表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/372

Deviance World Online ストーリー4『盟主』

 袖に腕を通す。

 外套を着こんだレオトールは、目を細めつつ未だ寝ているゾンビ一号を見る。

 太陽はまだ沈んでいる、夜明けにはいささか早い。

 だが、外に出なければならない。


「起きろ、ゾンビ一号。……、起きんか。仕方ない、手荒になるが……。『威圧』」

「ッ!!!!!!!!!??!!!!? ハッ!??」

「起きたか、準備を整えろ。」

「起こし方!? 起こし方もう少しどうにかなりません!!?」


 あまりに驚異的な威圧感、それを感じて飛び起きたゾンビ一号は安全を確認して一息を吐き文句を叫ぶ。

 ただ人を起こすにしては過剰な行為だ、それはレオトールも自覚している。

 ではなぜ此のスキルを使ったかというと……。


「どうにもならんさ、これ以上最良の起こし方はあるまい。肉体的欠損を与えず、意識もはっきりと明瞭になる。」

「そうですがそうではないでしょう!? 弱者なら平然と気絶、下手をすれば死ぬほどの威圧を与えておいて!!?」

「死なないと分かっているがゆえにこの程度を与えているのだ、勘違いするな。」


 そう言い、そのままレオトールは装備を確認する。

 水晶剣にスカーレット・サンドワームの外套、そしてゾンビ一号も初めて見る弓を背中に付けつつ腰のベルトをキツく締めた。

 ベルトには幾つかのポーチがあり、ソコには複数の薬とポーションに魔石。

 どれか一つを取ってしても、全てが一級品であり油断など無い様子が伺える。


「その装備……、なんで難行でしてなかったのですか?」

「普通に考えろ、あそこの敵は厄介でこそあれそれだけでしか無い。最後のヘラクレス以外は警戒に値こそすれ、ここまで重厚な装備にする必要はなかった。」

「いえ、ソレでも万全の装備をしておくべきです。」

「たわけ、環境によって戦闘と言うものは変化する。そして迷宮は凡ゆる環境を内包するものだ、となればあらゆる状況に対応できるように迷宮内では軽装にしておくべきなのが定石と言うものだ。」


 レオトールの言葉に、頷きつつなるほどと感心する。

 そして、迷宮外であり環境によって左右されないこの状況ならばと重装備の意味も理解した。


「面白い話だが、どんなに強くなろうと我々人類は。この世界で最も繁栄している最弱の種族は環境に規定される、それはエルフであろうと獣人であろうとアンデッドであろうと人間であろうと関係ない。むしろ、何にも寄与しない人間こそがこの世界における最弱と言い換えても良いかもしれない。」

「環境とは、ソレほどまでのものなのですか……?」

「ああ、私でも未知の環境や過酷な環境に挑む時には相応の覚悟をする。レイドボスを単独で討伐可能な私であろうとも、だ。単独で環境を作成し得る化け物となればさらに警戒度は増す、それが環境という姿形なき敵なのだ。」


 その言葉を聞き、ゾンビ一号はスクァードの記憶を見る。

 記憶にある敵の数々、同時にソレらを倒すために用いた手段の全ては確かに生息地域から引き剥がすことが始まっていた。

 環境、姿なき化け物。

 ソレがいかほどに恐ろしいのか、再認識する。


「だからこそ、レイドボスというのは恐ろしい。レイドボスは環境に寄与されず、ソレどころか単独で環境を作成しうる存在が多数だ。そもそも、レイドボスという存在は何を以ってして認定されるかわかるか? ゾンビ一号。」

