Deviance World Online ストーリー4『鎧装』
其れは正しく、『極剣』だった。
彼が扱う『極剣』、彼が模倣しようとした『極剣』。
『極剣一閃』、それは確かにゾンビ一号の手によって模倣された。
「ッ、どうやって覚えた!! 異国の剣士!!」
「何度も見たんです、否が応でも覚えますよ!!」
エフェクトは、一瞬だがまだ途切れない。
十の剣戟に、十一の剣戟で返す。
エフェクトが舞い散り、光輝が織りなされる。
極剣の連打、斬撃が女性を襲う。
「『流星一閃』ッ!!!!」
だが、その光輝は一筋の槍の流星によりかき消された。
いや、それどころではない。
流星の如き速度で襲ってきた一撃は、ゾンビ一号の心の臓を狙う。
防御は、間に合わない。
間に合うはずがない、彼女のステータスでは視界で捉えることが限界なレベルの速度なのだ。
だが、それはあくまで防御行動がという話だ。
「『吸血』、『パリィ』ッ!!?」
全身を等しく薄く傷つけた結果、彼女のそのスキルが牙を向く。
ヴァンパイアになったことで取得したスキル、今までは装備が装備だったので大きな意味をなさなかったが……。
装備も武器も変更した結果、その行動は現状にて最善となった。
周囲へ飛び散った血液が一瞬で集い、槍の穂先が到達する心の臓へと集合。
そのまま凝固し、本来ならば穿つはずのその一撃を半端にではあるが防ぐ。
もし、有識者が見ればその血液の流動はダイラタンシー現象と酷似していると認識するだろう。
ともかくそのおかげで、ゾンビ一号は莫大な衝撃を受けながらもダメージを大きく緩和し。
そして飛び散った血液は装備へ染み込み、防具の強度を上昇させた。
「『極剣一閃』!!」
再度の極剣、一度感覚を掴めば二度目は早い。
感覚を忘れないように、そしてこの状況での最善手である極剣を振るう。
凶刃が、喉元に迫る。
耀しき極剣が、彼女の命を奪おうとし。
「辞めろ、ゾンビ一号。命を奪っては、王と話す前に蜻蛉返りをせねばならん。」
レオトールが、その間に。
二つの、最上位の剣を二振り構え双方の武器を弾いた。
*ーーー*
レオトールは北方にて最強である、その事実は何者にも拭えない。
勿論、孤高の最強と言うほどに強いわけではない。
遠距離戦では『青の盟主』におとり、純粋なパワーでは『灰の盟主』におとる。
他にも、彼を一点で上回るものも多い。
盟主同士の戦闘では、レオトールを以ってしても勝率は5割を切る。
では、なぜ最強と揶揄われるのか? 再度言おう、レオトールの特徴にして彼を最強たらしめる最大の要素とはその対応能力にある。
彼は対人戦が得意と宣うが、それは対応策を考えずに剣を振れば殺せるからこそ対人戦が得意だと言うのだ。
魔物であれば硬いところや柔な所がある、当然そのために攻撃を工夫しなければいけない。
だが人であればそこが大きく異なることはない、目は柔らかく喉は薄く腹は臓物がある。
ならば当然、引き出せる手札も定型化する。
故に、彼は対人戦闘が得意だ。
さて、その前提を語った上で彼の武装について解説を始めよう。
彼が持つ、彼曰く最強の剣こと『水晶剣』。
これの特性は生きていることでも、常に煌めいているように見えることでもない。
この剣の最大の特徴は、『折れず』『壊れず』『毀れず』という3点のみ。
だがこの3点は、レオトールの無茶な戦闘を耐えるという事実を表していた。
そして次に彼の持つ最上の剣こと『津禍乃間』、この武装は彼のもう一つの代名詞でもある。
莫大な熱を保有し、かの太陽の聖剣『ガラティーン』を幻視する長剣。
それは北方で、最も恐れられていた暴虐竜にして皇帝竜の鱗を。
その中でも最上位の素材とされる竜の逆鱗を削り、加工した結果完成した愚者の剣。
霊長としての驕りと、その傲慢の結果完成したそれは。
森羅万象全てを焼き潰し、破壊する暴虐竜の息吹の概念を帯びた。
レオトール以外が使用すれば、いや使用どころか持った時点で焼き殺されかねない。
誇りと傲慢で驕り高ぶった竜を扱えるのは、己を殺したものだけというその意思の通りに。
白金色に輝くその剣は森羅も焼き切る。
これを作成した鍛治士は、その剣を『魔剣』と断定した。
悪意と憎悪と興奮に満ちた、史上最悪の魔剣と称した。
まぁ、レオトールにとっては道具以上の思い入れはないが。
そんな彼が、この二つの武器を構えて防いだ。
臨戦体制と、なった。
「ーーーーーーー」
「ーーー」
「ーーーーーーーーーーーー」
「ーーーーーー」
結果、そこにあったのは恐怖だった。
多くを語るまでもない、最強の人間が最強の装備を手にした時点で結果など見え透いている。
誰も動けない、誰も言葉を発せない。
ただ一人の前に、生命の終わりを予感させられる。
正しく、竜に睨まれたゴブリンだ。
「そこまでにしておくと良いぞ、レオトール。早撃ちでは、吾が先手を取れる。」
「ただ、武器を構えただけなのだがな? プトレマイオス。それに、二手目は私の方が早い。」
盟主同士の殺意が、周囲を飲み込んだ。
片や万全には程遠い、片や万全に近しい盟主。
結果は見え透いている、結果だけならば。
この後に及んで、レオトールが敗北すると宣うのなら。
何故、盟主であるプトレマイオスが出迎えた?
