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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『鳴花』

「お? 目覚めた? ヤッホー。」

「目覚めた様でさぁ、いやぁ。此処で死んでたらアッシらも対応に困るところで。」


 此処は? その想いと共に、一気に今までの記憶がフラッシュバックする。

 そうか、私は飾弓と戦いそして自滅したのか……。


「あ、水飲む? 紅茶味にも出来るよ?」

「いえ、水で結構です。ソレより、貴方はノースさんですよね?」

「うんうん、そうそう。ノース・フィ・ルカ、ルカって呼んでもノースって呼んでもどちらでもいいよ。」

「では、ノースさんと。」


 ノース・フィ・ルカ、別名は『追放された錬金術師』もしくは『鳴花』。

 元々貴族……、なのかは怪しいところだが零落貴族の末裔。

 またはソレに近しい血縁を持ち、明確に名前を持っている。

 本当に木っ端の貴族の一族だろう、仮にも貴族の一員でありそして王城の守り手でもあったスクァートの記憶にも該当する名前がない。

 ただ、ソレに反して彼女自身は有名だった。

 慈善家とも偽善者とも違う、掴みどころのない評判。

 冒険者ギルドに何度も訪れ、そしてポーションを卸している錬金術師。

 彼女の作成するポーションは遊びがない、言い換えれば品質の差がない。

 だからこそ、誰からも重宝され妬まれてもいた。

 そして、だからこそレオトールに狙われてしまう。


「とはいえ、錬金術師の腕や魔術師としての実力としてスカウトされるとは思わなかったけどね。」

「そうなのですか、私は死の直前の記憶と幾つかの技能は引き継いでいるのですが詳細は知らず……。」

「んー、まぁ説明すると長くなるんだけどね? 私ってこう見えて結構魔術の腕もイケる口なのよ。お師匠様が、そこら辺に煩くてねぇ。」

「錬金術は相伝が一般的ですもんね、そうですか……。確かに師匠が居るのは当たり前の話……、ですね。」


 と、不安な私の回想が流れたが話してみると別段気難しい質でもなく割と普通の女性だった。

 多分、私のマジカルキャノンを収めているのは彼女だろう。

 スクァートの記憶には自分が使えたと言う記憶の類はなかったし。


「そうそう、あの師匠さぁ〜。いやほんと、本当に酷いのよ。コレでも一番弟子とか愛弟子とか言ってるくせにアゴで使うし横暴に振る舞うし。一体何度あの背中にアゾット剣を突き刺してやろうかと……!!」

「ア、ハハハハ。」

「もぅ、コレじゃぁ私がアレな人みたいじゃない。いや、ホントに酷かったのよ?」

「そうですか……。」


 多分、私の待遇よりマシだと思う。

 生まれた瞬間に肉壁で、ダメージを負っても何時間も強行軍をしてるくせに大ダメージを受けなければ回復もないしそして名前がこんなのだし。

 多分そのお師匠様の酷さは知らないけど、あのクソボケスットコドッコイスケルトンよりはマシだと思いますよ?


「雑談もいいと思いますがそろそろにしてほしいでさぁ、何しろ時間がない。」

「コホン、そうだったわね。」

「時間がない、とは?」

「それも含めて説明するわ、継承でもいいけどスクァートと違って魂の構造も肉体の性質も違いすぎてて確実性がないしね。」


 そう彼女がいい、ポロシアンもその言葉にうなずく。

 確かに、双子と言われれば納得できるほどにそっくりだった私と彼女と違って彼らは似ても似つかない。

 彼女の記憶が正しければ彼らも、私の魂を構成する一部のはずだが……。


「疑問に思うことはあると思うのだけど許してね、彼女には正確な説明をしてないというかできてないのよ。何せ私たちが自我を発生させたのは貴女があの茶を飲んだタイミングだから。」

「そう、なのですか。」

「そもそもこの世界自体がその定義のあいまいな領域臭いんでさぁ、いわば未確定の観測世界というべき世界? まぁ、アッシはそっちに詳しくないんでなんとも言えんのが歯がゆい所で。」

「未確定の観測世界、って仰々しく言ってるけど心象世界のことよ。多分ね? ただユグドラシルの性質からして大きく間違いないとは思うけど。」


 そういうと彼女は魔術と錬金術を併用した何かで机といすを作り勧めてくる。

 私は少し警戒しながらそれに座ると、目の前にお茶が差し出された。

 ノースからすれば警戒しないでということなのだろう、私は礼を言いつつソレを飲む。


「さて、心象世界について知っているかしら?」

「心象世界……、私も彼女も使えませんが彼女の記憶では何度か見ました。人間が扱う生物としての限界、生物全てに備わる固有の世界。己が心の情景や風景を現実に置き換え、一つの世界と成す魔術の最奥。」

「うんうん、今の魔術の常識ではそれが一般的な回答ね。精々付け加えるとするのなら、我々が生きているというこれ以上ない証明とでも付け加えましょうか。それが心象世界、我々が持ちうる自分だけの絶対境界よ。」


