Deviance World Online ストーリー3『緋色の狂騒』
全力で煽りながらドンドン追い詰める黒狼、マッシャー料理人は自分が集めた食材が次々に破壊されていることで目に涙が溜まり出している。
だが間違えてはいけない、このプレイヤーはネロをケーキにしたのだ。
ある意味妥当な報復とも言える。
「ああ、希少種のスライムの粘液がぁ……!! ふざけるな!! それを集めるためにどれほどの金額がかかったと!!」
「最初は手前がやっておいて、結局被害者ずらか? そんなこと知らねぇなぁ!! こんなところに置いてる奴が悪い!! 観念しやがれ!!」
「しょーゆーことだよ!! 全部ぶっ壊してやる!!」
魔術の詠唱をする時間はない、そんな暇などない。
そして、そんな事をする必要もない。
これは許された復讐ではない、正しい報復ではない。
復讐法典の原理に背く、ただの加害でしかない。
これは、まさしく悪だ。
例えば、黒狼が大怪我を負ったとしよう。
ならば黒狼はその大怪我と同じだけの加害が認められる。
これは復讐だ、これは正しい復讐だ。
では次に、黒狼が大怪我を負ったとしよう。
そして村正が加害者にその大怪我の分だけ加害をしたと仮定する。
これは、復讐として認められない。
目には目を、歯には歯を。
これが認められるのは、当人からの報復に限られる。
なぜならば、この復讐とは互いの関係をイーブンにするものであるため。
加害者の影響によって得た悪感情を、被害者が同じだけ与えるためにこれは必要な処置だったのだ。
故に、黒狼はこの行為をただの遊びと称した。
この行為に正当性はないために。
「ほらほらほらほら!! 踊れ踊れ踊れぇ!!」
「くぁwせdrftgyふじこlp!! 何が目的だ!! 金か? 何が目的なんなんだ!!」
「手前はお伺いを立てる立場だろうがよ? 言い方ってもんがあるんじゃねぇのか?」
村正がゴーレムを切り裂き、そのままの流れで必死に叫ぶマッシャー料理人の腹部に拳を叩き込む。
手加減ではなく、嫌がらせ。
若干の高揚と憤りから、村正は彼女を蹴り飛ばす。
普通なら村正もここまでしない、するはずがない。
彼自身の自認はともかく、彼はどちらかといえば正義を心に宿している人間だ。
無意味な暴力や、弱者に対する蹂躙は好むものではない。
だが、それはあくまで普通なら。
別の事情を知っている村正は、その攻撃の手を緩めることはない。
(心象世界、『黄金の劇場』。一度でも見れば十分だ、『 の女性』。あのフランベルジュとの関係性もよく理解できらぁ、だからこそあの行為が許せねぇ。あの魔女どもは気づいてんのか、違うのか。いや、気づいてねぇんだろうな。気づいてるのなら少なくともモルガンが心象世界を見て歓声をあげる筈がねぇ。何せ心象世界は……、心の歯車が壊れているか欠けているかしねぇと凡そ展開できねぇ代物だからだ。)
心象世界、そこで村正は何を知り何を見たのかは不明だ。
だが、その正体に迫っている村正にとって『マッシャー料理人』のした行いは許容できるものではないらしい。
(もし儂の推測が正しければ、あの剣は鍵。そしてあの劇場は……、ああ!! くそっ!! 思い出すだけで苛つく、唯の独りよがりでしかねえぇがそれでも到底許せるもんではねぇだろう。人体を生きたまま加工する、それだけでも凡そ人間にしていい行いではねぇが……。だが、ネロの心は壊れた伽藍堂か朽ち果てたソレでしかねぇ。自分が他者に奉仕し、他者が自分を映えさせる彼女を消費されるだけでしかないもんに加工するなんざ……。お天道がゆるそうが、儂は許すことが出来ねぇ。)
何かを知っているからこそ、その身を案じる村正は。
怒りを込めて、拳を握る。
それは結局、独善であり独りよがり。
偽善ですらないただの余計なお世話、もし本当に善を成すのであれば彼女のメンタルケアに走るだろう村正。
だがそれは村正の思いが故に達成できない、自分の在り方があり方である以上その剣を喪失する可能性は許容できない。
故に側から見ることしかできない村正はその思いに、ただの偽善から悔しさを滲ませつつその恨みすら拳に込める。
「手前、自分のやった事の大きさはわかんねぇだろうが……。是非とも地獄を見やがれ、糞ったれ。」
眉間に皺を寄せ、そのまま拳を連打する村正。
敵対する彼女の口からは唾液が飛び出し、口が切れ現実であれば気を失えたかもしれないがそうもいかず。
ただただ純粋に痛みを噛み締める。
口がうまく動かない、そうだろう。
顎がずれている、言葉を発することすらままならない。
普通ならばここまでしない、他者のためにこんなに激情を持つことはない。
だが、黒狼の破天荒ぶりや場の状況。
そして戦いという状況が彼をここまで昂らせた。
状況なのだ、全ては。
状況さえ整えば、温和な人であろうと人すら殺すし残忍な人間だろうと慈悲を与える。
正義は簡単だ、特に社会的正義など。
だが悪は? 悪はどうなる?
