Deviance World Online ストーリー4『ジャガーマン』
ヒュドラの首が落ちる、存外あっさりと。
それを見て、安堵しなかったのはモルガンと黒狼だけだった。
「「倒せていねぇ」」
同時に、同じ感想を呟く。
レイドボスを舐めるな、その言葉を吐きたくなる黒狼と。
神話の怪物を舐めるな、そんな言葉を吐き出そうとするモルガン。
間違いなく、この難敵は依然健在だと。
確信を以て、黒狼は動きだす。
(前回の経験が活きないのは残念だが、ここで動けるのは俺しかいない!!)
毒血が溢れ出す、黒狼が培ったリアルスキルが全力で警笛を鳴らす。
このままでは、全滅すると。
「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』」
この為か、黒狼は嗤う。
神父と戦ったことに意味があった、決して無駄では無かった。
目の前のヒュドラは、血を奔出させている。
だがよく見れば、ただ血液を奔出させているのでは無いと判るだろう。
ブレス、それを行う為の圧縮動作だ。
「『不和に預言、支配に誘惑、美と魔術』!!」
インベントリを開き、黒狼はこのイベントに持ち込んだ最大の奥の手を手に取る。
本来は使う気のなかったアイテムだ、だがこの状況なら使わざるを得ない。
何せ、このままでは敗北が確定するのだから。
(大きな賭けだ、どっちも未知数。予想を遥かに上振れしなければ、敗北は必至。)
砕けたHPバーが復活する、アルトリウスもガウェインもランスロットも遅まきながらにそれに気づいた。
三人とも、レイドボスの怖さを舐めていた。
所詮は通常モンスターの延長線上でしかないと、舐めていた。
だからこそ、モルガンは勝てないと断言し黒狼は必死で魔術を展開する。
インベントリから取り出した巻物を右手に、再度インベントリを開き魔石を右手に掴んでゆく。
魔力が足りない、あのブレスを消失させるだけの【第一の太陽此処に降臨せり】は発生させられない。
擬似的な不死身の時間は残り30秒、ブレスを死因とすれば再復活は叶わない。
この戦闘で完全に離脱することとなる、それは今行ってはならない。
「『それは戦争、それは敵意、山の心臓、曇る鏡』!!」
吹き出した血液から二つ首が現れる、ここにいるすべてのプレイヤーが初めてレイドボスのギミックを看破する。
ヒュドラは原則、毒九頭竜と表記される。
これは正解ではあるが、そこにすべての情報が入っているわけではない。
本当の意味で、この毒竜を表記するのならば。
ーー不死の毒九頭竜ーー
原種から劣化したが故に省かれたその一文、確かに不死身と思えるほど高度な回復能力と絶対死の呪いを持った猛毒は有しては無い。
だが、それは必ずしもプレイヤーのみで殺害可能なことを示しているわけではなかった。
落下し始めているキャメロットの三人、ヒュドラのブレスで死亡することは考えるまでもなく明らかだ。
それを防ぐため、個人の戦いに満足し全体の勝利を優先した黒狼は魔術を必死で展開させる。
「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』!!!!」
地面を蹴り付け、空へ飛ぶ。
ヒュドラの首は高い、普通ならば黒狼は決して届かないだろう。
だが、それを届かせたのはモルガンの機転だった。
彼女も黒狼の思惑を正確に理解し、そしてそれを補助するため魔術を即時展開したのだ。
時間にして10秒、黒狼の『死生流転』の残り時間は1分程度。
定石であれば敗北は必至、アルトリウスたちが其々姿勢制御で逃れようが局所的ながら全方位へ発生するブレスから逃れられるわけがない。
だがそれでも、延命を狙ったその回避行動は黒狼の到着まで生存を長引かせた。
「『第一の太陽此処に降臨せり、【始まりの黒き太陽】』!!!!!!!!!!」
それは奇跡であり、必然だった。
この中で、弱さを知っている考える葦は黒狼だけだった。
だからこそ死んでも警戒し続けた、殺せたという確信を持っても決して油断はしない。
エキドナ戦は無名のプレイヤーも数多く参戦した、無名のプレイヤーという存在が存在していた。
今は違う、無名は全員死ぬ戦場だ。
これ以上戦力が減れば個人の勝利も全体の勝利も得られない。
ブレスとなるはずだった毒液の全てが蒸発、猛毒となって周囲へ散ろうとする。
だがそれを黒狼がスキルで回収し、そして死亡。
復活と同時に、黒狼は左手に持っていたアイテムを使用する。
「『口寄せの術』」
全ては奇跡だ、だがその奇跡が起こせるのは全て必定だ。
