Deviance World Online ストーリー4『王の街』
森の中を進む、進んでいる。
陰鬱とした緑はもうすでに見慣れた、今やただの風景に過ぎない。
そんな中、ふとレオトールは足を止める。
「止まれゾンビ一号、どうやら……。気付かれたみたいだぞ?」
その瞬間、周囲の土が大きく動き二人を囲うようにゴーレムが完成する。
いや、それだけではない。
ゴーレムだけではなく、水の矢や風の刃がそこかしこにいつしか展開されていた。
気付かなかった、そう言うのは簡単だが実際はそんな単純な話ではない。
一つ有名な話だが、完全な隠匿は逆に暴露されやすいと言う話は知っているだろうか?
隠匿というのは極限的に言えば、見えなくすることに他ならない。
だが完全にソレを消失させてしまえば、却って消失という事象が置き換わる。
ノイズがない、というのがノイズである。
そんな面白い話だが、その話はこの世界でも有効だ。
この世界でも極まった隠匿技術は却って、気付かれやすいとされる。
では最も気付かれにくい隠匿技術とは?
答えは、無い。
あらゆるものに定石があるように、完璧な隠匿が成立しえない以上何かしらの欠陥が発生しているはずだ。
ではなぜ、ゾンビ一号はこれだけの量の魔術に気づけなかった……?
「久方ぶりだな、出迎えは要らんと言っていた気がするが?」
緊張が流れる、レオトールはすでに鞘から剣を抜き去っていた。
どう転んでも対処ができるように、体が勝手に動いていたのだろう。
傭兵としての性、というものか。
もしくは、最低でもここを乗り切らなければならないという緊張からか?
どちらにせよ、次の行動は相手の出方で決定する。
「ーーーーーーー、ハ。」
長く短い沈黙、その後で放たれた言葉は嘲笑にも聞こえるモノ。
その豪胆さが故か、もしくは臆することのないその風体から滲み出す風格をバカにしたのか?
ゾンビ一号は、そんな感想を抱きつつも警戒を一層強めた。
だが、その警戒は次の瞬間にて破られる。
「ハッハッハ!! 久方ぶりだな!? 『伯牙』の!!」
「どうやら、此度は敵ではないらしい。安堵したぞ? 『賢者の叡智』。」
木陰の奥、木の葉が揺れたかと思うとソコから一人の男が現れた。
赤褐色の肌、砂漠を思わせる装備の数々。
彼こそが、『白の盟主』と同格とされた『王の軍』の中でも特に魔術に秀でた盟主。
『青の盟主』こと、『賢者の叡智』プトレマイオスだ。
「しかし耳を疑ったが事実であったのだな? まさか、盟主が追放されるなど!! しかも実力行使と来た。あの跡を見ればわかる、其も奥の手を用い逃げ延びたのだろう? どうやって図られた?」
「ヒュドラの猛毒を食に混ぜ込まれていた、盛大にな? ステータスで耐性値を無理矢理上げ、過剰回復で喉を数回切り裂き物理的に排除するのを狙ったからこそ無事ではあったが……。流石に二度も行える手合いではない、あれは二度と御免被る。」
「……、とうとう人間を辞めたか。『伯牙』、吾は悲しいぞ?」
「よせよせ、縁起でもない。私は人間だ、勝手に化け物扱いをするんじゃない。」
そう言い合いながら、レオトールが知らない異邦人が現れてからの一ヶ月間を話し合う。
多くの情報はない、だが戦争の在り方が変化しつつあると彼は告げた。
異邦人は不死身だ、何度殺そうが復活し情報を共有する。
その伝達速度は異常であり、もし全面戦争をすれば兵站の関係で敗北するという結論に至った。
故にこそ、行き着いた結論は戦力を集合させ短期間で一気に『グランド・アルビオン』を攻略するという話。
そのために、征服王率いる傭兵からなる軍勢こと『王の軍』は森林の中で虎視眈々と集結しているという事らしい。
「確かに、異邦人の蘇生は厄介だ。死なぬほどに強い化け物など見飽きたが、死んでも死なないのは致命極まる。だが、ソレでも速攻戦をかければ勝てるだろう? なぜ、わざわざ総力戦を? もうすでに十二分にこの地に滞在もしていろう? 補給も、万全であるはずだ。」
「理由は複数ある、特にとされるのは『紫の盟主』の未来予知が最もたる理由でな? 理論で組み立てられぬ未来予知だが、精度は正確だ。その未来予知で、黄金の王に滅ぼされる姿を見たと。故に、全勢力を集結させ一陣にて全てを斃す訳にしたらしい。」
「黄金の王……? まさか……、本当に? 一体どんな手段を……、未来予知の情報を仔細に教えてくれ。」
「あ、ああ。予知の全文は『黄金の王が我らを滅ぼし、大陸は世界を蝕む。』ということだ、後者はともかく前者は明確に我々に対する話であるのは間違いない。」
その言葉を聞き、考えに耽るレオトール。
眉間には深く皺がよっていた。
(黄金の王……、まず間違いなく『英雄王』ギルガメッシュに他なるまい。彼以外の存在で、黄金の王などと呼称できうる存在はこの近隣に存在しえないだろう。……ということは、明確に彼は征服王と敵対するつもりか? いや、もしや未来予知が間違っているという可能性も無くは無かろうが。あの『紫の盟主』の未来予知だ、ソレにあの黄金の王の気配もある。となれば……、過去の主君を裏切ることになるが仕方あるまい。身の振り方を考えねばな……?)
