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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『傭兵団【伯牙】』

 レオトールが足をとめ、そしてその視線を向けている先。

 そこには、一人の奴隷がいた。


「ほぅ、珍しい。異邦の人間か? よく捕まえたな。」

「売り物ではないぞ、情報漏洩が怖い。」

「ではなぜこんな珍妙なところに? ここでは情報漏洩がいくらでも発生するのでは? 少なくとも、あの王の友が許すとは到底思えん。」

「知らん、吾の専門は魔術であり戦術や戦略などではない。」


 31世紀現在において、ゲームに倫理というものは存在しなくなった。

 ゲームの流血表現への規制は消えた、性的描写などありふれている。

 過激なものだから売れる、では無くなった。

 過激でなければ、ゲームではないのだ。

 発展した科学技術はこの世界に魔法をもたらした、同じくして魔法(フィクション)現実(ノンフィクション)へと変貌を遂げた。

 

「うお!? 『青の盟主』!!? なぜここに!?」

「豪胆ここに極まれり、か。もしくはただの阿呆、痴呆の類か? 断頭し野に放てばどうなるかも未知数。なるほど、効果的な試行だ。」

「おい!! そっちのオッサンはなんだよ!? 急に偉そうにしやがって!!」


 その言葉を聞きプトレマイオスは笑いを浮かべ、ゾンビ一号は憤りレオトールは眉を顰める。

 オッサン、と言われたことに相応に腹を立てているらしい。

 レオトールは確かに少し老けては見える、実年齢は25歳程度だが無表情さや無骨さから30代前後。

 つまりおじさんと呼ばれる程度の年齢に見られやすかった。

 とはいえ、端正な顔立ちや精悍な相貌。

 装備が燻んだ赤茶色であることも関係はあるのだろう、着物を変えればもう少し若く。

 それも年相応に、見えるのかもしれない。


「人をオッサン呼ばわりとは良い度胸だ、礼儀を習わなかったのか? いや、失敬。そもそも、平民風情に礼儀など求めるのが可笑しな話だったか。」


 鼻で笑うように軽く侮辱し、そのまま異邦人を蹴り上げると近くの露店に突っ込ませる。

 それを見て大笑いするプトレマイオスと、慌てふためくゾンビ一号。

 普通で考えれば器物破損でお縄に付くだろうが……、どちらかといえばレオトールは行政側の人間だ。

 一切の問題はない、心証が悪くなるという話も何方にせよ今更である話だし。


「イッテェ!? 人間を蹴るなんて頭がおかしいんじゃ無いか!? この野蛮人が!! 傭兵なんて職業をやってるからそんなに野蛮になるんだよ!!」

「ハッハッハ!! 其を野蛮人呼ばわりとは相当だぞ!? 北方中の淑女が襲いかかって来るのでは!?」

「淑女という名の獣であろう? それに見た目だけなら貴様のほうが上だ。」

「吾の? まぁ、見た目なら張り合えようが生憎と吾は下世話で嫌われ者なのだぞ。」


 だから見た目だけならと付けたのだ、と呟きつつプレイヤーの髪を掴み持ち上げる。

 北方ならば北方の流儀があり通りがある、暴力的と称すのならば北方の常識を批判しているだけに過ぎない。

 郷に入っては郷に従え、良い言葉である。

 この言葉は結局、問題を起こさないようにしたいのならば相応の不便は弁えろという話であり。

 北方での厄介者の末路は、総じて死亡ということで決まっている。


「下世話度合いで言えばブライダー(灰の盟主)が上であろう、戦いで昂ればそのまま人も選ばず獣染みて仲間を犯している。」

「獣みたいな荒々しさは謎のウケがあるみたいだぞ? 吾みたいに中途半端が最も嫌われるとな。」

「そんなものか? どうなのだ、ゾンビ一号。」

「私に話を振らないでください!! 死体ですけど女ですよ!? 私は女なのですよ!?」


