表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/372

Deviance World Online ストーリー3『不死王』

 ガスコンロ神父、彼を倒したと思いため息と共にネロに心象世界の展開を止めるように命じた。

 その瞬間だった、その神父が立ち上がったのは。


「マジかよ……、人間なら死んでてくれ。」

「間違いなく一度死にましたよ、ですが『筋肉蘇生』というスキルで一度だけ無効化したのです。」

「うん、人間ならしんどけ。」


 ツッコミを行いつつ、消えゆく黄金の劇場を眺める黒狼。

 神父もつられて周囲を見渡し、そして息を吐く。


「どうせ、私の先は長くない。この先の戦いは私の戦いではないよう、ひどく残念だ。」

「安心しろ、お前の分まで存分に戦ってやる。」

「そうです、か。ならば私は……。」


 男はそう言い、メイスをしまう。

 そして腰のベルトに下げていた一つの本を手に取ると少しページを捲り、そして黒狼に目線を向けた。


「私は、あなたの生誕を祝福しましょう。」


 『キリエ・エレイソン、新たな誕生、新たな誕生を。生命の摂理に反し、命の道徳に反する者の誕生を。生命なき身、命なき骸がここに誕生する。彼の名は【黒狼】、私が与える諡は【不死王】。彼はこの罪禍の世にて、罪禍のままに生き急がん。』


 そう、唱える。

 同時に黒狼に大きく変化が訪れた、黒狼に光が集まり集合しそして祝福するように影が広がる。

 神父は、彼は筋肉至上主義者だ。

 筋肉なき存在を目の敵とするほどに忌み嫌う、だがそれは決して筋肉を信仰している訳ではない。

 彼が信仰するのはこの世界に存在しない神、死者を埋葬するために行われる儀礼に存在する神。

 機械仕掛けではない、支配者ではない。

 ただ、人の横に寄り添う形なき偶像の神。


 黒狼は笑う、そして自分のスキルに大きな変化が訪れたのがわかった。

 雛はいつか成る、それは英雄譚でも同じこと。

 この時、このタイミングで。

 黒狼は成ったのだ、無名の英雄として。

 

