は碌に機能しなくなる、であれば壊す前提で運用すればいい。


「『徒手空拳』『武崩し』『八極拳』改め」


 スキル発動、同時に右足で地面を抉るように踏み込み返る力で左足を蹴り上げる。

 狙うは頭部、攻撃は一瞬。

 残像すら見えるほどの速さで遅いかかるその開脚、八極拳の効果も乗ったことで威力は無視できるはずがない。

 そのはずなのに、狙われた一人は恐怖ではなく感情を殺した無で迎え撃つ。

 直後レオトールの背後から、強烈な衝撃が発生した。

 魔法、その思考に行き着くと同時に正体も看破する。

 看破するが、故に二撃目は回避できないと判断。

 インベントリを開き、倒れ込むであろう地面に向けてポーションを発生させる。

 同時に二発目、狙い通りにポーションを浴びながら地面に叩きつけられたレオトール。

 

 地面に両手をつきながら襲いかかる三撃目、回避するため片足で地面を蹴り倒立の要領で跳ね上がると靴に魔力を流し脆い結界を発生。

 防御するには不足だが、今回の目的は当然のように防御ではない。

 足の爪先に微小な結界を作成し、それを用いて空へと飛ぶ。

 足だけでは飛び上がることなど不可能だが、両腕の力も存在する。

 一気に空中へと躍り出し、そのまま再度逃げ切ろうと動き出すとしたレオトールだが。

 次は空気の大質量で、地面へと叩き落とされた。


「ッ!! 『貫掌底』!!!!!」


 大質量で潰される、そう確信を抱いた途端にその空気の大質量へ拳を振るった。

 ただの凡百ならばただの愚行、だが北方最強の手にかかれば悪足掻きとなる。

 空気の塊を霧散させるように、拳の魔力が衝突。

 一瞬の拮抗を行い、相殺となる。

 

 しかしそれは必ずしも朗報とはなり得ない、マイナスの状況がドローとなっただけだ。


 詰まるところ、浮き上がるエネルギーが足りず地面に落下しようとしているのは変わりない。

 考え方によれば先ほどよりも悪手だろう、何せ今は背中から地面に落下しようとしているのだから。

 空に逃れることは不可能、地面に叩きつけられて仕舞えば今尚迫り来る攻撃の数々を回避することなどできる筈がない。

 一瞬の迷いは死につながる状況下、レオトールが選択したのはあえて地面に倒れることだった。

 受け身を取れるようにしながら地面に叩きつけられた、直後に頭部めがけて投げられていた武器の数々が到着する。

 動こうにも動けない状況、回避スキルは間に合わない。

 選んだ手段は、()()()()()()()()()()だった。


 空中から落下するエネルギーを用いて、溢れんばかりの魔力を右肘に込め地面に触れた途端に魔力を解放。

 解放した魔力はその場で停滞せず、即座に暴れ回り結果として爆発が起こった。

 爆発の結果、右肘を中心に数十センチ程度のクレーターが半径1メートル程度発生し。

 その数センチの誤差の結果、投擲武器を回避したレオトールはそのまま右側へ転がり立つ。

 

 飛んでくる人影、木々に隠れながら狙った攻撃。

 予見は困難、回避は不能。

 いわゆる飛び蹴り、それを腹に叩き込んだ人影の足をレオトールは掴むとダメージを食いしばることで耐え思いっきりそれを振り飛ばす。

 HPが2割以上減少した、その事実はより焦りを加速させるとともに回復を行うべきだと冷静な部分が告げる。

 だが回復を今すぐというのは狙えない、また新たな攻撃が彼を狙っているからだ。

 振られた剣戟、崩すように突かれる槍。

 まともに受ければ、大ダメージは必須だろう。

 まともに受ければ、の話だが。


「『極剣一閃(グラム)』」


 行動は迅速かつ、丁寧だった。

 面白いことに、彼は剣を手に取らず手刀を放っていた。

 

 とある武人はこう語る。

『人体とはすなわち武器なり、剣槍槌。兎に角。五体全てはあらゆる武器となり得る。』

 すなわち()()()()()()()()()、という訳であり。

 この世界では、レオトールがそれを体現していた。


 手刀で、剣のアーツを放つ。

 異常である筈なのに、それを当然のように使い熟す。

 放たれた槍は(やり)で返し、振るわれる剣は(けん)で返し撃退する。

 普通は不可能な絶技、だが普通でなければ可能な絶技。

 一挙一動が武器となり、スキルとなって襲いかかる。

 重なり合うは一瞬、打ち合いなど目視するのも難しい。

 だがその刹那で無数に剣と(けん)、槍と(やり)が交差する。

 勿論、その打ち合いには(つち)(たんけん)(かま)(つえ)が混ざっている。

 変幻自在の超戦闘、暗殺術も入り混じった困惑と混乱が混在する思考放棄の超絶絶技。

 1秒未満の打ち合いで、先に敵わないと逃げたのは剣使いと槍使いだった。

 レオトールの目的上、追撃がないことを確信し即座に逃げる。

 万全にはほど遠くとも、北方最強は以前健在なのは事実だった。


 今にも倒れそうな顔で、だがそれすらもまやかしだと言わんばかりに二本足で立ったままインベントリを開く。

 目眩く状況は変化する、刻一刻と配置が変わる。

 レオトールの消耗は洒落になっていない、征服王との語らいの間必死に回復していたスタミナが今現在半分を切っていた。

 それ以前にHPはこの打ち合いで、合計3割弱も減少している。

 畳み掛ければ確かに倒せるだろう、そう思わせるほどの満身創痍。

 だがそのための一手をことごとく防がれる、故に一切崩せない。


 三度目の一斉投擲、今度は動きを阻害することを目的とした投網や撒菱も多い。

 だがその程度、そう言わんばかりに網は切り裂き撒菱は踏み壊す。

 そして次はこちらの番だというようにインベントリを開いた彼は、ポーションを破壊し浴びると同時に両端に輪がある鎖を取り出した。

 ネメアの獅子戦で用いた例の鎖、特異な性質は存在しないただの鎖。

 

