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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『封印解除』

「ここが最後かしら? ポイント自体は多くなかったわね、合計で4ってところかしら?」

「ええ、ですが警戒を。魔力が高まっています、それぞれで相互作用を起こしていたのはまず間違いないでしょう。」


 黒狼の推論を裏付けるように、明らかにそこは魔力がひしめいていた。

 ソレこそ、魔力視を用いればドス黒く見えるほどには。


「開けますが……、油断なき様に。しばらくは魔術を展開できない程MPを、消費してしまいます。」

「何を心配してるのかしら? 『ウィッチクラフト』の異名の意味を知ってて言ってるの?」

「当然です、私以外は本心からの信用に値しないので。」

「裏切り者のあなたが言うと説得力がたかまるわね?」


 嫌味で返しつつ、ロッソはインベントリを開き幾つかのポーションを取り出す。

 取り出したポーションは、爆発関係のポーション。

 普通に使えばテロとなるそのアイテムを取り出すと、そのまま開けられた空間に投げこむ。

 爆音、同時に怒号。

 開けられた扉の向こうではモンスターがあまりの熱気と煙によって苦しみ喘いでいた。


「酷いですね、人間のやることですか?」

「モンスターじゃない、別にどんな残酷な手段をとっても心は傷まないわよ。」

「ソレでもこの世界に生存する1生命体なのですよ? もう少し慈悲の心を持ちませんか?」

「けど、貴方も同じじゃ無い。敵なら殺す、味方なら生かす。貴方の行動指針は呆れるほど単純、そうでしょ? 黒の魔女。」


 ニコリと微笑んだまま、何も喋らず杖を突きつけ先に進めと指示するモルガン。

 ソレに呆れたように肩を竦め、渋々と言った感じで中に入る。

 

「『ウォーターシールド』」


 そしてあまりに酷い熱気と粉塵に対処するため水の防御魔法を使用し、改めて内部空間を観察した。

 中にいるモンスターは酸素不足で中毒に陥っているようだ、ロッソも独自の魔術で対処しておかねば窒息死していただろう。

 そんな中を悠々自適に歩くロッソ、襲いかかってくるモンスターは……。

 前方に唯一、のみ。


「さて、やらなきゃね。」


 杖を握り、インベントリを開く。

 周囲への影響は、考える必要がない。

 今は純粋に、目の前の敵を倒せばいいのだ。


「『薬学Ⅲ』」


 静かにそのスキル名を告げる。

 突如、広がっていた爆炎の勢いが上昇し空間を焼く。

 地獄が如き様相、その中央で剣を守るモンスター。

 種族名、赤鬼が棍棒を引きずって襲いかかってきた。


「面白みの一つもないわね、見てのまんまで近接特化型か。『ウィンド・スライス』」


 一気に迫ってくる鬼に向かって風の斬撃を浴びせつつ、軽く体を捻ると空を飛ぶ剣の魔道具を取り出した。

 『射出(トリガー)』と、軽く告げると一気に進むその剣。

 重量を軽減するために持ち手は省略されているが、その反面重量は非常に低い。

 勢いのままに刺さる剣、だがソレは一本だけではない。

 次々とインベントリから溢れるように剣が発生し、そのまま赤鬼の四肢に刺さる。

 そしてラストはロッソのヤクザキックによって鬼を弾き飛ばすと、空中に展開した魔法陣から一気に火礫の魔術を発動した。


「『ライトニング』、マチマチかしら? 火属性攻撃に対する耐性は結構高い感じね、風系統は効かなくもないけど微妙、同様に上位である雷も同じかしら。物量で制圧するのも悪くないけど、ナシね。魔力が持たないわ、うん。」