 ゾンビ一号が必死に訴え、女性らしさを強調するが一切の興味関心を向けずボタンを絞めるように指示する。

 その様子を見て、『コイツ、実は枯れてるんじゃ?』と疑うゾンビ一号。

 多分実際は、製造過程を知っていることやもっと腐乱死体に近しい状態を見ていることからそういう欲が湧かないのだろう。

 まぁ、そういうのを抜きにしてもレオトールは欲が薄いが。


「さて、暴力的に扱っているが……。問題はあるか? いや、無いな。」

「制圧し征服する、それらが我が王の王道にして覇道。今更感しか拭えんぞ、色々と。それに立場があり、其は貴族だ。舐められたままでは、我が名に傷付く。」

「道理だ、手荒な対応は無礼に対する仕返しということにしておこう。」


 それだけを軽く言い合い、そのまま威圧スキルを用いて気絶させるとレオトールは再度歩き始める。

 今度はフラフラと周囲を見回るレオトール、目的地がはっきりしている事が窺える。

 その裏で、ゾンビ一号はプトレマイオスに声をかけに行っていた。


「えっと、今日は?」

「気楽でいいぞ、名前は……。本当にゾンビ一号なのだな、愛着が無いのか気まぐれか。」

「多分気まぐれです、私の作成者も異邦人ですし。」

「……、なるほど。」


 ゾンビ一号の言葉を聞き、少し考え込むプトレマイオス。

 眉を顰め、そしてなんらかの魔術を目に宿しゾンビ一号を見てそして息を吐く。

 その後に頭を抱え、ゾンビ一号が知り得ない言葉で何かを侮辱しそして真剣な顔で話を始めた。


「其は……、深淵に魅入られているな? それも根源的恐怖と近しい神に。」

「え、はい。」

「素直に認めるということは自覚ありか、となれば厄介極まる話ぞ? 因縁が言える、ああ嫌な話だ。其の周囲に見える魔術は酷く無作法で醜くそして完成している、一つは……月女神か? となれば該当するのは月より闇と魔を司る純潔の神しかいるまい。他には、漆黒より太陽を廻す豹の神か? いや、純白にて太陽を翳す翼蛇神の影も見える。他に……、もう一つの神の影も見えるな。」

「えぇ?」


 プトレマイオスの言葉を聞き、ゾンビ一号は軽く驚く。

 ほとんどよく分からないが、おおよそ黒狼に見入っている神の名前が羅列されたのだろうと察せたからこそ。

 究極の変人とも、普通に見える異常者とも言える黒狼。

 こういうように普通ならざる存在に好かれるのは彼の得手なのだろうか?


「警告しておこうぞ、もし何かのためを思うのであれば疾く死ね。其の魂は歪に結合し、其の体躯は死体であるのに死を嫌う。端的に言って異常だ、吾も常道を歩んでいるつもりはないが其は邪道ですらない。其のそれは道ですらない大海の内を流されるままに漂っているようなもの。いつ決壊し崩壊するのか分からんものだ、故に警告する。愛しき何か、守りたい何かがあるのなら疾く死んでおけ。」

「……生憎と、私の目的は私が死んでは成立しません。その警告は受け入れることなどできませんね、生憎と。」

「では勝手にしろ、吾の勘違いかもしれん。」


 それだけいうと、興味深そうに手元に召喚した魔法陣をいじる。

 ゾンビ一号はそれを見て、過去に見た事があると。

 そのように確信し、だが何処でどのように見たのか。

 どんな使われ方をしたのかを思い出せず、眉間に皺を寄せた。


 質問しようにもプトレマイオスが答えてくれそうな気配はない、もうゾンビ一号に興味をなくしたようだ。

 いや、それも正確ではないだろう。

 より正確に言うのならば、プトレマイオスにとって本来ゾンビ一号とは馴れ合う相手ではない。

 あくまでレオトールの友人、もしくはそこに類する存在であるからこそ相手にいて貰えていただけに過ぎない。


「線引きが厳しいですね、北方の方々は。」


 常識が違う? 思考が違う?

