Deviance World Online ストーリー4『形なき神』
ゾンビ一号が首を切り裂いた後、わずか数十秒後。
彼女が胴体に到達した瞬間に全ての首が破壊された。
それをみて、ゾンビ一号は少し目をそらしアルトリウスを眺めそして諦める。
(このままでは『グランド・アルビオン』は滅びそうですね、異邦人に多少の期待を抱いてはいましたがこのままでは。幾度となく復活でき、即時の情報伝達ができるとはいえ……。そのメリットが息をしないほどに騎士も異邦人も弱い。)
その感想とともに恐れを抱きながら流石はレオトールと心の中でつぶやく。
基本的にこの世界ではプレイヤーは弱い、強いといわれるNPC相手ではまずまず相手にならないほどに。
その感想を抱くのはゾンビ一号にとって、当然の帰路だった。
「『吸血』『深淵:形なき神』」
静かに告げられた言葉、発動したスキルは彼女をワンランク上位の存在へ押し上げる。
ヒュドラから吸い取った血液、それが粘着質なスライムのように変化し右腕を融解させ大きく流動した。
その腕は静かに波打ちながら存在し、ゾンビ一号の目は暗く光る。
形なき神、その性質はいまだこの世界で発見されていない。
判明しているのは深淵スキルから派生している関係上、彼女の知りえた話が事実ならば深淵という領域に潜む神であるという事実のみ。
『深淵』スキル、古くから謎が多くまた暴けない謎によって包まれている普遍的に広がっている未知のスキル。
「『死は傍に』」
静かに短くはなった言葉、それはスキルではなくこの形態になったことで可能となるアーツに他ならない。
短く言い放たれた言葉は、黒狼の『第一の太陽』と異なる方向性の原初の恐怖を。
すなわち、死の恐怖を呼び起こさせた。
もうすでに胴体しか存在しないヒュドラが、全身から血液を吹き出しながら怯え背後に逃げるように動く。
あまりにも哀れで無慈悲で、そして傍に在るだけの死の恐怖を感じ狂えるほどに悍ましい恐怖を感じたのだ。
「貴方の弱点はもうすでに知っています、毒九頭竜。もしくは、この新たな人生で対峙した二体目のヒュドラ。過去の私であれば逃げることしかできなかったでしょうが、この限界近い身であれば殺すことも容易でしょう。精々、彼の礎となってください。」
その言葉は、ただの宣言だった。
殺すという明確な意思を持った宣言だった。
地面に足が降れる、死の女神が降臨する。
彼女が地面に降り立った瞬間に、泥が飛び散った。
「『極剣一閃』」
飛び上がるとともに、極剣が振るわれる。
レオトールから教わった最強の絶技……、ではない。
最強の絶技なぞあるわけがない、極めた剣を一振りするというだけのアーツが最強であるはずがない。
それを最強たら占めるのは、使い手の技量だ。
彼女の極剣は、ヒュドラの肉に深く刺さる。
何度も重複し、連続的に発生する斬撃属性のエフェクト。
それにより再度血液が溢れ出す、其処に一気に飛び込むと彼女は変化していないほうの腕で絶技を放つ。
「『八極拳』改め、『絶技:斬掌底』」
魔力が掌底から発生し、魔力がヒュドラの体内に広がった。
その魔力が広がり切った途端、ヒュドラの体内が切れ始める。
蠢いた、ヒュドラが体内を切り裂かれたということで。
その魔力を拒むように蠢いた。
「繭の状態なのでしょう? 早く変態してください。『シルバー・ラッシュ』」
銀のエフェクトが発生し、ゾンビ一号の拳が叩き込まれる。
その速度は驚愕に値するほどに早く、まるで横に降り注ぐ銀の雨あられだった。
その拳は切り裂かれた部分を無視し、強固な鱗を叩き壊している。
なぜ? その疑問は即座に解決される。
スキル効果時間が終了し銀のエフェクトが終了した途端、ゾンビ一号は上に飛び上がりその真下には一筋の極光が訪れる。
「『エクスカリバー』ッッッツツ!!!!」
ゾンビ一号が鱗を何故壊したのか? それはアルトリウスの攻撃をヒュドラに通用させるため。
聖剣の極光、その攻撃は鱗を貫通することはできない。
だが彼女が鱗を破壊していればどうだろうか? 勿論、それならばヒュドラにエクスカリバーを通用させることができる。
「さすが、騎士王といわれるだけの異邦人ですね。」
ゾンビ一号はニヤリと笑った、その準古代兵器の有用さを認知して。
運が良ければその剣を強奪することも視野に入れ、変質した腕でヒュドラに向かって魔力を向ける。
その腕は死の神を宿している、だが同時にソレは死を強制するものではない。
本質的には即死攻撃となり弱者では贖えない死を発露するだろうその右腕、だが死の概念を帯びている九頭竜にはさすがに通用しない。
だが、無駄や無意味と説くのならばそれは意味が異なる。
彼女は己が深淵に見入られたからこそその能力が使えるようになった。
意図的ではないにしろ、彼女は黒狼と同じく深淵の力を扱うこととなったのだ。
「そこの御仁、助太刀する。」
「再度言います、簡単には死なないように。相手は強敵では言い表せない難敵、レイドボスですよ。」
「『エクスカリバー』!! 同じ轍は二度も踏みはしないさ、それとも弱者らしく逃げろとでも? 僕は、僕だけでも勝つよ。このレイドボスに、ね。」
「口だけではないことを、期待しますね? 『騎士の誇り』!!」
喉無き、声帯無き身でありながら吠える。
その怒りをゾンビ一号に向け、己を鼓舞すかのように。
瞬間、毒血が吹き上がりゾンビ一号を狙い撃ちする。
だがその攻撃はアクロバティックに空中を舞うゾンビ一号に回避され、そのままエクスカリバーがヒュドラの体躯に突き刺さった。
成す術ない、そのままに蹂躙している。
先ほどとは一転し、攻める二人の姿は無軌道を描くように動きあい互いの足りないところを補う様子は今この瞬間に結成したコンビとは思えない。
実際はそんなにコンビネーションがあるという話でもないが、相手の図体が大きかったのが功をなしたというべきだろうか?
