Deviance World Online ストーリー4『円卓の強き騎士』
アルトリウスは、剣を煌めかせブレスを相殺する。
人類は独力で空をとぶことはできない、飛行機などを用いれば別だろうがソレは人類共通の常識だ。
その事実は例えプレイヤー最強と呼称されるアルトリウスでさえ逃れることの出来ない宿命と言い換えてもいいだろう。
だが、ソレは決して跳ぶことを否定した訳じゃ無い。
ブレスを相殺、そのままエクスカリバーを地面に放ち空に舞い上がる。
敵と道具は使いよう、天性のセンスによって可能となる立体機動はヒュドラを大きく翻弄する。
一瞬にして頭上に到達し、そのままヒュドラの頭を通過するように反対側に剣を向け急停止。
エクスカリバーの放射をやめ、そのまま自由落下を行う。
「『重装』!!」
そのスキルの効果は、自重の増加。
厳密に言えば装備重量を微量ほど増させ、靱性を増させる効果がある。
その増した重量のままアルトリウスはヒュドラの首の上に蹴りの姿勢を取りながら落下した。
「『飛び蹴り』」
重さのままに風のままに、重力のままに飛び蹴りを行いヒュドラの首を再度地面に叩きつける。
ヒュドラの首の硬度は相当なもので、今現在では最強の聖剣と言っても過言ではないエクスカリバーでも相応の溜めが必要だ。
故に何度も攻撃を行い、鱗を剥いで行くが……。
(やはり無駄だ!! 僕の攻撃よりも再生速度が上回る!!)
ソレは素の回復能力により上回られる。
ヒュドラの首を落とすには相応の攻撃を成し遂げなければならない、例えば質量、例えば概念、例えばメタ。
其々自由ではあるが、同時にアルトリウスにとってその事実は恐ろしく難しい話でもある。
エクスカリバーの最低出力は恐ろしく高い、平然と何度も連写されているその極光ですら黒狼を幾度も殺せるエネルギーを有している。
正面から喰らえばレオトールですら無視できない傷を負うだろう、そんなエクスカリバーだからこそ出力の向上を望む場合相応の時間を要求される。
「となれば、一瞬の攻撃に全てをかける必要が……!!」
出来る出来ないでいえば、出来る。
どれほど難しくとも、どれほど難解であろうとも。
アルトリウスは、それを達成しうる手段を保有している。
では、失敗すれば?
その一撃を失敗すれば、どうすると言うのだ?
一瞬の迷い、だがそれを切り捨てる。
その時はその時であり、死ぬ気で対応すれば如何程にでもなるだろう。
失敗は許されない、だが失敗ばかり考え成功を逃すのは論外でしかない。
「放出、開始。『此れは、道を拓く戦いである』!!」
スキルでも、アーツでもない。
聖剣を基にした、魔術。
肩と同じ高さにまで掲げた聖剣に語りかけるように、そして同じ位階に佇む二人の騎士に告げるように『最強』は告げる。
魔力が、莫大で圧倒的な架空の属性を纏う魔力が高鳴り共鳴し聖剣をより一層輝かせる。
アルトリウスが持ち得る最大火力、そらを以って九頭竜の首を切り落とすために黄金色とも白銀色とも言える、夜に燦々と輝く月光を思わせる短髪を聖剣から溢るる魔力により震わせながら焦点を合わせる。
今まで何百とも何千とも思えるほどに当ててきた、その強靭ながら脆弱な首へ。
「『此れは、我が胸に刻む戦いである』!!!」
地面で、一人の男が月となる。
何よりも清廉で、何よりも美しく、何よりも力強い月へと。
騎士王、アルトリウスという化け物は人類に対する正義の味方としてそこに降臨する。
今までの戦いは守るため、滅私の戦いだった事がほとんどだ。
だが、此れは違う。
自分の我儘でもあり、他者への無遠慮でもあり、されどもプレイヤーとしての戦いであった。
異邦の人民として、異邦の大地で戦う望まれていない戦いだ。
甘美で甘露で、どれほど美しいだろうか? この戦いは。
欺瞞で偽善で、どれほど醜いのだろうか? この戦いは。
いや、最早関係ない。
他者からの認識など、この時点に至っては関係ない。
この戦いは望まれていない、だが望まれているかのように思えるほどに偶然が重なった戦いだ。
守るべき者も、殺すべき物も居ない、ただやりたいを出来るという素晴らしい戦いだ。
「『故に、我が名を以って命ずる』」
両目を瞑る、目など最早碌な情報を伝えない。
ヒュドラがブレスを撃つ? 他の二人が如何様に行動している? その情報は果たして、今の自分を支えるのに必要なのだろうか?
