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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『服飾屋』

 ゾンビ一号が、彼女が目を覚ます。

 状況は一切変わっておらず、レオトールが彼女をのぞき込んでいることに変わりはない。


「ふむ、案外早かったな。」

「レオトール、助言自体はあまり役立ちませんでした。」

「そうか、では聞いた話とはまた違ったのだろう。」


 あっさりとそう言い放ち、レオトールは心拍を数えるのを辞める。

 彼女の精神状態も凡そ大きな問題がないと判断したからだ。


「時間にして一分半、か。」

「そんなものでしたか? アソコには一時間ぐらい居た気がしましたが……。」

「心の中の時の歩みは別物だ、数百日幽閉されていないだけマシかもしれんな?」


 悪戯っぽくそう言い、聖別の終わりを告げる。

 どんな意味があり、どんな目的があり、どんな過程を経てそういわれる様になったのかは分からない。

 ただ、その仰々しい名前がつけられるだけの価値がある行為というのは理解した。


「で、なんでコレを私に施したのですか? 理由を教えてくれません?」

「全く、最近の子供はコレだから困る。口を開けば何故何と、まぁそう言うところも愛らしい要因か。」

「そう言うの、別に要らないので。」

「ハッハッハッ、コレまた手厳しいな? とは言え、質問に答えるのは老人の役目とも言える。まぁ、深い理由はないとも。ただの伝統というモノだ、我々エルフというのは彼の様な人間種とは違い全員が多少なりとも心象世界を共有する。其処から応用してこの樹液を飲ませた対象の心象を無理やり開き観測できる様にしたモノだ。いわば、我々エルフの特権を貸し出している様なモノ。我々に会えたご褒美と言い換えても良いだろう、昔の王との約束もあるが。ああ勿論、その穴を開けた後のケアもされる。」


 そのケアでゾンビ一号の魂は補強された、という事実を知り納得する彼女。

 魔術的な話は専門外なので大人しく、茶を啜っているレオトール。

 彼にとって魔術とは手段であり、予測しなければならない攻撃でしかない。

 だからこそ、結果に興味はあれど過程に然程興味はない訳だ。

 特に心象世界というモノは千差万別、心の数だけ存在するモノ。

 結果すら予測できないソレに最初から彼は興味はない。


「さて、必要な聖別は終わった訳だ。大人しく、エルフの隠れ里を見て回らせてもらおうか? なに、文句は無いだろう? 私としては受けさせる気のない面倒なことをやらせたのだから。」

「私としても面倒だとも思っているさ、ただ盟約にされているのだから仕方ない。」

「……はぁ、ならば仕方ない。種族か国家単位で結んでいるとなれば相当だろう? しかも、アンデットも対象に含まれるレベルとならばだ。個人が文句を言える類のものでないと理解した。次は無いだろうが、もしあるのなら大人しく諦めることにするさ。ソレと、聖別を行ったのであれば連れ回しても問題ないな?」

