Deviance World Online ストーリー4『旅路』
店を出てしばらくして……。
ゾンビ一号は、相場より高く買い取った装備を着つつ何故多く金額を支払ったのか気になった。
オマケして貰えるのならば、ソレで良いはずだ。
なのに、何故相場より高い値段で買い取ったのか?
その疑問はゾンビ一号を苛み、なので聞くこととした。
「質問なのですが、何故この装備を高く買い取ったのですか?」
「ん? ああ、そういうことか。別段、変な話でもない。そもそもお前は私の知名度を知っているのか?」
「知名度……、ですか? ある程度有名なのは知っているのですが、実際どれほどなのかは。」
「だろうな、という訳で其処ら辺の説明もしようか。一先ずの話だが、私自身の知名度は相当なモノだ。私が言うのもなんだが、その知名度は『征服王』の配下であれば知らぬものはいない。私、およびその配下であった傭兵団『伯牙』はソレほどの集団だったのだ。」
遠い目をしつつ、そう語り出すレオトール。
遥か昔のようで、ついさっきの様なそれほど遠くない過去。
「『伯牙』、それは我ら一族が所属し運営する傭兵団の名前にしてその頭領たりうる存在の名だ。本来であれば追放された以上、私が名乗ることが出来ない名前だが……。まぁ、何故か領主としての称号と共に『伯牙』の称号も残っているため未だ名乗っている感じだな。」
「……、強いんですか? その集団は。」
「強い、強いとも。単騎では私に及ばないだろう、だが群れた動物は。特に人間という最弱ながらに最強を謳う種族ならば、時に最強に届きうる弱者の刃となる。我ら『伯牙』も個人ではスカーレットに敵わぬまでも、全員が揃った時は僅か100ばかりの犠牲で竜帝を倒した。」
「竜、帝……?」
詳しくは言わぬ、そう言いながら彼は言葉を紡ぐ。
過去を思い返すように、涙を堪えているかのように。
もしくは、氷の中に閉ざされた激情を抑えるかのように。
「そんな北方においても最強格であった我らだからこそ、そんな我ら『伯牙』だったからこそ『白の盟主』の座を『征服王』より与えられた。我々は、正しく最強だった。特化すれば勿論、我らを抜くものなど幾らでも居る。速さで、力で、技巧で、魔術で、多種多様な多彩の能力をもつ盟主どもは目を見張る能力を持っていた。『水晶大陸』無しでは五分五分の勝負しかできない存在も居ただろう、それ程に奴らは一騎当千万夫不当の猛者であり古兵だった。肩を並べ、抜け駆けた戦場その全てが良き思い出だった。だが、同時に我ら『伯牙』に総合能力で勝るものはいない。そんな確信があり、そう言われ、その中でも特に抜きん出た私は真に最強と言われたものだ。だからこそ、相対する国家や部族にとっては『征服王』の軍団が。そしてその中でも、私という『伯牙』は絶対的な恐怖として刻まれた。」
ゾンビ一号は、記憶を辿る。
目の前の傭兵の言葉の真偽を確かめる為に、その言葉が自慢としか思えないほどの壮大な話だったからこそ。
だが、どれほど記憶を探っても答えは是でしか無い。
当たり前だ、グランド・アルビオン王国の重鎮だったスクァートは彼に敗北した。
100や200では済まない、下手をすれば1000にも届きうる人的被害のその全てが彼によって引き起こされた事実が脳内にあるのだ。
何故、否定できる? 目の前の男は、目の前の傭兵がさながら死神である事をどうして否定できる?
ようやく、遅まきながらに漸く理解した。
「貴方は、化け物なのですね。」
「ああ、そうだとも。私は、おそらく黒狼以外の人間にとっては化け物としか形容できないだろう。」
追放された理由がわかる、分かった気がする。
確かに、怖い。
言葉にできない恐怖だ、如何にも良き隣人などという顔をしながら規格外の力を振るうその存在は余りにも怖い。
そして、ある程度共に旅をしてきたからこそわかる。
この男は、敵対すれば情け容赦なくその首を切り落とす。
確信だった、この傭兵の本質は何処までも何処までも冷え切った心を持つ一匹狼なのだと理解した。
そんな人間は、そんな人間を化け物以外にどう例えば良いのだろうか?