その思考、その警戒。
焦りとも近い、思考の渦だが結論を出すまでは酷く早かった。
二つ目の内容は考えるまでもないと脳内でケリを付け、そのまま会話に興じる。
「『青の盟主』、そういえば私の兵装はどうなっている? 流石に破棄されていては涙が出るぞ?」
「安心しろ、其の武器の価値は計り知れん。丁重に置かれているとも、もしくは誰も触れることすらできなかったと言い換えてもよかろうよ。」
「そうか、やはり誰も運ぶことすらできなかったか……。確かに、無駄に重いからな?」
「阿呆の考えることよ、万里……。とまではいかなくとも、長さが1キロにもなる鎖を制作させるなど。まず資金問題が発生する、次に輸送問題が発生する。そして最後に、武器としても道具としても扱いづらさがあるのがわかる。」
レオトールが預けている武器の一つ。
『万里の長鎖』、それはレオトールの持つ最高峰の武器の一つにして余人には扱うことが不可能な武器。
1キロの長さにも及ぶ、ただの鎖。
それが彼の兵装である、『万里の長鎖』だ。
レオトールは魔術を使えない、その事実のために彼が広範囲攻撃を不得手としているのはわかりやすい話だろう。
では、彼がそんな分かりやすい欠点を克服していないのはありえるだろうか? まさか、ありえるはずがない。
物理的行動で、魔術のような属性の変化を要求する手段以外で。
広範囲攻撃をする方法、彼はその答えを己のアーツに見出した。
『絶叫絶技』、その攻撃はソニックブームを発生させる攻撃。
超高速で振るわれた武器はその前方の気体や液体を押しのけることによって、密度が高く圧力が高い領域が形成される。
そして、それが波として伝わることでソニックブームは成立し。
さらに魔力を用いることでその現象、その波を多重に発動したのが『絶叫絶技』の正体だ。
さて、この技を習得したレオトールはふと一つの考えを導き出した。
ソレは、そのアーツを発動する武装が大きければ大きいほど効果や範囲は拡大するのではないか? というモノ。
シンプルな話であり、馬鹿げた話
だが、実際にソレは事実であった。
この鎖の使い方はシンプルだ。
インベントリの仕様として、物体は端から順に収納召喚される。
そのため、レオトールのようなインベントリの使い方は非常に難しいとされておりその理由としては。
必要なタイミングの一瞬前に呼び出さなければならない、というシンプルなものだ。
だが、この鎖の場合はその仕様の裏を欠いた。
当たり前の話だが、物の重さは現界している部分が全てだ。
そのため、レオトールはこの鎖を出した瞬間に『絶叫絶技』を発動しそのままインベントリに仕舞い込むという荒技を使っている。
レオトールのステータス、STRが2000を超えた力で比較的軽い鎖を振るえばどうなるか?
現界する鎖にエネルギーは伝わり、自ずと加速をし始め。
最終的にはマッハ10にも到達し、そのソニックブームは何度も重複しながら発生することで周囲一体を破壊する。
脳筋を極めた脳筋、そう例えてもいい力技の超範囲攻撃を成しうる最強武器。
ソレこそが、『万里の長鎖』なのだ。
「他にも『緋紅羅史』に『津禍乃間』、『弓張月』も預けていたぞ? その他にもあろう? 全てが弩級の阿呆の武器だ、まさしく専用武器と言い換えよう。全てが高価で至宝に相応しいがゆえに捨てられんし、だが残すにしては癖が強すぎよう。」
「盟主であるお前たちならば扱える、だろ? 少なくとも、貴様らであれば真価を発揮できる。」
「バカをいえ、龍の呪いが刻まれたものなど誰が触れたがる? それも方や逆鱗、方や竜鱗を圧縮したものだぞ? 誰が触れたかろう、吾とて意味もなく触れたくはない。」
「大した呪いではないのだがな……、精々が魔力を馬鹿喰いするだけで。」
その欠陥も重大なんだがな、と呟きつつプトレマイオスは展開していた魔術を消す。
レオトールの魔力量は相当と言っても過言ではない程度に多い、膨大と言い換えてもいいだろう。
北方、すなわちこの世界でも相当な強者基準であっても魔力量であれば対抗できるほどに多く。
また同時に、彼は魔力回復速度も相当である。
完全な休息を取れた場合、一晩で完全回復する程度には。
流石に総量も、回復速度もプトレマイオスに及ぶことはないがもしも彼が魔術師であれば北方の大半の術師を凌ぐ化け物にもなりえた。
いや、なっているのは確実だったのだ。
「失敬、消し忘れていたのでな。それで? 武器の回収ということであるが、どうする? 案内でもしようぞ?」
「結構、と言いたいところだが頼めるか? 私だけならば殺気だった連中が襲いかかりそうでな。」
「ふむ、助力はせん。内部のゴタゴタに吾が入り込む理由などあるわけなくしてな、分かろう?」
