Deviance World Online ストーリー3『神父』
時間は少し巻き戻り、黒狼に視点は移る。
彼らは思う存分に『クラッシャー料理人』をいじめた後、そのまま町を出ようとした。
その時だった、問題が起きたのは。
「やぁやぁ、ご友人。」
「……ガスコンロ神父、何の用だ?」
「まさか、用など一つしかないでしょう?」
そそくさと撤退しようとしている黒狼の目の前に突如として現れたのは『脳金神父』ことガスコンロ神父だった。
彼は近くの壁を突き破り現れるとそのまま三人に向けて獰猛な笑みを浮かべる、恐怖すら感じるその笑顔に若干気おされつつ黒狼は質問を投げかけた。
「一体何の用だ? 近隣の壁まで壊して。」
「おや、説明不足でしたか。では改めて、私の用事とはただ一つ……。」
その瞬間、黒狼は一気に姿勢を下げた。
黒狼の直感が告げる、目の前の存在はすでに難敵へと変化していると。
武装を展開する暇すらない、そんな暇があればとっくの昔に詠唱を開始している。
目の前の神父、正しく訂正するなら狂人は黒狼を仕留めんとする狩人に他ならない……!!
「貴方を殺すことに他なりません? 不浄なる死者。」
「へぇ? それは基本的にPKって言われんぞ!!」
「何を今更、神命において神の告げる言葉は絶対です。」
「OK、完全に理解したお前話通じないタイプね!! ぶっ殺す!!」
その言葉とともに一瞬の間に動き出した黒狼、目的は一時的な撤退。
さすがに奇襲といってもよい状況からの対応には一手間以上を掛けなければならない、その巧みな体使いによって黒狼はガスコンロ神父の股の間を通り抜け一気に表通りへと向かう。
そしてそれに続く村正、黒狼の意図を理解し彼もまた同時に黒狼とは別の道で表通りに向かう。
当然、ネロは理解せずにそのまま村正に連れていかれる。
「厄介な、面倒ですね……。」
「そう思うのならあきらめてくれてもいいんだぜ!? その寝首を掻くからよぉ!!」
「もう少し、上品な口使いはできないのですか? いえ、失礼。アンデッドに言っても無駄でしたね、その脳は伽藍洞なのですから。」
「煽るねぇ、絶対に後悔させてやる。」
黒狼が告げた言葉、そしてその一瞬で魔術を完成させた彼はそのままガスコンロ神父へ放つ。
対して、ガスコンロ神父はその射出された魔術を見た途端にこぶしを握りその魔術へのカウンターとしてこぶしを振った。
スキル『破魔拳』、その魔術の規模次第ではあるが本来VITとINTによって算出される魔法対抗値を特定部位、すなわち拳のみVITとSTRで算出することにより純粋な筋力で魔術に対抗することが可能となるスキル。
それを始めてみた黒狼はマジか、と一言つぶやくとそのまま剣を引き抜く。
そして心の中で評価を改めた、少なくともその能力は侮れるものではないと。
「『揺らめき漂い、水は我が身の守り手となりて』『我が体躯を覆い尽くせ、【蠢く水鎧】』!! ッ!? ふざけんな、お前強すぎるだろ!! 神父のくせに!!」
「ハハハハハ、神命を執行するために筋力は必須故ッ!!」
「さっすが脳筋!! 話通じねぇ!!」
全力で叫びながら黒狼は剣を振る、一瞬後にその斬撃を大きく弾かれる。
そのまま怒涛の勢いで拳が振るわれる、黒狼は防御できずに死亡しリスポーンする。
打撃攻撃、運がよかったとしか言えないが黒狼は間一髪で逃げられた。
だがその安堵は一瞬で消え去る、大きな破壊音が背後から聞こえたのだ。
「マジか、一殺ぐらいで満足しろや!!」
「神命は達成されていないので、な?」
「さすがバーサーカー、話を聞け!!」
「ハハハハハ、快いなぁ?」
まさしく暴風、乱舞するは拳なれど天地の災と変わりはしない。
笑いが止まらぬ様子のガスコンロ神父と、焦りが限界を突破している黒狼。
詠唱を挟むことすらできない拳の乱打、対抗する黒狼でも避けるしか出来ない。
「手前!! 避けろ、出来んだろ!! 黒狼!! 『秘技・愚白の亡者よ殺戮しろ』!!」
「ほう? 神敵風情が群れるか!! 笑わせてくれる!!」
「神敵? 笑わせるな。俺は、神となった大英雄を殺した男だぞ!!」
焦りながらも煽り始める黒狼。
ようやく乗ってきたのだ、黒狼のテンションが。
今までの戦いは自分の戦いではなかった、だからこそ黒狼はテンションが上がらなかったがこれは違う。
これは、自分の戦いだ。
自分に敵意を向けられ、自分が主体となる、自分の戦いだ。
ならばなぜ、テンションが上がらないわけがあろうか?