 そういい、彼女はこの世界に視線を向ける。

 私と、ノースと、ポロシアン。

 其の三人しか存在しない草原のみのこの世界、私の心象世界。

 それをちらりと眺め、彼女は良い所ねとつぶやく。


「ここは貴女の心象世界、ユグドラシルというレイドボスの樹液を摂取したことで生きながら得た心象。言い換えればあなたの魂よ。」

「……!? ちょっと待ってください!? 生きながらえた? つまり私は死にかけだったのですか!?」

「ええ、貴方はそもそもあの傭兵。レオトールという存在に引き付けられた最も力強い魂であるスクァートを中心として、歪に魂が混ざり合った不完全なアンデッドなのよ。不完全に深淵をのぞき込み、深淵を見入り魅入られたあのアンデッドだからこそできた奇跡の所業ね。」


 納得がある、いや納得しかない。

 納得以外の何ができるだろうか? 何もできない。

 なにせ、他ならない私自身が彼女の言葉を肯定しているのだから。


「ここに集まっている人間にはすべて共通点があるわ、三つほどね? まず黒狼という少年が望んだ第一の要望である彼を守れる存在、つまりは戦える人材。次にレオトールという強大な存在に引き付けられた魂、言い換えれば彼に関する未練がある人物。そして最後、グランド・アルビオンを守る意思がある存在。これは、スクァートの意識かしら?」

「……、最後が少し気になりますね。グランド・アルビオンを守る? そんな意識は私には存在しませんよ?」

「だって、その中心核だったスクァートがその妄執を破棄したもの。未覚醒だったとは思うけど、現実世界の時系列においてあの泥鳥と戦っていたタイミングで。」

「は?」


 余計に意味が分からない、何故それを捨てたのかという訳が。

 彼女の記憶を覗けばわかる、彼女は相当その国を愛し守るために忠義をささげた。

 それこそ、己の命がなくなるほどの忠義をささげた。その記憶はある。

 感情こそ分からないが、だが彼女が持っていた忠義は知っている。

 だからこそ、その願いが捨てられているという話が受け入れられない。


「愚問でさぁ、常識で考えればステータス平均が1000を超えた化け物が3000人も集まって軍隊を成していればふつうは勝てないと考える。」

「プラスα、代案があるから貴方にすべてを託すことに決めたみたいね。」

「代案? 私がグランド・アルビオンを守る理由があるということですか?」

「いいえ、まさか。そんな代案があるのならもっといい方法があるよ、それこそあなたの魂を殺しなり替わったほうが速い。」


 その通りだ、彼女の記憶を持つからわかる。

 性格とかは違うが、それは雲隠れすればどうとでもなる。

 そしてその程度の時間ならば、レオトールを騙しとおせるだろう。


「じゃぁ、何を託したか? 答えは複数推測できるけど貴方はその記憶を持たないのよね?」

「はい、私の記憶には何もないです。」

「なら消去法で、貴方に知られては困る内容ね。となると……、アレかアレかな?」

「アッシは単純に勝てないからあきらめたんじゃないかと思うんでさぁ? もしくは、そもそも王国を守る意思がなくなったか。」


 それはない、と断言しようとしやめる。

 それもあり得る、それだけの話だ。

 少なくとも他者の思考を知った気になれるほど私は、人生を積んでいない。


「まぁ、否定はしないけどあの頑固者が……。ああ、生前は知り合いじゃなかったっけ?」

「さっぱり無縁という訳ではねぇがアッシとの関係はなかったようなもんでさぁ。」

「本当に適当に集められた感じなのですね……、なんというか黒狼が作ったからこそのらしさがあります。秩序がある無秩序というか……、絶対的なルールの下にある自由というか。」