 そう言いつつ、魔術で組み上げた土の斧で首を狙い水の槍を腹へと叩き込む。

 魔術の同時展開、中々に高度な事をしながらそのまま有利属性を調べ上げる。


「あら、予想外。水よりは土の方が有利のようね、となればっ!? 『グランドドミネーター』!! 拘束と継続ダメージを受けておきなさいよね!!」


 四肢に突き刺した剣が吹き出し、全身が赤黒く発光した赤鬼はそのままロッソに突撃したが……。

 ロッソは土の高位拘束魔法を展開し、そのまま土の魔術で四肢を切断する。

 そして頭部に狙いを定め、土魔法で大岩を作成すると一気に落とした。


「まだ死なない……、流石にタフね……。」


 叫び声をあげて飛び上がる赤鬼を見ながらそう呟く、間違いなく勝てるが顔面に質量攻撃を浴びせたのに生きている以上その生命力は非常に高いもので間違いない。

 というより、それで低いのならば何かしらのカラクリがあるに決まっている。

 純粋な火力は低いが、反面アイテムを用いた戦闘や後方支援はこの血盟最上級の能力を持つ。 

 さらにアイテムをインベントリから取り出して、爆発物をばら撒く。

 一瞬にして爆音と黒煙が立ち上がり、赤鬼の肉を抉った。

 血が吹き出して、赤鬼は痛みによる絶叫を挙げる。

 普通に考えれば大金星だろう、だがロッソにとっては十分な結果ではなかったらしい。

 

「爆発物はやっぱり弱いわね、ステータスの寄与が防がれるのがキツいわ。ホント、スキルの補正の有り難みがよくわかるわねぇ。」


 その言葉のまま、エクスプロージョンと言い爆発させる。

 今度はさっきの2倍、それだけ肉と血を撒き散らす攻撃を加えたロッソはポーションを飲みMPの回復を行う。


「うーん、キツいわね。魔力が持たない……、誤魔化しでポーションを飲んでるけどそろそろ中毒が出そうね……。」


 ポーションの中毒、これはこのゲーム内で明確に存在するデバフの一つだ。

 この内容は基本的に一定以下の品質のポーションを一定時間以内で常服すれば発生するモノで、初期症状はスタミナの上限が一時的に微低下する(とはいえ、明確に数値化されていないためそんな気がするといった程度のものだが)といった比較的軽いもの。

 中期症状は、ポーションの回復効果の無効化で有り最終的にはポーションの使用でダメージを受けることもある。

 この原因ははっきりとしていて、ポーションを作成するときに用いられる回復効果のある薬草の毒素が体内に一定以上蓄積する事で引き起こされるのだ。

 この毒素も数時間程度で無害な物質に分解されるため、大きく注意を払う必要はない。

 最もその話を知らない、もしくは聞かないプレイヤーは多数存在し、結構な頻度でこの中毒症状により足を掬われているが……。


「短期決戦にするには少々火力が心許ないかしら……? いえ、ギリギリ行けそうね?」


 だが、この人物はその事を加味した上で問題ないと判断したようだ。

 残りMPは千もない、回復を含めても千五百がいいところだろう。

 下手なプレイヤーでは敗北を悟る量だが、この魔女にとっては少ない魔力を効率的に運用するのもまた得手なのだ。

 杖を地面に突き立て、詠唱を開始する。


「『大いなる大地、悠久なる山々』『我ら人類は大自然を嘲笑う』『今ここに、大地の怒りを以て貫かん』『これは遥かなる進歩の代償である【地獄より刺し貫かん(アース・ペネトレイト)】』」