「そうですね、話的には環境の作成ですか? 単独で環境を作成言えるからこそレイドボスとなる。」

「ではレイドボス級はどうなる? レイドボス級も、レイドボスと大差ないぞ?」

「ソレは……、わかりません。」


 そうだろうな、と相槌を打ちゾンビ一号の準備が終わったことを確認。

 扉に手をかけ、外に出るように促す。

 大人しくソレに従うゾンビ一号、宿屋を出れば早朝だというのにも関わらず複数人のエルフの姿が見てとれた。


「レイドボス、ソレは人類を駆逐出来る存在だ。その戦力は単独で小国家にも値するだろう、言葉通りの規格外と言い換えても良い。」

「まさか!? そんなこと、あり得ません!! レイドボスがそれほどに強いのならば人類で太刀打ちできる筈などない!!」

「ああ、普通ならば出来ない。人類を滅ぼしうる究極たる生命体に、人類はなす術なく敗北するのが定石だ。だが、何事にも例外はあるように。そして弱者が強者を殺す事があるように、我々は対抗手段を得た。それは何か? ステータス? 魔術? 良いや違う。魔力という、エネルギーだ。」

「魔力が……?」


 ゾンビ一号の疑問、それに彼は私の意見だがと付け加えつつ森の結界を望む。

 高度にして、最上位の結界。

 北方の技術力をしても再現できない、環境を作り上げる結界。


「この世界には魔力が溢れ満ちている、それは人類だけが利用しているものではなく魔物や先に述べたレイドボスに分類される生命体も利用し生きている。その魔力なくして、我々はレイドボスに対抗できない。」

「ですが、魔力があるからこそレイドボスはレイドボスとしての力を持つのではないのですか?」

「いや、違う。そもそもゾンビ一号、お前は魔力の致命的な弱点を知っているか?」

「弱点……、エネルギーに弱点など……。ハッ!? まさか!!」


 属性!! そう叫んだゾンビ一号にレオトールは正解と告げた。

 魔力とは万能のエネルギー、火・水・土・風,光・闇・無・空間・不明・不明のいずれかに性質を変化させ作用属性によって特定の形状や影響を発生させる万能な何か。

 それらは単一生物が環境を作成し生態系を成立または崩壊させることが可能にさせた。

 文明などが不要となるほどに。


「属性には致命的な弱点がある、分かりやすく言えば相剋関係と言うものだ。そして、その相剋関係があるからこそ特化すればするほど弱点も明確に露呈する。」

「だから、倒せる……。」

「ああ、だが何事にも例外はある様に相剋を超越している存在もいる。例えばヘラクレス、我々が挑んだあの化け物は正しくその最たる例だ。恐らくは記憶を失い、本来は保有していた得手物の殆どを奪われ準備など無くして我々と戦いそして私に奥の手まで切らせた化け物。」

「確かに、あの威圧感は苛烈と言う他ありません。」


 ゾンビ一号の相槌、それにレオトールも同意見だと返す。

 神々の栄光、または神々への復讐者。

 その強さは純粋に突き詰められた強さであり、肉体が覚えこんでいた経験のみの強さ。

 レオトールは理解している、あのヘラクレスは決して万全でも全力でも。

 ましてや、戦える状況ですらなかったと言う事を。


(二度目を夢想するなど、初めてだ。もし、あの戦士が万全で私も万全ならばどの様な戦いになっていただろうか?)


 ふと、考えてしまう。

 あのヘラクレスが、全ての武器を最初から持ち全力を尽くして殺そうと迫ってきたら。

 直ぐには死なない、そんな結論が先ず出た。

 一撃で腕か足の一、二本は千切れるだろうが、即死はしない。

 であれば次の手で水晶大陸を展開できる。

 水晶大陸を展開し、全てのステータスが10倍された状況となれば。

 どれほど迫れるだろうか?