「最高だ、久々に揚って来たな?」
「『ラッシュ』、『八極拳』」
「『パリィ』!! 直撃さえ避ければ一撃死はあり得ないねぇ!! 所詮は脳筋かよ!!」
「『煉獄拳』、褒めてくれるとは嬉しいですね? 『ブレイクダウン』」
ふざけんな、と叫びながら剣でパリィと叫びカウンターを入れる。
純粋な手段で言えば黒狼の持ち手は多い、だがそれは決して扱いきれるという訳ではない。
例えば呪術、例えば深淵。
細かなスキルは黒狼を支える礎とはなっているが、そのすべてを扱いきれない以上黒狼はそれらを取捨選択しつづけなければならない。
(『復讐法典:悪』は駄目だ、即死する。いや、一応即死からの復活手段として『翼ある蛇』はあるが……。駄目だな、蘇生した瞬間に殴打で殺される未来しか見えない。籠手で受けても結果は変化しないだろう。一八で拳の打撃攻撃判定の信用をとってスキルレベル上げにするか? いや、それで死亡したら結果に目も当てられねぇ。突破するとしても村正だが……、なんかの術式を発動したのは見えたけどそこからがわからない。神父が時々明確に何かを避けてる動きをしてるから何かはしてるんだろうけど、なッ!! マジでふざけんな、趙火力に近接能力の豊富さはチートだろチート!! 少しは俺を見習えよ!!)
自身は正にチートというべきリスポーン時間の短縮という種族特性を使っておきながら、他人の強さを理不尽に突く。
だがそういいたくなる気持ちはわからなくもない、弱体化している属性での攻撃とはいえ一撃で殺される。
そんな恐怖はこの世界に来て精々数千回しかない。
「つまりは日常!! OK,くそったれ!! 過去の俺を殴らせろ!!」
「急に叫ぶな凧!!」
「いたのか村正!? 逃げたと思ってたぜ!!」
「神父様、こちらは私が対処しますのでご安心くださいませ。」
ガスコンロ神父の太鼓持ちである聖職者ヴィオラ。
だがその実力は決して侮れるものではない、なにせ彼女は村正を現に追いつめているのだから。
なぜ追い詰められているのか? 村正が戦闘系プレイヤーでないことは前提ではあるが問題は彼が扱う武器にある。
さて、今一度考えてみよう。
彼は何と呼ばれているだろうか? そう彼は『妖刀工』と呼ばれている。
つまり彼が持つ武器である刀は妖刀なのだ。
「(魔法魔術の昇華!! まさしく厄介だ。解釈による断罪、聖への忌憚を受ける他者憎悪からの無辜の怪物。儂の場合はあまりに強い刀を作り上げた事による妖刀の証明、其処から妖刀の制作者は神敵に違いないという公衆の共同意識を用いた無茶苦茶な魔術!! 他にも絡繰りがあるんだろうが……、駄目だ。むつかしい事はわからん、そういうのは儂のやることじゃねぇんだがなぁ?)とりあえず、死んでくれや。」
「野蛮極まりますね、神の救済にすがりなさい。」
「神なんざ信じてねぇんでな? もしその神がいるんならぜひとも会ってみたいところだ、儂の刀で切り裂けるか試すためになぁ!!」
割と狂気的な発言をしながらも村正は元気にそう言い返し、悍ましくも美しいエフェクトをまとった『白屍』を振るう。
一瞬、何かの貌が浮かびそれが刀に白いオーラをまとわせる。
そのまま振るわれた刀、途端に風の暴風が吹き荒れヴィオラは一回引き下がる。
『秘技・愚白の亡者よ殺戮しろ』、その効果はこの刀で殺害した存在の能力の使用。
