表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

175/372

Deviance World Online ストーリー4『誇り高き牙』

 一本の錫杖、そこから双方に向けて衝撃が発生する。

 意図されていない攻撃、と一見見えるだろうが実際は違う。

 其の盟主がいることは、とうの昔から知っていた。


「久しぶりだな、『王の友』。もしくは、へファイスティオン。」

「矛を納めろ、『伯牙』。」

「生憎と、吾がそれを許しはせん。」


 其の結果は、三つ巴だった。

 交渉が決裂する前なら、剣を抜く前ならば『王の友』であれば彼らの暴走を止められた。

 だが、戦う理由ができた以上。

 傭兵という人種は、決して止まることがない。


 会話は一瞬、次の行動は迅速だった。


 レオトールの魔力が属性を帯び、紅蓮となって現象となる。

 プトレマイオスの本が捲られ、魔術がこの世に具現化する。

 へファイスティオンの錫杖がなり、影がこの世を隔絶する。


 先に耐えられなかったのは、器だった。

 この世界という器が、飽和する。

 互いの魔術が互いの魔術を干渉し、事象飽和が発生した。


 一気に現実が揺らめき、光を湛えた魔力が発生。

 そのまま弾け飛び、三人を襲う。

 だが其の現象は三人に届く前に、焼却され相殺され飲み込まれた。


 盟主にとっては、この世界の事象が飽和するという現象すら。

 ゾンビ一号が最強として疑わない、『四刻相殺極魔砲』を起こすのに用いる飽和現象すら片手で消し去れる。


「『影縫い』」

「『八極拳』」

「『魔力充填』」


 三人が、同時にスキルを発動した瞬間。

 衝突が発生する、同時に再度剣戟が再開する。

 だが暴虐と技の極致が先程だとすれば、今回は演舞や演劇じみた様相を呈していた。

 何故? 答えは明確にプトレマイオスが手を抜き出したから。

 

 『王の友』、へファイスティオンは其の二つ名の通り『王の軍』の中でも最高峰の権限を有している。

 其の発言権は『征服王』イスカンダルの次に強い。

 彼女の発言は、事実上イスカンダルの発言と同義にみなされる程度には彼女の発言力がある。


 そんな彼女がやめろと言った以上、プトレマイオスとて積極的に戦闘を継続しようとは思わない。

 だが同時に、一度抜いた刃をそう簡単に収めることができないのもまた事実だ。

 レオトールも、へファイスティオンも其のことを理解しているし否定しない。

 其の結果、今この瞬間からこの戦いは『殺し合い』から『演舞』へと様相を変える。


*ーーー*


 最速の攻撃はやはりプトレマイオスだった。

 スキル『魔力充填』で魔力を急速に回復すると、()()()()()()()()()水の膜を操作し光を収束させレオトールを狙い撃つ。

 光の収束、それによる超高速の精密射撃。

 防ぐことのできない自然現象の応用、そして同時に放たれる周囲の光を吸収した光の砲撃。

 両方がレオトールを追い詰める回避不能にして防御不能の一撃となる、がしかし。

 回避不能、防御不能程度で防御も回避もできないレオトールではない。

 行動は拙速にして迅速だった、攻撃が収束するより先に剣が振るわれた。


 ただそれだけで、其の全てを凌駕する。


 恐ろしく、驚異的な速度で至る攻撃はしかしながら振るわれた剣より放出された炎の魔力によって弾かれる。

 自然現象という世界の法則を掻き消すほどに、『竜の炎』に内包される属性の密度は高い。

 言い換えれば、其の濃度の高さゆえに()()()()()()()()()()()()()()()()


