Deviance World Online ストーリー4『銀剣』
長老の家、その中に設置されているソファーに座り込んだレオトールと釣られて座るゾンビ一号。
反対には先ほどの長老が葉巻を吸いながらレオトールを見ている。
「やぁ、初めまして混ざり物。名前を聞こうか?」
「え、あ。はい、私の名前はゾンビ一号、です。」
「……? ??? ん?? どうやら、私も随分老いぼれたらしい。耳が正常に働かなくなったようだ、『伯牙』。」
「傭兵稼業は暫し辞めている、その言い方は辞めてもらおうか。」
長老の言葉に名前の訂正のみで返し、彼もしくは彼女の聞き間違いが間違いでないと暗に告げる。
ソレに対して意図を理解しきれず、オーバーヒートを起こし頭から煙を出し掛けている長老。
確かに真っ当な精神性を持っていれば凡そ人に名前をつけるときに『ゾンビ一号』などとする訳がない。
それが使い魔であれば、尚当然だ。
「ん、んん。よぉく分かった、キミの作り手は相当キミに愛着がないだろう?」
「いえ、滅茶苦茶有りましたよ。ね? レオトール。」
「どの程度かと聞かれれば分からんが、愛着はあるだろうよ。」
「ますます分からないのだが!? 凡そ人にゾンビ一号と名付け、そのまま放置する人間などこの世に何人いる!?」
久々の真っ当なツッコミに『ですよね!!』と言葉を続ける。
レオトールは少し視線を逸らし、名付けの時に反対しなかったことを悔やみつつ話をするように手で促す。
「いや、話を続けれるはずがないだろう!? レディの名前がこんな量産型の名前で良いはずがあるか!? いや、ない!!」
「感情を表にするとは珍しいな、そこまで気に障ったか?」
「当たり前だろう!! 名前というのは体を表す、それ一つで巨大な魔術を成立させ心象世界の概念としても組み込まれる類いのものだぞ!? ソレを識別番号見たく適当にするなど全く持って常識外れ、気狂い甚だしい!!」
「常識の違い、と言ったものだな。」
やれやれと手を広げつつ、どうでも良いだろうと言わんばかりに話を遮ろうとするその様子。
余にもあんまりな様子、そして前では絶対に見なかったであろうその感情の豊かさに一周回って可笑しくなったのか笑い始める。
そして、一頻り笑った後ゾンビ一号に長老は尋ねた。
「で、何を望み何を乞い此処に来た? ああ、本題に入るのにコレほど遅れることがあるものか。彼女の制作者には嫌味の二つや三つを告げねば気が済まん。」
「私の、望み……? どう言う意味ですか?」
「ん? 言葉通りの意味だ、此処に連れて来られる前に説明……。していないな? 伯牙、いやレオトール。」
「する訳ないだろう、そもそも私の時はそんな問いかけなど無かったろうに。」
呆れ、もしくは疑問を滲ませ告げられた言葉。
長老もその事に思い当たったのか、頭を掻きつつそうだったか? と尋ねる始末。
その状況を知り得ないゾンビ一号は、関わって良いものかと悩みながら口を噤んだ。
「そうか、そうだったなレオトール。確かに私は聖別しかしていない、確かにコレは手違いとも言える。だが今更こんな物を書くのも筋違いだな、よしキミは特例として考えておこう。今回の主役はキミだ、キミ。ゾンビ一号、キミの望みを答えなさい。」
「えっと、望み……? そ、そんなことを急に言われても私には特にコレと言ったものは無いのですが……。」
「ならば無自覚か、良い生娘じゃ無いかレオトール。私好みの愛らしい少女、エルフだったら食べていたぞ。」
「知るか、そんなこと。」
そう言い捨てつつ、現れた茶に魔力を通しながら飲む。
やんわりと暖かく美味いその茶を啜り満足げに頷きながら、眼光を光らせつつ。
「良い、良いな。聖別に足りうる、良い激情を持っている。」
「あの……、すみません。聖別ってなんでしょうか?」
「ん? ああ、説明していなかったな。聖別というのは我らエルフの秘奥にして最奥の原型、聖樹もしくは世界樹ユグドラシルの系譜に存在する樹液を摂取することだ。」
「……、なんか悪い効果とか有りません……?」
「ははは、此奴め。まぁ、負の効果など無い訳ではない。無論、多少気が優れなくなるやもしれん。だが、それは万物に通ずる話でもある。」
なんとも不安になる物言いでゾンビ一号に詰め寄り、そしてニコニコと笑いながらレオトールと同じく茶を差し出した。
不安になり乾いた口を潤すためそれを口に含み、嚥下するゾンビ一号。
同時に視界が暗転する。
「ふむ、面白い。これはーーーーー」
「こうなるか、なるほど。ゾンビ一号、気を張っておけよ? さもなくばーーーーーー」
不明瞭に二人の言葉が聞こえる、レオトールに支えられる感覚がある。
感覚は朦朧とし、意識は鮮明からかけ離れていく。
その中で彼女は手を上げようとし、レオトールに向かって手を伸ばし。
「覚悟しろ、そして問いかけろ。何を目的とし、何を望み、何を願うか。」
視界が完全に暗転する、魂が活発化する。
肉体より魂に重きを置く種族、魂が震え慟哭するがゆえに摩耗した精神が産声を上げた。
此よりは地獄、血、肉、骨
ーーーーーーーーそして死。
「贖うならば剣をとれ、恐れるならば盾を構えろ。大したことはない、ただ己が何者かを常に問いかけておけ。」
聖樹、もしくは世界樹ユグドラシル。
されど別の呼名もある、レオトールならばこちらの名前でその木の名を告げるだろう。
スカーレット、バイオレットの両名を関する巨木、世界を織りなす母なる木。
レイドボス、『心象織りなす世界樹木』
さて、この前提知識を得たうえで始めよう。
彼女の物語を。
*---*
私は何者か。
私は何物か。
私は、私の名前はーーーーーだ。
ああ、そうだ。
私は、私は!! 私の名前は!! 私自身は!! 私は!!