対価は、村正のHP。
村正の命をすすり、命無き屍の力を降臨させる。
魔刀にふさわしい能力、だが消費されるHPの量がシャレにならず基本的に短期決戦を要求されてしまう。
「『神聖魔法:聖典第一章』、『神聖魔法:聖典第二章』」
「『一刀両断』、『パリィ』!! 近接で競ってる上に儂に弱体化までかけるか!! 神や神の名のもと何ぞという割には随分と狡いじゃねぇか!!」
「『ケーン・ブラジェニング・ホーリー』、『ホーリー・ストライク』」
「無視かよ、時代遅れの聖職者め!!」
手に持つ杖で村正の刀を弾きながら、巧みに懐に潜り込んでくる彼女。
村正は腕でそれを受けながら、足蹴を見舞い体を半回転させ裏拳を叩き込む。
それを杖で受け流し、顔面に来た裏拳を体をそらすことで避けるヴィオラ。
だが直後に白屍で足を貫かれることは推測できなかったのか、回避できず修道服の固いブーツの上から地面まで一気に貫かれた。
にやりと嗤い、腰にぶら下げている槌をとった村正はそのまま捻りを加えヴィオラの脇腹に叩き込む。
回避が追い付かず、そのまま受けてしまうヴィオラ。
だがその遅れは、カウンターによって相殺する。
ヴィオラは杖を手放し、脇腹を犠牲にしながらも村正の顔を狙い拳を叩き込む。
大きくのけぞる村正、白屍の効果は発生できていない。
神聖魔法によって状態異常が無効化されている、そのことを看破した村正は背後に数歩よろめきながらも腰の刀を抜く。
剛刀『阿修羅威』、単純な火力では村正の持つ刀の中でトップクラス。
それを抜き、一瞬で攻めいる。
ヴィオラが再度手にした杖、それを剛刀で叩き切りそのまま首を狙う。
咄嗟にヴィオラは魔法を展開し、『ライトシールド』でそれを受けるが十分な防御力ではなく貫通。
だが切り裂くまでの一瞬を利用し、インベントリを開いたヴィオラ。
そこから取り出した大きな盾で村正の刀を防ぐ。
「『言霊』『破壊しろ!! その程度!!』」
「『除霊』」
村正の言霊に対し、霊を払うスキルにて対抗する。
一瞬盾に罅を入れたが、それだけで止まりそのまま逆に盾によって弾かれた。
下駄を鳴らし、背後に引き下がりながら厄介だと口の中の血を吐く。
簡単に勝てる相手ではないことは事実としてわかっていた、だがこんな接戦を演じるほどに強いとは予想だにしていないのも事実だ。
二つ名を与えられていないだけでその強さは二つ名持ちに迫る。
「『代償:魔力一割』『対価:STR補正』」
「後衛は大人しく近接するな!! 付与師がここまで強いと笑い話にもなりゃしねぇ!!」
「『八極拳』『東青拳』!!」
「っ!! 『天地返し』!!」
盾を軸にし、回転エネルギーの利用で盾の上から拳を叩き込むヴィオラ。
村正はその拳に刀を合わせ、頭から突っ込んでくるヴィオラを地面に落とす。
ヴィオラは受け身をとり、インベントリからメイスを取り出した。
一瞬で不利を悟った村正は剛刀を投げつけ、別の二本の鯉口を切る。
正刀『法華』に駄刀『堕駄羅』、その二つを抜き構えた村正はそのまま避けてメイスから手が離れた彼女を襲う。
「『兵法・五輪』!! 『地の巻』!!」
「フッ、ッッッゥ!! ア、ガァ!! 『神聖治癒』!! 『ヒール』!!」
胸をバッサリと十文字に切り裂いた村正。