否、断じて否。
そんな木っ端の情報など、最早この男に関係ない。
今ある事実は、今ある情報はただ一つ。
(僕は、どうやら。)
口が歪む、そうだろうとも。
アルトリウスは責任を決して放棄しない、むしろ与えられた責務を嬉々として受け入れる性の人間だ。
だが、そんな彼とてたまには自由に行きたいと思うこともある。
何かに圧制されるだけの息苦しさ、そこから解き放たれる開放感。
思い責務と期待を背負い、何よりも清廉で潔白な『騎士王』という肩書を外しちょっとだけ異邦人としての自由を振る舞う。
それもまた、自由だろう。
当の本人はソレを好みはしない、自由とは終極的に腐敗の始まりだ。
強要するのは論外でしかないが、誰かの上に立つのならば自由ではなく規律によって己を律する事が重要である。
だが、ソレでも。
この時、このタイミングでアルトリウスは自由を許した。
だからこそ、この攻撃だけは騎士王ではなく『プレイヤー最強』が放つ一撃となる。
「『万象照らし光輝く極光、我らが円卓の騎士たちよ』!!」
聖剣の魔法陣が開く、光は収束し竜の息吹は此方に迫る。
太古において竜とは財宝の番人であり、神の獣にして倒すべき悪魔の獣。
大いなる大蜥蜴であり、土着神とも言えるだろう。
そして何より、この世界における竜の説明をするのならば決して外せない楽園の守護を受けたモノ。
もしくは、その末裔。
その大いなる存在が放つブレスは、生半可な手段で相殺するのは不可能である。
迫り来る吐息、煌めきの中最後の詠唱に差し掛かる騎士王は防御の姿勢すら取らない。
いや、必要ない。
全ては聖霊が守るから、世界を見なくとも聖霊は視ている。
肌を撫でるような感覚に一瞬包まれたかと思うと、竜の吐息を弾く結界が勝手に成立した。
剣がアルトリウスの意思に応えるように、世界が彼を祝福するように。
(僕はどうやら、この戦いが心地よいらしい。)
想いに心委ねる、騎士王は春の日向を思わせるその空間に心走らせる。
一歩、踏み出した。
二歩、足を運ぶ。
三歩、目を開こうとし
四歩、世界を識る。
「『今ここに、救世の極光を解き放て。』」
五歩、地面を蹴り
六歩、世界を跳ぶ
七歩、剣を両手で握り
八歩、彼は言葉を呟いた。
「『【麗しく在れ、 優懇の極光よ】』」
剣から、光が溢れ出す。
輝きの極光が姿を露わにする、例えようもない美しさの権化が残光にも九頭竜が首の一つを切り落とす。
ソレに飽き足らず、その極光は余剰のエネルギーにより環境を塗り替えた。
猛毒という環境を、白銀の光舞う美しき幻想郷に。
『プレイヤー最強』にして『騎士王』アルトリウス。
彼がプレイヤー最強とされる所以は、無数でありただ一つ。
長々と語っておきながら、何度も語っておきながらもその全ては真実であり彼が彼を最強たらしめる理由でもある。
だが、それ以上を求め最強と言える証を明確にするのならば。
単独で環境を作成可能な、例外の化け物だからだ。
*ーーー*
同時刻、同戦場。
二人の騎士は聖剣を解放する。
白銀の環境は二人の背中を後押しした。
「ハハ、過去最高出力かな?」
「さぁ、私には分かりません。ですが……、首を落とすならこの機会しかないという事は分かりますよサー・ランスロット。」
「だろうな、サー・ガウェイン。どちらがどちらを落とすかは語らなくても十分だろう?」
「勿論、どれほど共に戦ってきたと思っているのですか?」
笑い、真顔になり、切先を上にもしくは下に掲げる。
流石に騎士王のような莫大な超火力は出せない、しかしソレでも構わない。
今一度に求められるのは、首を切り落とす事ただ一点。
二つの首がブレスを打ち込むため、口を閉じながら魔力を圧縮させる。
ソレに対抗するために、二人は詠唱を言い放つ。
「『燦々輝き天照す、灼熱なる煉獄は命の炎と成り果てた』」
「『麗しくも儚き湖の精霊よ、聖剣の契りを思い起こさん』」
方や剣に備え付けられた宝玉と空を囲むように備わっていた円環が周りだし、極小の太陽を生み出さんとし。
方や剣に刻まれた文字が光り輝き、彼の背後には夥しい量の文字が現れ始める。
聖剣の真骨頂、最強に追随する二人の騎士。
キャメロットその十三円卓の名前は、伊達や酔狂で名乗れる物ではない。
数多な理由があるとはいえ彼らの血盟の、その最高峰に君臨している存在だからこそ、その席に座っているのだ。
極小の太陽、莫大な羅列。
その二つを阻むように、ヒュドラの二つの首はブレスを放たんとする。
だが、その行動は一瞬遅く。
何より、二人の行動はニ瞬早かった。
「『大地を見守る我らが焔よ、今ここに我が力となりて』」
「『契約はここに遂行されん、今ここに契約を執行する』」
長々とした詠唱は不要、二人の騎士はたった三節で詠唱を完成させる。
ブレ数が迫り来る中、時間の猶予が無い現状で2人の騎士は地面を蹴りブレスを避け剣を振り上げた。