「そうしてくれるとありがたいな? あと、問題はないとも。少し議論の余地はあったが、かのレオトールが連れてきたのなら文句はあっても否決は無いに決まっている。」


 そう言い、レオトールに手を差し出した。

 ソレを握り返し、感謝の言葉を述べたレオトールはそのまま部屋を退室する。

 続くゾンビ一号も感謝の言葉を告げつつ、レオトールの後ろに続いたのだった。


*ーーー*


 大樹の中を歩く二人、行きと違い案内人もいない中やや不機嫌そうにレオトールは周囲を見ていた。

 何か、嫌なことがある。

 そんな表情を見て少し怯えながら、ゾンビ一号も彼に続く。


「チッ、面倒だな。」

「え?」

「……いや、なんでもない。気にしないでくれ、どちらにせよ言いたい事はすぐ分かるだろう。」

「そう、ですか……。」


 明確な苛立ち、面倒を隠そうともしないその様子に少し不安に思いながらも彼に続き外に出る。

 深緑に囲まれ、日光が燦々と照らし出す美しい森林が望め……。

 その先で待ち構えていた戦闘狂(エルフ)がいた。


「なるほど。」

「受け立つと言った手前、戦わねばならんのだろうな……。はぁ、やれやれ。」

「そういう訳だ、伯牙!! 一局、お手合わせ願おうか!!」


 勇み、弓を構えるシャリエア。

 レオトールも、水晶剣を構えながら肉体に調子の是非を問う。

 悪くはない、戦えない事はないだろう。

 ただ万全には遠く及ばす、と言った具合。

 流石に少しばかり厳しいと内心ボヤきつつ、男に二言はないとばかりに半歩足を下げる。

 

「いざ、参る!!」

「決闘場などの方がいいとは思うが、何も言うまい。」


 レオトールの常識的な物言いを意にも介さず、矢を放ったシャリエア。

 ソレを見てから回避し、レオトールも同じく剣を振る。


「『極限一閃(グラム)』」


 白銀のエフェクト、斬撃属性が宿った無数の光がレオトールの剣から発生し飛ばされる。

 飛ぶ斬撃、それ以上でも以下でもないただの飛ぶ斬撃。

 だが、ソレだからこそ脅威とも言える。

 矢より早く、一時にして迫り来る極剣。

 ソレを回避するのは至難の業、真っ向勝負では難易度が高いと言うモノでは無い。

 しかし、ソレでも彼女はエルフ。

 直情的で、戦闘狂とはいえその実力は半端なものではなく。

 体の動きでは間に合わないと判断した直後に魔力を発生させ、エフェクトと衝突させることでその属性を緩和する。


「流石、種族としての格が高いことだ。」

「皮肉は程々にしてほしいなぁ!! 我が友よ(敵わぬ者よ)!!」

「皮肉? いいや、純粋な褒め言葉だとも。」


 瞬間、その魔力を突き破るように槍が到来した。

 魔力を込めれば雷により超加速するただの槍、だがその速度は大抵のモノを凌駕する。

 防げない、極剣の初手に続くように放たれたコレを。

 思考が停滞しかけ、だが即座に回る。

 戦闘経験は多い、簡単に敗北などしない。

 その思いのまま、体を動かし。


「チッ、大人しく喰らっておけば良いものを。」

「ーーーーッ!!?」


 避けれた、その思いも束の間。

 槍を囮にしてさらに急接近を仕掛けたレオトールを前に、今度こそ思考が停止する。

 勝てない、負けるではなく勝てない。

 動きが完全に読まれている、その上でどこに移動するかを察されている。

 口で、彼は確かに嘯いたが槍をシャリエアが避けることも予想の範疇だろう。

 でなければ……。


「恥を覚えずに済んだかもだぞ?」


 なぜ、薄皮一枚切り裂き剣が止まっている?

 断頭せんと振るわれた剣が何故、其処で止まっている?


 当然、止めるつもりで振るわれたからだ。


 でなければこんな神技、剣の神ですら出来るはずがない。

 シャリエアが汗を垂らしながら、ゆっくりと顔をあげる。

 其処には無表情に自分を見下す傭兵の姿があった。


「筋はいい、初手で身を引く潔さは程々に戦場を駆け抜けたのだろう。近接相手に弓を使う以上、最低限の先制も出来ている。」

「…………。」

「だが、ソレに対するカウンターを予想していないのは減点だ。何故私が短時間で放てる遠距離技を持っていないと思った? ソレは貴様が油断していたからだろう? 所詮は人間だと、100も生きていない若造だと侮ったからだろう? だからこうして容易く剣を突きつけられる。」