「……、何故そんな質問をした? まぁ、良いか。という訳だ、私はそこそこ有名なのだよ。」
「けど、多く金額を支払った理由にはなりませんよね? それは。」
「なり得るさ、人間は利権で生きる生き物だ。だからこそ下心を持って他人に接する、私はそういうのが苦手でね? 一度結んだ縁は、その場で清算するのが流儀なのだよ。」
「それだったらどうして? 何故、黒狼に味方するのです?」
その言葉に少し押し黙り、そして無表情のまま少し悩んだ後。
彼は、更に言葉を続ける。
「一つは、命を救われた。毒に侵され、水晶大陸を用い命からがら逃げ出した先に居たアサシン・スパイダー。死に体だったからこそ、私はアレから逃げ切るのはほぼ不可能だった。だが、そこで……。ああ、だがそこで何を思ったのか私は声を上げ助けを求めそして助けられた。だからこそ、命の恩を支払うつもりで最初は居た。」
黒狼の話、二人の出会いの話。
何度か聞いていた、内容も書いた通りだ。
だが、レオトールの視点でのその話は初めてであり聞き入るように耳をそばだてる。
「最初の印象は可笑しなスケルトンだった、異邦人としては普通なのかも知れないが何度も自滅し復活し自滅する。その様は、まるで意味のない行動を重ねる愚か者だった。多分、アレは彼にとっては意味のある行動なのだろう。ただ私には理解できない馬鹿げた行動、はっきり言って見下していた。」
言葉を区切り、ポーションを飲む。
水晶大陸の影響が抜けきっていない、しかもあの地下とは違い今回は活発に活動しているというのもあるのだろう。
少し、顔を青くしながら彼は続きを話す。
「だが、その見方が少し変わったのはダンジョンに送られた時だった。アレは、私の強さを理解しながら安易に頼らず。弱者であるはずなのに、弱いはずなのに自らの力でダンジョンを攻略しようと足掻いた。だからこそ、私は彼に力を貸したのだ。ダンジョンを攻略するまでの条件付きで、あの迷宮を抜ける間だけの契約のつもりで私は協力し育てようとした。」
そうなのか、と。
口にしかけ、だが止める。
彼の目は今を見ていない、過去を見ていたから。
黒狼と共に迷宮を抜けんと足掻いたその日常を見ていたからこそ、ゾンビ一号は押し黙った。
「そうしてしばらくが経ち、お前が生まれる少し前。私は彼に追放された理由を聞き、そして復讐を望むかと解いた。あの時、私は初めて人間らしく怒ったと思う。声を荒げ、怒りのままに私の仲間を侮辱した彼に感情を向け。だが同時に、葛藤が生まれたのも事実だった。彼は私にこう解いた、本当に仲間ならば闇討ちの真似などせず正面から追放すれば良いと。これ以上ない、正論だった。正しく状況を判断できていなかった私にとって、その言葉はこれ以上のない正論だった。恐ろしいほど、心に突き刺さった。もうまともに思考できないほどに、自分で判断が困難なほどに私の心に突き刺さった。だから、彼にこの思考の是非は正しかったのかを聞いた。」
なんとなく、彼が言いそうな言葉がわかる。
何となくだが、彼はそれに対して知るかと言いそうな気がした。
アレは何処までも無頓着で無責任なところがある、もしくは自分のしたい事に盲目的というべきだろうか?
「答えは分かるだろう? アレは知るか、と。アレは無責任に突き放した、私の心を曝け出したのにだぞ!? 乾いた笑いが出そうだった、アレほどに無責任な存在など早々居るまい!! アレほど無責任に生きれればどれほど幸せだろうか? 私は決してあんな無責任にはならんだろう、だが同時に馬鹿馬鹿しいという思いはなかったのだ。何故か分かるか? いや、分かられても困るな。分かるのであれば、私はここまで悩む事はない。」
「そうですか、そうなのですか?」
「そうだとも、ゾンビ一号。だからアレは私の最後を預言した、私はそれを聞き悩みを捨てた。その結果は見え透いている、私も彼も同じ思いを共有した事だろう。」
その上で、と。
彼は言葉を続ける。
その上で、自分の人生に少し無責任になっても良いのではないかと。
信用を清算する、冷たい人生で生きるだけでなく。
時偶には、自らを束縛する鎖から脱し気楽になっても良いのではないかと。
「その結果が良いのか悪いのかは分からない、だが私はその自由を好んでいる。」
「ソレは……、何というか。」
「フン、言葉を無理矢理出す必要などない。何も出さないのならば、黙っておくのもまた処世術だ。っと、漸く着いたぞ。」
「ここが薬屋ですか、今度は地面に立っているんですね……?」
ホッ、と安心し店の扉を叩くゾンビ一号。
レオトールも背後で控えてはいるが、特に気を払っている様子はない。
「はいはいはい!! いらっしゃいませー!!」
扉を開き、最初に目に飛び込んできたのは活発にホコリを払っている女性の姿だった。
ゾンビ一号と比べやや小ぶりではあるが、成人女性並みの身長と体格をしている彼女にレオトールは視線をやり挨拶とする。
ソレに気づいた彼女は向日葵のような笑顔で、いらっしゃいませーと返した。
「申し訳ないな、再度世話になる。」
「いえいえ、お金を支払う以上お客様なのは変わりません!! とは言え……、その様子ですとまた同じ症状なのですか……?」
「ああ、そういうことだ。今回も最上級のポーションを3ダースほど貰えないか?」
「うーん、渡したいのは山々なのですが……。流石に量が量なので暫く時間がかかってしまいますね、半ダースでしたらすぐに用意できるのですけど……。」