 英雄はいつ誕生するのか? その疑問は古くから存在する。

 それは大きく世界を改変した時か? 違う。

 世界に名を残した時か? 違う。

 大逸れたことをする必要はない、ただ単純に。

 世界に認めさせればいいのだ、無名であれ孤独であれ弱者であれども。

 全身全霊で大地に向き合い、五体が赴くままにこの世界と語り合い。

 認めさせるのだ、己は英雄であると。


「こりゃ……、このまま去るのは失礼だな。」

「まさか、私は神の名の下に諡を与えただけです。」

「だが、それで俺は大きく変化した。」


 黒狼は閉じた黄金劇場の外を見る、地獄が始まる空気がある。

 だが、それでも。

 黒狼はこの戦いに一つの区切りを付けなければならないと感じた。

 だからこそ、黒狼はネメアの獅子皮を左手に巻く。


 その行動を見て、神父も気付いた。

 理屈も何も関係ない、この男の目的はただ一つ。

 ならば、やるしかないだろう。

 上裸、そんな状況だが全身の筋肉に力を加え神父も拳を握る。

 ファインティングポーズだ、つまり殴り合いだ。


「一撃で終わらせましょう? 『不死王』。」

「望むところだ、『脳筋神父』!!」


 互いに走り出す、狙いは一つ。

 人体最大の急所である頭、もしくはその周辺。

 技巧を尽くした戦いなどもう飽きた、ここは穏便に暴力で決着をつける。

 互いに踏み込み、一気にそれぞれの拳を叩きつける。


「カ………………、ハ………。」

「俺の勝ちだ、ファーザー・ガスコンロ。」


 黒狼の右手が正確に神父の喉を貫き、神父の拳は黒狼の頭部を抉っていた。

 どちらも致命傷に見える、だが黒狼にとって頭部の破損は致命傷になり得ない。

 『死生流転』、その効果時間である限り黒狼を殺すには肉体の破壊しかあり得ないのだ。

 何も付けていない右手、その骨はひどく鋭利だ。

 それを筋肉も何もない喉に突き刺せば……、結果は明白だろう。

 そうだとも、この勝負は。


 黒狼の勝ちだ。


*ーーー*


 遅かった。

 全てはもう既に手遅れだった。

 一晩で作り上げられた町、さまざまな商品を並べ賑わっていた町は猛毒のブレスによって侵される。

 大地は毒沼に沈み、生半可な耐性では近づけない魔境になった。


「ふ、ざ……!!!!!」


 言葉が喉から突き出る。

 九死に一生を取り留め、だがその一生すら儚くもこぼれ落ちようとするその一時。

 男は叫び声を上げた。


「ふざけるなぁぁぁぁあああああああ!!!!! こんな話、聞いてなi……。」


 激昂し、叫ぶように叫んだ男はそのままポリゴン片に変化する。

 スリップダメージ、言い換えれば継続ダメージ。

 そこで発生したダメージはHPを超え、そのまま彼の命を奪った。

 

 生命の頂点、単体で環境を作成する化物。

 全ては、遅すぎた。

 

〈ーーレイドボスが降臨しましたーー〉


〈ーーレイドボス名:毒九頭竜(ヒュドラ)ーー〉


〈ーーレイド、開始しますーー〉


 ダーディスの叫びは届かない、この街に集っていたプレイヤーの過半数が未だ姿も見せぬレイドボスによって殺害される。

 他のプレイヤーも、その有名なプレイヤーが為す術なく死んでいく。

 だが、その中で。

 それでも足掻く集団がいた。


「サー・ランスロット!! このままでは……、毒の継続ダメージで死亡してしまいます!!」

「耐えろ、耐えるのだ!! サー・ベディヴィエール!! モルガン殿によれば毒の解除魔術を作成しているとのことらしい!!」

「だがドーすんだ!! その完成まで待てる時間がないっていうのがわかんネェのか!?」

「落ち着いてください!! サー・モードレッド!! 確かに本体がまだ現れないのには不安しかありませんが……。」


 このに居るのは四人の騎士、血盟『キャメロット』の十三円卓。

 その中でも基本的に戦闘に向かないベディヴィエール、そして最初の方に戦果を挙げたため待機させられていたランスロット、ガウェイン、モードレットの三人がいた。

 毒が充満する空間、多量の回復アイテムを無制限に使い毒が噴出している中心地へと向かう。

 敵の正体はモルガン経由で彼らも聞いている、敵は『毒九頭竜(ヒュドラ)』。

 多頭のドラゴン、厄介な敵であることは間違いない。


「やはり地下ですか、敵の居場所は。」

「その聖剣で地下を穿てないのか? サー・ガウェイン。」

「難しいところです、面制圧ならば私以上の適任はいないのですが……。地面を融解させるにしてもそれだけの温度となれば魔力がたりず満たしたとしても、貴方たちも踏み込めなくなるでしょう。」

「となればやはり……、サー・アルトリウスを待つしかないのか?」


 中心部、そこを視界に捉えた二人はそう言葉を交わす。

 明らかに蒸気のようなものが噴出しており、そこにヒュドラがいると思わせてくる。

 いや、実際にいるのだろう。

 出なければHPがここまで早く減ることはあり得ない。


「いえ、手段はあるようです!! サー・ランスロット!! 狐商会の人物とコンタクトが取れました、現在位置を伝えたのでそこまで遅くないうちに彼女がくるかと。」

「ああ!? あれじゃねぇか? 陽炎は!!」


 モードレッドが指差し、先を指指す。

 そこには一つの人影、『化け狐』陽炎がいた。

 彼女は顔を狐の面を模したガスマスクで覆い、キャメロットのメンバーと出会う。


「これは規格外でありんすね、レイドボスの格としては『黒騎士』と同じなのではありんし?」

「御託は良い、金ならば後で払おう。手段をだせ、今すぐに!!」

「そう慌てなさんな、わちきが怯えるでしょうに……。」


 嘲笑するようにそう言い返し、陽炎はインベントリを開いた。

 そしてため息を吐くと、一つの記録結晶を投げ渡す。


「お代はもうもらっているでありんし、残念なことに。協力もわちきはここまで、あとは『黒の魔女』に感謝しなんし。」

「どう言う事だ? 貴様ほどの人間が、なぜ金を逃す?」

「ここは大人しゅう逃げるべき、と直感が告げるでありんす。この短い時間で、レイドボスを倒せる見込みに賭けるよりも、逃げるべきだと私の勘が。誇るわけでは無いでりんすが、こう見えて直感はよく当たるでありんすよ?」


