Deviance World Online ストーリー4『イベント終了、そして……』
攻撃を発した瞬間、ゾンビ一号の魂が体に戻される。
いや意図的に解除したというべきか? どちらにせよ、結果は変わらない。
肉体に強制的に戻されたゾンビ一号は、即座に剣をつかみ泥にまみれた状態で飛び上がる。
「『ステップ』」
地面を駆ける、走りぬく。
一気にヒュドラの喉元まで到達する、目的はただ一つ。
先ほどの攻撃によって逸らした意識、その意識がこちらに向くまでに。
この変質した腕による攻撃をヒットさせる、それだけが目的であり最善の行動だ。
変質した腕、死の神の権能をまとったソレ。
さすがに死の塊ともいえるヒュドラでも、見逃すはずはない。
再度存在感を発生させ、迫りくる。
その事実を捉え、即座に行動を開始した。
体を動かし、ブレスを放つためにエネルギーを口にためる。
大型の竜だった状態に対して現在は小型の竜、その連射速度は大きく下がっているが……。
それでもなお、その驚異的な威力は健在。
真正面から食らえば毒など関係なしで蹂躙されること、間違いなしだろう。
「『枯れた女の手』」
だが、その攻撃が届くことは決してない。
小型化し、攻撃の発生速度が下がったことによる弊害が諸に出たということだろう。
先に、ゾンビ一号の攻撃がヒュドラに届く。
届いた、届いたのだ。
一気にゾンビ一号の手が変質し、覆うように存在していた不定形で原形質の塊が消え去り枯れた女の手となる。
現れた女の手、其処からゾンビ一号のものではない黒色の魔力が発生し彼女の激情を彩る。
彩りなき色彩、黒により生まれる彩。
彼女の忠誠心によく似た道具としての願望、製造目的と言い換えられるソレ。
その精神性は成熟した女性とも、幼稚な幼子ともいえるだろう。
すくなくとも、製造目的への純粋さは幼さが残る童女そのものだ。
ーー死んでもいい使い捨てとして作られた、道具であるがゆえに。
彼女が魅入られた深淵の神、形なき神はだからこそ彼女に見入った。
死のそばで歩く神、死に付きまとう神。
そんな神は死に臨まれたように作られ、死を望まれずに生きている彼女を見入った。
ある意味当然とも、必然ともういえる話だ。
だがこれは彼女を構成する情熱、彼女の精神性を代表する矛盾。
いまはこれを語るべきではない、今は語るタイミングではない。
だから諸々の事情をすべて無視し、彼女に目をかけている深淵の神の権能だけを説明しよう。
その権能の本質はただの安らかな死、そこに攻撃性も即死性もない。
死として付き纏い続けるだけの性質、動的な死とは方向性が異なる絶死。
その攻撃をゾンビ一号はヒュドラに与えた。
変化はない、ヒュドラに明確な変化は発生しない。
ただ苦しむように、口を開け口から唾を吐き出し焦点の合わない目で周囲を見渡す。
攻撃性のない絶死の攻撃、それは臨死体験である。
自分の死を認識し、その極限の恐怖を得て死を身近に感じなおす。
「どうです? 怖いでしょう? 死の影というものは。」
ニヤリと挑戦的に微笑み、そしてその恐怖が残る体にゾンビ一号は追撃を掛ける。
彼女はこの中で攻撃力が最も高いが、その反面で最も攻撃性能が低い。
だからこそ、鱗という最硬の部位を破壊することに専念しそれを着実にこなすために死の恐怖を見せた。
剣による斬撃、四肢を用いた打撃によって鱗を砕く。
砕き砕き砕く、すべては勝利のために。
すべては黒狼のために。
「これで、残り四分の一!! 喰らえ、『エクスカリバー』!!!」
アルトリウスの攻撃が直撃し、溢れ出た血液を『吸血』スキルで吸収することで防御力を増したゾンビ一号が接近。
小型化したとはいえ未だ大型重機並みの大きさがあるその恵体、その鱗を破壊するために接近すればダメージを食らうことは覚悟しなければならない。
そのダメージを軽減するのならば、すべてを彼女は利用する。
「『我が血流は朽ち果てど』」
剣に血を纏わせドス黒い魔力を形成、魔術を展開する。
アンデッドとしての特性を利用し使いつぶす、必ず勝つという覚悟を以て天秤に命運を託す。
「『我が決意、消えること無し!! 【ザー・ブラトブリューム】』」
剣を叩きつけ、魔力を爆発させる。
展開されていた魔法陣は変質し、回転しながら鱗を穿つ。
彼女の頬に何条もの血が線を引く、口角が上がり手ごたえを感じる。
瞬間足で肉を蹴りつけ、その反動で剣を抜く。
「『エクスカリバー』!!!」
その反動で飛びぬいた途端、襲い掛かるは準古代兵器の光の本流。
愚かしく愚直に清く正しく光穿つ、最強の流星とでも比喩しようか?