 四節の詠唱、彼女にしては珍しいことに比較的長い詠唱を唱えて発動したソレは赤鬼を貫くに十分な威力を誇っていた。

 一気に魔力が抜ける倦怠感と共に、、訪れたのは彼女が作成した単体攻撃特化の地属性魔術。

 デメリットは発生までが遅すぎるのと魔力消費のコスパの悪さだが、それに見合う威力はある。

 背後で此方を見聞しているモルガンを面倒に思いつつ、だが見せつけるようにその魔術を展開した。


「………、やめてよね。相手ボスじゃないのコレ……、そりゃ一撃で落ちないはずよね?」


 だが、結果は望ましいものではなかった。

 確かにロッソの魔術は相手に大ダメージを与えるに至ったが、それは殺害という結果をもたらすものではなかった。

 所詮は代償がないただの魔術、込められた魔力も1000程度でしかない以上『ファースト・サン』ほどの結果は見込めない。

 目の前で見上げるほどに高い針に貫かれながらも、未だ動いているその鬼を見ながらロッソは勝ち目がないことを悟る。

 もう余剰MPが無い、ポーションによる回復も手だが中毒症状が怖い。

 今後を含めて考えると、しばらくポーションが正常に使えなくなる中毒状態は望ましいはずがなかった。


 仕方ない、とロッソは諦めそのまま撤退を始める。

 モルガンが空間を繋ぎ続けたお陰で今回はそのまま出られるはずだ。

 その思考を巡らせつつ、一気に後方へ走り始めた。

 身体能力も決して低くないロッソ、地面に縫い付けていたあの赤鬼から逃げ切るだけなら問題なく逃れられる。

 油断なく、慢心なく。

 そのまま勢い通りに疾走する。

 

「やはり強化されていますね、厄介です。」

「真面目にかなりキツいわよ、魔力が持たない。貴方なら楽勝でしょうけど……、その杖。羨ましいわね、私も是非欲しいわ。キャメロットに入ればもらえるかしら?」

「無理ですよ、あの血盟でも先史……。それも初期に位置する遺物など数えるほどしか、そのほとんども制約と誓約で封じられ真価を知らないまま使われていますし。」

「あら、残念。」


 微塵も残念に思っていなさそうな口調でロッソが返し、そのまま杖を握る。

 空間の先では赤鬼が破壊と再生の末に針から逃れたところだった。

 眉間に皺を寄せ、それを見ながら別の杖を取り出すモルガン。

 そして意識を集中させると空間の先に魔法陣を作成する。


「杖は2本持ってても意味が無いって定説したのは貴方じゃなかったっけ?」

「普通ならば、です。魔力を術式へ効率よく与えるための道具なのですから二つも普通は不要でしょう?」

「フン、やっぱりそういうことね。その杖、名前をRubilacxe(ルビラックス)っていうのかしら? まぁなんでもいいか、その杖には魔力の生成機構が備わっているわね? それもプレイヤーでは作成不能な程度に相当上等な。」