 そう言って、彼女は転移する。

 その様子を見届けた四人は、冷静に迅速に彼女が残したアイテムを見る。

 一つは記録結晶、そしてもう一つは大きな箱だ。

 ベディヴィエールが箱を開ける、中には一つの杭が入っていた。

 その横でランスロットが記録結晶を見る、そこにはモルガンの文字で一つの言伝が記録されている。

 それを握り魔力を込め、それを開いた。


 『拝啓、十三円卓の方々へ

  私が参戦するのは遅れます、そのためこのアイテムと情報を書き渡しておきましょう。

  アイテムに関してですが、これは地盤を崩す類のものです。

  おそらく目覚めたヒュドラと対面できていないはずなのでこれを渡しておきます。

  もう一つは言伝です。

  この戦闘では勝利を諦めなさい、あの化け物には勝てません。

  生きている生命、それら全てを殺さんとする化け物。

  まともに戦えば勝利は望めません、それでも勝利を望むならば。


  有りもしない神の慈悲に縋りなさい、それが唯一の手段です。


                     モルガン』


 それだけ書かれたメモ、それを握りつぶしたランスロットは眉間に皺を寄せアイテムを握る。

 ランスロットもゲーマーだ、彼にもプライドというものはある。

 それを煽るような文章で刺激され、さらには勝て無い? ふざけるなと劣化の如く怒りそうになるのを堪え、彼はそれを起動した。


「目覚めさせるぞ、化け物を。」


 ランスロットの言葉に全員が頷く、即死対策は万全だ。

 そのまま起動させたソレを投げ込み、そして地面が大きく揺れるのを体感する。

 スキル『直感』が警笛を鳴らした、全員が一斉に飛び退く。

 その瞬間、毒のブレスが湧き上がった。


「クッ、ダメージが……!!」

「直撃していないとはいえ……、なんと……!!」

「HPが一瞬にして半分以下!? ただの余波ですよ!??」

「このままじゃ、ヤベェ!!」


 四人が一斉に退避したその瞬間、裂け目から一つ頭の化け物が飛び出す。

 羽はない、大きさを無視すればトカゲにも見える。

 だがとてもトカゲなどには見えなかった、全長は100メートルをも超えているし何より全身が紫に染まっていた。

 毒々しい紫に身を包んだその竜、ソレを見てガウェインはソレでも呟く。


「聖剣、解放!!」


 キャメロット、その十三円卓が四人。

 彼らがヒュドラに挑見始めた。

 その同時刻、黒狼たちはモルガンと合流していた。


「急ぎなさい、時間がありません。」

「待て、急ぐと言っても事情説明ぐらいしろ!? どこにどうやって行くつもりだ!?」

「転移魔術、ソレを用います。相手は竜系統、すなわちドラゴンのレイドボス。殺せないまでも素材は欲しい、ソレが我らのためです。」

「そうは言っても手前は説明をしなさ過ぎだ、一刻を争うのはわかるが説明も無しにとなると勝手が違うぞ。」


 三人を急かし、魔術を展開し始めたモルガン。

 ソレを冷静にさせるように言葉をかける村正だが、その村正もロッソの言葉に絵を見開く。


「ドラゴン素材は最高級品なの、キャメロットに取られる前にある程度は私たちでも欲しい。つまり、そういうことよ。」

「理解した、そりゃ参加しなきゃならねぇな!!」

「焦らないで、ヒュドラは猛毒を持っているわ。せめてこのガスマスクを着けないとすぐに死ぬわよ?」


 ロッソはそう告げ三人にガスマスクを配っている、当然黒狼は拒否した。

 状態異常無効云々関係なく、黒狼がガスマスクを使ったところで意味はない。

 何せ呼吸器が存在しないのだ、そういう理由でロッソのガスマスクを拒否しそのままモルガンに続いて空間の穴を潜る。

 その先では、激戦が広がっていた。