未だ成長し膨れ上がりつづけるその極光は、慈悲深く命を削る。
「ッ、再生が始まりましたか!? HPバーが大きく回復し始めている!! およそこれで1分経過、長期戦にもつれ込めば……。」
「……、申し訳ない。未熟な僕ではこの局面で化け物を倒しきる手段がない、だから。」
「フッ、なるほど。つまり時間稼ぎですね、わかりました。」
「どれぐらい、耐えられる? 君は。」
背後に飛びながら、毒液によって完成された泥の中で彼女は飛沫を上げる。
そして地面に剣を突き刺しながら、その勢いを軽減しそして呆れと自信を交えためで挑発的にヒュドラを望み。
一言、口にする。
「一体、誰に物申しているのですか? 望むならばいくらでも、どれだけでも稼いで見せましょう。」
もとより、その実力はアルトリウスをはるかに上回るもの。
攻撃性で大きく劣ってはいるが、それは彼の準古代兵器というオーパーツによって発生する極光と比べればの話でしかない。
そもそも彼女の製造目的は、誰かを守るため。
もとより、防衛戦は彼女の得意分野だ。
「『騎士の誇り』」
そっと告げた言葉、再度視線は集中しヒュドラは即座にブレスを放つ。
回避しか手立てはない、それ以外の手段があるのならば神に祈り死を乞うことだろう。
そんな絶対死が満ち溢れる領域、だが死者でしかない彼女にとってはこれは。
微温湯と大差なし。
さすがに正面から吹き荒れる絶死の毒息吹を受ければ、彼女も二度目の死は免れない。
ただし、正面から受けるのならば。
正々堂々の言葉は遠の昔に奪われた、王道外道何のその。
勝つための意思は彼に魅せられ、勝つための方法は彼に刻まれた。
傷物の体は忠臣としての願いのみ。
「『此れは、道を拓く戦いである』!!!」
言葉とともに、聖剣が煌めく。
アルトリウスとしてではなく、騎士王として。
人に勝利をもたらさんため、願い叫ぶ一人の王として。
聖剣を煌めかせ、声高らかに叫ぶ。
(規模が桁違いです、異邦とは言えあれだけの無秩序がまかり通るのですか。あれだけの出力を出せばレイドボスコールが発生してもおかしくないでしょうに。)
それは環境を作成し塗り替える絶技、もしくは超越技。
それすら余波でしかない、聖剣から漏れ出る属性が環境を塗り替えている。
ある意味、ヒュドラと似たようなことをやっているわけであり。
それに対してのゾンビ一号の感想は正しく、その驚きは正解だ。
だがその驚きは、其処まで大きく露呈しない。
というか、この程度で驚いていればあの規格外に対してどうやって言葉を形容すればいいのだろうか?