 ハッキリ言おう、笑い話にもならない。

 こんなことが罷り通ればあらゆる魔術が通用しないのと同義でしかない、だが現実として罷り通っている。

 巫山戯るな、そんな思いを軽く込めつつ放たれた二撃目。

 其の攻撃はへファイスティオンによって防がれる……、どころか。


「『影分身』」


 攻撃を受けたのは、プトレマイオスの方だった。

 背後から忍び寄る妙手、後述詠唱を応用したスキル発動の発声を後付けするという奇術。

 光の攻撃を多用し、周囲の光を奪っていたのが仇となった。

 影から、へファイスティオンが増殖する。

 其の全てが本体と寸分違わぬ奇術師、王の友と名付けられるのには相応の実力があることを証明していた。

 其の無数のへファイスティオンが一気にプトレマイオスに迫り来る、粘着質な影が彼を捉えた。


 外道を以て、常道を捉える。


 魔術としては外道も外道なその用い方、どこの世界に前衛となる魔術師がいる?

 だが、その外道な魔術運用はときに常道を上回る。

 もしくは常道も外道も大差ないのかもしれない、この戦闘においては。


 拘束し、攻撃し、攻略し、抗戦する。

 一秒未満の早業の応酬、魔術と体術の双方で絡みほぐれ崩れ成っている。

 へファイスティオンの拘束を即座に腰の短剣を抜きながら切り裂き、同時に襲い掛かってきた錫杖を払いのけると続けざまに『八極拳』を魔力で模倣した一撃を見舞う。

 見舞うが、その攻撃では至らない。

 攻撃が届くより先に影が液体のように溶け、スパイクと化し貫いてくる。

 これまた絶死、受ければ一溜まりもないだろう。

 だがその一撃を受けることはない、背後から奇襲を仕掛けてきたレオトールの熱風に全てとかされるのだから。

 再度ここに記そう、これは三つ巴の『殺し合い』にも等しい『演舞』であると。

 焦りを隠そうともせず、卓越した動きでその熱風から遠ざかる二人。

 この三人の中で最も厄介な性質を持つのは、やはりレオトールだった。

 では、その理由は?


 一番余裕があるのか? いいや。

 一番万全なのか? あり得ない。


 彼が強いのは、全てにおいて二番手より下ではないから。

 だから強いし厄介なのだ、レオトールという()()は。


 しかし、そんな最強でも弱点はある。

 むしろ多い、笑えるほどに多い。

 今この瞬間では、布石とばかりに用意されていたへファイスティオンの『影縫い』こそ彼の脅威となる。

 影がせりあがり、燃えるほのおによってはっせいしていた影がレオトールの一対の足を縛る。

 たったそれだけ、ほんの少しの拘束だがその拘束は彼を其処につなぎとめた。


 襲い掛かるは二つの極限、最大級の魔法が二つ。

 スキルを用いて発動したそれらは、レオトールを包み込む。


「『シャドウワールド』」

「『賢者の書庫』」


 魔術が発露した、それも二つ同時に。

 世界が影に包まれ、同時に星のように煌めく魔術が周囲に広がり続ける。

 この場において最も厄介なのは、間違いなくレオトール(北方最強)だった。

 二つの極魔法、至り着いた到達点。

 だが、ソレすらもレオトールには届かない。


「流石に、殺意が高くはないか?」

「では双方矛を収めろ、『伯牙』に『賢者の叡智』!!」

「『王の友』、ソレは無理な話ぞ? 文句があるなら王を読んで来い。」


 再度、三人は衝突する。

 今回競り勝ったのは、意外なことにヘファイスティオンだった。

 広がったのは影の世界、影により構成された闇をも喰らう影の領域。

 ソレを食い荒らさんとばかりに揺れる炎の鎧と剣、ソレを破壊せんとばかりに蠢く魔術の数々。

 その全てをヘファイスティオンは増殖させた自分で押さえ込む、一瞬未満で。

 

