Deviance World Online ストーリー4『兵站問題』
『王の街』、それは征服王が他国を侵略する時に用いる簡易魔術都市だ。
『規格の都市』と呼称されるその軍事行動は数百から数千の人間を内包することが可能とされ、同時にその人間を賄うだけの都市機能も存在する。
征服王の軍勢である『王の軍』はその性質上、都市を破壊しながら制圧する事を得意としておりそのため征服したとしてもその土地に住む人々の居住地は保障されづらい。
その問題を解決するのが、この『王の街』だ。
破壊した都市住民の保護や、安全の補償を行う。
同時に己が軍勢の安全を保障し、最前線の要塞とする。
二つの役割を持たせている、一つの都市。
もし、この都市を魔術で作成したとモルガンが知れば驚き驚愕するだろう。
都市の作成、それ自体は別段不可能ではない。
むしろ容易いぐらいだ、それこそ転移魔術を発動するよりかは。
ただその容易いは、簡単であるというわけではない。
プレイヤーたちは土塊を隆起させ、押し固めて作成した建築物を並べ街と呼称した。
だがこの都市はどうだ? その全てが土塊? バカをいえ、と言いたい。
木と石と岩、それらが複雑に組み合わさり水路が引かれ上下水道の概念が存在する。
中心の城、その中には大きな広間が設けられ通常は市場となり非常では軍を置く場所へと変貌することになるだろう。
軍事的要塞にして、合理により作られた絶対的な都市。
もしこの都市に欠陥があるとしたら……。
「長丁場になっている関係もあり、やはり食料が足りておらんな。兵站不足は軍の崩壊への危機となる、どう対策を講じている? プトレマイオス。」
「やはり一目で見抜くその慧眼、『伯牙』を失ったのは相当だぞ。」
「質問には答えを用意しろ、というかその様子ではやはり分散させていても兵站の不足は誤魔化せておらんか。魔物を倒し糧にするというのでもいずれは限界が生じる、どうやって維持をしている?」
「簡単である、が難解でもあるぞ。そうだな、おいソコのアンデッド。其はどう考える?」
突如話を振られたゾンビ一号は驚き、そして一瞬黙った後に幾許かの思考を巡らす。
少なくとも魔術的な方法で解決しているのは間違いない、そう考えていいだろう。
では、どんな手段を弄しているのか? それには想像が及ばない。
魔術というのは原則的に等価交換であり、唯一の例外として挙げられるのが心象を用いた世界の構築という魔術のみ。
だが心象世界を用いた魔術というのがここで使われていないのはほぼ確実なのは語るまでもない話だろう、心象世界というのは人の心でしかなく。
結論として挙げられる究極論では、エゴを満たす以外の使用ができない。
心象世界というのはどこまで行っても、自分の心である。
自分が思い、自分が考える、自分というエゴの究極形。
もし、だ。
もしこのように食物を普遍的に撒く心象があるとするのならば、それは精神が崩壊した存在に他ならない。
故に、あり得ないと断定した。
では他にどのような手段が存在するだろうか?
あらゆる魔術、あらゆる権能。
神ですらもその絶対等価原則から逃れることはできない、逃れられるはずがない。
ではこの軍勢は、どのような法則を用いて何と何を交換しているのか?
鉱物を金銭へ? 市場が乱れる、論外だ。
植物を穀物へ? 周囲の草木が侵食されている様子はない。
魔力を食物へ? あり得ない、効率が悪い。
分からない、考えうるあらゆる手段が破綻する。
錬金術も魔術だ、同様に他のものも。
答えは、出ない。
「ふむ、少々難解であったようだぞ? これは意地悪な問題となっていたか。」
「正解を言ってやれ、このままでは頭から煙を出しかねん。」
「……冗談が上手くなったか? 少しは笑える冗談ではないか、前が悪すぎたとも言えるが。まぁ、いいだろう。答えは……、そこを見れば分かるだろう。」
「ソコ……?」
プトレマイオスが指を刺し、その方面に目線を向ける。
ソコ、プトレマイオスが指を刺した場所には段々に作成された農場があった。
いわば陥没ピラミット、中心へ行くに連れ凹が深くなる農場であり牧場。
ソコでは奴隷階級と思わしき人間が大量に働いていた、そう大量に。
中にはゾンビ一号の記憶に残っている人物もいる、そうだろう。
普通に考えれば分かる話だった、簡単で単純な話だった。
「非効率ですが、合理的ですね。もしくはシンプルであり短期間で壊せる機構、なるほど。この空間そのものを一つの環境として消費されるリソースを減少、そのまま捕獲した奴隷を環境維持に使用し環境から溢れたモノを軍勢の食糧として用いましたか。段々状なのは生物ピラミットを視覚化し、維持の簡易化に努めているからですね? この環境、素晴らしい。土着の生物などはここになれないでしょうが……、いえそれも特化した生物を入れればいいだけですね。使用しているモンスターはラット系統でしょうか? 多産であり、中には一度で30近く生む種もいると聞きます。改良すれば確かに一週間程度で完全な世代交代が発生する、合理的ですね。」