先に手を出したから『マッシャー料理人』が悪だ?
正解だ。
過剰な報復をしたから黒狼たちが悪い?
正解だ。
どちらも正解だ、どちらも悪であることには変わりない。
ただの主義主張が違うだけなのだ。
どちらも悪ではあるし、正しくもない。
「…………………や、…………助け………。」
どちらも悪だ、そして同時に純粋悪と言うわけでもない。
双方に理由があり、双方に過程があり。
だがそんなものを無視して、戦い合う。
村正が気の済むまで殴りつけ、痣だらけになった彼女を見た後静かに結界を解除する。
目的は達成した、これ以上に結界を維持すれば自分まで焼け落ちるだろう。
それは、避けたい。
その想いとともに、村正は建物から逃げ出す。
だが、黒狼は違った。
「さて、『マッシャー料理人』? お前にいくつか質問があるんだが、いいか?」
「助け……、やめ……、痛いのいや……。」
「安心しろ、お前もソレを解除してるタチだよな? つまり報復される覚悟がある側だよな?」
「いや……!! いや……!! 痛いの嫌だ!! 嫌だよぉ…………!!」
横に座り込み、偽の顔でニヤニヤした笑顔を浮かべる黒狼は『マッシャー料理人』の頬を引っ張る。
どちらも悪だ、その事実は覆らない。
だが、一つ前提が抜けている。
その悪性に、信念があるか。
その悪性に、信念がないか。
3000年代、命の価値は等しく無価値だ。
例え、一国の王であろうと。
例え、働かない中年であろうと。
全ては人類が作り上げたコンピューターによって生かされている。
人類は、安定と安寧の中を生かされる考えることすらない葦。
そんな葦が、万人が必死に命を切磋琢磨し己の価値を世界に示そうとしているこの世界で生きている。
考えることすらしていない葦が、ただの娯楽としてこの世界を享受している。
「お前の経歴をさ、軽ーく調べたんだけど。結構面白いな? どこまで本当か、嘘かは知れないが……。現実ではパティシエになろうとして結局、試験に合格できずそのまま落ちぶれ引きこもり。ゲームの世界に逃げ込んで過激なモノを作り続け、最終的にはプレイヤーを生きたまま利用した料理まで作ってる。流石にゲーム外情報まで綿密なものを出してくるあの化け狐にはビビったよ、話半分で聞いたらペラペラ出るわ出るわでなぁ?」
「………………何…………が、言いた…………いの?」
「いやぁ? 何も。ただ一つ思うのは……。まぁ、才能はあると思うぜ? 向ける方向と挫折が早過ぎたって思うだけで。」
ニヤニヤと、嘲笑しつつ黒狼はそう告げるる。
黒狼は基本的に気まぐれの人だ、どれだけ情熱を注いでもやる気がなくなれば投げ出すこともある。
逆にどんだけ下らない事だったとしても、どうしようも無くなるまで続けることもある。
そんな、自由という悪性を持つ黒狼には一つの信念がある。
ソレは、諍いの時に中立に立たないという信念。
物事を客観的に捉えず、すべての情報を得た上で主観で判断する。
自分がどうしたいかを重視し、正しさと社会意思の奴隷にならないという信念。
賛否両論あるだろう、決して正しいものではないだろう。
だがソレを指摘された時、黒狼はこう答える。
『もちろん、だろうな。だけど俺は、自由に生きたいんだよ。』
この男は、どんな思いでどんな考えでその自由を語ったのか。
当人以外は知り様のないその考え、だがソレでも言えることがある。
その自由は決して何にも縛られていないものではないと。
「今後の選択は自由だ、好き勝手にすれば良いんじゃないか? 俺は興味ないし。あくまでお前がツレをあんな状態にしたから遊びに来ただけだ。村正が急に怒り出したのにはびっくりする物があったけど、あれはあれで面白いのでソレでよし。俺の気分は十分に満たされた、いわばこれはただの無駄で余分だ。そして俺のこっからの行動も……、無駄で余分だが自由だよな?」
ニチャァ、と悪辣な笑みを浮かべた黒狼。
本人は料理の素人だが、何も作れないわけではない。
そして、人間を生きたまま料理するのならばそのお返しも当然同じことだろう。
数分間、焼け落ちる店の中で一人の女性の悲鳴が響き渡った。
*ーーー*
「ック、千日手ね……。近接に持ち込めば確実だけど……、弾幕が厚いか。」
「ハァハァ……、魔力は十分ですが……、大規模破壊式を用意する時間を捻出しなければ勝てませんね。」
黒狼が燃える建物から逃げ出し、村正がやり過ぎたと天を仰いでる同時刻。
モルガンとロッソは喧嘩を止めるところだった。
勝敗はドロー、近づければロッソに勝機があり離れるとモルガンに勝機が出てくるこの勝負。
だがどちらも実力が拮抗し、結局決定打がなく千日手でしかなかった。
