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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『対話の終わり』

「さぁ、王の語らいを始めるとしようか。」


 その言葉は温くも恐ろしく、だが冷徹であり慈愛に包まれていた。

 故にゾンビ一号は恐怖する、これが本物の王かと恐怖する。

 威圧ではなく、慈愛があるからこその恐怖。

 恐れを求めていないからこそ、人の等身で測れる事実。

 ただの人間として、王であるのにも関わらずただの人間としてそこに座っているからこそ体が強張る。


「その前に、だ。ここに美味い酒と美味い飯がある、であれば先に頂くのが礼儀というものではないか? イスカンダル。」

「カカカ、道理よなぁ? うむ、では先じて美食を食おうではないか。グラスを出せ、乾杯と行こうぞ!!」


 だがその強張りはこの問答で消え去った、先ほどまでの威圧はどこへやら。

 今ここにいるのは若いガキ、少なくともそうとしか感じれない男しかいない。

 

 二人がカップを手に取り、そのまま双方の酒を並々注ぐ。

 レオトールが用意したのは、あのギルガメッシュが出した美酒であり漂う匂いですでに美味であることを予感させる。

 反対にイスカンダルが用意したのはレオトールの故郷の酒である、『ヌアク』と言うワインだった。

 彼は健啖家であり美食家であり、同時に相当な悪食でもある。

 方々遠くまで遠征し征服したのちに土地特有の美味美酒、珍味珍酒をかき集めインベントリを持つ側近に保管させるほどに食を愛していた。

 いや、愛していると言う表現は間違いだろう。

 かの軍勢、『王の軍(ヘタイロイ)』は多種多様な民族が集合し混合され成り立っている。

 例えば『伯牙』、彼らは北方の中でも最北端である霊峰を拠点とし周囲に混在する砂漠と雪原の境で生きる民族だ。

 また数多くのモンスターが生息し、霊峰を超えた先には竜が生息する山脈もある。

 

 では次に『灰の盟主』であるブライダー、彼は北方の蒸気都市と言われる場所出身だ。

 年中槌の音が鳴り響き、工業が盛んで金属加工を主とする半地下都市。

 金属を多く排出するダンジョンも周辺に点在しており、また貧富の差が明確な地方でもある。

 