「『極剣一閃』、ブレスの回避は容易ですが。それでも険しいところが、ありますねッ!! クソめ!!」
斬撃のエフェクト、それをヒュドラの首にヒットさせ意識をさらに向けさせる。
背後というほど後ろではない場所に存在するアルトリウス、彼から放出させられる魔力は全体的に鈍いヒュドラでも刺激してしまう。
だが所詮は蛇、目の前に存在する敵を本能は無視することができない。
「『此れは、胸に刻む戦いである』!!」
炉心が燃え上がり、敵に牙を向けるばかりの極光がアルトリウスの全身を覆い輝光の鎧を形成する。
偉大な相手というものは輝いて見えるものだ、古事記にも記載されている。
輝きの中心で剣を掲げ、静かに目を閉じる。
「『故に、我が名を以て命ずる』」
地面が蝕まれ、光の大地があらわになる。
死の呪いすらすべて除去し、一片の穢れなき美しき台地があらわになった。
それは騎士王がもたらす平和、もしくはそれに近しい希望の大地。
浄化でもあり奇跡でもある、すなわち騎士王の望みでもある。
「『万象照らし光輝く極光、我らが円卓の騎士たちよ』」
光が収束し騎士王の慈悲は無慈悲でもある最強を降臨させる、目を開き白銀に揺らめく両目を見開く。
そして残る言葉を一気に吐き綴った、騎士王の言葉として。
「『今ここに、救世の極光を解き放て。【麗しく在れ、優懇の極光よ】』」
聖剣は、光を輝かせ極光を放出しようと蠢いた。
前方でその予兆を察知したゾンビ一号は即座に回避技能を振って、回避を行う。
地べたに張って、打ち放たれた極光を見る。
恐ろしい話でもあり、笑える話でもある。
自分よりはるかに格下の存在、弱者にすぎぬ異邦の旅人が放つ一撃は。
毒を身に纏った九頭竜を、無限に思える再生を誇る竜を討ち果たしたのだ。
自分が守る必要はあったのか? そういいたくなる一撃を見て彼を嘲笑し、己を嘲笑う。
そんな思考は現実逃避なのだろう、この成果は己だけで成しえない以上黒狼の期待に応えたとは言えない。
だが、そのためだけに死ぬのは論外だ。
騎士王の極光は、すべてを焼き焦がし浄化する。
奇跡の一撃、希望の導。
暗黒の天にある一等星のように、すべてを等しく照らし焦がし称える。
其は、人の抱く希望。
正義と名を打つ奇跡の架け橋、まさしく騎士道そのもの。
故に、その極光はヒュドラの首を討ち果たし。
「さすがの僕でも、短時間で二回も放ったのはきつかったかな……? 後は頼みました、止めは任せます。」
その言葉とともに、アルトリウスも死亡する。
それを軽く眺めたゾンビ一号は、ゆっくりと頭部を失た死体に近づき剣を掲げて一つのスキルとともに振った。
「『解体』」
パーセンテージにして僅か0.1%、その微量のHPを彼女は削り切り。
このレイドバトルに終止符を打った。
<--隠しイベントボス、およびレイドボスーー>
<ーー『毒九頭竜』、討伐されましたーー>
<ーー此れを以て、該当イベントの全レイド級およびレイドボスが討伐されましたーー>
<ーーメッセージが公開されますーー>
<ーー『おめでとう、プレイヤー諸君。君たちの奮闘、君たちの激闘を我々DWO運営一同は称えよう』ーー>
<ーー個別報酬が送られます、イベントポイントの清算は終了後現実時間で一週間が期限ですーー>
<ーー良き、残り時間をお過ごしくださいーー>
そのアナウンスが流れたとともにゾンビ一号は肩を下ろし、そして近づいてくる二人に視線を向ける。
村正とモルガンだ。
彼女らは敵意がないことを示すようにしながら接近してくる、それに対してゾンビ一号は剣を構えつつ質問を問いかける。
「さて、黒狼との関係性を教えてくれませんか? 場合によっては……、その命がなくなることを覚悟してください。」
冷徹に告げられたその言葉には、先ほどまでの戦闘の疲れを感じさせない冷やかさがあった。
それこそ、背筋が凍るほどの。
*---*
ーー時間は少し遡り、イベントが始まってから現実世界換算で一日。
この世界で正確に三日が経過した時点の話となるーー
暗黒の中を歩く一つの足音と、二つの気配があった。
彼らは、その暗黒の中を歩きとある地点についた途端立ち止まる。
「ほぉ、ここで一戦交えたいところだったが……。」
闇が濃くなるように、最初からそこに存在していたかのように。
傭兵の喉元に刃が突きだされていた。
「流石にこれは分が悪すぎる、並大抵のレイドボスでは今の私でも負ける気はせんが……。貴様に勝ろうとするのであれば万全も万全の状態でも怪しい所だ。」
挑発、同時に悲観の言葉を告げそのまま後ろに飛び退く。
そのまま闇へ焦点を合わせなおすと、其処にはいたって普通にそのままに。
黒鎧を着た一人の騎士が、堂々と存在していた。
「下がっておけ、此奴の殺気を直で浴びれば一度だ。体が竦み、震え上がるだろう。」