残るはただ一節、環境に後押しされながら2人の勇猛な騎士は首を斬り落とそうとする。
2人は何故、戦うのか? その理由はアルトリウスほど不純なものではない。
いや、別にアルトリウスの理由が不純と言いたいわけではないが彼ほどに清廉潔白な人間というのは純粋すぎて逆に濁っているものだ。
ソレに対し、こちらの2人はまだ幾許か人間らしく異邦人らしい目的があるので不純ではないと敢えて描写する。
彼らの目的は二つある、一つ目は騎士としてのロールプレイに準じること。
ソレはキャメロットに所属した時点でやっている、好き好んだ末のロールプレイ。
騎士道というモノのは兎にも角にも男心を擽るもので、その正確な記録がほとんど失われた現在でも専ら人気のコンテンツだ。
騎士を主体とした血盟は現在でも相当数あるのが歴とした証拠だろう、そしてまだまだ増えてゆきそうなのもまたその証拠だ。
そんな騎士道に割と心奪われ、このゲームでソレをしたいと思っているのが2人の一つ目の目的であり。
二つ目の目的として、彼らはどちらも強さを求めている。
最強になりたい、というわけではない。
別段、最強にこだわりはないし最強の席はアルトリウスに明け渡してても良いと考えている。
2人の拘りは最強の席ではなく、楽しみを兼ねたひどくプレイヤーらしい強さへの探究だ。
聖剣を得た、円卓の騎士となった。
そんな如何にもな席に座ったのだから、その肩書きに恥じぬ程度には強い騎士となりたい。
ソレとは別に、単純にプレイヤーとしての強さを得たい。
だからこそ、2人の騎士は強さを求める。
「『大いなる太陽よ、今ここに!! 【灼熱の聖剣燃え盛らん】』!!!!!」
言葉と共に極小、されど巨大な炎が現れる。
太陽の聖剣、その真価を発揮するかのように莫大な熱量が太陽と共に剣に宿り炎の斬撃が飛来した。
一刀の下に、首が切り下ろされる。
血液は噴射しない回復もできない、炎によってその斬撃痕が炭化したからだ。
ゆっくりと、徐々にずり落ちながら切られた跡を輝かせ落ちていく。
側から見ればまさしく太陽が降臨したかのような光景、ただこれは1人のプレイヤーによって起こされた事象にすぎない。
「ッ、流石にこの極熱には耐えられないか……。」
いや、まさしく太陽が降臨したのだろう。
熱や炎に圧倒的な耐性を保有するガウェインは聖剣に身を焼かれながらそう呟く、彼にとっても自分の持ち得る耐性を貫通したという実実は驚愕そのものでもあった。
顔を歪め、HPが消失するのを見届けるようにステータスを開くとランスロットを見る。
彼は彼で、聖剣を解放していた。
深い深い蒼色を湛え、今ここで解放するように最後の言葉を放とうとする。
その姿を見たガウェインはふっと笑い、HPが消失したのを見届けた。
(死んだか、サー・ガウェイン……。)
心の中で呟き、ログが流れたのを確認する。
同じクラン内のプレイヤーが死んだ場合、そのログが流れる仕様があるのだ。
そのログにガウェインが名を連ねた、つまりキャメロットの中でも最強格の近接職が1人消えた。
少なからずのショックを受ける、初めてここまで苦戦したと言い換えてもいい。
黒騎士以降だ、これほどの敵に相見える事は。
(いや、レイドボスなのだ。これが正しい、ここまで苦戦して漸くなのだ。)
事実を噛み締める、レイドボスの脅威を再認識する。
そして、勝てるという確信を抱く。
騎士王はまだ生存している、残る首はこれを除きもうない。
三人が首を切り裂いている間に、トリスタンがもう一つ切っていた。
残るは本体、そしてその尾。
「『神話が如き一撃を今!! 【連鎖崩壊・壊海残痕】』」
剣から水の属性を帯びた魔力が吹き出し、深海を思わせる暗さが君臨する。
もう一つの湖の聖剣、ソレこそがこの剣の本懐でありそして帯びた概念。
水の魔力は剣から溢れ飛び出し、連鎖的に爆発を起こす。
いや爆発ではない、魔力が崩壊しているのだ。
空間を巻き込みながら崩壊を始めた魔力、震わすように世界を轟かせヒュドラの首にあたり肉を壊す。
徐々に徐々に削れてゆく首、脅威的な出力で鱗は剥ぎ取られ破壊され首から鮮血が吹き出してくる。
ソレを浴びながら、毒に蝕ばまれながら騎士の1人は剣を振り切った。
首を、断面がズタズタになり無理やりちぎったと形容するのが相応しい一撃が。
明確に如実に、そして正確無比に。
ヒュドラのその硬くも脆く厚いその首を完全に切り裂いた、1人の円卓の騎士が手によって。
紛う事ない事実として、ヒュドラの血を浴び死に至ったランスロットの手によって。
ヒュドラ最後の首は破壊されたのだった。
さて、首は全て落ちましたねぇ……。
次回はトリスタンの首切りと村正さんの尻尾切りだぞい。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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