Deviance World Online ストーリー4『誇りの重み』
「香るなァ? 久しぶりだ、『白の盟主』」
「こちらこそ、久方ぶりだな。ブライダー、随分と元気じゃないか?」
「ああ、そうなるなァ? 久しぶりの再会ついでに剣を交えたいところだったが……。スゥゥ……、その体じゃぁ無理そうだ。」
「察されたか、まぁ見ての通りだ。ステータスが未だ半分程度しか回復していない、ソレにここからの回復も時間がかかるだろう。戦えるとしても、この戦争が終わってからだろうな?」
その返答に白髪で細身の男は残念そうに天を仰ぐ。
酷く大柄な彼は、そのまま天を仰ぎつつ口から霧を吐いた。
ソレを嫌そうに見つつ、レオトールは深く沈み込んでいた椅子から立ち上がる。
「しかし、大きいな相変わらず。2.5メートルほどはあるんじゃないか?」
「知らんなァ? 成長はもう止まってると思いたいところだ。これ以上大きくなると、また衣服を作り直さなければならねェ。シュゥ………、ハァァ……。」
「煙臭い、内臓の魔法陣をこれ以上動かすな。気温が高まっているぞ? ソレに私の皮膚もふやけてきた。さらにいえば周囲の風景も碌に見えんほど濃い、昂っているのはわかるが程々にしてくれ。」
「ハァァッハァッハッハッ!! 悪いねぇ? だが、これもソレも『煙都』が悪い。ガキに水蒸気を発生させる魔法陣を刻んだ板を仕込むなんざァ? ナァ?」
ククク、そう笑いを堪えてレオトールに告げそのままに近くの斧を触る。
瞬間、霧が一瞬で霧が晴れ二人の男の姿がそこにはあった。
片方はわずもがなレオトール、ではもう片方は?
身長はおよそ2メートル半、その大柄な体にはボロ布のような衣装が飾られ恐ろしく狂気を感じさせる金属質な雰囲気がある。
血管はドクドクと脈動し、顔色は白に近い青だ。
そして、目隠しをしていた。
「体内に刻んだ術式の酷使により、盲目となっている人間などこの世に2人といないだろうよ。愚か極まりなく、馬鹿の所業だ。」
「ハァッハッ……!! 正しく、だろうナァ? だが合理的だ、そうだろゥ? 『伯牙』、レオトォール。属性魔力の生成が不可能だからとォ、何処の世界に物理技術を極める馬鹿がある?」
「それを言われると私も耳が痛い、確かに私も馬鹿の類ではあるな。」
そう言い合いながら、大男は。
『灰の盟主』である彼は、彼のメイン武器である斧を軽く一振りした。
彼を例えるとするのならば、『鯖仕掛けの霧吐』。
口から吐き続ける霧は、彼が持つ絡繰仕掛けの斧は全てが超高温の霧そのもの。
肉体に多大な影響を患ったのを代償として、人間としての生き方が出来ないほどにその生き方を歪められて完成した生きる環境そのもの。
レオトールがあらゆる環境にも対応する、物理の最強と比喩するのならば彼は環境を作成し行ける生物を規定する環境を生む最強。
「しかし、久方振りに会えてよかった。もう二度と会えぬと覚悟していた部分すらある、流石に盟主とは顔を合わせておきたいところだったのでな? 特に貴様とは特別懇意にしていた部分もある。」
「アぁ、そういや追い出されたという話らしいナァ? スゥゥ、ハァ……。ヒュドラの猛毒を体内にィ、取り込んだだと? 全く人間ならば死んでおけ。キシシシシ……シシシ……。」
「人ならざる力を使ったんだ、それに誇りなき死ほど意味のないものは無い。私は出来れば、戦いの中で死にたいのだよ。」
「典型例ここに極まれりということかァ、イイナぁ? その覚悟は、誇りは正しく『伯牙』らしいィ……。」
少し間延びしたような、口から霧を吐く関係で濁ったような。
そんななんとも言えない声を出しながらも、ブライダーはそのようにレオトールを褒める。
誇り高き牙に、相応しいと。
「だがァ、分かっているとは思うが。忘れるなよォ、お前の誇りは歪であり……。無意味だということを、ナ?」
「答えは既に得ている、結末に変わりはない。ただ選択の余地はある、どの道を通り私は死ぬか。」
「……、いい友に出逢ったらしい。ドォりで雰囲気が、柔なワケだァ。」
笑うとも少し違う顔で、驚きは微塵もなく。
だが、その男は祝福する。
レオトールの生き様を、死に様を。
どのような道を辿るにしても、結論は出ていると告げたその傭兵を。
「では、な。二度と会う事は無いだろう、『灰の盟主』よ。」
「王に会いに行くのだろうゥ? 共には行かないのかァ?」
「無理だ、時間が足りん。貴様と共に歩みたいのは山々だが、そうも出来ん理由がある。」
「そうかァ、ならば征くといい。貴様の旅路は、霧の原霊に祝福されているだろう。」
男は、ブライダーは斧から手を放し再度周囲を霧に包ませる。
レオトールは背中を向けながら、ゆっくりと霧の環境から退いた。
*ーーー*
霧の中を突き抜け、森林の中に戻ってきたレオトールは足踏みをしているゾンビ一号を見た。
少し焦ったそうに、レオトールの姿を探す彼女。
ソレが少し可笑しく、笑ってしまう。
「戻ってきたぞ、ゾンビ一号。」
「ッ!! レオトール!!」
「そう引っ付くな、邪魔だろう。」
「ですが!! 一人で、しかも仮に敵でないのに会いに行くなどと言う無茶を言うからですよ!? これほど大規模に環境を発生させている相手、人間としても規格外に他ならない!! 無茶もほどほどにしてください!!」
