Deviance World Online ストーリー4『聖槍』
騎馬無き騎馬兵は、果たして騎馬兵と言えるだろうか?
キャメロットにおける単独戦力としての最強はアルトリウスに他ならない、聖剣を持ち得なくとも彼と同じ。
もしくはそれ以上の実力者として、ガウェインやランスロットが候補に名乗り出る。
遠距離攻撃最強はトリスタン、彼があまりにも強いせいで生半可な実力者は円卓入りできなかった。
守護において右に出る者がいないとされているのはギャラハッド、攻撃力を求めるのならばケイも名を連ねても良いかも知れない。
では騎士の名の通り、騎馬戦においての最強格は誰だろうか? 答えは、パーシヴァルだ。
基本的に鈍重な彼、だが愛馬と共に戦場を駆ければその鈍重さなど塵芥も価値がなくなる。
だが、ソレは。
その前提はこの戦いでは生かされない、NPCを外部から連れてくる手段を保有しないかぎり彼はただ鈍重な騎士でしかない。
「そんな私が、やるべきだ……と。」
大きな槍を片手に持ち、パーシヴァルはそう呟く。
ヒュドラ、毒九頭竜。
その強さの本質は驚異的な回復能力、大きな誤差なく全部位を破壊しなければ決して殺し得ない。
この戦いに参加するには己は不足している、自嘲しながらも確信を以てそう言おうとした口は自ずと閉口した。
今は、そんな弱音を吐く余裕はない。
円卓の騎士だから? 違う。
そんな理由ではない、もっと単純に勝つための火力を保有しているのは確かに彼しかいないからだ。
九頭竜となったことで鱗の密度が上昇し、要求される火力は先ほどと比にならない。
円卓のメンバーですらその要求火力を満たせるのは、アルトリウスやガウェイン、ランスロットなどの聖剣を保有する存在やトリスタンみたいな超絶技巧と聖剣に及ばないもののソレでも規格外と言って差し支えない武装を保有する存在だ。
ソレ以外では大抵が匙を投げる難行だ、パーシヴァルも同様の想いが有る。
「でも、ソレでも私に託した。ならば達成するしかないわけです、か。」
手に持つ大きな槍を見て、そして近寄ってきたモードレッドを見てパーシヴァルは息を吐く。
優秀は優秀でも、優秀止まりのパーシヴァルと円卓の問題児であるモードレッド。
この2人で首まで近づけるかなど、この短時間で接近し首を落とせるかなど。
「何ウジウジしてんだ、パーシヴァル!! オメェがここで動かなきゃどうするんだ!!」
「ですね、確かにその通りです。道を、切り拓いてくれますか? モードレッド卿。」
「勿論、任せろっての!!」
そう言い放ち、王剣を蜂起させる。
起動した王剣、赫雷が光り到来しようとするブレスに向けて剣を向けた。
「『クラレント』!!! 道を切り開け、我らが勝利の為に!!!」
剣が、剣からエネルギーが発生しブレスを受け止める。
赤い防御のエネルギー、ソレはエネルギーを吸収しブレスの勢いを弱めていく。
だが同時に、モードレッドの体が崩壊し始めていた。
クラレント、その王剣には二つの性質が存在する。
一つは受けた攻撃のエネルギーを増やし返す能力、攻撃で発せられるエネルギーを魔力化し剣の内部で増幅させることで行うカウンター。
この攻撃は莫大なエネルギーを用いた攻撃は受け止められない性質を持ち、対ボスなどで彼女が活躍できない最大の要因となっている。
とはいえ剣の性質を利用し戦う彼女の二つ名、『叛狂の騎士』は上手にその性質を利用し戦うため敵陣に単身で赴くことからつけられた。
そしてもう一つ、この剣には秘められた性質が存在した。
ソレは、使用者にエネルギーを流入させる前提で用いられるエネルギーの完全吸収。
一度に吸収できるエネルギーの上限は存在するものの、それを上回らなければ無制限の吸収が可能となる。
だがこれにも欠陥が存在した。
エネルギー吸収によるステータスの大幅変動、ソレによる肉体の弱化。
ヒュドラのブレスという本来的には爆発的なエネルギーを持つ攻撃を正面から吸収している、最低でも全てのステータスが800を超えていなければこの現象が起きるのは必定と言えるだろう。
