Deviance World Online ストーリー4『浄化』
空間の、毒の濃度が増す。
同時に碌な溜め無しでブレスが展開された、つまりは弱者が振るい落とされる。
「何!?」
村正、ネロ、ロッソ、モルガンが使っていたガスマスクが一瞬で壊れダメージが発生する。
それでも、暫く生きられそうなのは其々が仮にでもトッププレイヤーだからだろうか?
ネロは息を止め、ロッソは即座に結界を作成。
内部の空気を浄化することで対応、村正はポーションで回復を促し、モルガンは広域に浄化の魔術を放った。
「毒の解析自体は済んでいましたが、やはり予想通りですか。」
「あら? 解析自体は終わってるの?」
「ええ、もう既にキャメロットに術式を配布しています。」
「その術式? なるほど、貴方にしては珍しく最適化されてるわね。」
対抗心ではなく、モルガンの性格を捉えてロッソは呟く。
そのまま星天を見ると、ニヤリと笑った。
「円卓の騎士、一人居ないわよね? 確か名前は……、トリスタン。」
「何故、今更。」
「簡単よ、彼の弓なら巨大な魔法陣。描けるんじゃないかしら?」
ハッと、顔色を変えて一瞬で何かを考え出すモルガン。
だが、その考える猶予は与えられていない。
ヒュドラの猛攻が再度行われたのだ。
しかも今度はそれを止められる人物がいない、キャメロットの中でも唯一戦闘態勢を取れているのはアルトリウスただ一人だ。
吐き気、眩暈、ダメージ。
他にも無数のバットステータスが付与されている、それでも剣を握り立てているアルトリウスは流石なモノだろう。
「私はトリスタンの元へ、貴方は全力で戦線を維持してください。」
「魔力は用意してくれないのかしら?」
「まさか、魔女ともあろう人間がそんなに弱気で良いのですか?」
モルガンの挑発にロッソは背中を見せて返す。
というより、言葉で返す時間がない。
魔法陣を展開し、転移を始めるモルガンを背後に感じながらロッソは魔法陣を展開する。
「余裕があれば圧縮型の魔法陣を作成したのだけれど、ね?」
それは非効率だ、そう認めるような自嘲は単一ながら完成された魔法陣によって否定された。
どちらにせよ、彼女ならば求められるだけの行為を行えるだろう。
何せ、プレイヤーの中で二人だけに与えられた称号だ。
「展開なさい、『碧天覆う紅蓮の檻』」
杖を振るい、炎特化の装備へと変更しながら彼女は魔術を振るう。
それだけで効率が大きく変化した、火属性の魔力がロッソを通じて生き生きと蠢き出す。
彼女が杖を一度振れば、幾重に魔法陣が展開され炎の槍が無数に現れた。
「『麗しく舞い踊る、それは幾重の火炎なり、【槍炎の乱撃】』」
その言葉と共に放たれた魔術はヒュドラの注意を惹きつける、直後にアルトリウスの聖光がヒュドラの頭部を狙い撃つ。
その隙にロッソはインベントリを開き、一本の箒を取り出した。
「本当はやりたくないんだけどね!! 何せ魔力が減るし!!」
その叫びと共に、箒を投げたロッソ。
魔法の箒、魔女の定番グッズである空飛ぶ箒だ。
彼女はそれに魔力を流し、そのままそれに飛び乗る。
ドレスの裾がはためき、同時に結界の完成を見届けほくそ笑む。
モルガンが渡した術式を最大効率で完成させるためには結界は必須だ、空気を洗浄する関係で空間を仕切る必要があるが故に。
その結界の完成を見届けたロッソはモルガンの術式を取り出した木の板に刻み込み、そのまま全員に渡すため動き出した。
「『ウィッチクラフト』!! 目的は!?」
「モルガンから浄化用の術式をもらったわ!! その間、私を守りなさい!!」
「なるほど、『騎士の誇り』!!」
言葉をそのまま信用したアルトリウスは、9個の頭それぞれから放とうとしているブレスを防ぐためエクスカリバーを放射す。
