Deviance World Online ストーリー4『大いなる森熊の一撃』
キャメロットの円卓には遠距離プレイヤーが少ない、その理由はひどく単純であり……。
そして、彼の強さを証明するものだった。
「術式蜂起、開始。」
「態々これほど大きな魔法陣を描く必要があるのか、私には疑問です。」
「私を信じてください、トリスタン。」
「貴方だからこそ、信じれないのです。」
そう言いつつも用意した秘策を展開するために、『遊鳴の騎士』は弓に手をかける。
弓の大きさはおよそ80センチ、大きくも小さくもないその弓の弦を弾き音を鳴らす。
音が鳴り響き、未だ結界の外で状況を観戦するトリスタンは少しだけ糸目を見開く。
「魔法陣の維持はもうそろそろ宜しいでしょう? 魔女。私も戦列に参加したいのですが、まさか貴方ほどの魔術師が1人では維持できないなどというつもりはありませんよね?」
「まさか、問題ありません。私をなんだと思っているのですか? 『黒の魔女』ですよ? なぜ維持できないなどという妄言がその口から流れ出るのでしょう?」
「ソレでは結構、私も戦線に入るとしましょう。飛行の魔術を解除してください、ここから先は1人で十分です。」
何も返さず、無言で術式を解除したモルガンは魔法陣の維持を行う。
反対に落下し始めているトリスタンは弓の弦に指をかけ、一つのアーツを発動しようとしていた。
「『空撃ち』」
短く放たれた言葉、次の瞬間空に夥しい数の矢が現れる。
空撃ち、弾を装弾しないまま撃つのではなく空から撃つという意味での空撃ち。
そのアーツはこの弓と合わせれば極悪極まりないアーツとなる、このように空に広がる無数の矢がヒュドラを狙うように。
魔弓『フェイルノート』、その真価は無限に伸びる弦にある。
比較的最近に作成された……、ソレこそ記録も失われている太古に作成された『聖剣』エクスカリバーや『義正の魔杖』ルビラックス、『太陽の聖剣』ガラティーンに『湖の聖剣』アロンダイトと比べここ数百年で作成され細かな記録が存在する『魔弓』フェイルノート。
その伝承を見るところ、その弓の弦はレイドボスとなった蚕の魔物である『シルククイーン』から作成された。
レイドボスから作成された武器、ただの弦として用いられた『シルククイーン』の弦はあまりにも鋭く生半可な使い手の指を切り落とし恐れられ、シルククイーンの被害に襲われた人民たちは『その弦は空気をも切り裂き、シルククイーンの様に無限に伸びる特性を持つ』と言い伝え王城の地下深く。
遥か、太古より伝わってきたエクスカリバーを除いた聖剣が収められていた宝物庫に保管されていた、ただそれだけ。
ただ一度も使われることなく、宝物として封印された弓はその伝承の怨念を受け魔弓として再誕した。
ソレこそが、『魔弓』フェイルノートの特性であり使用者もろとも指を切り裂かんとする無辜の魔弓。
トリスタンが何度も指を切り落とし、その血を弓に吸わせふれれる部分を作らなければ扱うことすらできなかった魔弓は彼の手で真価を発揮する。
「『フェイルノート』」
短く吐いた言葉によって発揮されたその特殊アーツは、放たれた空撃ちに追随しヒュドラを拘束する。
空から放たれたのは、一条の糸にして一条の糸に在らず。
数トンに及ぶ量の糸の大群がさながら意志を持っているかのように蠢き、空撃ちで動きを一瞬止めると地面とヒュドラを縫い付けるのだ。
雄叫びをあげ、怒号のままに体を動かすヒュドラ。
だがその蠢きは、自分の体躯を傷つけることにしかならない。
流石に相手はレイドボス、半端な攻撃力では倒すことは儘ならなずトリスタンだけでは倒すことは叶わない。
だが、その攻撃力不足を補う存在がいるではないか。
「『エクスカリバー』!!!!!」
発声と共に聖なる極光の濁流が彼を狙い撃ちにする、動かない蛇はただの蛇だ。
眩い光が輝き煌めき、ヒュドラの首に重傷を与える。
「これならば……、行ける!!」
アルトリウスは言葉と共に、地面にクレーターを作る。
この戦いで最大の踏み込み、この一撃で決めるという覚悟を伴った意思は聖剣の極光を放出するのではなく剣に宿したまま剣を切り下げた。
剣が光を放ち、聖剣のエネルギーがヒュドラの首を切断する。
九つのうち、一つを切り落とした。
その事実はこの場に居る殆ど全ての人間を喜ばせ……。
「回避不能とは嫌らしい……!!!」
一瞬遅れて視認した、切り裂いた首から溢れ出す毒の血液を見たアルトリウスはそう叫ぶ。
完璧だった、色々な意味で。
タイミングも、位置も、状況も。
全てが完璧だった、ヒュドラにとって。
首が切り裂かれ、毒血が溢れ出す。
触れれば即死、浴びれば絶死の毒血が滝か海かと見まごう程に溢れ出す。