ゾンビ一号の訴えに、軽く謝りつつ魔力を体外に一気に放出する。
先ほどまでレオトールは霧の中におり、その影響もあってか体には水滴が付いていた。
だがこの魔力放出で、その水滴も吹き飛んだ。
十分に水分が払われたことを確認したレオトールは、そのまま剣で空に斬りかかり体の動きを確かめる。
そして、ソレらも十分であると確信したらレオトールは剣を納刀した。
「友人に会いに行くと言っただろう? そこまで心配することなどないさ。」
そうゾンビ一号に再度告げた。
呆れて物も言えない様子のゾンビ一号、当たり前の話だ。
環境を作成する存在? 敵でなくとも厄介極まりない存在、レオトールの不用心さがおかしくゾンビ一号の反応が正しい。
環境を作成している、少なくともその一点でレイドボスと同等以上の戦力を保有していることに他ならないのだから。
少し勘違いしている人も多いだろうが、レイドボスとはレオトールが言った通り人類。
正確には霊長を名乗れるほどに、世界で最も繁栄し栄華を誇っている同系統の種族を霊長から追いやれるほどの能力を持つ存在か群隊を指す。
例えばエキドナ、あれが生産する数多い魔物の群体を含めてレイドボス級となり得る。
例えばヒュドラ、周囲の環境を猛毒に塗り替え死の呪いを振りまくことで霊長に属する生命体を追畜できる。
例えばヘラクレス、人類種であり霊長に属する種族であるのにも関わらずあまりの強さ故にその存在そのものがレイドボスとして降臨した神々の栄光。
そして例えば、黒騎士。
詳細は不明ながらも、未だ弱いとはいえプレイヤーの殆どが対応すらできない速度で首切りを達成する規格外の一つ。
人類を完全に駆逐することは彼らでも不可能な話だ、だがソレは人類を霊長の座から引き摺り落とすのを不可能とする話ではない。
プレイヤー、何度も復活する異邦人だからこそヒュドラというレイドボスに。
エキドナという、無制限に魔物を生産する化け物に。
ソレらの化け物に敵うことができた、逆を言うと復活できなければレイドボスに勝てるはずがない。
命をかけた特攻? 巫山戯た話だ。
命をかけるというのは、即ち死を意味する。
当たり前の話だ、この世界の人間にとって命とは何かと交換できるほど軽い物ではない。
プレイヤーから見れば決してレイドボスと言う存在は倒し得ない存在になりかねなくとも、根源的恐怖を呼び起こすほどの存在ではないが……。
だが、この世界においてレイドボスと言う存在。
そしてソレに張り合える、そう言う類の存在はまさしく死ぬほど警戒しても警戒したりない存在なのだ。
「環境を作成する存在を友人などと何故言えるのです!? 環境を作成すると言うことはレイドボスと同格なのですよ!? 何故そんな相手を前にして友人などと言えるのですか!!」
「全く、女の激情とは……。ハァ、落ち着け。そもそもここは奴の配下がまだまだいる、少々巫山戯が過ぎるぞ? もしくは、その命を投げ出すほどに自殺願望でもあるのか?」
「……あ。」
ようやく感情的になっていたことを理解したのか、顔を器用に赤らめそのまま黙り込む。
実際周囲からは攻めるような視線が飛んでおり、相当に怒りを買っていることも窺えた。
もしもレオトールが盟主でなければ、今すぐここで殺されても文句は言えない。
「すまない、彼女が心配性なのでな? ソレに、彼を警戒するのは当たり前の話だろう? 貴様らの盟主がソレほどまでに買われていると思っておけ。」
「ーーーーー、貴様ッ!! よくも『灰の盟主』を侮辱してッ!!」
「やめろ!! 彼は『白の盟主』だぞ!! 離脱しかけていても、たとえ弱体化していても盟主の強さは知っているだろう!!!!」
「離せ!! けど、お前たちだって……!!」
押さえつけられる一人の女性、怒りゆえに牙を向け一人の女はその牙を他ならぬ味方によって押さえつけられた。
盟主、その肩書きが与えられる程に強い存在はそこまで多くはない。
先に彼が語った通りに、たった十二人にのみ与えられる『征服王』率いる『王の軍』に参列する十二人の傭兵団の頭。
もちろん、雑多な傭兵団は他にも数多く存在する。
数多く存在するのだが、その傭兵団をまとめ上げるのを行うのもまた盟主の役割だ。
ソレほどまでの権限と裁量を与えられた、最強の十二人。
盟主と言う存在は、そう言う存在なのだ。
だからこそ、有象無象では軽く死ねる。
「けど分かってくれ!! 彼は我らが『灰の盟主』と競り合い上を征く御方なんだ!! たとえどれほど弱っていても、『伯牙』の面々以外では対抗の仕様がない!! あの最強の傭兵団でなければ、彼に殺されてしまう!!」
「知るか!! あそこまであの御方を侮辱されて後に引けるとでも!?」
だがソレでも、彼女にとってソレは許せない話だった。
傭兵とは即ち、誇りと信用の権化。
誇りがなければ、ソレはただの野党と同じくただの殺戮を行う犯罪者に過ぎない。
それぞれが持ち、それぞれが掲げる誇りがあるからこそ彼らは北方の地で信用され信頼され最も輝くべき戦士となる。
誇りと信用に命をかけているからこそ、彼らは誇り高く死ねる。
そんな誇りを傷つけるような発言を、傭兵たちは許すだろうか?