一瞬で三つの頭を弾き、もう一瞬で別の頭に迫る。
「援護します、異邦人。」
「ッ、やはり……。いや、今は感謝すべきか。頼もしいな、僕からも頼ませてもらうよ。現地人!!」
「現地人という名前ではありません、私はゾンビ一号です!!」
「そうか、僕は『騎士王』アルトリウスだ!!」
突如現れたその人物がNPCだという確信を抱き、一瞬驚くもその驚愕も今は問うべきでないと判断する。
そのまま、彼女が残りの五本の首を惹きつけているのを見ながらアルトリウスはロッソの動向を確認した。
『ウィッチクラフト』、彼女の本懐はそのクリエイト能力に当たる。
本来は前線に出て来てはいけないタイプの生産職なのだ、それは彼女のJOBでもある『魔術工芸者』ということからわかるだろう。
実際に『精霊魔女』というJOBを保有するモルガンに、魔力量や魔術的技能で劣っているのは仕方ない話でもある。
さて、話をこの戦いに戻そう。
前線が減り、フィールドギミックと言ってもいいヒュドラの猛毒が蔓延する中。
彼女に求められる役割は何か? 端的に述べるまでもなくその役割は前衛となれるプレイヤーを復帰させること。
フィールドギミックの解除はロッソでは難しい、だがそれは本職が請け負った。
木の板に魔法陣を刻み込み、さながら宅急便のように箒を動かすロッソ。
だがその内、彼女のやっていることは宅急便などではない。
彼女は箒に跨り木の板を空中で支えながら空中を両手で操作し、軟膏を作成している。
魔女の代名詞とも、医学の基本的な薬剤でもある軟膏の歴史は古い。
起源を遡れば、遥か古代のメソポタミア文明となるほどには。
ではなぜ、そこまで起源が古いのだろうか? その答えは単純である。
薬効のあるモノを混ぜ合わせただけの代物こそが、軟膏だからだ。
それはDWOでも変わらない、この世界でも軟膏とはそういう類のものである。
唯一的な例外は……、その薬効の質が現実とは比べ物にならないほどに高いこと。
「この魔術は毒の無害化ではなくて毒の相殺、さすがの魔力というわけ? 万能だわ。だけど、それは一時凌ぎにしかならないのも承知よね? あの性悪魔女め。となれば……。」
手早く薬草をすり潰し、軟膏を完成させる。
モルガンもロッソも分野は違えど対応力の鬼だ、一目見た途端に神の権能を再現するぐらいには彼女たちは対応能力が高い。
術式の脆弱性を見抜き、わずか10秒足らずで軟膏を完成させた彼女はガウェインとランスロットに木札を投げ軟膏を塗る。
「助力感謝する、『ウィッチクラフト』殿。『聖剣解放』!!」
「返礼はヒュドラの首で見せるとします。『聖剣展開』!!」
戦闘状態を強制的にやめさせられ、スキルが解除されていた2人はそのバフを貰った途端に聖剣を活性化状態に変化させる。
そのまま、ランスロットは地面を蹴りガウェインは背後に飛び退いた。
ロッソはすでに避難している、だからこそ向けられたヒュドラのブレスは誰にも当たらない。
動く事がなければ。
ヒュドラの顔ごとブレスが移動する、射程こそ短いがその脅威的な威力は決してバカにできない。
顔を驚愕に見開いた三人、幸いだったのは三者全員が別の方向に動いていたことだけ。
ヒュドラの首が狙ったのは、最も近かったランスロットだった。
「ッ!!!!?」
正面から防ぐことはできない、防御力が足りないのは当然のことHPが不足している。
先ほどの毒も合わせ、絶死とも思えるヒュドラのブレスの余波を何度か喰らってしまっていたのはプレイヤー最高峰であれ甘く見れたものではない。
ここで死ぬか、その覚悟を決めたランスロットはせめてもの抵抗としてアロンダイトを盾のように構えたその時。