「一眼見て看破するか、素晴らしいぞ。だが、少し間違いを訂正しよう。」
ゾンビ一号の推論、それは魔術師として。
錬金術師としての知識があるからこその結論だ。
そしてその結論は、徹底的に動物を被虐者として見ている立場でなければ出せない回答。
その回答を聞いたプトレマイオスは、少し驚きそして笑う。
「ここにいる種は大枠として『インヴェイジョンラット』という種族であり、そしてこの生物は我ら軍勢が擁する『ヴァイオレット種』の女王がいるレイドボスだ。」
「え、えぇ!? レ、レイドボスですか!? それは……、制御可能なのですか!? いえ、不可能だ!! あってはならない!!」
「舐めるなよ、吾達を。というより、祖らが遅れすぎているだけぞ。生物というのは究極的に支配可能なモノだ、例外としてレイドボスは存在するがレイドボス級であれば話は変わる。適切な形での維持、被虐生命に対する正確な有用性。それらを明確に提示できれば支配など容易極まる、それに先ほど慧眼と称したがその慧眼もまだまだ穴が多い。」
そう言って彼は魔術を発動し、ラットの一匹を手元に引き寄せる。
植物を食い殺し、土壌を無の大地に変化させる『青痣の侵略鼠』。
その規格はレイドボスと称される程に強大であり、人類を滅ぼす可能性のある種族でもある。
だがその一匹を見る限り、ゾンビ一号には到底そう思えず。
同時に、プトレマイオスの解説を聞き顔を青くする。
『青痣の侵略鼠』、その種族には複数の階級が存在する。
種族名に追記される形で記載される階級、別の形としていうならば変異した証。
下から順に『ベース』、『ハイ』、『ワンペァー』、『ツペァー』、『スリー』、『ストレート』、『フラッシュ』、『フルウス』、『フォーカー』、『ストーフラッシュ』、『ロイヤルフラッシュ』となっており他に変異も複数存在する。
具体的には『ガーダー』、『マジシャン』、『ロイヤルガーダー』、『ペア』、『キング』、『クイーン』、『エース』、『ジャック』、『ジョーカー』etc……。
挙げ始めればキリがないのでここら辺で止めておくが、そういうコロニーを形成し周囲の環境を飲み込んでいくのがこの種族なのだ。
しかも、この種族が恐ろしいのはその世代交代の速さにもある。
自然界で生き延びるこの種族の世代交代は、どんなに遅いコロニーでも一ヶ月で完全に入れ替わる。
例外として主の頂点に君臨するクイーンは長命となるが、それは例外中の例外だ。
基本的にこの種族は一度の交尾で20〜40の子を孕み、出産し死亡する。
そして死亡した母体を食し、最低限のエネルギーを確保した子供は周囲の自然を食い荒らし次なる母体へと変貌。
この工程を20〜30日程度で完了することで、言葉通りに鼠算形式で増加する。
ゴブリンですら世代交代の速度は遅い、一年で完全に交代するとはいえこのネズミに比べるとよっぽど遅いと言えるだろう。
そんなふうに爆発的に増加するネズミ、世代交代が驚くほど早いこのネズミに北方のとある砂漠地帯の都市は目を付けた。
最初に行ったのはより死に易くすることだった、長く生きられては困るのは明々白々だったため。
その結果はすぐに出た、世代交代の速さが裏目に出たと言ってもいい。
老化ではなく自己魔力による成長促進により、魔力不足で僅か10日で死ぬこととなった。
そしてその死亡速度が上昇したことでネズミの性欲は青天井に膨れ上がる、結果としてオスのラットはより強靭に引き締まり凶暴性が上昇することとなった。
反面、メスは性格が温和になる個体の割合が上昇する。
何故? 答えはまた同様に成長の加速にあった。
母体の成熟までの期間が驚異的な速度となった結果、体の変化が激化し活発的な活動を行うとエネルギー消費が大きくなるからだ。
言い換えれば温和にならざるを得なかった、というべきだろう。
その結果、メスの肉は脂肪が増え出産を行わないメスは脂肪が多分に含まれる肉に変化。
オスの肉体は、引き締まっており筋がある筋肉質な状態へと変化した。
図らずも、味の改善に漕ぎ着けたのである。
だがこれにも問題は生じた。
今度はラットの食料が不足したのである、ある意味当然の話だ。
先ほども話した通り、魔術の絶対原則は等価であり何かが増えれば何かは減る。
それは自然界の、そして生態ピラミッドにも当てはまる話であった。
今回は個体数が増え安定して増加減少を繰り返す様になった結果、そもそも必要とされる食物。
雑食であるからこその、肉と植物が大きく不足したわけだった。