エクスカリバーは最大出力を発揮していた、いくら連射できるとはいえクールタイムが存在する。
どうしようも無い、回避も相殺もできない。
事前の予兆すらなく、今までの倍以上に吹き出した血液を回避する術を彼は持ち合わせていない。
ここでの死は必定、覚悟を決め足掻けるだけの手段を聡明な頭脳を巡らすことで考え結論する。
不可能だ、この状況を単独で覆すことは。
「だから言っているだろう、1人で突っ走りすぎだと!!」
怒声、同意に呆れを含んだ声が聞こえる。
無意識に振り向こうとする、そんなことをしている暇はないのに。
プレエイヤー最強は、最強を助けるためにやってきた仲間を見てしまう。
「ここは任せた、お前を脱落させるわけにはいかないんだ。」
「サー……、ケイ!!!?」
「勝てよ? プレイヤー最強、『騎士王』アルトリウス!!」
騎士としてではなく仲間として、その思いでケイは言葉を吐きアルトリウスを蹴った。
様々な技能に長けている彼、猛毒へ抗ずる手段は無いがその状況から助け出す手段は持っている。
蹴りにより、ダメージを発生させてでも大きく吹き飛ばしたケイはそのまま毒を被る。
絶死の猛毒、触れれば即死でしかない。
結果として、ケイはここで脱落した。
*ーーー*
「再生している!?」
「あれ、知らないのですか? ヒュドラは全ての頭部、胴体、尾を同じ程度のタイミングで破壊しなければ……。まずまず死にませんよ?」
「なんでその情報を早く言わないのよ!! よくわかんない人!!」
状況は変化し、こっちはロッソとゾンビ一号。
ロッソは箒に跨りながら驚愕に顔を歪め、ゾンビ一号はその疑問に対して回答を行う。
ゾンビ一号にとっての常識、だがそれは彼女らにとっての常識ではない。
「何そのクソゲー!? ふざけんじゃ無いわよ!! 同時破壊って倒させる気が無いでしょ!!」
「ソレでも防御能力は低下していますよ、あと私の名前はゾンビ一号です。何度も再生を行うことで鱗の硬さが低下し、密度はともかく単体での硬さは相当低下しています。」
「名前ありがとう、私はロッソよ!! って、そんなこと言われても密度が倍以上じゃないの!! つまり純粋な防御能力が2倍ってわけよね!?」
「そうなりますね、さすがレイドボス。今生では二度目ですが、どちらも規格外を誇ってくれます。」
そう呟きゾンビ一号が急に飛び上がったかと思うとブレスが走っていた空間を通過する。
ソレを見て慌てて急速旋回を行い方向を変えるロッソ、そのままの航路ではロッソもブレスに巻き込まれかねなかったのは事実だろう。
「しかしアレが聖剣、エクスカリバーですか。レオトールが一応とはいえ警戒していたのがわかります、準古代兵器は侮れませんね。」
「準古代兵器!? 貴方、知ってるの!? その詳細は!?」
「黒狼経由でどうぞ、どうせ知り合いでしょう?」
「貴方もあの骨と知り合い!? どういう関係かしら? もしかして……、恋人?」
茶化すように尋ねたロッソに対し、少し遠くを見て『そんな可能性があったかも知れませんね』と返すゾンビ一号。
こんな生まれでなく、こんな出会いでなく、こんな目的でなければ。
もしかしたら、そんな未来があったのかも知れないとゾンビ一号は嘯く。
ロッソは、その一言を聞きある程度理解した。
彼女がうちに秘める、その激情を。
「面倒くさい女ね、貴方。男性関係はキッパリとしていた方がいいかも知れないわよ? あの骨は鈍感じゃ無いけど正面から他人を見ようとしないし。」
「言われなくとも、そんな貴方は彼とどういう関係なのですか?」
「仲間、それ以上でもソレ以下でもないわ。」
「キッパリしてますね、その性格が羨ましい。」
ゾンビ一号がそう告げ、インベントリから弓を取り出し魔力の矢を放つ。
それがヒュドラの首に刺さるが、やはり有効なダメージにはなり得ない。
「同時破壊……、結構な難易度になりそうね? 貴方1人ならどこまでいける?」
「胴体と首一つは可能ですね、それ以上は無理だと思ってください。」
「十分よ、規格外じゃない。なら、アルトリウスで首一つ、私で首一つ、ガウェインとランスロットで一つずつは行けるわね。残りは5+尾……、多分胴体の次に硬い尾は村正に任せましょうか。あの刀を使えばいけるはず……、いけるわよね? まぁいいわ、首の一つはモルガンでいけるはず。他に……、まだ大きく動いてないけどパーシヴァルもいけそうね。トリスタンにも任せられるかな?」
「首の一つはあの童女の心象世界で潰すことでどうにかなるでしょう、これで全ていけますね。」
指折り数え、撃破方法を考える2人。
そこにモルガンが加わった。
空から飛来し、低空飛行を続けるロッソに並ぶ。
「そちらの方は初めましてですね、私の名前はモルガン。よろしくお願いします、深淵の産物。」
