Deviance World Online ストーリー3『魔術とは 番外編』
早速とばかりに『蠢く水鎧』を発生させる詠唱を行う黒狼。
視界の端ではロッソが10の魔術を展開している。
「『揺らめき漂い、水は我が身の守り手となりて』『我が体躯を覆い尽くせ、【蠢く水鎧】』」
「【フレア・バースト】【バーニング・ウィンド】【フレア・サンド】【エレメントボール】【融解する狐炎】」
その中でも鍵言葉を告げた五つ、それらの火力は他の魔術よりもより強く光を放っている。
それらは黒狼をさけ、そのまま蟻塚の入り口に飛んでゆきソコを破壊させた。
そのちょうど反対、右の視界の端には村正が二刀流で特殊アーツを発動しバッサバッサとアリを切り伏せていく。
その二人を見て黒狼は参考にしながら、『舞い踊る黒剣』を発生させる。
「『理を紐解く、その形容は影の剣』『動きたまえ、我が意のままに【舞い踊る黒剣】』」
簡単にして単純、明快にして明確。
言いやすさとテンション重視のその魔術、実際にひどく分かり易いので黒狼も結構気に入っている。
黒の剣を用いて籠手で敵の攻撃を防ぎ、槍でアリを突き刺し、黒の剣で蟻の足を切り落とす。
そのまま体の周囲で薙ぎ払い明確な威嚇を行うことでさらにアリを後退させる。
そのまま矢系統の魔術を用いて倒しつつ、槍のスキルを用いて倒し続けた。
「アーツを使えればもう少しマシになるのかッ、な!! 俺は量が多くて範囲攻撃が苦手なんだぜッ!! 魔術魔法の利便性に今更ながらに気付かされるなんてなぁ!! っと、忘れちゃならない『解体』!!」
そう叫ぶ黒狼だが、その戦いっぷりは中々に悪くない。
波のように襲いかかる蟻を順調にテンポ良く倒していく。
出入り口を崩しておき出入りを制限したおかげで雑魚である蟻事態は結構順調に倒せていた。
だが反面、村正は順調ではないらしい。
「関節以外にゃぁ、ささらねぇのか!! 糞、無駄に硬い!! さすが金属を食む蟻ってことか? 前に聞いた話以上に面倒だ!!」
黒狼の武装は基本的に突きをメインとしている、主力である槍を見れば明らかだろう。
またロッソは炎の魔術で炙り焼きにしている、そうである以上物理をメインとする黒狼ほどの苦戦もない。
だが物理に大幅に傾倒している村正はそうもいかない。
鍛治士という生産職の関係上MP自体は潤沢と言えぬ程度に豊富だが、魔術特化の生産職であるロッソには到底及ばない。
そして類まれなる経験を積んだ黒狼にもその総量は及ぶことはない。
さらに彼が得意とする魔術は刀を媒介とした特殊なもの、媒介物がある関係で魔力消費はイメージでのみ固定化される通常魔術より遥かに少ないがそれは同時に魔術特有の豊富な変化がないことも示している。
「とりあえず五体目、処理速度は流石に劣るだろうが……。仕方あるまい、儂は質を重視すべきだな。」
独り言を呟くが、2人の攻勢はボスの討伐を考えたものであり素材の質は考慮していない。
ならばこちらは、と考えるのは決して間違いではないだろう。
そんな思考を回していた時、とうとう攻撃を主としているように見える蟻が前線に出張ってきた。
三人の、特に黒狼の顔に緊張の糸が走る。
その蟻、鑑定すればメタリックガーディアンホミガーと表記されるだろうその蟻を目の前にそれぞれが武装を持ち息を鋭く吐いた。
純粋に硬いだろう、少なくともメタリックホミガーと比べても。
岩石を思わせる外骨格を持つそのモンスター、金属光沢すら思わせる煌めきはまさしく金属だ。
「前座はお終いって感じか? 全くメンドくせぇ……。俺の武装で倒し切れっかなぁ……? 攻撃力云々はともかく、貫通力は結構低いんだぜ?」
「魔術は……、十分効きそうね。最悪援護に回ろうか?」
「余計の心配は不要だ!! 手前はネロっていう荷物を抱えてんだ、それだけで上等だよ!!」
「村正ァ!? いや、別段問題ないけどさぁ!!」
そう叫びつつ、黒狼はガーディアンを見る。
そして見ても何もわからんと思考を切り捨て、そのまま切り掛かった。
キシャァァァァアアアア!!
毒液、もとい溶解液を吐きながら迫ってきたガーディアン。
一瞬の判断にて、その毒液をバックステップで回避した黒狼は軽く溶けた地面を見て相当に厄介だと認識を改める。
どうやら脳死の突貫は通用しないらしい。
「だが、対処できないわけじゃねぇな?」
手札はある、何せ魔術の仕組みを知ったのだから。
その思いと共に黒狼はイメージを行う、それも単純にして絶大な。
(ロッソとはそこまで詳しく話せなかったが……、スキルっていうのは魔術を世界がシステム化して使いやすくしたものだっていう推測が俺の中にあるわけだ。んでこの推測が事実かどうか、その話はこの際どうでもいい。重要なのはスキルで行えることは、少なくとも魔法系スキルでできることは魔術かできるということ!! そして強化系スキルの大半は多分きっとおそらく魔法系スキルであってほしいと俺は神様に祈ってみたり? あー、つまりだ。つまりはそういうことだろ!?)