「言い得て妙ね、確かに表現するとしたらそう言いかえれば正確かしら? もしくは無秩序にある秩序か、自由の中にある絶対的な法則というか。」


 黒狼らしい、と感じる。

 この致命的な矛盾があるからこそ、黒狼の成果物であるのだと私は実感した。

 彼の作成物、例えばあの槍剣杖一つとってもこの法則性がある。

 一体どこの誰が一つの武器に近接と遠距離と中距離を対応できる機能をつけようとするのか? 普通ならばその三つを複合することで発生する致命的な欠陥。

 愚かにもほどがある使いずらさ、武器として成立するか怪しいレベルのもの。

 私なら使わない、レオトールでも使わないだろう。

 だからこそ、彼らしい。


「とりあえずだけど、私の推測を聞く? 彼女としては知らせたくないのでしょうけど、私の立場なら逆に言っておくわ。」

「いえ、大丈夫です。彼女が伝えなかったのならそれだけの意味がある、それに……。」


 言葉をいったん区切り、息を吐き。

 彼女の記憶を探る、やはり一部の記憶が欠損していた。

 そして、他者の思考は他者では到底知りえない。

 どんな手段をもってしても、どんな方法を用いても。

 その推論に至るまでのプロセスや、経験は他者がおいそれと計り知れるものではない。

 だからこそ、ここでその他人でしかない彼女から。

 スクァートでない人間からその答え、その推測を聞くのは終局的に私への不利益にしかならないだろう。


「それに、本格的に私たちに不利益がかかるのであれば最初から彼女はそんなことをしないでしょう。騎士道精神、というやつです。」

「確かにそこまであなたと彼女の信頼関係が構築されているのなら、今起きている現象のほうの説明を急くべきかしら? ユグドラシル、心象世界を。異なる境界をつなぐエルフという種族の誕生起源。錬金術師として知りえている知識でいいのなら、あの樹木は精神を縫合し精神に合わせて肉体を進化させるというタイプのレイドボスね。」

「精神干渉系……、その割には脅威としては低いですね。人類に対して有益そうですし、レイドボスとしては比較的利用しやすいタイプでは……。逆ですか、利用するために生み出したタイプのレイドボス。」

「ま、私たちには関係ないけど。今重要なのはそのレイドボスのお陰で私たちは貴女と話せているということと、貴方がこうして心象世界を観測したことで魔術的な意味での心象世界。すなわち、心象世界の境界が完成し始めているという事実ね。」


 心象世界の境界、つまりは現実に影響を及ぼす心象世界。

 種類としては彼女の記憶をもってしても見たことはなく、過去に居たという記録自体は知っているもののどれだけでしかないというほどに希少性が高い魔術。

 あらゆる魔術の中でも、その希少性と再現性のなさはトップクラスだろう。

 そんな、心象世界が完成しかけている? どういう風な理解をすればいいのだろうか。


「境界が完成したら何かまずいことでもあるのですか?」

「いえ、貴方にはそこまでないわ。ただ私たちが希薄になるだけよ、言い換えれば完全に死ぬといったところかしら? 勿論、この心象世界の主導権を奪えば生きながらえることもできるけどスクァートがあなたに託した時点で私たちにはその意思はない。それでも抵抗していた飾弓はいたけれどもうその抵抗もなくなったし、ね?」

「……完成するまでの命、ですか。なるほど、だから時間がないわけですね。いったい私の心象はいつ完成するのでしょうか?」

「そうね、遅くても30分あれば完成するんじゃない? ここ換算で。」


 なるほど、だから時間がないと最初に言っていたのか。

 事情説明もおおよそ分かった、そして彼女らが今からしようとしていることも。

 なるほど、時間がない。


「もう何をしようとしているのかは分かってるみたいね? そう、今からあなたには私たちの戦闘経験と技能経験。そしてそれをうまく編集した記憶を与えるわ、うまく活用してね? それなりに期待しているから。」

「ということでさぁ、本格的に経験や技能を与えてアッシも消えていきましょうかねぇ?」


 そういいつつ、穿槍は心臓に手を突っ込み何かを引きずり出す。

 鮮血が飛び散り、驚きにノースは顔をゆがめる。

 唐突すぎる行動だとは思う、だけど私を構成する一部だからこそ彼の唐突さも理解できてしまう。


「ありがたく、貴方の心臓貰い受けましょう。」

「ではアッシは退場で、来世に期待しややしょうかねぇ?」

「ちょちょっ!? 急すぎ!!」

「いやいや、アッシは無駄に長く生きるのは嫌いな質でさぁ? 戦闘経験だけ寄越せばトンずらしたいところだっただけで。」


 そこまで言い切ると、彼はそのまま消えた。

 ポリゴン片になるわけではなく、見慣れない消え方で。

 私と同化した、ということだろう。

 

「まったくもう!! 本当に!! はぁ、とりあえず細かな説明と私の技術を渡すから30分で完璧に理解してね?」

「……、はは。保証しかねます、努力はしますけど。」

「保証しかねますじゃない!! やるのよ!!」


 その言葉と共に彼女は魔力のような光を発生させ、私に押し付けてくる。

 それを受け取ると、頑張れと彼女は良いそのまま消失した。

 どうかしたのだろう、彼女も彼も。

 少し早い気がするが、ずっといても結局は消える。

 

「はぁ、全員マイペースじゃないですか?」


 私の骨子となる人物たちであると考えると、もしかすれば私も結構マイペースなのだろうか?

 そんな思考に一瞬浸り、そして首を振ることで訂正する。

 渡された記憶は非常に丁寧にまとめられており、すべて分かりやすい。

 ため息が出てくるほどには。


「こんな難解なものを平然と30分で納めろなんて無茶を言いますね、絶対に無理なんですが……。」


 だからこそ今は可能な分だけを収めることにしよう。

 この大量の経験は……、未来の自分が何とかすることを願って。

ゾンビ一号がどうやって作られたかの分かりやすい説明。


{レオトールに恨みを持つ奴らの魂が黒狼の呪術スキルでまとめられ、雑に成立した。}


此れだけの内容です。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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