「ひどい言われようですね、私の名前はゾンビ一号です。あまり馴れ合う気もないですがよろしくお願いします、とでも言っておきましょう。」
「早速仲が悪くなってるわね、主にモルガンのせいで。なんで貴方はバッドコミュニケーションしかできないのかしら?」
「はい? 私は、最大限気を使っていますが……?」
小首を傾げる様子を見て、だめだこりゃと呆れる2人。
モルガンのコミュニケーション能力に低さには呆れる他ないのだろう。
「で、今チャットに軽く計画を書いたけど見たの?」
「今確認します、了解しました。問題ありませんね、キャメロットの各人には私から通達します。しかし厄介ですね、同時破壊は難しいと言える。破壊自体は不可能ではありませんが、タイミングを合わせるのは……。」
「猶予がないことはないはずよ、というか再生まで1分ぐらい時間がかかってるわ。驚くほどの再生能力だけど、そこがないわけではないみたいね。」
「同時破壊の目的はヒュドラの再生能力を超える回復不能状態にすることですから、モンスターの中でも規格外の再生として有名ですが全身のほぼ全てを破壊されても動けるわけではないです。」
目的と手段を語り、より現実味が増した状況。
モルガンが眉間に皺を寄せ、その計画を渋々受け入れた様子を見てロッソは何かに気づく。
「まさか……、貴方自分が告げた予言を覆されるのが嫌でそんな態度をとっているわけじゃないでしょうね!? そういや、貴方はずっと勝てない勝てないって言ってたけどその理由は語ってなかったわよね? ソレは貴方がヒュドラの能力を知っていたからじゃないのかしら?」
「まさかそんなはずがないでしょう、私は魔女である以前に。何よりキャメロットの敵である以前に1プレイヤーですよ? 敵を倒し、多大な量の素材を得ることも目的にあります。ソレに裏切るとはいえ仲間に隠し事など倫理に反する行為です。そんな行為を清廉潔白え質実剛健な私がするっわけがないでしょう。変な言いがかりはよしてください、私の品位を貶めることになりますよ?」
「語るに落ちたわね、この外道。」
その後もツラツラと言い訳、もとい弁を重ねたモルガンだがさすがに2人に冷たく射抜かれては黙る他にない。
普段は寡黙な癖に慌てたり、昂ったりすると早口で自分の言い分を押し付ける悪癖は誤魔化しにしてもさすがにどうかという話なので、彼女の改善すべき癖であると言えるだろう。
だがまぁ、本人は無自覚である部分だ。
そう簡単な改善は不可能とも思えるが……。
「まぁいいわ、ここまでのロスも私たち側では……。そういや貴方、どれだけ走ってるの? スタミナ大丈夫?」
「スタミナ? ああ、体力ですか。問題ないですよ、進化や肉体を鍛えれば普通に増えますし。そもそもスタミナが切れても酷くしんどいだけで動けないことはないです。私もアンデッドから進化してその概念が与えられた時は悩みましたがよくよく考えれば別に考える必要のないものでしたし。」
「酷くしんどいって……、スタミナがない中活動するとダメージすら受けるって聞いたわよ? ソレにあの疲労感はバカにならないわ、柳生さんだって野山を一日中駆け回った後に100キロ走った時と同じぐらいの疲労感を感じっって言っていたし。」
「STRの分のステータスの補助が切れるので一気に疲れた感覚がやってくるので、と。お喋りはココまでですね、行きますよ?」
その言葉と共に、迫り来る毒のブレスをゾンビ一号は展開した土魔術で防ぐ。
その間にロッソとモルガンは各々移動を開始、ロッソ経由で彼らのクランにモルガン経由でキャメロットのプレイヤーに伝達を済ませた。
目的はただ一つ、そのための意志はもうすでに統一されているだろう。
ブレスが収束し、土の壁を突き破ってゾンビ一号が躍り出る。
遊撃の役割はもう捨てても構わない、トリスタンの拘束により大きな動きはできなくなっていたからだ。
わずかな猶予、その短時間で得た一時の時間をお喋りという名の作戦会議に捧げた三人は全員に行動を促す。
だが、その中でも初動が一番早いのはやはりゾンビ一号だった。
薄緑に発光するただの剣を握りしめ、ゾンビ一号は鎧として纏っていた血液を剣の刀身とする。
「『麗しき森熊の一撃』」
そのまま魔術を用いて魔法陣を蜂起させ、剣に刻まれた魔術を発動した。
発動した魔術は血液に根をはり、大きな木剣となる。
そこから噴出された血液は根を赤黒く染め上げ、ヒュドラの首を切り落とした。
首が地面に落ちる、酷くゆっくりと。
ソレでいながら酷く素早く地面に落ちたように感じる。
その重低音はひどく鳴り響き、最終決戦の狼煙へと。
聖剣の光が眩く輝いた。
いよいよ決戦……か?
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




