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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー4『飾弓』

 飛んできた矢を切り裂く。

 同時に体が勝手に動き、魔術を展開した。


「なるほど厄介極まる、な。」

「どちらのセリフですか、『飾弓』。」


 遥か遠方、というほどではない。

 所詮は精々が数百メートル先、其処に一人の男がいた。

 彼は弓を構え、再度私を狙ってくる。


「『貫通矢(エーンドリンジン)』」

「『攻勢防御(リベンジ・アタック)』」


 襲い掛かってきた矢は私が得たスキルによって切り落とされ、地面に叩きつけられる。

 早速だが、体が馴染み始めた。

 私の体が、私の魂の大部分が彼女と同質だったのも大きいのだろう。

 魂に系譜されるスキルも、肉体に系譜されるスキルもどちらも得られたのが最良といえる。


「だからオレは反対だった、お前がそのように目覚めることを危惧したのに。」

「遠くで独り言を言われても聞こえませんよ、『飾弓』(スクレアイフ)。」

「聞かせるつもりはないので安心しろ、ゾンビ一号!!」


 そう叫び、放たれた七つの魔矢。

 それらすべては私を狙いながら推測できない動きで私を射抜こうとする。

 彼の二つ名、『飾弓』。

 意味するのは、弓など飾りとでもいうべきその技能。

 彼の放つ攻撃は、自由自在に空中を走る魔力の矢であり。


「ですよね、予想通りです!!」


 そして、その矢に隠れて超高速で動く彼自身の攻撃!!

 彼に殺された、レオトールに殺された記憶がなければ看破するのも難しいその行動。

 その速さは私の目ですらとらえきれない、だがどこに移動したのかは感覚がわかる。

 弓など飾りといわんばかりに動くその陰、一瞬にして私の背後に回りレイピアを突き付け……。


「敗北の記憶を忘れたのですか?」

「まさか、覚えているとも!!」


 私の中の記憶がフラッシュバックし、彼が殺された時の記憶を見る。

 