「とりあえず、集めに行きましょう……。休戦となるのは、癪ですが。」
「賛成ね、一発殴りたいところだけど。」
結構似た物同士の二人はそのまま、魔力視を行う。
黒狼は種族特有の魔眼だったが二人はそんな便利なスキルを持っていない。
故にその模倣で魔力操作を行った擬似的なものだが、性能は大差ない。
意識尾張り巡らせつつ、街からぬけ少し歩けば……。
「あった、わね。」
「開きます、一応少し退いてください。」
「言う前に開け始めるんじゃないわよ!!」
そのツッコミを無視してその異常を開け切ったモルガンは少し驚き息を呑む。
ロッソも遅れてソレを確認し、同様に驚きに声を上げた。
「コレ、どうなってるのよ。」
「……空間魔法や魔術ではないでしょう、私の転移魔術に近い理屈ではありそうですが……。」
「剣が一本と、モンスターハウスの様な量の雑魚敵ね。こっちから一方通行なのかしら? どちらにせよろくなことにはならなさそう。」
「ですが、こちら側での大きな変化はない様子。少し安心しましたね? ロッソ。」
MP回復ポーションを煽ったロッソにモルガンがそう言い、ロッソはソレに頷く。
ここで大きな変化がああればあれを独占するのは難しいだろう。
モルガンですら持っていない魔力視を持つ黒狼がいなければ結構な協力がなければここまで辿り着けなかったかも知れない。
「そういや時間経過で出てくるやつはどうなったの?」
「ソレに関してですが……、完全に不明ですね。解析結果はあなたも見ての通りですが……、なぜか発生しません。その代わり、対して強くもない雑魚敵にオーブが付与されている事案が散見されています。」
「おかしいわよね、コレ。絶対想定外が発生してるよね?」
「突入しますよ、術式を展開なさい?」
一気に突撃したモルガンを追いかけるようにロッソも突入する。
突入した先は先ほどのまま、唯一の違いは彼女らが突入した瞬間に入り口が消えた程度。
だがそれも、仕組み自体は看破しているので焦るほどのこともない。
「新しい魔術の実験をしましょう。『染まる朝焼け、晴れる夕焼け』」
「前に言ってた術式ね、私も合わせましょうか。『赤く紅く赫く、その現象は燃える赤』」
「『この激情はいつも私を焦がし尽くす』『染まる偽り、逆天は汚濁に塗れ』」
「『この熱は終わりを知らず、この熱は始まりを知らず』『燃やせ、燃やせ、燃やせ、燃やせ』」
同時の詠唱、近寄ってくるモンスターは彼女二人から発せられる魔力を前に、一瞬怯む。
だが突撃の姿勢を整えると一気に襲いかかってきた。
「『緋色の鳥よ、永遠に。』『私は明日を謳うでしょう、【緋色の狂騒】』」
「『全てを燃えて、塵と成れ』『私が燃えるその日まで、【緋色の狂騒】』」
互いの魔術が完成し、それぞれの視界の前方に魔法陣が展開。
そのまま、中心部から炎が湧き上がり舞い踊るが如くモンスターを一気に飲み込む。
さらにそのままでは飽き足らず、空間を焼き空気を焼き地面を焼き暴れ回る猛牛が如き荒々しさを見せる。
時間差で魔法陣から火属性の結界が展開され、その火を収束させるために外界と隔離する。
だがソレでも治らない炎、まさしく緋色の狂騒。
炎獄地獄が如き使用者二人を唖然とさせる。
「まさかここまで火力が高いとは……、原型を作成したのは私ですが……。」
「あなたの術式……、今度見せてちょうだい? 火力と効率を1.5倍にはできそうなんだけど……。チャットで実験的に作成した魔術ですらコレなのだし……。」
「……一考の余地がありますね、いくら天才とはいえ数には劣りますし。」
「天才って……、その計画性の無さで? 笑わせないでちょうだい。」
再度喧嘩になりそうなところを、魔術の観察ということで矛先を納めた二人はこの魔術を観察する。
白色の光は二人を熱気に包みつつ、結界の内側の床を融解させていく。
摂氏数千度の熱であることが判明する程度には高いその温度を脅威に思いつつ、即座に氷属性を展開し熱気がやってこないように対処した。
「封印かしら? 特に結界はやっばいわね。圧縮されて熱量が爆発的に増加してるわ。」
「そうでしょうね、ここまでは予想外です。ですが強いモンスター相手に時間が稼げれば使えるかもしれません。」
「とりあえず一旦保存ね、可能であれば黒狼に覚えさせるのもありかしら?」
「本人は嫌がりそうですね、どちらでも構いませんが。」
そう言って彼女らは権を奪うとそのままその空間に現れた出口から出た。
タブレット帰ってきてます(昨日の)
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