「おはようございます、っていうのも照れくさいな。今を生きている私?」
「……、あなたは誰ですか? 私とあなたは何の接点もないはずですが……。」
泥沼から起き上がったような感覚に捕らわれ、泥中で必死にもがいたような感覚の後。
私は、私を見下ろす人影を見た。
「私は私だ、といっても分からないか。」
わからない、わかるはずがない。
もしくは分かりたくない、想像もしたくない。
「こうして名乗るのは歯がゆいものだな?」
言うな、言うな、言うな。
言わないでほしい、言ってほしくない。
その言葉を言われたら、その名前を聞いたら。
「私の名前は、スクァート。グランド・アルビオン近衛三隊所属、またの別称は『銀剣』のスクァート。」
淡々と告げられるその言葉、思わず目を見開き剣を執ろうとし。
そして白銀の鎧に包まれた彼女にそれを防がれる、いとも容易く簡単に。
「死因は『征服王』及び彼に連なる一軍、傭兵団『伯牙』の団長である『伯牙』ことレオトールによって首を落とされたことだな。」
「何をふざけたことを!! お前は!! 私は貴女など知らない!!!」
「知らないはずがないだろう、じゃぁなんで私の剣術を扱い私の知識をもつ?」
言葉より先に剣が躍り、白銀の剣戟が緑銀の剣戟を制圧する。
私はまるで先を読まれるかのような動きによって、そのすべてを防がれた。
怒りのままに振るう剣は彼女に届き得ない。
「しかし死んだ後だからこそ分かるがあの傭兵、恐ろしく強いな。直接対面したときは責務や疲労で負けたと言い訳ができたが、正しく評価すればそんなモノ粉みじんに消え去った。」
「何が目的だ!! スクァート!! 私の心に巣食うな!!」
「目的も何もない、というより流れ的にユグドラシルの樹液をすすった結果心象世界に君が来たんじゃないか? むさ苦しい男が割合的に多かったから私と同じ女性が来たのは少しうれしいな。」
わかっていた、分かっている。
彼女は私だ、私は彼女だ。
彼女は私が誕生するときに集まった魂の欠片の内の一つだ、少し考えればわかる。
だから認められない、認めたくない。
じゃぁ、私は何なんだろうか?
「しかし私にしては随分しおらしいな、女性らしさが強調されているというか……。」
「何か文句があるんですか!?」
「あるだろう、私によく似た人間の喋り方が女らしいとなればな? 男勝りだ、男らしいなどとさんざん言われ続けた私だぞ? あー、私だって君のような振る舞いができればバージンで死なずに済んだかもしれないのに!!」
「そんなものですか……?」
若干困惑しながらそう言われ、私は困惑する。
果たして彼女は本当に私なのだろうか? 私なら絶対にこんなことを言わない。
そんな思いが出てきたからこそ、私は少し冷静になった。
「おや、落ち着いたな。これでようやく案内できる、他の奴らじゃ血の気が多くて先に手が出てそうだしそれ以上にあの傭兵に復讐心を未だ抱くヤツもいるからな。」
「復讐ですか?」
「ああ、記憶が蘇ったとき君も行っただろう? そもそも君の魂は何故成立したと思う?」
「ソレは黒狼の呪術というスキルによって……。」
その時、私は彼女の目を見た。
初めて、私は彼女の目を見た。
彼女の目は恐ろしいほどに澄んでいた、澄み渡っており。
その眼には間違いなく、私の醜さを映していた。
「言い訳をするのはやめろ、私の顔でそれを言われると殴りたくなる。君が成立したのは何故かわかっているんだろう? そう、答えはただ一つ。君はレオトールを殺すために作られた復讐鬼だ、それこそが君の本質でありあのスケルトンによって作られた魂の性質だ。」
否定など、出来るはずがない。
私自身が誰よりも自覚している、私の中には確かにその復讐心があった。
間違いなく、私は彼に対する復讐心がある。
私は、私は間違いなく。
私は間違いなく、彼を。
レオトールを殺すための、レオトールを殺そうとするだけのーーー
「だけど、それがすべてじゃない。」
え? と。
言葉をこぼしかけ、同時に納得する。
だからこそ揺れ動く、私の心が揺れ動きそして疑問符が頭を埋め尽くす。
彼女は、何を言いたいのかと。
「君は何のために生まれ、何のために生きているか。」
ああ、と。
動揺していた心に、珍しくストンと落ちた。
何のために生まれ、全ては彼のために。
黒狼を守るために私は作成され……。
何のために生きて、全ては彼のために。