「『ナイト・オブ・シールド』ぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」
だからこそ、この一瞬で割り込んできたその影にランスロットは目を見開く。
ロッソの補助なし、解毒すらできていない身でいながらその騎士はランスロットを守るためにその一瞬に駆けつけたのだ。
『守護の騎士』ギャラハッド
円卓最硬の騎士は、命を投げ打って守りを貫く。
全ては後に繋ぐため、この想定外を切り抜けるため。
何より、ランスロットを生かすために。
「早く、逃げてください!!!」
「その勇姿、忘れん!!」
剣を地面に放ち、その爆発力で下がった途端にギャラハッドの盾が壊れる。
そのまま彼の生身に絶死のブレスが届き、彼を殺した。
地面を穿つように、命の息吹を消すように放たれるブレスから逃れたランスロット。
自分のせいで仲間を失った、自分の不注意で仲間を失った。
その事実を確と認識し、そして剣を強く握りしめる。
「返礼は、その命で頂戴する。容易く死ねると思え、ヒュドラ。」
一分の油断もせず、一分の驕りもせず。
ゲームでありプレイヤーでしかない友の死を本気で怒り、最優の騎士はアロンダイトを振りかぶる。
容易く死ねない、簡単に死ねないというのは詰まり手を抜く余裕があるという事。
では容易く死ねるならば? 手を抜けるほどに余裕がないと言い換えられる。
『最優の騎士』ランスロットは、この状況にて心血を燃やす。
「ギャラハッドがやられましたか。これは、不味い。」
その背後で、ガウェインは焦りを含んでいるものの落ち着き払って熱波を飛ばす。
八つ当たりなのはわかっているが、それでもその程度の嫌がらせをしなければ気が落ち着かない。
もう三人も失った、こんなに苦戦したことはあるだろうか?
ない、そう言いたがる口を閉じて再度想起する。
一度だけ、ある。
黒騎士と一度戦った時、あの時は全員が僅か10分で全滅した。
洞窟が暗かった、洞窟が狭かった。
そんな言い訳はいくらでもある、相手がステルスをしておりまともに戦えなかったという言い訳はある。
だがそれでも、全滅した事実は変化ない。
ゾンビ一号とアルトリウスの猛攻、そこから隙を見つけフリーとなった首がガウェインに狙いを定める。
わずか数秒、碌な溜めなく発射されるブレス。
その数秒のうちに反応した直感を信じて即座に行動する。
地面を蹴り、抉り、同時に剣を発光させる。
外部に影響を与えないとはいえ、ガウェインの持つ聖剣ことガラティーンは太陽そのものとも言える剣。
その刀身は常に光っているが、意図的に光らせるということは内包する温度が爆増するということ。
摂氏3000度、溶接バーナーと同等の温度を誇る聖剣の熱。
その熱をガウェインは一瞬だけ解放する。
「『陽熱解放』」
スキルによって封を解く、使用者のガウェインもろとも焼き尽くすようなその熱気。
それを毒のブレスによって抜かるんだ地面に放つ。
爆発、同時に土煙、直後それらを切るようにブレスが通る。
泥濘は一瞬で蒸発し、爆発によって砕かれた土は土煙となってガウェインを隠す。
緻密に捉え続けたブレスはガウェインの姿を見失ったことで横に薙ぎ払うだけに留まった。
「『ガラティーン』!!!!」
故に、首を薙ぎ視界から完全に消え去ったガウェインの攻撃を感知したのは耳に類する器官だけだった。
ブレスを再度発射するためには数秒の溜めが必須。
慌てて首を戻し、せめてもの抵抗として直接攻撃を狙ったヒュドラの目論見は最も容易く裏切られる。
今度は、目が焼かれた。
あまりにも眩しく、力強い太陽に目を焼かれたのだ。
膨張する熱、膨れ上がる太陽。
聖剣から放たれたその攻撃、黒狼の『第一の太陽ここに降臨せり』に比類し上回るその熱量。