とはいえ、そんな事実など関係ない。
今最も重視されるべき事象は、二人の連携が素晴らしく良いという事実のみ。
「『ファイアーレイン』」
言葉と同時に炎が乱舞する、魔術師のように炎を自在に扱い炎の雨を叩きつける。
そのまま炎の槍を作成すると発射し、そのまま背負っていた弓を手に取る。
息を吐く音、同時に光の矢が生成され指が離された。
飛んでいく矢、スキルもアーツも用いられていないのにその矢は飛び行く中で岩に変化した。
魔力の属性、それを土属性で放ったからこそこのような変化が発生したのだ。
驚くべき効果、と言いたいところだがこの効果自体は別段特別なものではない。
いや、プレイヤーならば扱える人員は酷く少なく唯一といってもいい使用者がモルガンである現状。
だが、NPCであればそれは一般的な技能とされている。
攻撃が突き刺さる、矢に込められた魔力が活性化し岩となった矢がヒュドラに深く突き刺さった。
だが、その攻撃の感触を得たゾンビ一号は攻撃をやめ弓を背負いなおすと離脱を開始した。
「ここまで、ですか。」
「どうした急に攻撃をやめて!?」
「一旦、退くといいですよ!! なにせ……。」
言葉を言い切る前に、ヒュドラは爆発四散しHPは完全に半分を切った。
変態もしくは最終形態ともいえるだろう、血肉の中から最終形態のヒュドラが現れたのだ。
その姿は九頭竜とは到底言えない異形だ、臓物からなり何かに変化しようとしているような四足のトカゲだった。
まともな精神を持つ存在だったらそれを直視しようとは思わない化け物、五臓六腑が絡み合いその上から半端に鱗で覆われており血が流れだすただのトカゲ。
だが、其処で戦う二人はひしひしと感じていた。
ーー目の前の存在は死を具現化した存在であると。
もしアルトリウスが、もしゾンビ一号が『鑑定』スキルでこのヒュドラを鑑定すれば以下の情報が見れるだろう。
レイドボスにふさわしい、最終形態のヒュドラのステータスを。
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*ステータス*
名前:(なし) Lv.63
性別:オス
種族:ヒュドラ
生命力:2435/4870
魔力:4250/5680
STR:1210(+428)
VIT:1820(-131)
DEX:718(+221)
AGI:821(+318)
INT:721(+121)
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スキルに関しては省略するが、そのすべてのステータスは軒並み高く脅威的といっても過言ではないだろう。
いや、むしろこれでも謙遜していると言い換えていいかもしれない。
生命力と魔力を省いたすべてのステータスの合計値は何と驚愕の5289、ステータスだけを見ればアルトリウスの5倍程度は強い。
しかもそれだけではない、多量のスキルやバフによってステータスは増強され成長している今も徐々にその数は増えている。
しかもそれだけではない、ステータスの高さはさることながらそれだけがこの九頭竜の恐ろしいところではない。
ヒュドラの毒は死の概念を含むものだ、そう言ったのを覚えているだろうか?
死の概念を含み、摂取すれば完全な状態異常に対する耐性を保有する黒狼ですら死にかける猛毒。
それがヒュドラの猛毒だと思い出しただろうか? 思い出したのならばよい。
ではその毒を保有するヒュドラはどうやって死の概念から免れているのだろうか?