「回答は控えさせて貰います、どちらにせよ今の貴方では知る術はありませんので。」


 嫌な女、と呟いたロッソをモルガンが黒いルビラックスと言われた杖で突くとそのまま意識を戻す。

 目の前では入り口、もしくは出口に近づいてくる赤鬼が一体とその鬼に向けられた極大の魔法陣が一つあった。

 艶かしく口をゆっくりと開く、モルガンが詠唱を始めたのだ。


「『風の音がなる、大地は歌う。』『幸福なき大地、されど鳥は羽を広げ』」


 ロッソが精錬された魔術とするのなら、モルガンは精錬とは真反対の原始的な。

 まさしくこの世界を、神秘という大自然を操るが如き超常の魔術を展開する。


「『幸せは遥か彼方へ、悠久は幾層を重ね』『大地の重みに沈みなさい、【遥かな時を重ねても(アルビオン)】』」


 赤鬼がソコに辿り着く直前、モルガンの魔術は完成した。

 彼女の魔術は正しく、規格外の出力が発揮されている。

 その出力から発揮された魔術は、数億トンの重圧と圧縮。

 大地の重みをそのまま赤鬼にぶつけたのだ。


「純粋な出力がバグそのもの、よく維持しながらそんな魔力を使えるわねぇ?」

「自前の魔力の8割を使用しましたので、はっきり言って割にあいませんね。こんな事をするぐらいなら他の魔術でも対応できましたかね?」

「どうかしら? 残存HP的には行けたと思うけど……。まずまず貴方の手札を知らないし、確実に殺すのならここまでしないと結構キツいわね……?」


 そう雑談をして、本当に死んでいるのか確認をする二人。

 魔術を解除していないため重圧はかかったままだが、とはいえ原型が残る程度に潰れているから確実に死んでいるとは思っているが……。

 HPバーがある場所が視界の外であり確認ができない。

 やれやれ面倒だと思った二人は互いに目配せをし、最終的にロッソが折れる形で行く事を告げため息を吐く。


「よいしょっ、と。うん、死んでるわ。」

「ではそのまま要となるアイテムを取ってきてください、時間が時間です。このままでは時間の問題で、レイドボスが誕生しますよ?」

「その事実を公表しなくていいの? 貴方自身も表に出した方が利益があるのじゃ無いかしら?」

「いえ、そもそも倒せませんので。公表してもせずとも、結果は同じです。」


 ロッソの呆れたような問いかけに、モルガンはそう答える。

 ロッソはこの数日間、黒狼たちと行動を共にした関係で詳細な事実を確認できていない。

 だからこそ、その解析は全てモルガンに放り投げていたのだが……。


「登場する化け物、もといモンスターの正体は判明しています。はっきり言って愚行としか思えない行動をしていますね、ここのプレイヤーたちは。」

「その情報を寄越しなさいよ、貴方でも解析には手間取っていたのでしょう?」

「まさか、解析自体は結構すぐに終わりました。私が調べていたのは別のことです、というより黒狼やネロが持ち帰ったあのレポートの研究を行なっていた感じでしょうか?」

「再現性はあるの? っと、これが要ね。」


 通話ができる魔術ごしに会話をしながら、ロッソは刺さっている錆びた剣を引き抜く。

 そのまま何かが壊れる音が鳴り出したので、ロッソは慌ててモルガンの元に戻った。


「よくやりました、これで11個全ての封印……。すなわち、王冠(ケテル)理解(ビナー)知識(ダアト)知恵(コクマー)俊厳(ゲブラー)(ティファレト)慈悲(ケセド)栄光(ホド)基礎(イェソド)勝利(ネツァク)王国(マルクト)を解除しましたね。」

「生命の樹、だったかしら? 確か、過去の宗教本に載ってた神話の樹……。」

「でしょうね、色彩もそれに準えられた物のようです。」

「で、それで何ができるの? 私にはさっぱりわからないんだけど。単体では意味をなさないし、少なくともここで回収した品の全てはどちらかといえば封印に権能が偏っているわよね?」


 ロッソのその言葉に、何か答えようとして口を開きそのまま一度閉じる。

 そして数秒悩んだのちに、モルガンは視線を遠くへとやった。

 直後、二度目の地震。

 だが、この地震はエキドナ戦の時に発生した大地を破壊し蹂躙するような地震ではない。

 もっと原初的で、暴力的な地震だ。


「作成しようとしているものについての説明をしたいのは山々ですが、どうもそういう訳にはいきませんね? 語れば一瞬ですが、その一瞬が命取りになりかねない。逃げますよ、神話の怪物から。」

「どういう……、毒属性の反応!? しかも警告の魔道具が壊れるほど……!! 確かに説明されている暇はないわね、まずは知りながら教えなさい!! 敵の正体は何!!」

「神話の怪物、大英雄と相見えた存在、不死殺しの九頭竜。すなわち、レイドボス『ヒュドラ』。それがこのイベントで設定されたレイドボスです。」


 モルガンのその言葉と共に、背後で大きな唸り声が聞こえた。

というわけで、一生中編黒狼編のラスボスはヒュドラです。

ついでに語るまでもないですが、上編で出てきたアレより弱いです。

とはいえ、レオトールという最強の鉾がいない黒狼くんは果たしてあの化け物に勝てるのか?

気になりますねぇ。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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