 例えば『賢者の叡智』プトレマイオスの出身地は北方の中でも相当西の方に存在する。

 彼は魔術を一大産業とした都市出身であり、その都市を作成した『賢者』の一族でもあり。

 そしてその都市を運営する『賢者』一族でもあったので、レオトール同様彼も貴族だった。

 また魔術を用いた産業、それは一次産業である農業や林業などに留まらず二次産業である建設や三次産業に該当する医療も彼の一族が行なっていた。


 例えば『征服王』イスカンダルおよび『王の友』へファイスティオンの生まれ故郷である、北方中部の都市。

 強大な魔獣や人間に脅かされることのない大規模な都市の王族として、イスカンダルは生を受けた。

 語ることも、語らぬこともない平凡な都市。

 そんな都市から彼の、『征服譚(ブレイブストーリー)』は始まった。


 軽く挙げただけでこれほどに地域に差があり、多種多様な民族が混在している。

 故に食習慣や生活習慣が異なるのは当然であり、統一するなど不可能な話でもあった。

 だが征服王はそれを成し遂げるため、自らが一番槍となり戦い交友し食卓を分ち理解する。

 ただの一国の王が北方と言う地域を統一したのは、常に前に赴き兵に背を見せ真っ先に全てを享受したからだ。

 ただの齢20と幾許かの若者に、兵たちは魅せられ突き動かされた。

 故に征服者であるイスカンダルは、『征服王』イスカンダルなのだ。


 だからこそ、彼にとって食事とは愛すべきものであり無視できるものでなく彼の威光の象徴でもあった。

 どんな存在であれ、どんな生き物であれ生きているのならば何かを食う。

 だからこそ、対話に一番相応しいコミュニケーションであり。

 ここでレオトールと語り合うのに食事を用意したのは、やはりこう言う理由があった。


「ぬぅ? その美酒……、否!! 神酒とでも言うべきモノ、なんだそれは!? 儂でも見たことがないぞ!! 一体何処で……、どうやって手に入れた!!?」

「それも含め、詳しく話すとしようか。」

「儂だからこそ良いが……、その酒。気軽に出すべきモノではないぞ、酷ければ国が滅ぶ。」


 その言葉を聞き、苦笑いしながら『だからここで出したのだ。』と言い返すレオトール。

 信頼の証か、もしくはただの挑発か。

 どちらにせよ、征服王はそれを快く笑い受け止める。


「しかし随分と雰囲気が良くなったではないか、いい出会いでもあったか?」

「ぬ、それほどか? 私としては大差ないと思うのだが……。」

「それほどだとも、ああ。それほどだとも!! 常に言い放つ、笑えぬ冗談!! 儂はそれを聞き、何れほど本心であるのか探っていたのだぞ?」

「……、それは失敬。そこまでだったとは初めて知った、多少柔になった自覚はあったが……。多少、どころでは無いようだな。」


 そう返し、自分が注いだカップをイスカンダルに渡す。

 同様にイスカンダルは、レオトールの故郷の酒を入れたカップを渡した。

 そのままグラスを傾け、軽く当てる。

 飛沫がとび、互いのカップに入ったことを確認した二人は一先ず一気に酒を飲み干した。


「うむ、好い酒だ。」

「久方ぶりの故郷の酒だが、悪くない。」


 双方それぞれ感想を抱き、再度互いの杯に注ぐと光で透かし色を見て匂いを嗅ぐ。

 黄金の王が出した酒、至上の酒である以上それ以上の品があるわけがない。

 だが同時に、それ以上である点がないわけでもなかった。

 味に勝る思い出がある、それだけでこの対談を開いた価値はある。

 その確信を元に、出されたハムを頬張ってからレオトールは口を開いた。


「再度、この場にて宣言しよう。私は、今宵この場を以て『征服王』イスカンダル率いる『王の軍(ヘタイロイ)』から抜けさせてもらおう。」

「……、フム。酔狂や狂気の果てに出した結論ではないな、命を狙うほどに仲違いしたところではもう戦えんと。だがその宣言の意味、わかっておろうな?」

「分かっているとも、だからこそここへ会いに来た。連ねて、盟主の座もここに放棄しよう。もとより私には相応しくない代物だ、自由に与えるといい。」

「そうはいかんぞ、『伯牙』よ。」


 その言葉に何か違を唱えようとしたレオトールだが、押し黙り話を聞くように目を細める。

 征服王の顔には影が落ちており、その双眸だけが爛々と炎を宿している。

 恐ろしさすら感じるその目、それにこの場に佇む人員は総て魅了された。


「何故、儂は盟主を作ったか。何故儂は盟主をまとめるもの、転じ盟王を名乗ったか。それら全ては儂が孤独で、だが同時に絶対的な王でないようにするためだ。孤独な王など王に在らず、それはただの独裁だ。違えるな、『伯牙』レオトール。その二つ名を主が否定しようとも、『白の盟主』と言う座を返還しようともそれら全てを余が許さぬ。余という(おう)が。絶対に、必ずだ。故に、だ。」


 故に、語れと。

 其方が『レオトール』であると言うのなら、新たに得た知見を語れと唆す。

 その全てを聞き入れ、友の新たな門出を祝福するため。


「仕方ない、そう言われては語るほかないな? そうだろう、ゾンビ一号。」


 片目を開き、片目を閉じ。

 得意げに、自慢げな雰囲気を漂わせ嬉しそうに口を歪めながら。

 友である黒狼の紹介を行おうと、レオトールはゾンビ一号に視線を向ける。

 彼に対して燃え盛る激情を抱く、ゾンビ一号に。


「ふふ、そうですね。語りましょう、私たちの迷宮探索を。」


 未だ未満ながら、生まれの蛇を殺し

 始まりに胎動し、座する獅子を倒し

 激動にて落命を、不死の毒九頭竜から逃れ

 ついで捕獲にて、金銅鹿を捕まえ

 賢人と邂逅の後、猪を生かし奉納し

 遥かな地の麗掃、水怪を支配し続け

 天空覆う泥鳥へ、全てを出し尽くした

 次ぐ奉拝へ進み、捧物と打ち合い

 怒れる人食い馬、それは狂馬であり

 女蛮族から奪帯、女王を討ち果たし

 果てに殺傷では、獰猛な簒奪者を斃す

 天支の神と遭遇、黄金の林檎という笑い話を聞かせ

 溢るる獄獣たち、地獄の番犬を殺した

 

 そして【神々の栄光】、又は【神々への復讐者】を語る大英雄を殺し、英雄の王を名乗る黄金の破壊者と邂逅した。

 全てを包み隠さず、そして飾らずに告げた。

 長い、長い旅路を。

 短くも長い、英雄の後を追う旅路を告げた。


「ほぉ……、なんとまぁ……。」


 その全てに相槌を打ったイスカンダルはその全てを聞き届けた末に、そう告げる。

 征服王はこれ以上なく、王して興味を持った。

 伯牙を率い、命を創り、英雄を討ち果たした一人の男を。

 この英雄譚の、いや違う。

 この奇譚の主人公である、黒狼という男にどうしようもなく興味を持ちそしてレオトールに一つの質問をする。


「一つ聞こう、その旅路は……。その旅路で答えは得たか? 誇り高き牙よ。」

「答え、か。残念ながら答えはまだ得られていない、だが必ずこの先で得るだろう。私が、私としてこの世界で生きるのならば。」

「ーーーーーー、そうか!!! では、ああ!! では、ここに止まる理由など無くなったというわけだ!! カッカッカ!! 好いではないか、自由を望む愚か者に感化され!! 誇り高き牙は孤独となる!! 自由の檻に囚われた男が、責務の檻に囚われた男を救う!! ハッハッハ!! 感謝せねばなるまい、我が盟友を解き放ったその男に。」