黒狼を守る道具として私は生きる。
それが私だ、ゾンビ一号という生き物だ。
彼の道具として生まれ、人間として間違った精神を持ち生きている私だ。
「ふふ、いい目をし始めたじゃないか? 流石、もう一人の私とでもいうべき存在だ。」
彼女の目は、どこまでもどこまでも澄んでいた。
輝かしいほどに、嫉み狂おしいほどに。
私の目とは正反対に、輝かしく世界を見ていた。
「これが、この目がいいとでもいうつもりですか? スクァート。」
「ああ、素晴らしい目じゃないか。誰か一人に執心し、恋焦がれた嫉妬の目だ。どこまでもどこまでも純粋な目じゃないか、それがどれほど素晴らしいか。君も知っているだろう? ゾンビ一号。」
「ハハ、私には到底何も。」
わからない、分からないとも。
知っているはずがない、知っているわけがない。
私はまだ生まれたばかりだ、私はまだ誕生したばかりだ。
だからこそ、私は。
あらゆる手段を用いて……、知らなければならない。
「いいや、まさか。知らないはずがない、その眼をした人間を知っている。君はその眼をした人物を見てきた、だから君もその答えにたどり着く。」
あらゆる手段、あらゆる尊厳、あらゆる叡智。
私を構成する骨子、私も知りえない私自身。
この目をした人間は、何を望み何を信念としている?
ああ、なるほど。
つまりは、そういうことですよね? スクァート。
「この心象は君の信念を具現化したもの、君の軋む魂の軋轢を正そうとする。ただそれだけのために発生した君自身の本心、ここから先は信念を以て進むといい。それこそ、彼の傭兵が言う通り。」
覚悟し、そして問いかけ。
私は何を目的とし、何を望み、何を願うかを以て。
私の信念を成す。
「……先ほどは剣を構えてすみませんでした、スクァート。」
「いいや、構わないとも。君の立場であれば私もそうしたかもしれない話だ、それに私は私を許せないほど自分に対して厳しくはない。」
「そうですか? いえ、そうですよね。確かに、私ならそういう。」
ふと、足元を見る。
ふと、手元を見る。
そして、彼女を見る。
「私は、私の覚悟を。私の成すべきもののために、すべてを捨てましょう。」
「ソレがいい、そうするといいゾンビ一号。なら、次にいう言葉は決まっているな?」
ああ、決まっている。
この先に進むのなら、私は私の信念以外を破棄し。
そして彼のために、全てを手にしよう。
「心の底より、過去に生きた人間であるあなたに敬服しそして希います。」
「その願いは何だい? 君の信念をぜひとも聞かせてくれ。」
「ーーー、貴方の持ちうるすべての技能、全ての叡智、全ての尊厳。貴方を成立させうる全てを寄越せ、そのすべては私のものだ。」
ああ、清々する。
一切の濁りない瞳を持つ彼女に、こんな言葉を突き付けられることに快楽を感じる。
美しく、完成された。
守るために、祖国を守るために戦った美しく尊敬すべき彼女にこの言葉を突き付けられるのはどれほど罪深いのだろう。
どれほど醜く、悍ましいのだろう。
そして、そんな私はいったいどれほど。
彼のために何をささげられるのだろう?
「ああ、もちろんだとも。持っていくといい、このグランド・アルビオン最高峰とまで言われた【銀剣】の全てを!! この剣技を、この知識を、この魔力を!! それこそが私にできる最後の仕事だからな。」
案外あっさりと、彼女はそう言い捨てそして塵となって消えた。
あっさりと、意外なほどに簡単に。
ザ、カラン……。
同時に地面に落ちたのは彼女の象徴だ。
彼女が用い戦ったその剣だ。
私は、それを静かに広いそしてもう片方の手で私の剣を握る。
「二刀流、いいですね。彼の模倣でしかないですが、それでもどこか近づいた気がする。」
私はそう言い、剣を構えると。
襲い掛かってきた矢を、剣で切り落とした。
さて、皆さん覚えていますか?
64話、サブタイトルは『記憶』
そこで思い出した彼女の記憶の断片を。
そういう訳で、レオトールとゾンビ一号の過去編です。
彼の強さとゾンビ一号がどういった存在なのかを是非是非お楽しみください。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレからのレオトールとゾンビ一号の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