決まりきっている、最初から双方信用していなかっただけだ。
仲良さげに、旧友のように朗らかに語り合っていたとしてもその本質はどちらも盟主であり傭兵。
最低限の筋は通すが、裏切り裏切られなど常道も常道。
むしろ、王道と言い換えて良いかもしれない。
誇り高き牙、その名を誇る『伯牙』ですら裏切りはある。
ではその盟主が、何故裏切らないと思う?
「今は戦う気などない、双方戦えば尋常ならざる影響を振り撒く。」
「剣は抜かれている、収めるのなら其が先では?」
「身内間の小競り合いだ、許せ。」
「その剣を抜いた時点で、その言い訳は聞くに値せん。」
見逃せ、と言うレオトールにプトレマイオスは許せる範囲を超えたと告げる。
どっちも冷静だ、だがスタンスが違いすぎるせいで結論がまとまることはない。
双方ともに、殺意しかない。
もし双方ともに剣を収めることがあるのならば、そう其のもしもを語るとするのならば。
彼らは、『征服王』か『王の友』が来るまでは決して止まることなどないだろう。
「では仕方ない、欠陥だらけだが……。貴様を殺す程度はできるだろう、な?」
「馬鹿をいえ、吾を殺すのであれば万全でも難しかろう?」
瞬間、日光が収束し一気にレオトールを射抜く。
『賢者の叡智』シーザー・プトレマイオス、彼の魔術はこの世界そのものだ。
彼の魔術を語るためには、魔術史を紐解く必要がある。
まず最初に魔術とは何かを語ろう、魔術として最古に語られるのは凡そ『願う』こと。
宗教においては拝火教、『ゾロアスター教』を起源とすることができる。
経典を用い、何かを願う。
結果として『信仰』が発生し、其の信仰は目を曇らせ神の威光によって『詐術』へと変貌した。
すなわち、魔術とは世界に対する壮大な『詐術』である。
例えば、太陽が昇るとしよう。
それには必然的な理由がある、地球が自転していると言う理由がそこにはある。
だが、其の理由は『信仰』の前には無意味だ。
信仰は世界を歪ませる、非実在を実在させた。
それは『この世界』でも同じだ。
この世界でも、先史時代の魔術とは信仰から発生したものだった。
神の干渉が消え、絶対的な支配者が死に絶え。
だが、世界の終わりに対抗するために人類は奇跡を望んだ。
奇跡を得た結果、人類は世界に対する壮大な詐術を得た。
それこそが『魔術』なのだ。
さて、ここでようやく本題へと戻ろう。
魔術は詐術、魔法は世界が作った世界への詐術。
ではプトレマイオスが扱うのは? 答えは世界を虚飾する詐術だ。
例えば日光が降り注ぐ、例えば森林が土壌を守る。
そんな現実を応用し、実在させる魔術こそプトレマイオスが最も得意とする方式の魔術。
「手加減は、ナシぞ?」
日光が収束し、反射され極大のレーザービームがレオトールを襲う。
同時に周囲一体が暗転し、その光線に全てのエネルギーが収束していることを理解させる。
莫大なエネルギー、収束しあったそれは容赦なくレオトールを焼き殺そうとし。
「展開、『鎧装』」
鎧を、呼ぶ。
魔剣にして、最上の剣である『津禍乃間』と対になる鎧。
レオトールの最強装備の一つ、最上の武装。
鎧装『緋紅羅死』、其の装備を彼は装備した。
〈ーーレイドボスが装備しましたーー〉
〈ーーレイドボス名:レオトールーー〉
〈ーーレイド、開始しますーー〉
コールが鳴り響く、彼の存在を知らしめる。
ゾンビ一号は慌てて逃げ、ゾンビ一号と戦っていた女性も必死で逃れた。
片や夜闇が降臨し、片や地獄が降臨する。
霊長を滅ぼすと称される存在は、また霊長も当てはまる。
レオトールの場合、魔力を属性に変換する器官がないからこそレイドボス判定はされない。
文明の破壊に不十分とされるから、だがそれは装備を含めなければの話だ。
彼の保有する最強装備、それを完全に着込んだレオトールは……。
「最後の警告だ、収める気はないな?」
「最後の警告だ、吾は其を殺すぞ?」
交渉は決裂し、瞬間放たれた極光は炎で燃やされる。
概念ごと焼却しているのだ、ではどうやって?