*---*


 周囲には死体の山が存在し、その中心でレオトールが立っている。

 考えずともわかるだろう、その死体の山は彼によって築かれたということを


「増援か。」


 短く、鋭くことばを吐いた瞬間レオトールは空から飛来した矢をすべて切り裂きインベントリを開く。

 次の瞬間、インベントリから現れた彼にしか扱えない特殊武装。

 またの名を、『万里長鎖(ばんりのちょうさ)』を手に取り上空に向かって彼が持ちうる絶技を放つ。


「『絶叫絶技(ギャランホルン)』」


 爆音が、炸裂音が。

 世界を震わすその衝撃、万里長鎖のその全貌が現れながら伸びつ図けた結果発生する音波衝撃(ソニックブーム)はその死体の山を弾きながら周囲に血飛沫をまき散らし。

 そして、空中から飛来する七つの矢を絡めとる。


 言葉はない、その代わりにレオトールは現れたグランド・アルビオン王国の兵士に攻撃を放とうと体重移動を行い先ほど出したばかりの鎖をインベントリに収納する。

 そして、もう一つの真紅の剣を取り出すと魔力を注ぎ込んだ。


「仕事の時間だ、『津禍乃間(つかのま)』」


 剣に注ぎ込まれた魔力は莫大な火炎に変換され、一気に周囲を炎獄に変換し周囲の死体ごと焼き払った。

 それは竜の息吹を思わせる超獄温、触れれば骨まで焼き焦がさんとするその熱はレオトールの狙い通り襲い掛かってきた矢を焼却し接近してきた人影への牽制とする。

 そして、半回転すると背後に回っていた人影に剣と同時に取り出していたナイフを拳で殴ることで吹き飛ばし。


「『俊脚』『八極拳』『絶技:掌底』」


 スキルによる瞬間的な大移動、それに連なるように技の構えをとり二つ目のスキルを発動。

 三つ目のスキルで拳に爆発的なエネルギーが収束し、発散することで弾かれたナイフの軌道を修正。

 極少の爆発が発生し、ナイフが再度その人影に突き刺さる。


「が、はッ!!? 一体!? どうやった!?」

「卑怯とは言うまいな? 『飾弓』。」


 その言葉と同時に、重傷を負いながらもレオトールの背後に回ったスクレアイフに向けて水晶剣を振る。

 レオトールは魔法魔術を使用できない、だがソレは魔力を使えないことにはならない。

 あくまで魔力に属性を帯びさせる機能が体内に存在していないだけ、魔力自体は使える。

 そして、彼は戦闘中常に体から魔力を放出しており……。

 180度、全方向を目線を向けずとも魔力の揺らめきで感知できる以上彼にとっては背後をとられたところで何の不都合がなく。


「目線を向けなければ戦えぬという弱卒などではないのだ、私は。」


 発露している魔力全てを『津禍乃間(つかのま)』に流し込み、周囲をすべて燃やし尽くす。

 次の瞬間、地獄が顕現した。


*---*


 その記憶は、レオトールとの戦闘をスクレアイフの視点で見ていたものだ。

 だから彼の戦い方がわかる、彼の次の行動が手に取るようにわかる。

 彼はあの時とは違い、私が彼の動きを見ていると推測し隠し玉を用意するだろう。


「死ね、未来のためにッ!! 『輝弓絶死(トルトネイル)』!!」

「死ねません、彼のために。『極剣一閃(擬)(グラム)』!!!」


 なら此方は、その上を行くだけだ!!

 彼の妙技、彼の絶技。

 最高峰の剣術を得たからこそ、再現性の低い劣化版とはいえこれが使える。

 この極剣が使え、私は子の斬撃を放てる!!


「チィッ!? どこまでも小癪な!!」


 『極剣一閃(擬)(グラム)』、それは決して彼の極剣には届かない再現をしただけのアーツ未満だ。

 だけど、彼にとっては予想外だろう。

 まさか私が、劣化版とは言えども飛ぶ斬撃を扱えるというのは。


 背後から迫りくる一撃、弓のアーツをさらに改良した妙技。

 超高速回転を行い私をえぐり殺すかのように迫りくるその一刺は、私の動きと連動し放たれた極剣のエフェクトが捉え方向を逸らす。

 そのまま背後に剣での一撃を放たんと、エフェクトが残存するうちに追撃を仕掛けようと。

 後ろに振り向いた瞬間、引き下がりながら矢を打ち込んでくる彼の姿を見る。


 遅かったッ!!


 その叫びは声にならず、それより先に体が動き矢をすべて弾く。

 強いか弱いかで言えば決して強くはない、ただ只管に上手い。

 銀剣の、スクァートの技術を得た私ならば決して負けることはない。

 だが、同時にこの場この時であれば敗北を喫するのは私だ。

 馴染み切っていない以上、私は彼の矢を掻い潜ることは厳しい。

 だから、どうする?

 ならば、どうする?

 どの手段を用い、どんな方法を駆使すれば何を成せる?


「ーーーー、いるんですよね!? 【穿槍】!!」


 私は声をあげ、賭けに出る。

 今ここで誰かの協力がなければ私は、敗北する。

 はっきり言って、良策とは言えない気狂いの所業だ。

 だが、気狂いでも気違いでもいい。

 ここで勝たなければ、きっと私の精神は消失する。

 それだけは、許せない!! 許されない!!


「ああ、いるぜよ?」


 居る、それを認識した瞬間私は敵か味方かを確認するように声の方向を見て。

 同時に、目の前に飛来した槍を見て敵かと後悔する。

 だからこそ、剣を彼に向けようとし。


「早とちりすんじゃねぇ、アッシは味方だ。」


 そしてニヤリと口元を上げた彼を見て、口を見て。

 その発言を聞いて、一安心しそして警戒を強めスクレアイフを見る。

 上空に広がる矢の数々、それらすべてが別々のスキルのエフェクトを纏い私を殺そうと蠢く。

 私は両手に持つ剣を構え直し、切り伏せようと足を半歩下げ。


「ここは、アッシに任せな?」


 そういい捨て、私の前に立った彼は槍を軽く振るった。

 空気が切れる音が発生し、同時に事前の発言無くアーツの発生が起こる。

 動きだけでアーツを発動できる、という訳なのか。

 初めて知った、それは記憶の中でも映り込んでいるはずなのに。


「おい、飾弓の小僧。敵になるのなら、アッシは手加減せんぜい?」

「こい、穿槍!! 銀剣の劣化風情と共にな!!」

「そうかい、じゃぁ。死ねや?」


 地面がえぐれ、彼は空高く飛び上がる。

 放たれた矢の数々はその絶妙な槍捌きで悉くを打ち落とし、空中で槍を一回転させながら姿勢制御を行うと地面に付いた足を起点とした回転蹴りを見舞った。

 なんという早業だろうか……、どちらも相応の強者なのがわかる。

 