だがソレでも、モードレッドがここで諦めるわけにはいかない。
円卓の結束力を舐めるな、そういうように自分の血液に塗れた顔面は笑顔となっている。
「アルトリウスに、夜露死苦ぅゥゥウ!!」
「任せてください、モードレッド卿!!」
ヒュドラのブレスが収束した瞬間、モードレッドは溜め込んだエネルギーを放射する。
対象はヒュドラ、先ほどのブレストそして自分に残る全霊のエネルギーを用いて行った叛逆はヒュドラの首に大ダメージを発射し大きく疲弊させた。
だが、その代償にモードレッドは消失する。
過ぎたり力には、相応の代償が宿るものでありソレは今回も同じだ。
だが、その過ぎた力にふさわしい結果を彼女は残した。
その道を、パーシヴァルは駆ける。
攻撃を受けながら進むのであれば即座で死ぬであろう道、だが叛狂の騎士が切り開いた結果パーシヴァルに攻撃が来ることはない。
その道を、100メートル程度の道を。
僅かにして、莫大な距離をキャメロットの騎士は走り抜ける。
「『聖槍、解放』!!!!!!!!!」
パーシヴァルが保有している武装、彼の槍。
円卓の騎士の寅の仔、『聖槍』ーー。
過去にこの地で生きた聖者の生死を確認した聖カシウスがその時に用いた槍、結果として聖者の死を確定させその復活を証明し願いを託されたその槍は聖遺物として成立した。
だが、その聖槍はその一度以降使用されていない。
故に、その槍は名なき聖槍。
ソレが覚醒するその時まで、その聖槍は聖槍たり得ない。
だが、その未完成な状態でも今この瞬間にパーシヴァルは願いを託す。
「今一度ここに、奇跡を開け!!」
純粋なまでに聖浄な願いに、槍が呼応する。
ここでヒュドラを殺さずとも、この世界に大きな影響はないだろう。
だが、ソレは過去に死んだものたちへの冒涜でしかない。
円卓のメンバー、名も知らぬ骸、そして影響に蝕まれたプレイヤーたち。
彼らを冒涜するわけにはいかない、純粋でどこかズレたその思い。
だが、聖槍は応えた。
槍から始めて光が漏れ出す、聖槍スキルがもう一つ解放される。
目前にはヒュドラの首が一つ、逃げれば何も得られず進めば一つは勝ち取ることができるだろう。
ならば、やるしかない。
槍は大きな光が湛えられ、巨大な槍を形成しようとする。
槍、もしくはランス。
ソレを片手に持った騎士は、地面から飛び上がりヒュドラの頭に向けて新たに得たスキルを発動した。
「『汝は癒えず、我は癒されん』」
槍の光がヒュドラに接触した途端、ドス黒く染まる。
そのまま血飛沫が溢れ、パーシヴァルに降り注ぎ彼を強化してゆく。
最初は鱗を少し貫いただけ、だが徐々に徐々に鱗を貫通し始め徐々に徐々にヒュドラを殺さんとする。
わずか、10秒。
その短時間で一気に聖槍は巨大化し、貫かんとし、ヒュドラの首を貫き落とした。
*ーーー*
「うむ、なるほど。」
「魔術を、展開してください。上空10000メートルから落下させますので、先に準備をお願いします。」
「分かっておるとも、モルガン!! 余に全て任せるがいい!!」
短い会話、同時に発動される魔術。
上空10000メートルから、ネロは落下し始める。
一瞬その顔から無邪気さが消えかけ、即座に無邪気さが戻ると彼女は詠唱を始めた。
「『夜の帳』」
ソレは規格外の心象世界、現実世界にその精神が依存していることにより結果として物体的な境界となった心象世界。
その心象世界は単純に劇場でしかない、現実世界に物体として降臨するが基本的な姿形は劇場でしかない。
その心象世界、もしうまく使えばどうなるのか? 答えは現在の使い方のように純粋な質量攻撃として機能する。
さて、この世界で最強の攻撃といえばなんだろうか?
黒狼ならば質量攻撃と答え、レオトールならば規格外の魔術と答えるだろう。
いや、そうに違いない。
では、その二つを組み合わせた規格外の魔術による純粋な質量攻撃はどうなるのか?