 言葉は耳に入る、だがそれだけだ。

 恐怖で汗が溢れ出す、目の前の男の恐怖を再認識する。

 おそらく、そう恐らく。

 単純な技量勝負に持ち込めたのならば、インベントリを封じ剣しか使わせない縛りを結ばせれば良い勝負に持っていけるだろう。

 だからこそシャエリアは挑んだ、たとえインベントリを使用したとしてもそのタイムラグの間に防げると確信していたから。


 実際は、そんな余裕すら与えられなかった。


 剣しか使わせない状況に持ち込めなかった、それ以上にシャエリアが思いっていた以上に彼はこの勝負に余裕を与えなかった。

 初手の極剣、アレの発生を止めなければインベントリの発動を防げない。

 そしてインベントリの発動を防げなければ、雷槍が飛んで来ることに変わりなく。

 雷槍が飛んでくれば回避はできる、だがソレ以外の行動はできない。

 何せ、その雷槍と同じ速度でレオトールが迫っているのだから。

 戦えると思っていた、戦いになると思っていた。

 実際は、ソレよりひどい。

 圧倒的な実力の前に、種族差というアドバンテージは意味をなさない。


「挑む相手を選べ、歳を重ねたのなら大人しく相手の実力を測れ。弱者が身の程を弁えず、猪突猛進に挑む事ほど愚かしい話はない。」

「……ッ!!」

「コレにて、首を切り裂き終わりだ。対抗しようと指を動かしたな? 何故私がソレを見逃すと思う。これ以上私を怒らせるな、不愉快極まりない。」


 レオトールが剣を下ろし、黙って引こうと背を向けた瞬間。

 シャエリアが動こうとし、レオトールの裏拳が突き刺さる。

 エルフだからこそ、レオトールの行っている偉業がわかった。

 その男は、その男の卓越した実力は一線級の魔術師と比較てしても見劣りしない魔力操作をも軽く見破る。

 属性を持たず、魔力操作を得てとしていないはずなのに。


「行くぞ、ゾンビ一号。お前の装備を買わねばならん、ソレに黒狼が戻ってくるまでに征服王とも顔を合わせたい。そうなるとあまり時間がないのでな? 余裕は有るだけ良いものだろう。」