肉は問題にすら上がらなかった。
増加したラットの余分な個体を食わせればいくらでも賄える、問題となったのは植物の方だ。
植物は短期間で急成長する類のものは存在しない、生物とは違い一定の土地に根差し栄養分を吸収することで数ヶ月をかけて成熟する。
元々実験を行っていた土地が砂漠の都市であった事も含め、これは由々しき問題とされた。
だがその時、一人の天才が言葉を紡ぐ。
『草ができないのならば、草を作らせればいいじゃない。』
噛み砕くと、ラットの魔力と肉体と糞を利用し土壌を作成。
そして、余剰とされるラットの魔力を人間が描き作成した成長促進の魔法陣に注ぎ込ませ植物の成長やそれに必要とされる水分や栄養素を作成させ急成長させた。
この環境を作成したことで、ラットは第三の大きな変貌を遂げる。
このコロニー、この群体の魔力量が大幅に上昇しそして環境に適応したことで植物側も変貌を遂げた。
日光を多量に吸収し、空気中の二酸化炭素や窒素など様々な気体。
そのほかにも埃や砂塵を取り込むことで栄養価を大きく上昇させた。
しかも、急成長により種の進化速度が発展したことで植物側もラット同様にあらゆる環境への適応速度が加速度的に上昇し。
環境を壊すほどに増えたラットや植物は人の手で排除されることで、完全に成立することとなった。
後世の歴史において、この農法はこう呼ばれることとなる。
『完成された農牧』、と。
そして、コレを発見していた征服王は兵站にこの農業を組み込むことを常日頃から考えていた。
そもそも、前述の説明からも分かるとおり維持自体は難易度はさして高くないのは分かるだろう。
問題は、維持ではなく作成の方だ。
まずラットの数を増やすことが難関だ。
適度に増やさなければ、増殖しすぎて先に植物が食い荒らされる。
逆に少なすぎれば、エネルギーが過度に吸収されそのまま絶滅する。
双方の問題をクリアしても数ヶ月程度の滞在では、元は取れない。
レオトールが兵站事情を訝しんだのも当然の話だ。
彼が滞在していたタイミングから、長期の滞在は確実であったために実験的に機能していた。
だが、維持のバランスが難しくレオトールが去るタイミングでは安定こそしていたが増加はしていない時期でもあり。
完成していると考える方が場合によっては珍しいレベルなのかもしれない、いや珍しいに決まっている。
何はともあれ、ここに征服王軍の食料問題の。
そしてイスカンダルという英傑が行う、王としての施策があった。
「わかったか? 小娘。」
「……ば、バカな!? それでは、それは消えることない尽きる事無い理想の食料庫ではないですか!? 少なくとも露呈するレベルでの明確な欠陥は存在していない、あり得るのですか!? こんな暴挙が!!」
「あり得ている、それが答えに他ならんぞ。」
「おい、プトレマイオス。ゾンビ一号を虐めるのは程々にしてやれ、そもそもこの機構も我々にとって未知数の部分が大きいのはわかっての通りだろう?」
侮蔑、もしくは嘲笑するように冷ややかに目線を向けるプトレマイオスに対してレオトールは釘を刺す。
お前も所詮は井の中の蛙だぞ、と。
その言葉を聞き、ちょっと揶揄っただけだと目線で訴えかける彼を無視しレオトールは城に足を踏み入れる。
王の街の中心部、そこに構えてある城。
大きな広場に、様々な人間が露天を構え物売りをしている。
無造作に作成された袋小路、玉石混合の掘り出し物を得られるかもしれないそこ。
当然、奴隷商も存在する。
「エルフか、条約は?」
「襲いかかって来た物に対しては無効だ、違法的なのは売っていない為そこは安心してよかろうよ。」
「笑わせるな、エルフの奴隷など目に見える竜の尾そのもの。寿命で勝手に解かれる、結ぶのなら盟約で子孫代々でなければな。」
「そうか、膣の具合は相当良いのだがな? 吾のところの若い連中など、毎昼毎夜集って盛っているぞ? ククク。」
下世話な話に顔を歪め、いやそうに少し離れるゾンビ一号だが平然と受け流すレオトールを見え少し安心する。
そういうところに耐性がないのは、見た目に反して少女らしい。
いや、少女らしいというよりは普通の反応がこれなのだろうか?
とにかく、レオトールは歩きながら奴隷を品定めしつつ露天の奥へとゆく。
プトレマイオス的には目的地から外れているのか、少し困り顔だが大きな問題はないらしい。
そうしてしばらく歩いた時、ふとレオトールが立ち止まった。
ラットの設定は即興です。
ついでにラットの大きさはバスケットボール二つ分です。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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