「『極星は落ち』」
まるで極星、もしくは流星。
そのようにも思える輝きを放つ術式、ネロは空気の摩擦によってダメージが発生し始める。
ソレでも発火までには至っていない、トラゴエディア・フーリアが熱を吸収しているからだ。
徐々に徐々に加速を始めるネロ、いくら特殊な剣とはいえできることに限界は存在する。
落下速度は加速的に伸び上がり、ネロは目を開ける事すら不可能だ。
「『洛陽に喝采は消え』」
その言葉を絞り出すように告げる、気圧差で耳の鼓膜が破れたような気がした。
悠久にも思える一瞬、だがソレでいい。
発火が、始まる。
ネロの黄金と赤の装束が燃えだし、肉を焦がす。
「『暗く、昏く、闇く』」
その詠唱を終えた瞬間、ネロを防護するようになんらかの魔術が発生した。
ネロの発火は終わり、だが速度は一切緩まらず落下している。
三重の術式は回転を始め、黄金の劇場の骨子を魔力で形成し、成立させた。
あと三節で、魔術は成立する。
「『演者は独り』」
黄金の劇場の床と天井が完成した、劇場の中心でネロは立つ。
これが着地した瞬間に彼女は死亡するだろう、儚い話だ。
だがソレで構わない、ソレで構わない。
演者は常に孤独で、観客の操り人形なのだから。
両腕を振り上げ、足を動かし自賛する様に己を誇張する。
彼女の孤独な世界が開く、彼女しか存在せず利用されるだけの心象世界が開く。
ほぼ完成したその劇場の中心で、演者は孤独に声高らかに叫ぶ。
「『雲雀は鳴き』」
ネロの目的にして欲望は単純だ、ただただ他者と共に楽しく過ごしたい。
共栄、と言い換えてもいいだろう。
幼児が抱くような純粋で、素朴な願い。
だがその目的は、その純粋無垢な夢はどこまでもどこまでも叶えられることはあり得ない。
彼女が理解不能だから? いいや。
彼女が理解できない化け物だから? いいや。
彼女が共感されない人間だから? まさか。
もっと単純で、もっと簡単で、もっと純粋なお話だ。
もっと無惨で、もっと残酷で、もっと簡単なお話だ。
彼女の精神はとっくの昔に壊れている、実年齢は20を過ぎ去っており25も目前となった彼女はその精神が軽く崩壊している。
その状況は幼少期、それも10代前半から発生していた話だ。
彼女の精神はとある事情によりまともな状況ではない、VRCにより童女としてカウントされるほどに壊れ切った精神。
常に自分を尊大化させ、常に自分を公人として振る舞わせなければすぐにでも崩壊する精神はただ一つの願いのもとに成立していた。
だからこそ、彼女はこの世界で最強の理を外れた術である、最大級の魔術を会得する。
それが彼女の心象世界であり、彼女の唯一の訴えかけだ。
「『開け、【黄金の劇場】よ』!!!!!!」
世界が降臨する、世界が成立する。
紡がれた最強の魔術は理論と理を超越する。
その世界は、願いのために。
黄金の劇場は、彼女のために開かれ墜落する。
まさしく隕石、超速の究極質量攻撃。
ソレが地面に突き刺さるように落下し、パーシヴァルが頭部を撃破したのと同時刻にもう一つの首を破壊した。
*ーーー*
「順調かしら?」
「『いえ、全く。彼女が破壊した最初の首が再生を始めています、私が魔術で阻害していますがこちらも攻撃に移ることを考えれば安心できる状況ではありません。』」
「でしょうね、同意見。さっき走り回っている時にゴーレムの原型を作成したけど起動させるにしても時間が厳しいわ。ブレスの頻度も減ったけど、的確に狙ってきてるし。」
「『ボールスとラモラックに連絡を繋げましたが一線級でない以上、期待はできませんね。』」
その言葉と共に、向こうでは魔術を展開する声が聞こえる。
ロッソが用いたアイテムにより通話を行っているのだ、これは声を魔力でデータ化し風の魔術で音に変換することで成立させていた。
有用な技術ではあるが、通信距離が狭くコスパが悪いのでロッソが改良を進めている作品の一つである。
「『ボールスは全体を見る能力が低く、ある程度の指揮がないと適切には動けないでしょう。ラモラックは範囲攻撃手段に優れません。私がいるからとのことですが裏目に出ていますね、いえ本当に。』」
「単純に戦うこととなればプレイヤースキルでは優ってそうね、問題はここを切り抜けるのに不足でしかないということだけど。」
「『さて、問題が発生しました。ボールスが死亡しましたね、配下を率いることに特化した彼なので仕方ありませんが時間稼ぎ程度にしかならない。』」
「最悪ね、もう少し持ってほしところだわ。」
そう文句を言うが、彼らはソレでも結構頑張っている方だ。
ロッソの施した魔術とモルガンが行った全体の浄化、ソレにより毒によるダメージは大幅に減少したがソレでもダメージは依然発生する。
さらにヒュドラの首を叩くのなら血液を浴びる関係でより多く毒を喰らうだろう、一般のプレイヤーからすればこの戦場に立ち攻撃を与えられているだけで相当上等な状態なのだ。
「そうね、私の方は準備が整ったけどどうする? 同時に決める?」
「『時間もないのでそうしましょう、ソレに早くしなければ他二つも再生を始めてしまいます。』」
その言葉を聞き、2人は行動を始めた。
ロッソは杖に魔力を湛え、モルガンは杖の魔力を圧縮する。
エネルギーが凝縮され始めたことでヒュドラは2人の方へと反応しようとし、ソレを封じられた。
アルトリウス、ガウェイン、ランスロット、トリスタンが行動を封じたのだ。
残る首はわずか六本、一つでも失うわけにはいかないと足掻くヒュドラは必死に攻撃を与える。
時間は一瞬あれば十分だった、その一瞬で魔女は準備を完了する。
一瞬のうちに2人は魔力を放出し、詠唱を開始し始める。
もし武器の性能による規格外がキャメロットの十三円卓の場合、彼女らは技巧と魔力による規格外でしかない。
つまり、簡単に言えば。
戦いの本番は、今この瞬間から。
前座は終了し、本格的な決戦が今この瞬間から始まると言うことである。
ネロの設定はまだまだ深掘りされません。
なぜならめんどくさいから!! ハッキリわかんだね!!
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