レオトールは魔力に属性を帯びさせられない、だが装備を使えば別だ。
剣に魔力を流し、其の魔力を肉体に帰す。
普通の魔法陣ではできない、普通の魔法陣は属性を帯びさせた時点で成立し現象として発露しようとするから。
もしも体内に流せば自ずと発火するだろう、だがこの魔剣魔装ならば話は変わる。
熱が膨れ上がり、レオトールの周囲を焼き焦がす。
一瞬で、地面は焦土と化した。
「『極剣一閃』」
先手は極剣、最強の初手が襲い掛かりプトレマイオスは其の攻撃から逃れられない。
だが其の攻撃は冷静に、氷の壁で防ぎ切る。
ついで襲ってきた熱波は、氷の壁で無効化され反撃としてのレーザーがレオトールを貫かんとしていた。
だが、其の攻撃は炎の熱で歪められ残存する魔力は燃焼させられ追撃を許さない。
ここまで互いに一歩も動いていない、動く必要はない。
それどころか動けば死ぬ、双方ともに同格であるからこそ先に動いた方がこの戦いを左右すると確信していた。
「『氷結結界』」
「『絶叫絶技』」
次の攻撃は同時だった、レオトールの炎を弱めるために発動された氷の結界。
其の結界を破壊しようと、超高速で剣を振り切り音とソニックブームを発生させる。
音が、空間が割れた。
一気に結界が崩壊し、氷の山となって燃焼する。
強いなどと言う次元ではない、一つの行動で環境が作り破棄されていた。
レイドボスという規格外、そう認められたレオトールの強さは異次元であるように思え。
同時に、それを平然と対処するプトレマイオスの異質さも際立ってくる。
そして、双方が歩みを始めるのも同時だった。
レオトールの速度が一瞬で音速に肉薄する。
プトレマイオスが一瞬で、レオトールの背後へ迫った。
半回転し、剣が振られた。
それを鉱物の壁で防ぎ、レーザーを照射する。
レーザーは炎で開き消され、目隠しとばかりに周囲一帯を炎で包まれるが。
だが其の行動は水の魔術で一気に消し去り、レーザーを目隠しとした拘束魔法を展開。
そのままプトレマイオスは本を出すと、勝手に捲られる本のうち特定の項まで開き切って。
魔術的行動を行う前に、襲いかかってきた水晶剣を魔力で強化した手で弾き。
次に襲いかかってきた『掌底』を、背後に己が移動することで回避。
しかしレオトールの狙い通りに地面は陥没させられ、土石が宙に舞う。
そこからの、魔力放出。
土石が炎と熱を帯び、溶岩となってプトレマイオスに襲いかかる。
回避を不可能と断じたプトレマイオスは即座に空間魔術で、空間置換を行い攻撃をレオトールに返上し。
『剣限』スキルで舞い戻ってきた水晶剣を、視線を向けずに回避した。
続け様に、周囲一帯を概念的に封印する。
だが封印から焔が漏れ出し、一瞬で崩壊どころか封印の影から襲いかかってくる槍を知り空間転移を行う。
空間転移先、現われ出た場所へレオトールの裏拳が飛んだ。
それを両手で押さえつけ、蹴りを見舞い。
其の蹴りをもう片方の手で防いだレオトールは、一瞬で距離をとると息を吐く。
スキルの使用は最低限だ、もしくは最低限でなければ戦いが一瞬で終わると予感しているのか。
超高速での技の応酬、暴虐と暴力の押し付け合い。
早すぎて、そして空間を超えているからこそ余人では目で追うことを許されないだろう。
だが、ゾンビ一号はこの戦いを目で追えていた。
「『英雄必剣』」
今度の攻撃はレオトールへのバフ効果を孕む、剣を振り切った瞬間にレオトールの速度が上昇する。
速度が急速に加速したように錯覚し、だがプトレマイオスは空気の質を変更することで対処した。
漏れ出る炎は勢いを増す、まるでまだまだ全力でないというように。
だが、それはプトレマイオスも同じだ。
むしろ、レオトールの方が劣っている。
なのになぜ、なぜ拮抗している?
乱舞する攻撃、それは死の嵐が如き。
北方最強は、以前弱体化しても変化なかった。
むしろ、技の冴はむしろ良くなっている。
「『極剣一閃』」
再度戦況を変えたのは其の一撃だった。
二つの剣から放たれる、二筋の極剣。
それに対するカウンターとして、プトレマイオスは周囲の光を収束させ目眩しとし。
ーー其の戦いに、一本の錫杖が挟まれる。
レオトールさん強くなってるんだよね、実は。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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