「抑止力としてだけで結構、万全でない私と最低限しかできん一人がいるのだ。抑止力としてでもいてもらえるだけ、有難い。」
酷評、だがそれは真実だ。
少なくとも、それが嘘偽りなどではないとプトレマイオスは確信しそして呆れる。
どこの世界に、敵地へここまで身軽に突撃できるのだろうかと。
そして勝手に納得した、レオトールならば奥の手の10ぐらいは持ち合わせているのだろうと確信を持って。
北方にて最強、その名は伊達ではない。
持ちうる手札の多さは、プトレマイオスにとって心底恐怖を覚えるものでもある。
インベントリに保管されている武具の数々、それだけに飽き足らずポーションやスクロールも保有しているのは確実。
自力で魔術を使えないだけでしか無い以上、周囲一帯を爆発させるようなスクロールに魔力を多量に流し込み大規模破壊を行うことも可能だ。
となれば、自爆覚悟であれば眼前の男は単身で中小規模の都市を破壊できる。
複雑な手段を必要とせずに。
これらは全て推測可能な内容であり、ひどくシンプルな結論でもある。
となればこれ以上に複雑な手札も、これ以上に難解な結論も導き出せるわけで。
「本当に、『伯牙』の連中は恐ろしいことをしたものだ。」
「所詮私は個人だ、できることなど限られている。そこまで、恐れるようなものでもないさ。」
「それは、其が判断するのではない。吾が判断することだ、であろう?」
少し視線をむけ、そしてはぐらかす様に視線を放り投げるとプトレマイオスに手土産と称した酒を渡す。
エルフが作成した薬湯、それを樹蜜酒と混ぜ合わせて作ったカクテルのような酒。
味はそこそこながら、肉体の疲労や怪我を緩和する特徴がある。
それを見て少し目を見張り、そのまま感謝と共にプトレマイオスはカバンに入れた。
「土産だ、エルフの里で購入したのだが生憎私には使い道のないものでな?」
「『白樹酒』か、苦味が癖だが慣れれば中々と聞く。今晩の晩酌にでもしょうぞ?」
「晩酌か、私も相席したいぐらいだ。」
そのような冗談と共に、レオトールはゾンビ一号に声をかけプトレマイオスの魔術で一気に移動すると告げる。
少し警戒しながらも、その話を聞いたゾンビ一号はいつでも動けるように剣に手をかけながらも彼の魔術を受けた。
転移魔術、ではない。
転移魔術とは異なる位相同士をなんらかの手段で繋ぎ上げる魔術であり、空間に作用する魔術でもある。
そのため、要求される魔力量はプトレマイオスとて無視できない。
いや、戦闘などの非常時であれば別だが常日頃から常用できるほど優秀な炉心を彼は持ち合わせていない。
であれば今回彼が用いた魔術とはなんなのか?
それはシンプルで、そして複雑怪奇な繊細さを孕む魔術。
属性は風、行う原理は誘導。
移動対象を風の属性で包み込み、その重量を大きく軽減させ目的地まで誘導するというだけのもの。
ただ欠陥は複数あり、消費魔力以外の面ではやはり転移魔術の方が有用であるのは事実だろう。
魔術界隈では何度も提起される問題だが、消費魔力か結果を取るか。
こういうのはいつの時代でも悩み考え個人個人の回答が出されるものである。
話が脇道にそれた、再度二人の視点に合わせよう。
彼の、プトレマイオスの魔術により数キロはあった道筋を短縮し本陣へと辿り着いたレオトールとゾンビ一号。
そこでゾンビ一号は、驚くべき光景を目の当たりにする。
そこには都市があった、街があった。
小さく、そして簡易的な素材で作られているのにも関わらず『グランド・アルビオン王国』の主要都市にすら劣らない程の街があった。
「久しぶり、でもないな。位置が違うぞ? 新たに作り直したな。」
「誰のせいだと思っている誰のせいだと、偶然中心から外れていたから人的被害は出なかったものの物的被害は洒落にならんぞ。もし吾の魔術があと一刻遅ければ本陣の位置が明確に暴かれるところだった、そうでなくとも数キロは移動させることとなったのだぞ? 其は自分の能力を考えてくれ。」
その呆れたようなため息、その声にレオトールは軽く謝罪しながら決まりが悪そうに視線を動かす。
流石に、周囲一体を破壊したことには罪悪感があったらしい。
そういうわけで彼らはとうとう、征服王の膝下に侵入下のだった。
なお、本編開始前の時系列を少しまとめると
レオトールが毒を盛られた時水晶大陸を用いて周囲一帯を破壊しながら移動し最終的に黒狼の洞窟に逃げ込みました。
そんな時にデメリットが発生し、蜘蛛に追われて死亡しかけたタイミングで黒狼と遭遇。
運良く生き残った感じです。
ついでに通過した地域や場所の殆どは破壊され尽くされています、舐めんなよオールステータス2万超え
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