 誰よりも豪笑し、誰よりも号泣し、誰よりも仲間を想う。

 故に臣民はその背に焦がれ、憧憬し後を追い続ける。

 故に彼は全ての大地を征服する、全ての大地の人を臣民とし。


「異邦の男か、ではその男を儂の盟友としよう。あり得ざる13番目の盟主、深淵を覗き深淵に覗かれた無垢なるスケルトン。人類種に数えられもせぬ、化け物が一人。『黒の盟主(ノワール)』、黒狼。どうだ? 好い響きだろう。」


 その言葉は、この場にとって誰でも意外だった。

 へファイスティオンは声を上げ、言葉っを遮ろうとし。

 ゾンビ一号は驚愕から顎が外れかけ、痛みで顔が歪み。

 レオトールは二人の友に対して、呆れを通り越して激笑をする。

 誰にとっても意外な話であり、名を与えられた黒狼ですら知らぬ話。

 だがここで、黒狼は二つ名を得る。

 それは奇しくも、彼が『脳筋神父』に不死王と呼称されたのとほぼ同じタイミングだった。


「ああ、それならばあいつも気に入りそうだ。」

「そうか、ならばよかったというものだ。」


 そうして軽く笑い、杯に残った酒を一気に喉に流し込む。

 目的は遠の昔に終わっていた、ここに来た目的は。

 渡された肉を酒をうまかったと告げ、椅子がわりの武器を抜きインベントリに仕舞う。

 そしてそのまま、征服王に背を向け歩き出そうとし。

 一歩進んだところで立ち止まり、背後から聞こえてきた声に応える。


「で、我らは本当に滅ぶと思うか? 『伯牙』。」

「黄金の王が私の知りうる人物であるのならば確実に、私から言えるのは最大限に警戒しておくべきということだ。でなければなすすべなく負けるだろう、少なくともそれは確実に。この世界の果てまで征服しても、決して勝てん。」

「ふむ、少し間違っておるぞ? レオトール。我々はいつか滅ぶ、だがその滅びまで全力で行き足掻くのもまた人間だ。」


 対話は、それで終わった。

 北方の王、北方の主。

 グランドアルビオンの滅びの一端、新たな時代をことぶく征服者。

 盟主をまとめ上げるもの。


『征服王』アレクサンダー・イスカンダル


 北方の狼、北方の傭兵。

 誇り高き牙でありながら、生きる最強の傭兵。

 征服者の下に甘んじ、征服王とともに歩んだ男。


『伯牙』レオトール・リーコス


 最強と、最大。

 最強の傭兵と、最大の傭兵の対話はこれにて終了する。

 レッドカーペットを歩き、開かれた扉を潜り。

 目を細め、そして口を開く。


「全てを失うかと思えば、何も失わず。存外、甘い男だったな?」


 光に目を焼かれ、ポーションを飲みながら告げられた言葉。

 それはここに試練はなかったと告げるものであり、そして。

 受難はここからだと、言っているかのような言葉だった。


*ーーー*


 道の果て、征服王の領域を抜けた途端。

 襲いかかる重圧とともに、ゾンビ一号は声を上げた。


「レオトール、どうやら私はここまでのようです。」

「ーーー存外、あちら追い詰められているのか? やれやれ。」

「ご武運を、万が一はあり得ないと思っていますが……。」

「安心しろ、私を誰だと思っている? あの王にも認められた最強だぞ。」


 力強くそう答え、『伯牙』は最後の戦いの前に剣を執る。

 この戦いは前哨戦に過ぎない、だが最終戦とでも言うべき戦いだ。

 新たな戦争の幕開けとなる前哨戦にして、征服王と出会うという一大イベントの最終戦。

 傭兵団『伯牙』と、『伯牙』レオトールの戦い。

 この戦いで、今後の全てが決まるとされても過言ではないだろう。


「私は、必ず生きて戻ってきますから。」

「クドい、私がそう簡単に死ぬタマだと思っているのか?」


 言葉は、それだけだった。

 ゾンビ一号は光に包まれて消えた、レオトールは剣を引き抜き戦う準備をする。

 時間にして一ヶ月余り、決して短くもないが長くもない時間。

 その時間を経て、ようやく己を追放した敵と相見える。


「『極剣一閃』」


 始まりは、やはり極剣だった。

また文字数少なめだぜ…orz


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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