毒には毒を? いやいやまさか。
そんな要地で稚拙な理論が通用すると思っているのならば滑稽極まりなく愚か甚だしい。
答えは単純明快に、簡単だ。
異常な再生能力、それはヒュドラが正の概念を帯びているからに他ならない。
ならばヒュドラを殺すには、その生を否定するほどの濃厚で絶対的な死を与えなければならないわけであり。
同時に生半可な存在が即死する毒を生み出す化け物を殺すほどの死を与えるなど不可能とも思える話でもある。
勝ち目がない、そう思わせる絶望感を普通ならば持ち合わせるだろう。
普通ならばここであきらめるのが通りというものだ、そう普通ならば。
「ようやく、決戦ですか。」
「怖気ず来ましたか? あの異形に。」
「まさか、むしろ奮い立ちますよ。僕にとって、アレは越えられる壁だ。」
「大口をたたくものです、それに見合う活躍を願いますよ?」
ここにいるのはプレイヤー最強と、死そのものだ。
であれば、どこに勝てない道理があるのだろうか? いやある訳がない。
黒狼が繋いだか細い勝ち目は明確に、ここで花開く。
「『孤高にて』」
GoooooOOOOOOOOOAAAAAAAAAA!!!!!!!!!
「『エクスカリバー』」
ゾンビ一号は自己強化を行い、ヒュドラは叫びながら一気に上空へ飛び上がる。
それに対してアルトリウスは聖剣で飛び上がるヒュドラを牽制した。
牽制されたヒュドラはそれを巧みに回避し、だが地面に再度降り立つ。
変態したばかりで翼を正しく扱えていないといえるだろう、だが戦いは三次元に移行するという話は想像以上に厄介なことだ。
「『活路を開く』ッ!!!」
だからこそ、そんな事をさせないとばかりにゾンビ一号がスキルにてヒュドラの行動を阻害し一気に接近した。
剣を翼の付け根に突き立てようとし、真横に転がることで回避される。
その回転により泥が飛び散り、視界が封鎖され。
だが反対から襲い掛かる極光に対処できず、飛び散った泥ごと聖剣に吹き飛ばされる。
その吹き飛んだ先にはゾンビ一号がおり、彼女は剣を構えるとそのままヒュドラに剣を突き立てた。
鱗ごと破壊し体内深くにまで腕ごと剣を突き刺す。
「『スラッシュ』!!」
そしてスキルの発動とともに剣を引き抜き、そのまま背後に飛びのく。
いや、飛びのこうとしたが正解だろうか。
背後に飛んだ瞬間、其処を狙いすましたかのようにヒュドラの羽で彼女は弾かれ地面を転がる。
地面を転がりながら起き上がり、顔を上げて気付く。
目の前でヒュドラがブレスを放つとしていることに。
「『グランド・ウォール』!! 『ピット・フォール』!!」
魔法の壁を形成し、同時に穴も作成する。
一瞬の時間稼ぎにもならないと判断したが故の行動、穴に飛び込み壁を突き破って放たれたブレスを回避した。
頭上でヒュドラのブレスが突き刺さり、その毒液が穴に流れ込むのを見て青ざめた。
(遅かれ早かれココに毒が満ちる、変質した腕の関係もあり耐えられはするけど……。)
その前に周囲の地形が壊れ、生き埋めになる。
さすがのゾンビ一号といえど、土葬は嫌な話だ。
それに戦闘中であるのにそんな悠長なことを言っている場合ではない、だが飛び上がればそこはヒュドラのブレスの真っただ中。
一瞬の迷い、そしてスキルを選択する。
「『幽体離脱』」
肉体から力が抜け、意識のみの状態になる。
事実上のゴースト、というわけだ。
これでは物理攻撃は通用しない、深淵スキルで死の概念も通用しない。
そして魔法攻撃は肉体を必要としない、これでゾンビ一号は事実上の自由を獲得した。
「『赤は火炎、青は流水、黄は土砂、緑は風雷』」
一旦の安全を確保したのならば、やることはただ一つ。
最大火力を放出すること。
それこそがここでできうる最善である、と判断した。
アルトリウスはヒュドラのブレスが届かない一からエクスカリバーを放とうとしているのを魔力視で確認しつつ魔力を練り上げる。
彼の攻撃はヒュドラの装甲で大半が防がれてしまう、長時間の溜があればエクスカリバーでも通用するがそれだけの時間はまだ存在しない。
また当然、それだけの時間をかければヒュドラの攻撃がアルトリウスに向き大ダメージが発生する。
「『絡み絡み離れ崩れ、四大を以て一極を織り成す』」
ヒュドラのブレスが終わり、攻撃対象がアルトリウスに向く。
翼を用いた急加速、一気に接近しアルトリウスを噛み殺そうとし。
「『エクスカリバー』!!」
その口に向かって聖剣の一撃を見舞う。
極光の攻撃はヒュドラの口を焼き、怯ませた。
すべての状況は整い、幽体離脱していたゾンビ一号は多量の魔力を用いて魔術を放つ。
「『ここに極線を成せ、【四刻相殺極魔砲】』!!!」
その攻撃は怯んだヒュドラに叩きつけられ、有効打となる。
だがそれは、有効打でしかなく決定的な一撃にはならない。
ヒュドラは猛々しく、大声を上げた。
次回で終わりかな
(以下定型文)
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コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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