 破茶滅茶だった、無茶苦茶だった。

 正しく概念の押し付け合い、理屈と理論を超越した戦いの到達点。

 故にこそ、レオトールの消耗も激しくなる。


 この中で、最も万全でないのはレオトールだ。

 その四肢は水晶大陸の反動で今にも折れやすく、その体躯は肉が常に裂ける。

 内臓は常に流動し、今にも胃液を吐かんばかりに蠢いていた。

 例え竜鎧をきても、鎧装『緋紅羅史(ひぐらし)』を来ていてもその症状は大きく緩和されない。

 今戦えているのは、単にレオトールがレオトールであるから。

 歯が壊れるほど食いしばり、頬肉から血が出るほどに我慢をし、激痛を生涯で得た忍耐で我慢しているからに他ならない。

 馬鹿の所業であり、阿呆の所業。

 だがその所業を行うからこそ、レオトールは北方最強を名乗らされているのだ。


 だが、その忍耐もいよいよ限界に近づいていた。

 当然の話だ、一体何処の世界に自分の体が限界を迎えても永遠と戦える人間がいる?

 いや実際に存在はした、ヘラクレスというレイドボスはその体躯その記憶その精神すら限界を迎えていたにも関わらず確かにレオトールたちを明確に追い詰めていた。

 しかし彼には、傭兵レオトールにはそこまでの高潔さはない。

 故にこれ以上は限界だと、余裕のあるうちに判断し武装を解除するよう動く。


 だが、その判断はやはり遅かった。


 闇から溢れ出した大量のヘファイスティオンは一気に二人を拘束すると、影の魔法や魔術で責め立てる。

 攻めと守りの関係が明確化し、レオトールは防御一辺倒にさせられた。

 だがプトレマイオスは違う、彼は防御を選択せずヘファイスティオンと同様に攻めに入る。

 その攻撃は、例えるならば星だった。

 影の世界に煌めく星のような魔法の数々、ソレが指揮者であるプトレマイオスの手によって一気に動かされる。

 狙いはレオトール、ではなく無数に増えたヘファイスティオンへ。

 その全てが胴を抜き、頭を穿ち、関節を破壊する。

 極限にして究極、究極にして絶対、絶対にして万象を示すかのような光速の光撃。

 降り注ぐ全ては一瞬未満で全てのヘファイスティオンを殺害し、残るはただ一人となる。

 釣られ、『シャドウワールド』も解除に追い込まれる。

 だがソレは『賢者の車庫』と言うスキルを発動した時に発生させた全ての魔法を消費した結果であり、相殺に追い込まれたという事実でしかない。


「……、再度やり直すか? この盤面、となれば私が勝つがな?」

「ハハ、笑わせてくれるな。とは言え、これ以上の被害を考えると辞めるべきなのもまた事実であるぞ? どうする、ヘファイスティオン。」

「き、貴様らぁ!! どうせ途中で辞めるのなら最初から大人しく言うことを聞いておけば良いものを!! 特に『賢者の叡智』!! その遊び心でどれほど被害を出すつもりだ!!」

「ハッハッハッ、どうせ街の修復など吾の仕事だろう? ならば暇な時に存分に暴れ回るのもまた一つぞ。」


 気楽にそう言い捨てると、水面下で発動しようとしていた魔術の全てを解除し呑気な姿を見せる。

 そう一見すれば、ただ呑気で気楽な若者の姿を。

 だが、この二人は知っている。

 目の前の男は海千山千の老獪な老齢の賢者にも等しい思考をしていると言うことを、舐めてかかれば手を噛まれると言うことを。


 レオトールは装備解除と同時に飛んできた針を手で掴むと、そのままインベントリに仕舞う。

 毒殺を狙った不意打の一手、気付かなければ致命傷にもなっていただろうその一撃。

 矛を収まるなどと嘯きながら、実際には殺意万全な一撃を放ってくるその姿は軽く殺意すら湧いてくるものだ。

 厄介極まる、と吐き捨てつつこの雰囲気こそが北方にいると確信を抱かせ安堵にも似た息を吐く。

 命の危険がなければ生きた実感がしないとはよく言ったものだ、死ぬと言う予兆が明確に見えるからこそ体は怯えでなく歓喜を告げる。

 

 だがそれは、どれだけ悩み迷おうとも彼には『伯牙』としての誇りがあり『傭兵』としての生き方しかできないということに他なら無かった。

 それは絶望すべき事なのか、換気すべきことなのか彼は判別がつかない。

 だが答えは得ていた、結論はここに出ていた。

 であれば、迷うことなどあるのだろうか?