 黒狼の『ファースト・サン』、ソレにひどく類似した攻撃が数個浮いており一人の金髪の騎士が剣戟をヒュドラに叩き込んでいる。

 またもう一方では白銀を纏った何かが地面をかけながら攻撃を回避し、赤色の騎士がヒュドラの胴体を切り付けていた。

 黒紫の騎士はヒュドラの胴体の上でその背中に剣を突き刺し切り裂いている、戦闘スタイルの違いはあれどヒュドラという巨大な化け物に対して臆することなく戦っているのだ。

 それも、絶死かと疑う猛毒の中で。

 黒狼は始めに驚愕、次に疑い、最後に確信を抱き最初の一歩を踏みだした。


〈ーーレイドボスが降臨しましたーー〉


〈ーーレイドボス名:毒九頭竜(ヒュドラ)ーー〉


〈ーーレイド、開始しますーー〉


 レイドコールが聞こえる、黒狼はその音声を聞きながら先ほどの昂りが覚めぬうちに無理難題に対して笑う。

 二度目の邂逅、あの時は無理難題として阻んでいたが今は違う。

 黒狼は確信を抱く、コイツは弱い。

 あのⅫの難行で出てきた化け物に比べれば、遥かに弱いと。

 

「『環境適応(猛毒)』」


 空気が変化する、あの日常が思い起こされる。

 あの輝かしくも、苦しかった日常が。

 目の前に存在する竜の姿は違う、強さもあの難行の化け物とは比べ物にならないだろう。


「『死生流転』、残り時間はおよそ5分ってとこか。」


 心火を燃やす、最高のゲームだと再認識する。

 やめなくて良かったと、レオトールと出会えて良かったと全てに感謝して。

 その上で、黒狼はスキルを発動した。


「『錬金術』、そして『外骨甲冑』に『骨子芯固』。」


 強度を増す、耐久を上昇させ可能な限り生存に直向きになる。

 生きやすくはなった、生存し易くはなった。

 だが、依然最弱。

 この場に集っている中で毒を受けないというメリット以外に黒狼の強みはない。


「ハッ、笑わせんな。」


 そのメリットで、道を切り開くのが黒狼の生き方だろう。

 ソレこそが、黒狼というプレイヤーだろう。

 絶死の戦いで、何度も死にながら。

 何度も、何度も何度も何度も何度も死にながら。

 最終的に勝利に笑うのが、黒狼という異邦人だろう。


 最強という称号は不要だ、最弱という称号すら歓迎しよう。

 経過はどうでもいい、結果もどうでもいい。

 最も自由に、己が心のままに。

 この世界を誰よりも楽しめればいい、ソレがゲームを楽しむと言う事ではないか? 少なくとも黒狼は思っている。

 だからこそ、その言葉が口から出たのは当然だろう。

 

「少し遅くなったが……、村正!! モルガン!! ネロ!! ロッソ!! 始めようぜ? レイドボス戦を、クランメンバー全員で!!」


 全員が、ハッとしたように顔を向ける。

 クランメンバー全員で、というのはひどく珍しい。

 最初のゴーレム戦以降、していないのだから。

 

「さぁ、目に物見せてやろうか!! 未来の敵であるキャメロットに、未だ無名の俺たちのクランでさ?」


 全員の顔に笑みが広がる、挑戦的で獰猛な笑みが。

 浮かばないはずがない、誰だって無理難題への一歩というものは心が躍るものだ。

 だがその一歩は決して踏み出すのを躊躇う類のものではない、何せ。


 ここはゲームなのだから。

さて、駆け足気味ですがようやくヒュドラ戦です。

一章上編で出てきたアイツより遥かに雑魚ですがソレでもクソ強いです。

何せ戦う条件がクソゴミですし……。(近づけば毒のデバフ、高火力の毒ブレス、その他特殊能力)

頑張って描写していくますかぁ!!(絶叫)


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