「クソッ!! 厄介者め!!」

「アッシの強さは分かっているだろう? 死合うのならアッシは手加減をせんぜよ。」

「安心しろ!! こちらも殺す気だ!!!」


 超高速で逃げながら何発も何発も矢を打つスクレアイフだが、穿槍ことポロアシンはその矢をすべて弾き落とす。

 私もその戦いに加わろうとしたが、無理だと思いなおす。

 動きながら矢を弾き落とす? 可能だろう。

 だけど、それは戦いに貢献できる訳ではない。


「あの傭兵からは手厳しい評価をもらったが、アッシの実力は小僧よりも相当上ぜよ!!」

「あの傭兵と比べたらな!! そんな事実を言いなおさなくていい!!」


 あの傭兵、レオトールのことだろう。

 確かに、彼は実力が違いすぎる。

 スクァートの記憶を受けたからこそ、あの実力の異常さも分かるというか。

 そもそもステータスALL2000オーバーとか言ってたような気がするんですけどあの化け物!!

 グランド・アルビオン王国最高峰の騎士ともいわれていた銀剣の彼女でも最高値で1800ですよ!? なん全ステータスが2000を超えているんですか!?


「早いなぁ!! アッシでも追いつけんとは!!」

「迫ってくる時点で恐怖倍増だ、この野郎!! というか、なぜあれに手を貸す!?」

「そんなもん決まってさぁ!! 美女に手を貸すのは当たり前の話だろうよ!!」


 互いの戦いぶりは非常に参考になる、特に穿槍。

 彼の槍は分裂しているようにも見える、それほどの連撃で矢をたたき落としながらスクレアイフに傷をつけつつ様々な魔法を放っている。

 どちらも神業、私では再現できない。

 レオトールならば、事実として彼ならばその技を初見にて見破りカウンターを放つ。

 だが、ソレは私には不可能だ。


「けど、戦力外と見られるのは不愉快です。」


 八割程度だろうか? 銀剣の感覚が体に染み込んできた。

 彼女の戦い方、だけではない。

 彼女が何故その道を辿り、どうしてその強さを得て、どのように思い、どうやって死んだか。

 そのすべての知識を、知恵の八割程度はもう受け継いだ。

 十分だ、ならば。


「貴方ならば、きっとこう言うんですよね……? いえ、此処で言うのは辞めましょう。」


 その言葉は直接彼から聞きたい。

 反応してあげる気はないけど、線いっぱい格好をつけてる彼は。

 ソレこそ、ひどく愛おしいのだから。


「おや、嬢ちゃんもコッチにくるのかい?」

「槍を止めたな!! 『射貫け、蠢く矢群(ポロディアラ)』!!」

「ッ、チィ!! ソレは卑怯ってもんだろ!!」


 叫びながらその全てを突き切り薙ぎ落そうとして、不可能だと思い知り回避に回った。

 純粋な物量、最強たらしめる個を殺すのに最も適切な手段。


「『我が体躯よ、白銀の鎧を纏いたまえ。【麗しき銀鎧(シルバー・ナイツ)】』」


 だからこそ、お望み通り正面から突破しよう。

 アレは恐らく話を聞かない、話を聞くと言う行動をする以上に私へ警戒心を持っている。

 ソレこそ、殺すか殺されるかの二択しかない程には。

 ならば、お望み通り殺すしかない。


 銀剣が、もう一人の私と良く似た別人が。

 私と良く似た魂を持つ別人が、多用していた魔術を使う。

 複数の属性をブレンドし、絶妙なバランスで成立した銀の魔力鎧を着込む。

 そして、私の剣を納刀し一刀流で戦うことにした。

 私の戦い方を貫くのなら、二刀流でも構わない。

 だが、彼女の模倣をするのなら二刀流は使えない。

 正眼に構え、一気に魔力を剣に纏わせた。

 銀雷が発生し、全身が包まれる。

 普通は、複数の属性を混ぜ合わせれば事象飽和が発生する。

 制御不能の魔力の動き、一度撃って仕舞えばそれだけのモノ。

 だが、何事にも例外があるように特定の割合や本人の資質次第で事象飽和は発生せず別の物に転じる。