「いや、無駄だな。どちらにせよ、敗北は確実だ。アレが万全ならば私の剣技の上を行き私の技能の悉くを防ぐだろう。」

「どうしました?」

「何でもない、続きに戻ろうか。」


 少し言葉を濁しながらそう続ける、事細かに話すのならば時間がかかり過ぎると判断して。

 これは強者だから理解できる感覚だ、何度も死線を乗り超え潜り抜けたからこそえた知見だ。


「属性が重要なのは理解したな? コレ一つをどう利用するかで、我々と言う最弱の種族は最強にすら対抗できる切り札となる。」

「なるほど……、アレ? けど、そんな話は聞いたことがないですよ?」

「当たり前だろう、この内容自体は私の経験と『賢者の叡智』の魔術知識から導き出した一つの結論だ。おそらくこの世界で最も先進的かつ馬鹿らしい推論だぞ? まぁ、凡そ間違っているとは思えんが。」

「『賢者の叡智』……? 誰でしょうか?」


 その言葉に少し驚き、そして一先ずの理解を得て少し悩んだ様に眉を顰める。

 その後にレオトールは、困った様にため息を吐き呆れた様に額に手を当て森の中で立ち止まった。


「全く、『王の友』の秘密主義には呆れる。過保護とも言い換えても良いな、ここまで盤面の情報統制を敷いているとは流石の戦略眼と称しておくべきか? いや、敢えて情報を与えるのもまた情報戦というもの。となれば、奴が集めた傭兵団が一際優秀だっただけと考えるべきだな。コレばかりは……、全く呆れた話だ。」

「……? その様子ですと、征服王側の話の様ですが……。その、『賢者の叡智』という方は。」

「『賢者の叡智』、またの名を『青の盟主(ブル)』。プトレマイオス、北方で彼ほど多くの知識を有した存在はいない。傭兵団『賢者の叡智』を率いる魔術の支配者と言い換えても良いだろうな。」

「やはり強いのですか? いえ、弱いはずが無いですね。」


 なら言葉は要らないな、そう言いたげに目を開き再度歩き始める。

 もうエルフの里は見えなくなっていた、わずか十分程度であるがスタミナの概念を持たないゾンビ一号と規格外のステータスを保有するレオトールにとってはこの距離を短時間で駆け抜けるなど造作もない話だ。

 時偶にポーションを飲むため立ち止まりつつ、レオトールは言葉を続ける。


「魔術戦においてヤツの右に出るものはいない、編み込まれた陣の中であれば私も敗北するだろう。」

「それほど……、驚くべき話ですね……。」

「驚くべき? まさか、この程度で驚愕されるとはな。はっきり言っておくが、私は征服王軍の。そして盟主に準えられる中では確かに強い方だが『水晶大陸』を用いなければゴブリンの背比べに過ぎん。」

「はぁ!? それは……!? 本当に!?」


 流石に、これはゾンビ一号も大声をあげて驚いた。

 ゾンビ一号が持つスクァートの知識でも、レオトールという人物はグランド・アルビオンに生きる全ての戦士より遥かに強いと言っても過言ではない。

 単独で様々なクランを倒したと言う話は、それはそれはスクァートの立場にまで響くほどだった。

 なのに、なのにだ。

 なのに、その人物と同等の人間が複数名いると言われた。

 驚く他にない、驚くことしか出来ないのだ。


「我々盟主は12人、私は名前の通り白の盟主だな。他に赤、青、緑、黄、紫、橙、灰、茶、桃、透、鉛がある。」

「多い……、ですね。」

「北方で睨み合っていた其々の勢力を纏め上げたのだ、数にして3000の兵団。生半可な戦力では崩すことすら不可能だろう、それに盟主と数えられている十二人はその傭兵団(クラン)で最強と言うわけでもない。あくまで、傭兵団を纏めている人物にすぎない訳だ。故に、呆れるほどに征服王の軍勢は強いぞ?」


 ゾンビ一号は、言葉を返さずにいた。

 スクァートの記憶に無い情報の数々、それら全てがグランド・アルビオン王国の敗北を示唆している。

 いや、ただの敗北という意味ならまだ良い。

 下手をすれば、征服王の思惑次第では国家が消えかねない。

 グランド・アルビオンという国家が。


「……貴方はどちら側に立つつもりですか? レオトール。」

「それも含めて、邂逅してから決めるとも。とは言え、奴らと共に戦線を歩く事は無いだろうな。」

「そうですか……、それは……。何と言うか、あの……。」

「お前がどの様に思っているのかは知らないが、期待はするな。碌にレイドボスとの戦いの経験もない、準古代兵器の担い手もいない。そんな国家が北方最強の軍勢と戦えると思うな、木っ端の様に消し飛ばされるのがオチだ。」