例えるまでもなく、それはヒュドラの鱗を破壊する。
「やはり、切り落とすためにはゼロ距離から……!!」
「加勢します、サー・ガウェイン!! 『神の癒し』」
「助かった、サー・ベディヴィエール!!」
感謝の言葉と共にベディヴィエールの手を握り空に投げつける、そのままガラティーンを再度発光させ熱波の斬撃を飛ばした。
ヒュドラのブレスを防ぐため、斬撃を飛ばしたのだ。
空中で姿勢を整え、魔術を展開し非常に素早く接近するベディヴィエール。
「『銀の流星、光り輝け!! 【我が身は流星が如き】』」
加速、そのままヒュドラの腹部に剣を突き立て動かすベディヴィエール。
そのまま大きく動かし、ヒュドラは大きく蠢いた。
弱者の一撃は、レイドボスにすら通用させた。
地面に一筋の線を残し、ベディヴィエールは剣を引き抜く。
その決死の一撃もヒュドラの腹部のHPを碌に減らせていない、数値にして5000であり全体から見れば1%程度だろう。
苦痛に蠢きはしたが、それは殺すための一助になったというわけではない。
ただの自己満足とも言える、だがそれでいい。
残りわずか、1%未満のHPを見てベディヴィエールは微笑む。
弱者は弱者なりに助力した、MPはまだ幾許かあるもののそれでの自己回復をしたところでこれ以上に有効的な利用は不可能だろう。
ふっと微笑み、仲間の勝利を願う。
そのままHPが消え去るのを確認しようとし……。
「魔力をもらいますね、騎士。」
「……ハハ、どうぞ。私の命を役立ててください、勝利の暁で微笑むため。」
ゾンビ一号の言葉を聞く。
彼女は強い、少なくとも自分よりは。
そんな彼女の養分としかなれない自分を彼は……、恥じなかった。
それでもいい、それで構わない。
戦いを不得手とするその騎士は、彼女がスキルを発動したのを確認し目を閉じる。
何かがゴッソリ抜け落ちる感覚、眠るように彼の意識は落ちていく。
その美しい顔は、秀麗であり弱者であり。
それでも間違いなく誇り高い騎士は、ゆっくりとポリゴン片へと変換される。
「感謝します、騎士の1人。」
その姿に何を見たのか? たとえ、異邦の人間であれその誇り高き姿を見たゾンビ一号はそっと微笑む。
そして、彼女は溢れ出ているヒュドラの血を呪血で変化させられるか試した後にため息を吐き吸血鬼族特有のスキルを発動した。
血液を操作し、守りとする。
迫ってきていた猛毒のブレスを防いだのだ。
「さて、仮にでも守るために私は創られたのですよ? 相性も良いのに効くと思っているのですか?」
無表情に彼女はそう吐き捨てると、ブレスを放っている首を血液で刺す。
そして空と結界、その向こう側を見てゾンビ一号は核心を抱くとこう呟いた。
「それに、最大の天敵が来たかもしれませんよ? 貴方の射程で果たして捉えられるのか見ものですね。」
その言葉が言い終わるか否か、空に極大の魔法陣が展開され結界の内部の浄化が始まる。
モルガンの魔術が始まったのだ、彼女の魔力量と能力があれば毒を無効化するまでは無理にしても弱毒化させることは可能だろう。
詳細は把握できていないが大凡の予想でその事実を看破したゾンビ一号は彼女が連れてきた増援を見て、ヒュドラに告げた。
キャメロット、その中でも最大手の遠距離攻撃を得意とする騎士。
魔弓『フェイルノート』を用いる『遊鳴の騎士』、トリスタン。
そして、『黒の魔女』モルガンが再度この戦場に舞い戻ってきたのだ。
この戦いに参加してるプレイヤーの前中後衛の人数。
(現在生存前提)
前衛11
中衛2
後衛1
頭イカれてんのかな?
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