要約すると、強化系スキルは魔術ではないか? という結論。
そしてその推論が事実ならば、魔術でも身体強化は不可能ではない。
そこで黒狼は思い出した、レオトールが。
そして、他にも数人のプレイヤーが『エンチャント:〇〇』と発言していた記憶を。
これは強化系の魔術、もしくは魔法であり自分の推論の答えとなるのではないか? そう考えた瞬間、黒狼の中でイメージが固まる。
「物は試しだ、成功しろってんだコノヤロー!! 『エンチャント:腕』!!」
瞬間、黒狼の両腕にエフェクトが発生しスキルの入手を告げる通知が鳴り響く。
久々のスキル獲得の喜び、それと共に自分の推論の正しさが証明され内心結構喜びながらそのまま蟻の脳天に剣を突き刺す。
大きな抵抗は一瞬で消え去り、そのまま剣身は深く深く蟻の頭部に突き刺さった。
「なんで負けたか、明日までに考えとけや!! お前に明日はねぇけどな!! ついでに『解体』、素材くださいよこしやがれ!!」
「乗ってるわねぇ……、若いっていいわね?」
「手前も十分若いだろ!!」
「ギャハハハハ!! 良いアリは俺に殺されるアリだ!! 悪いアリは俺に殺されないアリだ!! 悪いありは全滅だー!! そしてその考えはアリってか?」
テンションが高くなり訳の分からないことを喋り始めた黒狼だが、確かに処理自体は結構早くなった。
魔力は比較的高めの彼だ、回復手段を持っていないという最大の欠点を除けば魔術は得手とするのが普通だろう。
実際にも『始まりの黒き太陽』を使えているという事実から、魔術を得意と名乗って問題はない。
(さて、取得スキルは『付与強化』? 簡単な名称……、分かりやすさ重視ってことか? まぁいい、攻撃力の倍率自体はさして高くない感じだな。便利で結構、こういうのでいいんだよ。さて、こんなふうに戦いながらアーツの考察も行っていくか? アーツ自体レオトールとかケイローンとかの説明がほぼ無かったせいで良く分かっていないんだよな、とりあえず何度も何度も体に覚えさせることで勝手に発動する技術の類だとは思ってるけどシステム的にアーツの説明があったし……、待てよ? 俺ひょっとして致命的なこと間違ってたんじゃないか?)
正解である。
大正解である。
大大正解である。
さて、まずは復習といこう。
黒狼はケンタウロスの賢人、ケイローンからアーツを教わったときにステータスに『アーツ』の項目が発生した。
そしてこの項目に刻まれた魔術、及び共に渡された羊皮紙に刻まれている魔術を暇なタイミングで学んでいたのだが……。
普通のプレイヤーはそもそも『アーツ』などという項目は発生しない、この事象はケンタウロスの賢人であるケイローンがステータスに干渉し学習の順序などを分かりやすくするために作成したものだ。
特殊アーツなどがスキルでないのと同じように、同時に特殊アーツがステータスで説明されないように。
普通は、そんなに丁寧に説明などされない。
(あー、はいはい。そういうこと? アーツに対する認識というか……、そもそもご丁寧な解説がないって感じだったってわけ? ケイローンさんヨォ、もう少し分かりやすく解説できなかったのか? いや、対面時間が10分以下だから俺が聞かなかったのが悪いけどさぁ……。)
情報的にほぼ閉鎖していた環境にいた黒狼でなければ、確かに適切かつ分かりやすいモノだったのが本当にひどい話だ。
そしてそのことに気づいた黒狼は相当遅れたが、アーツというシステムを完全に理解した。
(アーツってつまりスキル化していないスキルみたいなもん……、というより多分だけど魔力で体を勝手に動かす類のものだよね? いわば『パブロフの犬』ってわけか。何回も何回も使って条件反射でその技術を使用するって感じ? それをアーツって言ってるんじゃないの? 特殊アーツは村正の刀を使った魔術みたいなやつか? 武器の概念を表露させて扱う技術って感じ? 掲示板情報では結構上位の武器じゃないと使用できないって話だけど……、まぁそうだよな。まぁいいか、些細なことは思考から追い出して……。ほい、大体理解した。推測ではあるけど魔術のアーツ、つまり魔術アーツは魔法陣や詠唱っていう過程を完全無視して即座に発動できる感じ? 説明的には鍵言葉に類する発声が必要らしいけど。それ以上を要求しそうにないはず……、その上でイメージの劣化とかの影響での詠唱短縮による効果減衰はないんだろうな? 反対に物理的な攻撃のアーツ、つまり物理アーツは鍵言葉と似たようなヤツを発声して魔力をもとに勝手に体を動かす感じ? 村正が特殊アーツに詠唱をつけているのは、いや付けれているのは彼奴の魔術が剣を媒介としたやつでクソほど類似しているから? オケオケ、大体わかった。)