「で、ですが……!!」
「言っているだろう、下がれと。万全には程遠く剣を握れば骨が折れるこの体躯でも、お前よりは強い。」
怒気を滲ませながら告げる言葉、其処にどれほどの真剣さが含まれているのかを察した彼女は大人しく引き下がる。
そして一切視線を外さず、睨みつけるように騎士を捉えている傭兵は軽く息を吐き攻撃する意思がないことを見せつけた。
「この通りだ、敵意はない。最も、攻撃されなければな?」
「……、何の用だ? 傭兵。」
「力試し、と勇んできたがこの通り。今の私では到底勝てそうにない、見ればわかろう話だろう?」
「痴れ事を、有象無象ならばともかく水晶の担い手。何より、英傑であるヘラクレスを殺した猛者が勝てそうにない? 死に際で盤上をひっくり返すのが貴様らの常だろう?」
その言葉に傭兵は微笑み、挑戦的な顔をする。
もし言葉を発して入れば彼のセリフはきっと黒騎士を煽る言葉となるだろう。
半面、黒騎士は寡黙ではあるが分かりやすく怒りの視線を向けていた。
「無駄な問答は意味がない、そうじゃないか? 名を明かさぬ騎士よ。にしても、大層な嘘を吐くものだ、レベルが128? 進化回数の間違いではないのか? クックック。」
「あの時点の、あの骸では大差なかろう。到底倒しえない強大な敵という意味では大きな差はない、それに……。それにだ、己が経験を積むのも肉体が変生するのも。幾度となく重ねればそれらは誤差にすぎん、貴様こそ体現者であろうに。」
「どうだかな? 生憎、私は過去を振り返るのを好まない故。」
一触即発の空気、飄々と黒騎士の威圧を受け流す傭兵だったがそれでも脂汗が浮き上がっている。
その脂汗の量に比例するように、黒騎士は昏き眼孔から傭兵を睨みつけていた。
ただそれ以外は酷く落ち着いたものだ、どちらも大層な自信があるらしい。
剣が振るわれた後でも、相手の首を落とせるという自信が。
「さて、無駄な喋りは終わりだ。名もなき騎士? 最も重要な話をしたい、用件はわかるだろう?」
「準古代兵器か? 欲しければくれてやる、私を倒せればな。」
「その程度のことで私が来ると思うか? その先だ、私が尋ねているのはその先のことだ。」
「なればそれがすべてであり答えであろう、傭兵。」
周囲の空気が震えだし、洞窟に存在する鍾乳石が落ちた。
魔力が発せられ、神話の戦いの再演に世界が震えているのだ。
少なくとも、それほどまでに互いは規格外であるがゆえに。
「胡麻化すのは止せ、神話の生き残り。準古代兵器などという高が程度の知れるものを守るためにそこにいる訳でないことぐらい、馬鹿でも察しが付く。この先に何がある、答えろ。少なくとも貴様の責務としてそれは存在するぞ?」
「聞きたくば英雄の王にでも聞け、彼の王であればすべてを知り得直しただろう。」
「それでは意味がない、あの英傑は対話の及ばぬ埒外の不条理だ。ただ歩き気紛れですべてを塵殺する存在だ、そんなモノに人の尺度の答えなど出せるはずがなかろう。」
その答えは黒騎士にも響いたのか少し黙り、視線を落とす。
一理ある、そう言いたげな様子だ。
だがそれでも傭兵に向けての殺気は微塵も弱っていない。
「傭兵、貴様は己をどう考える? 貴様は人か? それとも魔物か? もしくは化け物か?」
「少なくとも私は俺を人と定義する。この五体があり、この血脈が体躯に巡る限り。我が肉体から魂が零れ落ちぬ限り、私は人間だ。」
「なれば此処を大人しく引き下がれ、貴様にはこの先を知る資格は在れどこの先へ行く資格はない。付け加えるならば過去に生きたモノとして、この先へ行ってほしくないとも付け加えよう。」
「そうか、では先人の願いに応えるとしよう。だが忘れるな、その願いがただの傲慢であればその首即座に切り落とす。そうされても文句は言えまい?」
それだけ告げるとレオトールは黒騎士に背を向け歩く。
彼の背後で再度、黒騎士は闇に溶けて消えた。
今戦えば彼は確実に敗北するだろう、体を蝕むデバフは今現在も彼の骨を砕き続けている。
そしてたとえ万全であっても敗北を弄する可能性は依然高い。
それほどの難敵との対話を終えたレオトールはため息を吐いた。
一章中編終了!!
な訳ないんですよね、コレが。
はい、一章中編後半ということで次回からレオトールとゾンビ一号が黒狼のイベント終了までどのような経過をたどっていたのかを主軸とした話になります。
さて久々のあのキャラの再登場です、そう黒騎士です。
ついでにレオトールも再登場としては久しぶりでしょうか?
作中でも最強核たちの対話、震えますねぇ。
では引き続きお楽しみください。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