「もはや迷うことはないな、黒狼に出会った時点で答えは出ていた。自ら縛り縛られた人生のうちでも()()に行きようか。」


 フッと、笑う。

 同時に、引き返せないことも自覚していた。

 いや、自覚などとっくの昔にしていたのかもしれない。

 ただその自覚を、今再認識しただけで。


「やれやれ、困ったものだな。『青の盟主』としての責任もあるのだろうが、こうして荒事をするのは……ッ!? どうした!? 『伯牙』!!」

「ハハ、多少の無茶の代償だ。気にするな、すぐに直す。」


 自嘲気味に、もしくは相当な苦痛を我慢しているように無理矢理立ち上がると息を吐く。

 同時に、口の中が血液で溢れた。

 吐血と同時に口内にポーションを入れて、血液と共に流し込む。

 限界ギリギリ、などではなく限界そのものなのだ。

 最大にして最凶、あらゆる事象を猊下し嘲笑う最悪のスキル。

 ヘラクレス戦にて使用された、『水晶大陸』のデメリットは生半可なモノではない。

 レオトールはコレでも耐性がある、特殊で特異なスキルを使いこなすための耐性がある。

 だが同時に、その耐性があってもコレだけ苦しめられているのだ。

 最初の頃のレオトールの症状は本当に酷い、一歩歩けば骨が軋み二歩歩けば筋が千切れかねない。

 今は大分改善している、大分改善してコレなのだ。

 全力を出せる状況など程遠く、血管の中を通り巡る血液は体を苛む要因となる。

 息一つで心臓が高鳴り、時に激痛が走りめぐる。

 数分に一度は最高位のポーションを飲まなければ体が先に参ってしまい、回復を行うためのエネルギーが足りなくなってしまう。

 人によっては死を覚悟するか、本当に死にたくなるほどの重体。

 だがソレを気合い一つで誤魔化しているのがこの男なのだ、だからこそこの男は『北方最強』なのだ。

 

 北方、特に傭兵たちには昔から一つの理念が存在する。

 理念、もしくは誇りと言い換えてもいいだろう。

 明文化されたモノではなく、言語化出来るものでもない誇りという薄っぺらい概念。

 だが、もしその誇りを言語化するのならば。


 非常に。

 そう、非常に簡単に言えば。


 仲間でも敵ならば殺す。

 敵でも味方ならば生かす。

 殺せるのなら殺す。

 殺せなくても殺す。

 命を大事に、ただ捨てる時を見誤らず。

 契約は命よりも重く。

 契約を遂行できなければ死ね。


 ただ、それだけ。

 それだけしか無く、それ以上はなく。


 生存競争しかなく、生存すら危うい世界だからこそ。

 上記の概念を達成することこそが誇り高いことであり、他者に誇れることであり。

 同様に達成できなければ、命を以て償えと言われるほどに重い不文律である。

 

 そして、その全てを達成してきたのが『伯牙(誇り高き牙)』のレオトールなのだ。

 決して狙って達成できるものではないその誇りを、息をするように達成する。

 だからこそ、彼は決して折れず砕けず挫けず。

 そして契約を解除するためならばと、碌に動かぬ五体を動かし『征服王』イスカンダルへと会いにゆくのだ。

レオトールさん、実は相当ギリギリです。

前回ぐらいまではまだ余裕がありましたが、今回の戦闘で相当瀕死です。

具体的にどれぐらい瀕死かと言うと、『とある魔術の禁書目録』の最新刊の上条さんよりややまし程度に瀕死です。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