そうして脳内で結論をまとめて剣を握り、脳死で倒していた蟻に再度意識を向け直すと黒狼は口を開く。
口からこぼれた言葉は……。
「つまり全部倒せばいいんだな!!」
「どういう結論かしらねぇが、つまりはそういうことだ!!」
「あの2人って根底は馬鹿なのかしら?」
あまりにも馬鹿な内容だった。
とはいえ、馬鹿らしくはあるが正しくはある。
今重要なのは目の前の敵を倒すことに他ならない、それ以上は後で考えればいい。
とりあえず、脳内で渦巻いていた思考をリセットしそのまま剣を駆る。
颯のごとく、一人の風となった水を纏いし骨は水のお重さごと剣で蟻を叩き切った。
そのまま蟻を蹴り上げ、籠手で首を掴むと地面に投げ捨てたまま背後から飛びかかってきた蟻を黒い剣でいなす。
相手が格上であれば黒狼の有利な勝負ができるが、このような飽和状に雑魚が集う戦いは未だ黒狼は弱いままでしかない。
とはいえ、その弱さもだいぶん改善しているが。
(うーん、アーツについて大体理解したけど習得方法がパブロフの犬って巫山戯てるよな? 流石に何か短縮手段とか……、なさそうか……。いや、ゼロじゃないんだろうけどまず覚えなきゃならないものがあるだろうし……。って、ヤッベ!? HPが結構減ってやがる!? 回復回復っと、ついでにダークシールドも貼り直すか。できればこのダークシールドも改良したいんだけどな?)
そう思いさらに剣を振り腕のバフが解除されたのを確認する。
時間自体はさして多くないらしい、秒数にしていえばおおよそ30秒と言ったところか。
それに対し消費MPが10程度なのは相当コストが安いといえるかも知れない。
「再度バフを掛けて……、いや要らないか。雑魚を蹴散らすだけなら別段必要なし!!」
「盛り上がっているのはいいけど蟻が道を復旧したわよ!! これ以上に増えるから討伐速度を上げてね!!」
「デジマ!? 今でも結構キツイんですけど!?」
「仕方あるまい、ここは一肌儂も脱ぐか!!」
気合を入れ直すように村正が武装を入れ替え、刀を両脇に合計四本差した。
いわば本気の状態になる。
それにつられて、元々持っていた刀はインベントリに仕舞い腰に差している刀を二本引き抜いた。
黒狼も負けてはいない。
本気を出した村正を見た黒狼は黒狼で、『書籍集』のスキルタブを開き掲載されている有用そうな魔術を描き出す。
内容は至って簡単、地面が耕されるだけの魔術だ。
だがここに水魔法をばら撒けばどうなるか? 考えるまでもない、結果は泥となるのみ。
泥に、そして半端に耕された大地に足を取られ蟻の行軍速度は大きく鈍る。
「へいへいヘイヘーイ!! 掛かってこいYO!!」
「うし、やはりこいつらが一番手に馴染む。『解体』、っと。一切合切倒してやるからかかってきな?」
「前衛2人が調子出てきたわね? とはいえこのペースだと長期戦だし……、そうね。ドロップ品を回収して簡単なポーションを作っておくべきかな? 回復できるアイテムを余りスタックしておかなかったのは失敗ね。」
ロッソがその言葉と共に、一メートル大の大きなカバンのような物を出す。
そして魔力を流し解錠すると、一気に展開されたその鞄。
そこから広がっていったのは簡単な工房だった。
「さて、最近調合もしてなかったのよね……。タイミングとしてはちょうどいいわ、『ウィッチクラフト』の名にかけて八面六臂の活躍を見せてやろうじゃない。さて、起動しなさい、『ガーディアン:タイプガーゴイル』」
簡単な工房、ロッソを囲うように開かれたそのドーナツ状の台の上には様々な道具が所狭しと並べられており簡単な調合どころかほどほどに難解な薬剤の作成すらなし得るだろう。
この工房、いやこの鞄は上級者用簡易調合鞄(戦闘用)という名前であり黒狼が持っている錬金鞄の数段上に位置する調合用の鞄だ。
その機能は多岐に渡り、戦闘中でも多少は守護ができる要塞としてプレイヤーからは人気の品である。
それを惜しげもなく広げ、刻まれている魔法陣に魔力を流し鍵言葉を告げつつガーゴイルという守護者を召喚した。
長期戦に強い生産系の魔女プレイヤー、『ウィッチクラフト』という名前の通り魔女のアイテムを作成するのを最も得意とする彼女もいよいよ本気を出したのだった。
こうして、戦いは進み始める。
過去にアーツの説明をした気になってたけどしてなかったので説明をしました。
してたら多分内容が多少以上に変化しているので……。
もししていたら……。
はい、まぁその場合は教えてください。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