プレイヤーのほとんどは知り得ないことだが、この島は。
このイベントの舞台は別のサーバー、などではない。
同じ世界の大陸より少し外れた大陸でしかない、モルガンですらその転移魔術の性質上おおよそは当たりを付けていたがそれも確信には至っていなかった。
だが黒狼はそれを山勘とノリと勢いで証明した、ここは同じ世界であると。
レオトールの出身地にして、『征服王』率いる未知の大地。
その秘術である巻物を使用した黒狼はニヤリと笑う、懐かしい顔との再会を祝して黒狼は口を開く。
「状況は見ての通りだ、ブッ潰せよ!! ゾンビ一号!!!!!!」
「急展開ですね!? 黒狼!!」
アッハッハッ、そんな笑い声が聞こえてくるほど大口を開けた黒狼はゾンビ一号の背中を押す。
黒狼にはまだ、やる事がある。
この戦いに勝つには、もうワンピース必要だ。
「『夜の風、二の葦』」
これは黒狼が制作した魔術ではない、先程の戦闘で手に入れたスキルを読んで居るうちに判明したスキルに記載されていた魔術の詠唱だ。
故に黒狼はそのスキルの詳細を知らない、だが一つの確信を持って唱える。
ーー『一度だけ力を貸してやる』ーー
その言葉を信頼し、黒狼は詠唱を進める。
再度、全力で魔力を発露しその術式を展開した。
「『近くにいる者、両方の敵』」
深淵の神は嗤う、温存せず心のままに使うその姿勢に感嘆する。
だからこそ、黒狼に警告を送った。
本当にいいのか? 此処で使ってしまって構わないのか?
だが黒狼は、その言葉を無視する。
お前の正体も力も、何も知らないのになぜ温存する必要がある?
それに、使うも使わないも俺の自由だろと。
「『我らを生かしてる者、我らは彼の奴隷』」
三節目、魔法陣は展開されない。
その代わり、黒狼から黒い影が広がり始める。
空間を埋め尽くすように、全てを漆黒に染める宇宙が広がる。
黒狼は己が奪われていく感覚を感じる、だがそれでいい。
全て奪われて構わない、全て消失しても……。
(いや、流石にそれはダメだわ。)
笑い、広がる闇と目の前で二つ首を持ちあげるヒュドラを見る。
先にブレスを撃たれれば自分が敗北するだろう、これは確信ではなく事実だ。
「『自らを創造する者、天と地の所有者』」
漆黒が広がり終わり、影から手が伸びる。
黒狼を捉えるかのように、黒狼を蝕むかのように。
其れに贖いながら、黒狼は声を張り上げた。
「『贄は此処で死する、我は全能の神の贄となる。』」
黒狼は手に掴まれながら、それでも声を張り上げ叫ぶ。
これは恐怖か? 否、愉悦だ。
自由を叫び、自由を騙り、心ゆくまで己の儘を語る。
そのためには神も仏も関係なく、だが同時に自分すら捧げよう。
「『さぁ、生まれ給え、願い給え。ジャガーなるナワル、テペヨトルの生誕を』!!」
六節目に突入した、モルガンですら無駄と断定し、そこまでの魔術を作成しなかった六節目に。
不可能を可能にするというのは、不確実を確実にするというのは。
無理難題を成立させるには非効率すら、受け入れなければならない。
黒狼のプレイスタイルは此処に確立した、此処から先未来永劫変化することのない弱者の戦い方が成立した。
必死の努力も、運命の必定も、それすら嗤いその『一歩先へ』行く。
詰まるところ、黒狼のプレイスタイルとは『不可能』を『可能』にするということ。
ブレスが到来……、しない。
ゾンビ一号が防いだのだ、レオトールから渡された緑の剣で。
ブレスを切り裂き、黒狼を守ったのだ。
彼女は自分の役割を果たした、勝利に繋げるための黒狼の思惑を正しく読み取った。
以心伝心、その言葉の通りに。
短いながらに築き上げた絆が、二人を結んだのだ。
「『第一のオセロトルここに生誕せり、【其れは偉大な黒豹】』」
詠唱を終える、だがここまででは完成しない。
まだ、結果は得られない。
黒狼が発動する魔術、『第一の太陽此処に降臨せり』。
そのルーツとなるのは、遥か太古の南米だ。
南米が紡ぎ上げた神話世界は、残酷で神秘的で人も獣も自然の一部でしかない。
南米の神話、つまりアステカ神話は世界が5回も創造されているとされている。
第一の世界は4のジャガーといい、テスカトリポカが主宰し、巨人が支配していたがジャガーが巨人を喰い滅亡した。
第二の世界は4の風といい、ケツァルコアトルが主宰し大風で滅ぼされ人間はサルになった。
第三の世界は4の雨といい、トラロックが主宰し火の雨で滅ぼされ人間はイヌ、シチメンチョウ、チョウになった。
第四の世界は4の水といい、チャルチウトリクエがが主宰し洪水で滅ぼされ人間は魚になった。
そして、第五の世界。