 いや、もっと根本的なところで違うものがある。

 純粋に単純に簡単に、死という選択肢であり概念が側にあるかどうかという違いが。

 ゾンビ一号にとって、そしてグランド・アルビオン周辺に住む人間にとって死という概念は遠く無縁に等しいものだ。

 もちろん、死ぬ時は死ぬ。

 だがそれは覚悟を持てるものであり、唐突に気分で発生するようなイベントではない。

 

 弱者は駆逐される、強者のみが蔓延る。

 人という弱者は、より弱者である存在を駆逐し生存圏を拡大してきた。

 同様に、人でない強者は人という弱者を駆逐しこの世界で繁栄している。

 あくまで霊長に立っているのは、ただの偶然と奇跡の産物だ。


「とりあえず、早くレオトールの武装を見たいな……?」


 そんな呟きが神か彼か、もしくは両方に届いたのか少し移動速度が速くなる。

 しばらくした時、彼らは倉庫に到着していた。


*ーーー*


「なッ!? 『伯牙』!!?」


 驚愕に顔を歪め、槍を差し向けてきた女性。

 それを平然と無視しながら、レオトールは蔵の扉に手を掛ける。

 いや、手を掛けようとした。


 その瞬間、蔵が一瞬で燃え上がり中の様子が露呈する。

 そこには高く巻き上がっていた鎖が一つ、大きな弓が一つ。

 灼赤と燃え盛る鎧が一つ、煌々と光を放つ剣が一つ。

 一本の真っ直ぐな槍が一つ、湾曲した漆黒の鎌が一つ。


 それら全てがレオトールを望むように、その場で蠢いているような錯覚を起こす。

 もしくは、意志なき武器が無差別に殺意を振り撒いているような。

 そんな錯覚、を。


「どうやら、此奴らも待ちきれんらしいな? なぁ、ファフリス。」

「ッ、なんのために戻ってきた!? 命を狙った我々を壊滅させるために舞い戻ってきたのか!?」

「安心しろ、意思の確認も行動の原理も問う気はない。今の私は『白の盟主』の座を返上し、私の武装を回収するためだけに戻ってきた。」

「何のために!? お前みたいな化け物が、それだけのはずがないだろう!!?」


 門番が、傭兵団『伯牙』に所属している彼女が。

 そう言って槍を差し向け、怯えたように後退りする。

 

 その様子を間近で見ていたゾンビ一号は、のちにこう語る。


『あの様子は……、例えるなら……。いえ、例えられませんね。ハッキリ言います、あの時のレオトールは化け物としか例えられませんでした。心が凍てついた化け物、人の理解し得ない狂気。触れれば全てを破壊するような、そんな雰囲気を持つ狂気。それがあの時に私が感じたレオトールという人間でした。』