「惜しみは、しない。」


 一気に膨れ上がる魔力、吐き気すら催す。

 内臓を掻き回されている感覚だ、ただ初めて使うにしては上出来だろう。

 何せコレは。


「竜殺しの一撃か!! 物量には物量で、と言うことか。小癪な!! アンデット、ソレも執心に駆られたアンデットなぞにソレは過ぎた技だ!!」

「おっと、余所見は厳禁でっせ? 何せ、アッシの槍が貫くんでさぁ!!」

「チィ!! お前も!! 分かるだろう!! 悠久の時を生きるアンデットが!! 妄執に囚われたアンデットが!! 最終的にどうなるかなど!! 言葉にするまでもないだろう!!」

「だが、今は違う。」


 ポロアシンはそう言い放ち、槍を()()()

 彼は自分の得手物を投げたのだ、では誰に。

 飾弓に、スクレアイフに。

 かの槍は放たれ、そして弓を砕き。

 そのままに、スクレアイフは驚愕に顔を歪めたまま拳で貫かれる。


「悪いねぇ、アッシもあんな戦いを魅せられたら成長せざるを得ないんでさぁ?」


 私は、その言葉を聞かない。

 聞く暇がない、何故なら目の前から大量の矢が降り注いでいるから。


 剣を構える、息を吐く。

 魔力が奮い立ち、剣を媒介に魔力が直線上に発生する。

 竜の息吹、ドラゴンブレス。

 地上の最強種にして、種族としての最強。

 銀剣と言われた彼女は、その竜を倒した。

 どの様な手段を用いて? コレが答えだ。


 私の体内、此処こそが心象世界ではあるが深くは考えない。

 コレは理屈ではなく感覚の問題だ、だからこそ私以外では再現できないのだから。

 原則として、生物の体内は心象世界であり観測されていなければそこに未知が広がっている。

 故に、私の体内は私以外では定義できない。

 ではこの体内が人間と同じ構造であると誰が観測する? いいや、観測できるはずがない。

 この体を切り裂かなければ観測など不可能なのだから。


 だからこそ、こんな裏技がつかえる。


 私自身が、私自身の体内を竜の火袋と同じ構造として観測しその観測結果を魔力で強引に辻褄を合わせることで事実とする。

 理論上は、私は死なないし竜の息吹と同出力のナニカを放てるだろう。

 理論上は。

 だが、一体どこの誰が竜の火袋などを観測するのか?

 観測し、定義できる程度に知り尽くすのか?

 それだけが出来る人間がいるのか?


 いたのだ、少なくともそんな狂人が一人は。

 彼女は自らその超高音の火袋に飛び込みその構造を目視した、だからこそ彼女はオリジナルの魔術を作成し得た。

 

 【麗しき銀鎧(シルバー・ナイツ)】は、自分の体内を竜の火袋と同じにする魔術。

 その様に在れと、自分が定義する魔術に他ならず。

 そして、その火袋にギリギリの塩梅で構成された属性の塊を注ぎ込めばどうなるだろうか?


「【奪命の竜殺し(スクァート)】」


 彼女は名付けなかった技に、私は名付ける。

 彼女を象徴するその一撃に、この名前は相応しいと思いつつ。

 全ての矢を薙ぎ払う為だけに踏ん張り、そのまま。

 そして、仮想的にも内臓が変質した感覚に襲われ血反吐を吐いた。


「ハハ、勝てません……。ね?」


 正面戦闘なら論外、この攻撃は賭けでしかないしそもそも実戦的な物ではない。

 体内を変質させるために用いる魔力、その変質を成立させるための魔術に使う魔力、そして放射する攻撃の魔力。

 コレだけで魔力が底をついた、そして体内の構成全てが変質した関係で体の中の血管が千切れに千切れている。

 脳にも支障をきたしたか、意識が朦朧とし始めた。

 贖う様に、目を開けようとし……。

 あ……けよ…………う…………。

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