これは現在運行されている未知数の世界、4の動きでありその未来は未知数である。
この世界では今現在の世界はケツァルコアトルが主催し、他の神を深淵に追い遣った。
本来ならば共生すべきテスカトリポカ神を、トラロック神を、チャルチウトリクエ神を深淵に追放したのだ。
それは本来ならばあってはならないことだ、神が神を追放するなど必ずあってはならないことだ。
だが、この世界ではそれが起こってしまった。
ゼウスの手によって、遥か天空を支配する大神によって逆らう神々は深淵に追放された。
だからこそ、テスカトリポカ神はこの機を狙って居た。
アステカ神話において世界は52年ごとに危機が到来する、それを免れるために人々は神に心臓を捧げ太陽の運行を犠牲を以て行わなければならないと考えた。
この世界は正しく運行されていない、心臓は捧げられることなくテスカトリポカ神を含めた様々な神は未だ深淵にて封じられている。
その盤面をひっくり返す、そのために黒き神は告げた。
ーーー心臓を捧げろーーー
黒狼は刀を抜き、心臓周辺に存在する己の魔石を破壊した。
直後、周囲の黒が湧き上がり一つの人影を成立させる。
『其れは偉大な黒豹』、すなわちジャガーマン。
黒狼は自分が消失するのを感じる、自死による死亡、これでは10秒復活はあり得ない。
だが、一つの確信はできた。
この戦いの勝利への希望を感じる、この勝負の勝利への鼓動を感じる。
『ーーーーー(一度だけだ、二度目はない。)』
冷酷に、残酷に、残忍に。
全ての敵、もしくは全ての味方。
夜の風であり、夜の空であり、北天であり、大地であり、黒曜であり。
不和であり、予言であり、支配であり、誘惑であり、美であり、魔術である。
戦争や敵意、山の心臓である曇る鏡。
五つの太陽のうち、第一の太陽を支配した神。
52年という世界の一巡を、13回繰り返したケツァルコアトルの最大の敵。
「そんなこと、分かり切ってるさ。其れに役不足ではないだろ?」
『ーーーーーー(フン、死者のガキが良くも言う。)』
だが、と続ける。
確かに、骨は折れそうだと。
深淵の神は嗤いながら、死する黒狼を見て告げる。
『ーーーーーー(そうだ、言わないのか? それぐらいの猶予はあるだろ。オレはアレが好きなんだ。)』
「アレ? なん……、そういうこと? 全く、仕方がねぇな。」
黒狼は半ば消えかかりながら片や驚き、片や期待の視線を向ける二人の顔を見て口を開く。
初心に戻った気がする、あのヒュドラと初めて戦った時を思い出す。
違う点は多い、だが同時に似ている部分もある。
だからこそ、言わなければ満足に死ぬこともできない。
「Are you ready? 名前も知らない神様と、俺の道具!!」
『ーーーーーー(イイネェ、ノってきた。)』
「もう少し状況説明をしてから言ってくれませんか!? 私を呼んで即死ぬとか!!?」
正反対の表情を浮かべ、だが同じく敵に視線を向ける。
ゾンビ一号は召喚されたからこそ制限時間はない、だがジャガーマンはそうもいかない。
彼の制限時間は僅か1分、ひどく短く少ない。
この短時間でヒュドラを大きく弱体化させ、そしてプレイヤーに殺せるようにするなど不可能にすら思える。
だがそれでも達成する、それが呼ばれた理由であれば、それが信者(仮)の願いであれば。
チラリと、漆黒の体で。
影にしか見えないその体、唯一輝く白い目でゾンビ一号を見ると深淵の神は告げる。
『ーーーーー(着いてこいよ、遅れたら殺す)』
「貴方も貴方で何なんですか!? ……、まぁいいですよ!! 逆にあなたを置いていきますから。」
『ーーーーー(いい覚悟だ、神への暴言も許してやる)』
テンションが上がったのか、一瞬で加速するジャガーマン。
其れに追いつくように、黒狼が見たこともない仰々しい曇銀の鎧を纏ったゾンビ一号も銀の流星となった。
そして、再生しそれどころか首が増えたヒュドラの喉元まで迫る。
プレイヤーよりも遥かに強い、その一瞬で理解させてくる二人の現地人は同時にそれぞれの攻撃を放った。
「『極剣一閃』」
『ーーーーー(【心臓抜き】)』
片や、ヒュドラの首を大きく弾き
片や、ヒュドラの首を抉る。
前哨戦は終わり、間奏が始まる。
戦いは、いま成立した。
NPCを連れていけない(ただし召喚は可能)
じゃないと、ヒポグリフがいるのっておかしいですよね?
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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