「……はい。」


 スクァートの記憶があった、だからこそグランド・アルビオンに滅んでほしくないという思いがあった。

 だが、レオトールの言葉はそんな思いを軽く否定してくる。

 まるで、だ。

 自分の感情ではないが、それでもまるで心を抉られている様な気がした。

 淡々と、事実のみがそこにあるのが分かるからこそ期待も希望もできなかった。


「言っておくが、私はあくまで私だ。余分な期待は捨てておけ、特に征服王の軍勢と戦うと言うな? それをさせたいのであれば道理を用意しろ、目的を明確にしておけ。それとも、只の一感情で私の生き死にを左右するつもりか?」

「いえ!! そんな……、まさか!!」

「そうか、ならば良い。とは言え、だ。再度言っておくが、私は私だ。金を払えば雇われもしよう、命もかけよう。だが、ただの願いでは動かん。対価がなければ、相応しい対価がなければ私は何処までも中立で中庸だ。私に言うことを聞かせたければ黒狼でも呼んでくるといい、アイツならば私も多少の話は聞こう。」

「何故、黒狼ならば?」


 命を助けられた恩がある、と。

 その様に返して、彼は走り始めた。

 ゾンビ一号も慌てて着いていく。


 レオトールの言葉、『何処までも中立で中庸』と言う言葉。

 走りながらその言葉を反芻し、そして彼の人なりをゾンビ一号は再認識する。

 おそらくは、ただ周りの話す内容からしても。

 昔はもっと刺々しい物言いをしていたのだろう、おそらく他者を突き放す様なそんな物言い。


 だが、いまは違う。

 その物言いは黒狼と言う存在と出会い、改善されたとゾンビ一号は考える。

 何処まで行っても混沌で確固たる自分を持つ彼と出会い、何処までも理解できない存在と出会いその在り方が変わったのだろう。


 何処まで行っても鉄面皮で、中立的に中庸的に。

 王道だろうが邪道だろうが、対価さえあれば進むと言うその在り方。

 その在り方は、王道でも邪道でも関係なく自分がしたいからと言う何処までも独善的な考え方を持つ黒狼によって変えられた。

 笑い話だ、だからこそある意味ではこれ以上なく素晴らしい。

 どちらにせよ、レオトールが黒狼が。

 グランドアルビオンに与しても、しなくてもゾンビ一号のスタンスは変更しない。

 彼女は、正義だろうが悪だろうが黒狼の味方であり仲間であり剣であり道具だ。


「どうした? 随分と、良い顔をしてるじゃないか。目的でも定まったか? それとも自分探しをしていたか?」

「そう言うのではないですよ、ただなんとなく貴方たちの関係性に理解が及んだだけです。貴方たちは良くも悪くも自分があり自分がないんですね。」

「これはまた……、ひどい皮肉だ。全く手厳しい話だな? 全く。」


 思い当たる節があったのか、そのように呟き目を先に向ける。

 目線の先、森と森の狭間。

 少しひら空いた平野では、複数人の人間がワイバーンと闘っている様子が見えた。

 目線を向けられ、即座に首を横に振るゾンビ一号。

 そうか、と呟きレオトールは少し笑い目を細め。


「さて、助力するとするかな? ゾンビ一号、おそらくあれらも傭兵であろうしな。」

「分かりました、レオトール。……、貴方は戦うのですか?」

「いや、最初の一撃だけに止めよう。ソレに、聖別で何かを得たのだろう? その結果も、見させてもらおうか。」


 その言葉と共に、ゾンビ一号は地面を踏み込み。

 レオトールはインベントリを開いた。

征服王の情報だったりが出てきましたねぇ。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