許す筈がない、許せるはずが無い。
だが、彼が『白の盟主』である以上許さなければならない。
だが彼が、『王の軍』に属する以上許さなければならない。
彼に刃を向けると言うことは、軍隊という大きな機械仕掛けの1歯車でしかない存在が主要機構を破壊しようとsしていることに過ぎず。
ソレは信用を大きく奪うということに他ならないのだから。
「離してやれ、この場での戦いは不問だ。」
「はぁッ!? ど、どういうことですか!? ソレは、それは!!!!!」
「不問、とは違うな。この程度の煽りで激昂し、秩序を乱すのならばここで死ね。一体いつまで、貴様らは傭兵気分なのだ? 脱するとはいえ、今はまだ中立でもなく味方に属する上官だ。ソレに対して殺意を向けるのはまだいいだろう、だが実際に行動に移すなど愚の骨頂。愚かの極みだ、ソレがどれほどの不利益となることをわかっていないのか? 我々盟主は、個人個人が要人であり兵器でもある。どちらの意味でも戦略級の存在だ、そんな相手に牙を向くなどどれだけ微温湯に使っているつもりだ。身直に盟主がいるからと、貴様らは気を抜きすぎだ。そういうわけで、ちょうどいい機会だ。ここらで間引きをしてやろう? 相手が『伯牙』である私ならば誇れある死でもあるし、同時に危機感の再認識もできるだろう?」
その煽り文句は、聞き捨てならないとばかりに何人もの人間が武器を向けた。
レオトールの煽り、本来的に近い傭兵としての彼の姿。
ソレはどこまでも冷酷で、残酷で、恐怖そのものでもある。
殺戮を好む異常者ではないが、同時に人としての道を踏み外した化け物。
必要だと判断すればおよそ人が弾き出すような回答でない内容も平然と、彼は執行するだろう。
それが、傭兵としてのレオトールのあり方である以上。
剣が抜かれた、斧が構えられた。
即座に暗器が投擲され、一瞬にして10の魔術が二人を囲む。
妥当な怒り、真っ当な行動。
愚直故に、許せなかったその攻撃は。
「させません!!」
ゾンビ一号の剣技にてその殆どを弾かれ、僅かにも届いた攻撃は全て避けられた。
過去に銀剣と呼称された騎士、それを受け継いだゾンビ一号の剣技はこの短期間にて急速に成長している。
元々の土台であるゾンビ一号が完全にまっさらな存在であったのも大きいが、そこに彼女の経験が流れ込み乗算のように彼女は成長しているのだ。
ソレに彼女は技術体系が違うとはいえ、史上最強と呼ばれているレオトールの剣技も見ている。
決して善戦できる話ではないが、ソレでもこうして対抗することはできているのだ。
「さて、敵は十人足らずか。碌に人と会わぬ癖に、随分とカリスマ性はあるではないか。」
「ふざけている場合ですか!?」
「ハハハ、安心しろ。戦いで私は侮ることはあれど、手は抜かん。」
次の瞬間、一本の雷槍が一直線に突き進む。
その速さに反応できた人物は、彼らの中にはいなかった。
そのまま槍が腹部に突き刺さり、だが自前の鎧でソレを耐え切った男は放たれた槍に魔力を流して投げ返す。
雷速、レールガンの原理に近しい超超速の一撃。
普通の人間ならば認識する暇もなく、貫かれたであろう攻撃。
だが、その一撃を首を傾け回避し剣を持たない右手で掴んだレオトールはゆっくりと冷徹にシンプルに告げた。
「死にたくなければ殺せ、こうして攻撃を加えた時点で貴様らは。」
言葉が一瞬わかれる、剣と共に地面が抉れる。
土煙と土石が天に向かって登り、血の理によって落ちてきた。
その中で、一人の傭兵の言葉がやに響く。
「私が殺すべき敵となった。」
その瞬間、全方向に極剣が振り抜かれる。
ふぅ……。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