参ったな、そのように眉間に皺を寄せ暫く悩んだレオトールは妥協案として上位ポーションを5ダース付けさせた。
ソレを聞いた彼女は在庫的に問題ないと言った後、奥へと商品を取りにいく。
その様子を眺めつつ、レオトールは他に必要なものがないかを確認していた。
「ゾンビ一号、お前は何か欲しいものがあるか?」
「では私も中位のHP回復ポーションと、MP回復ポーションをお願いできますか? 数は二、三個で良いので。」
「ソレならばストックがある、となれば他に必要なものはないな。」
ゾンビ一号の提案、その言葉を聞いたレオトールはそう返すとインベントリから彼女の言った通りのポーションを取り出した。
一眼見て分かる量産品、彼が持っているのであれば与える効果も一定だろう。
ソレを確認したゾンビ一号は、他に必要なものなどないと告げる。
丁度そのタイミングで、店員のエルフが帰ってきた。
「よいしょー、っと。お望み通りの5ダース!! 箱代も含めて大体……、銀貨7ってところかな?」
「コレで十分だろう?」
「おー、おしおし。質も十分、贋作じゃないね? ご利用ありがとうございました〜!!」
その言葉を聞いたレオトールはインベントリに、ポーションを箱ごと仕舞う。
そして軽く会釈をすると、ゾンビ一号を連れてそのまま店を出た。
まだまだ、やる事がある。
そんな様子で、エルフの里をどんどんと進んでいくレオトール。
目的地は明確に定まっているようで、微塵も止まる様子はない。
「次はどこへ行くんです?」
「そうだな、次は魔術屋だ。スクロールをいくつか買おうかと思ってな? 魔術は財産だ、財産だからこそあればあるだけいい。それにお前は魔術を使えるんだろう? ならば、買っておいて損はないはずだ。」
「私のため……? もうこれだけ買っていただいたので十分ですよ!!?」
「気にするな、別段大したものではない。金は天下の回り物だ、それにコレは私自身の身を守るためでもある。短期戦闘ならばともかく、長期戦を行った時の体への負荷は未だ計り知れない。現にこうして何度も肋骨や背骨が折れている、私の力が必要ならば兎も角そうでない戦闘はすぐさまお前に任せたいぐらいなのだ。」
再度ポーションを飲みながらそう言ったレオトール。
確かにエルフの森に来た時と比べて顔色が優れていないようにも感じる、やはり水晶大陸のデメリットが深いのだろう。
それに、規格外のレイドボスだったヘラクレスとの戦いの影響も大きい。
必要があるからこそ、無理矢理にでも戦っていたが本来ならば一歩も動かず療養しておくべきだ。
それ程までに、彼は弱りきっていた。
「そう……、でしたら……。」
「もちろん、払う代金に見合うだけの働きは要求するさ。心配するな、私は貸し借りが嫌いなのだ。」
「分かりました。」
なおも不安そうに呟くゾンビ一号にレオトールはそう続け、魔術屋に辿り着く。
中は古書から巻物から、魔術が記載されたモノが所狭しと並んでおりその中央には老婆が佇んでいた。
レオトールは欲しい魔術を注文付け、そして値段の交渉に入る。
彼は決して金遣いが荒い訳ではない、ただこの世界この時代において武器とは等しく高いモノだ。
故に、価値が付けづらいスクロールなどは探り探りで互いにとって最も良い値段まで下がることが多い。
ただ売り手にとって魔術の安易な流布というのは望ましくないというのは、考えずとも分かる話だろう。
魔術は一度勉強すれば、二度と必要としないモノ。
さらに、魔術は相伝が可能な代物でもある。
はっきり言って、売り手にとっては損しか無いわけなのだ。
だからこそ、高値になりがちではあるし。
同時に、普遍的に広がっているモノであればまた当然ひどく安値になる。
当たり前の話だ、何せ販売せずとも自ずと供給過多になる傾向にあるのだから。
「ふむ、妥協点だな。良いだろう、鉄貨3に半銀貨6。及び銀貨8でこの六つだ、コレならどうだ?」
「迷いどころさぁねぇ? うぅむ……、仕方ない。」
言い淀みながらも、暫し考え込んだ上で老婆はレオトールの提案を了承する。
高価なモノからそうでも無いモノまで、合計金額としては大金ではあるが価値に見合った良い取引だろう。
スクロールを購入したレオトールは、ソレをインベントリに入れて他の品を見回っていたゾンビ一号を回収する。
そして、そのまま店を出た。
「最低限の準備は整ったか、まぁ悪くは無いだろう。」
「そうなんですか?」
「ああ、旅に必要なものはインベントリに入っている。私自身は多くを必要としないのでな? この程度で十分だ。」
「そうなのですか、では今はどこに向かっているのです?」
ゾンビ一号の質問、それに簡単に簡潔に一言で彼は回答した。
ただし、意外さはとびっきりだったが。
「寝る、明日は早くからの行軍だ。体を休めるのは必要だろう?」
「え、えぇ!? まだ夕方というにも早い時間帯ですよ!?」
そう、早い。
太陽は天頂と大平の中間点程度の高さ、未だ明るい中で寝るのは一般的では無い。
ゾンビ一号はそんなツッコミを行うが、レオトールはソレを無視し道を歩く。
驚きながらも、何かしらの意図があると確信したゾンビ一号は首を傾げながらも彼について行った。
次回、エルフの森を出る!?
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