「わ、分かりました。」


 感激、もしくは尊敬。

 そんな目をしながら、レオトールを見つめるゾンビ一号。

 復讐心とは訣別を行い、己が目的を再度定めた彼女にとって彼を怖がる理由はない。

 チラリとシャリエアを見た後彼女もレオトールに続く。


「化け物、め。後100年は研鑽を積まなければ戦いにすらならないとは……、レオトール。お前は本当に人間なのか?」

「人間だとも、逆にこの私の姿を見て何処に化け物の要素がある?」

「ククク、ソレもそうか。」


 そのまま胃の内容物を全て吐き尽くしシャリエアは、呼吸を整える。

 反面、レアトールはそんな彼女の様子を無視しつつ歩みを進めた。

 向かう先は防具屋、最初にも言った通りゾンビ一号の装備を整えなければならない。

 とはいえ、エルフの街に限らず街に必須とされる店は中心区画の周辺にある物だ。

 5分も歩かないうちにレオトールは一つの大木に辿り着く、どうやらここが噂の防具屋らしい。


「で、どうやって入るのですか?」

「そうだな、基本的にエルフの家というのはツリーハウスだ。そして、彼らは高い身体能力を有している。あとは分かるな?」

「なるほど、つまり登るんですね。」


 レオトールは軽く頷くと、木から垂れ下がっている縄に手を掛け地面を大きく蹴る。

 直線的、ではなく少し弧を描く形で上に辿り着くレオトール。

 そして、一皮太い枝に着地すると縄を地面に向かって放り投げた。


「捕まれ、上から引き上げてやる。」

「分かりましたー!!」


 レオトールの指示、大人しく従うゾンビ一号。

 縄を両手で掴み、両足で抱きつくように捕まる。

 ソレが完了したか否か、そのタイミングで一気に上昇する感覚があった。

 高さにして十数メートル、高いといえば高いがそれまでだ。

 とはいえ、急上昇の間隔は気持ちいいわけではない。

 いや、人によるがゾンビ一号は気持ち悪いと感じるタイプだ。

 そういうわけで、目を瞑り枝に飛び移ることを忘れてしまい……。


「全く、手が焼ける。」


 レオトールに受け止められた。

 というより、彼の目の前まで来たタイミングで彼自身が縄の上部を手に取り重心を背後にずらしたのだ。

 ガコンという急な重力、危うく手が外れそうになったがしっかりと握り直し強く捕まる。


「ほれ、立てるか? 立てるだろう? 立て。」

「その三段活用は初めててますね、と。」


 危なげなく太い枝になった彼女は、見えた店名を口にする。

 驚きより意外、意外より驚愕が彼女を突き抜けたのだ。


「服飾屋、プリン……? 随分と可愛らしい名前ですね。」

「可愛らしい? 灰汁が強いと言い変えてくれないか? アレを可愛らしいなどと言える訳がない。」

「……? どういうことで?」

「中に入れば嫌でもわかる。」


 そう言って、扉を開く。

 扉の中には彩豊かな装備が陳列されており、女性向けの店舗のように見える。

 だが、中には男性用と分かる程度に大きな武装もあるので男女共に使用は問題ないのだろう。


 静かに店内に入っていったレオトールは、そのまま店の奥に問いかける。

 店主が居るかどうかを確認しているようだったが、その答えはすぐに出た。


「あっらァ〜!? レオトールちゃんじゃないのォ!! お久お久ァ!?」

「ああ、久しぶりだな。プリン・アラモード、その巫山戯た容姿さえなければ良い友となれるのに残念な話だ。」

「もぅ〜、レオトールちゃんったら!! そういうのはナシ、でしょう? 私とアナタの仲じゃない!!」

「ええい!! 辞めろ!! 別に容姿で差別はせんが馴れ馴れしく触るな弄るな!! コレで無能であれば叩き切っていたところだぞ!!」


 彼、いや彼女は巨大だった。

 エルフに似つかわしくなく巨大な胸筋を携え、大きな手で俊敏にレオトールと肩を組もうとする様子は正しく歴戦の勇士さながら。

 おそらく実力的にはそこまで、なのだろう。

 決して強くないという予感はある、だが同時に肉体的な強さ以外の部分で強いというのも確信があった。

 ゾンビ一号は生まれて初めて恐怖を覚えていた、未知に対する恐怖を。

 ザワリと、産毛が立ち瞳孔が開く。

 目の前の存在に対して、戦い以外の恐怖を覚える。

 まるで猛禽類の前で怯える小鼠のような、そんな恐怖。


「あっらァ? そのレディは? アナタの友人?」

「そうでもあるし、そうでは無いとも言える。今日は彼女の装備を見繕うためにやってきた、金に糸目はつけん。在庫にある最高品質の類を持ってきて欲しい、勿論私の目に叶う物でだ。」

「……、本気? ワタシの装備はソレこそ目が飛び出るほど高いわよ? ソレを容易く寄越せなんて……、いいわ!! 気に入った。」


 胸筋を膨らませながら、彼女。

 もしくは彼は声高らかに告げると、ゾンビ一号に近寄る。

 一瞬怯え、店舗外に飛び出そうかと迷うゾンビ一号。

 ただレオトールの様子からして別に悪人では無いと願い、踏みとどまる。


「自己紹介をしなくちゃね? ワタシの名前はプリン・アラモード!! またの名を、ディアゴル・フレバーよ? 見ての通り体は男のエルフなのだけど心はハーフ!! 服装は女という新人類をしてるわ、宜しくね?」

「ひ、ひぃ!?」

「あっらァ? そんな怯えなくて良いじゃない。」


 目の前でクネクネと動きながらそう告げる彼女、もとい彼。

 いや、新種の性別ということでプリンとしよう。

 プリンは、そう笑いながらゾンビ一号が着ているボロ布を剥いだ。

濃い、何処までも濃いぞ今回。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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