だが即座にスキルと回復魔法を用いてその傷を防ぐ、そして完全に治っていないはずなのに彼女はそのままメイスを手に取った。
下から救い上げるように放たれたメイス、受けるも避けるも微妙な距離。
勝ち目は在れど拾うは難しき状況、其処で村正は大胆な手に出る。
「間に合え!! 『納刀』『縮地』!!」
一気に姿勢を低くし、その喉元に迫らんとしたのだ。
狙いは必殺、その喉元に当てられれば二刀の刀で殺しきれる。
問題は速度、もしメイスにあたってしまえばダメージ判定と莫大な衝撃が走るだろう。
そしてそうなれば、敗北も時間の問題でしかる。
ただでさえこの戦闘でスタミナは大きく減少した、もし泥沼から抜け出し勝ちを拾えたとしてもそこから黒狼を補助する余裕などありはしない。
だからこそのこの一瞬、この抜刀ですべてを終える。
そんな覚悟を決め、重心を下げ迫った村正。
「そう来るか、『盾限』!!」
だが、当然。
そんな簡単に抜かせるヴィオラではない、彼女もまた同じくスキルを発動した。
『剣限』の盾版である『盾限』、先ほど放置した盾を呼び寄せることで村正の攻撃を防ごうとしたのだ。
咄嗟の判断、賢明な判断に村正は驚愕を隠せない。
驚くべき人材だ、ステータスは村正を少し超えるだけであるはずだろうにここまで迫るのだから。
このまま進めば彼女もいずれ二つ名を得るに違いない、そんな思いとともに脳等のモーションが終了し縮地に移る村正。
地面を蹴りつけ粉塵を上げ、彼女ののど元へと迫る。
彼女も負けてはいない、その酷く重いメイスで村正の命を刈り取らんとする。
結果から言えば、この戦いに勝利したのは村正だった。
理由は複数、大部分を占める理由は純粋な経験の違い。
村正は現実で最高クラスの剣豪柳生との知り合いかつ、彼女の弟子と何度も試合っているのだ。
その経験差がここでモノを言った。
もう一つの理由は酷く簡単、彼の剣の種類だ。
正刀『法華』に駄刀『堕駄羅』、これらの効果は酷く単純で前者は相対する敵のカルマ値。
つまり犯罪度合いが低ければ低いほど威力がなくなり、高ければ高いほど威力は高まる。
そして後者、すなわち駄刀『堕駄羅』はその能力に威力の大きな増減はない。
ただ一つ存在するのは、他者へそれを用いた場合相手のスキルや魔術などの効果が大きく減衰するのだ。
これにより本来は村正の刀を防げるはずの『盾限』で呼んだ盾が遅れ、村正が先に切り付けられた。
そして、彼女は正義や正しさではなく神への信仰者だったため大きな火力にこそならなかったものの『法華』の威力が若干上昇し彼女の首を切るに至った。
まさしく一瞬を拾ったのだ、刹那に満たない一瞬を。
首を切り、そのままとどめとして胸を踏みつけ喉をつぶした村正は鋭く息を吐く。
ギリギリの勝利、そしてその余韻を加味しめる間もないほど続く戦闘。
ため息と疲れを吐き出した村正は、再度目を細め刀を拾い神父のほうへと向かった。
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(以下定型文)
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コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