 激凍心火、レオトールという人間を称するのならばこの言葉が最も適切だろう。

 造語ではあるが、だがこの言葉以外では彼を示しようがない。

 激しく、そう激しく凍った心。

 だがその心は燃えている。

 矛盾を孕む、いや矛盾しかない心のあり方。

 それはより彼を非人間的に見せる、それほどまでに矛盾した精神性を持つ。

 詳しくはいつか知れるだろう、今ここで重要なのは。

 今の彼は黒狼と馴れ合っていた『レオトール』でなく、『伯牙』という傭兵としてのレオトールだということだ。


「ならば我が命を狙うがいい、その瞬間に我が極剣。手向として、魅せ贈ろう。」


 息が、止まっていた。

 あまりにも鋭く冷徹で、そして殺意が酷いその眼差しは時間を止めているかのようだ。

 魔法や魔術を使えないはずなのに、この一瞬で体感温度が急激に下がった気がした。

 弱体化し、積極的に戦闘をしたくないと冗談めかして言っていた雰囲気は消え失せ必要とあらばその首を弾頭することに躊躇いのない殺意がそこにはあった。

 恐怖であり、死であり、絶対であり。

 プトレマイオスを除き、盟主という絶対的強者を除きこの空気は地獄そのものだ。


「来ないのか、では客人に槍を差し向けるのはやめておいた方が良いぞ。盟主の程度が問われる、からな?」

「ッ、どの口が!!」


 レオトールの平坦な口調で告げられた煽り、それは彼女の心を引っ掻き回した。

 盟主、ここで指しているのは『伯牙』と呼称される人物。

 転じて、レオトール。

 つまりこの男は、客人として訪れた主君に刃を差し向けるとは随分と程度が落ちたと告げたのだ。

 その煽りは、彼女の逆鱗に触れた。


 息を呑むより早く、疾風迅雷のように突き放たれる槍。

 恐怖と怯えと怒りが混じった、その一撃。

 予備動作なく放たれたその攻撃は、だが()()の剣によって防がれる。

 そう、ゾンビ一号の剣によって。


「させません、よ!!」


 地面を踏み締め、疾くも重い槍を剣で弾く。

 そのまま重心を下げ、一気に繰り出した蹴りで腹を穿ち。

 だが、女性も負けじとその蹴りを掴むとゾンビ一号を捻りながら投げ飛ばす。

 

 視線を回す、槍は地面に突き立てられていた。

 すなわち、行動は全て予測されていたと言う事。

 戦闘技術の高さに息を呑みそうになりつつ、だがそれすらも想定内と自分を騙し一気に接近する。


「『騎士の誇り』!!」


 スキルの発動、瞬間的に彼女の身体の警戒がゾンビ一号に向く。

 圧倒的な脅威であるレオトールから一瞬だけだが、意識が逸れる。

 

 焦りと恐怖、そして殺意。


 三つの要素が混ざり合った感情を顔に浮かべながら放った突き、そこにはアーツが発動しているのがまたとれた。

 発音は聞こえない、聞こえなかった、聞き逃した。

 だが、そのエフェクト。

 その正体は、考えずともわかる。


串刺し(カズィクル)


 一度受ければ、二度は無い必殺の槍。

 魔力の槍を形成し、内部で広がることで臓器全てを破壊する即死の一撃。

 その一撃は、例え掠ったとしても穂先から発生することには違いない。

 コンマ数秒の判断が生死を分ける、この一瞬が全てとなる。


「『パリィ』」


 ゾンビ一号がその緻密な時間で選択したスキルは、剣術スキルの中でも基本的とされる『パリィ』だった。

 槍が穿つ、だがそのタイミングでゾンビ一号のパリィと衝突。

 弾かれた槍、そのままスキルの動作通りに首筋から胸部にかけて放たれるカウンターの一閃。

 回避は間に合わない、その確信を抱き発動した一撃は。


「油断したなァ!!」


 地面に刺さった槍、そこから発生した魔力の杭によって防がれた。

 息を呑む、卓越した戦闘技術だと。

 同時に北方の傭兵の強さを、そして傭兵団『伯牙』の強さを再認識する。

 恐るべき強さだ、身体のしなやかさは豹の如く。

 その力は像のように、その剣は虫のように。

 もし彼ら彼女らが隊列を成して襲って来ると考えれば、恐怖で体が震える。


「してません、よッ!!」


 だが、隊列は為されていない。

 『灰の盟主』に連なるモノたちを倒したという自信は、彼女を奮い立たせる。

 故に、確信があった。

 その極剣、その絶剣、その究極を再現できると。

 土壇場での覚醒、そんなものがあってはいけない。

 だが、この瞬間。

 ゾンビ一号は、覚醒する。


「『極剣一閃(グラム)』」


 アーツが、成立した。

 剣に光が溢れ出す、燦々と煌めく極剣が君臨する。

 北方の最強、その技を彼女は得た。

 その攻撃を見て、相手は驚愕に顔を歪めながらも槍で防ごうとし……。

 己の過ちを知る。


 エフェクトは剣に発生するものだが、剣から離れないものではない。

 寧ろ、存分に離れる類のものだった。

 この戦いでの失策はただ一つ、攻撃を躱し油断したところに訪れたその一撃に。

 冷静さを持って対処できなかったこと、コレが彼女の敗因となる。

覚醒


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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