 再度、状況は目まぐるしく変化する。


 鎖を片手に、地面を抉りながら超高速でスタートダッシュを決めたレオトール。

 それに追随する十人以上の人影、それをスキルで捉え引き連れる。

 木々の合間を縫うように放たれた毒付き暗器はレオトールを殺すために放たれ、木に刺さり土に刺さりレオトールに回収さたりもする。

 先ほどみたいな一瞬の戦闘ではなく、真綿で首を絞めるような闘い。

 相手を崩す、相手を乱すことに重きを置いた行動の数々。

 魔術を用いたトラップもあり、レオトールが鎖で木を破壊し道を崩すこともあった。

 森という環境を逆手に取り、環境にそぐわない状況を作り上げ呼吸を乱す。

 緻密に計算されているわけではないからこそ、緻密な計算では発生しない最善が生まれる。

 

「『剣限』」


 投げられた剣が手に戻るように動く。


「『気圧加速(エアプレッシャー):短剣』」


 魔術によって短剣が木々を破壊しながら迫り来る。


「『軽業芸:猿技(えんぎ)』」


 猿のように巧みに木という障害を避ける。


「『極剣一閃』」


 木々を切り倒し行き先を防ぐ。


 殺害という第一目標を、撤退の妨害に変更し長期戦を狙うことで消耗を加速させる。

 遠回りこそが最善と認識を入れ替えたからこそ、その判断をした。


 実際その考えは正しい。

 レオトールは、鎧装『緋紅羅死』を展開することができない。

 もう一度展開すれば、先に体が限界を迎える。

 一瞬であれば話は変わる可能性もあるが、その一瞬で魔力循環に耐えきれなくなった肉体が内側から燃え尽きるだろう。

 北方最強という名は確かだが、最強といえど無理無茶が罷り通るわけではない。

 本人の自己認識の通りインベントリ云々の再現性を除けば彼の闘法は所詮、弱者の戦い方の終局系でしかなく。

 それを極限まで鍛え上げたからこそ、彼は最強の座に座る。

 故に彼が弱くなったとて、彼の技の冴は一切変化ない。


 傭兵団『伯牙』の面々は、逃げ惑うレオトールを追い詰めながらも困惑と焦燥に駆られていた。

 殺せる筈なのに殺せていない、あまりにも逃げ上手すぎて致命打から全て逃げられている。

 確実に殺す一撃、確実に死ぬ流れというものから悉く逃げ仰せている状況こそ彼らの未来を暗示しているようで。

 その想いを抱きつつも、だが認めるわけにはいかない以上必死で殺すために剣を振るう。

 殺意の塊でしかない一撃一撃を何度も幾度も無数に放ち、だが悉くを防がれ。

 究極的なイタチごっこに終わりはないように感じ、だが必ず終わりは訪れる。


「ッッッツツツツツ!!!!!??」


 不意の一撃が、、レオトールの鳩尾にヒットした。

 普通なら防げた、なのになぜ今回は? その疑問は即座に消えるだろう。

 レオトールの足元に、巨大な渓谷が存在していたのだ。

 ほんの一ヶ月前まで、存在していなかった巨大渓谷。

 レオトールの頭脳にはグランド・アルビオン王国周囲の地形が入っている、普通ならこの規模の渓谷など見逃すはずがない。

 だが今回ばかりは条件が悪かった。


 一つ、この渓谷はこの一ヶ月以内に出現したもの。

 この一ヶ月、黒狼とダンジョンに潜っていた関係上。

 流石にこの短期間で発生した新地形はレオトールといえども把握していなかった。


 一つ、レオトールの状態が万全から程遠かったこと。

 万全であればその渓谷に気付けたかもしれないが、水晶大陸のデメリットやこの戦闘が彼の予想以上に長引いた結果消耗が洒落にならなくなっていた。

 木々が急速に無くなり、地面が消えたことに気づかなくなるほどに。


 この二つの要因が、レオトールへ致命打を与えた。

 普通ならば防げた一撃、だが意識が朦朧とし消耗が限界を突破している状況。

 鳩尾へと叩き込まれた剣戟、臓腑ごと腹を貫かれた結果。

 彼は、渓谷の奥へと叩き込まれることとなり。


「貴殿!? なぜ!?」


 最後のピースが、ここに揃う。

すまん、下編に行くまでもうちっとかかるんじゃ。

というか、あと22話で200話となり今回で編を変えるとキリが悪いので以下の内容を次回から少し話して今編を終わらそうかと思います。


・傭兵団『伯牙』がなぜレオトールを追放したか(時系列的にこの直後)

・ゾンビ一号と村正、ネロ、モルガン、ロッソの会話(黒狼は酒を飲んで寝こけてます、時系列的にこの直後)

・征服王及び全ての盟主の集合(時系列的にしばらく後)

・間話

・余れば人物紹介


ではまた次回。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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