Deviance World Online ストーリー3『魔術とは 2』
一旦脳内で話を整理した黒狼は質問を再開する。
「発動原理は大体わかった、重要なのはイメージなんだろ?」
「そう言うことよ、ただそれをスキルシステムで実行するのが『詠唱』スキルね。詠唱することによって事前に登録していた魔術を勝手に展開するって訳。スキルシステムとしての魔術の説明もあった方がいいわよね?」
「よければ、お願いしたいところかな? まとめサイトでも見たら済む話なんだろうけど……。」
「推奨はしないわね、魔術はスキルシステムと関係があるものですら型に嵌められるものではないわ。魔術に必要なのが想像力って言った通り、何かでイメージが固定化されれば魔術の道は大きく狭まる。草原にひいてある道だけしか通れないと思い込めば、獣道や道なき道は通れないと思い込んでしまうのと同じよ。」
つまりは常識を作るなと言う話なのだろう、そう理解をした黒狼は心のメモ帳に刻みながら耳を傾ける。
今は知識が欲しい、それも基本的な。
「で、スキル的な魔術の話ね。まず大前提として『魔法』と『魔術』の差はなんだと思う?」
「……わかんね? どっちも魔法陣が発生してるし同じもんなんじゃないのか? 強いて言うなら詠唱がついてれば魔術……なのか? なんかそんなふうに聞いた記憶があるような無いような……。」
「厳密に言えばスキルから発生するのが魔法、それ以外は魔術って区分だ。あってるだろう? ロッソ。」
「正解、村正が言った通り発動がスキル依存なのが魔法でそれ以外……。まぁ、基本的には詠唱や自力で術式を作成する必要があるのが魔術ね。法か術か、って覚えるとわかりやすいかも?」
法、すなわち法則か。
術、すなわち技術か。
その差異でしかないが、これこそが重要でもある。
「もう少し続くけど許してね? さて、魔法すなわちスキルの話だけど。さっきの定義と矛盾する最も面倒臭いことを最初に言うわね? 結論から言えばさして魔術と違いはないわ、精々が術式が事前に登録されてて詠唱が不要ってところかしら? これ以上の違いは殆どない、いえむしろ同一ね。あくまで術式の発生や効果が全部規格化されているだけでしかない、これは『探求会』と『キャメロット』……。厳密に言えば『黒の魔女』ことモルガンが検証を行った結果確定した事実よ。なぜかは知らないけど、NPCはこの事実を明確化させないし何か秘密はあるのかしら? とはいえ新情報はないし、現状的にはこれが正しい答えと言えるわ。」
「????? はぁ? それなら魔法は魔術なのか? 少なくともそう解釈できるぞ?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわ。私自身、ここの解釈は曖昧なままだし……、ただNPCは全員ここを明確に分けるのよね……。特に魔術や魔法に長けた存在となればなるほど、ただの自尊心とか差別化とか色々考えられるけどまだ未知が眠っているって私たちは考えるからここは分けて考えてる。だから教える時は別物として認識させるわ、別に同一で考えてもいいけどね?」
「OK、とりあえず深く考えないようにする。魔法はスキルで扱う魔術、それ以外は魔術って認識……、いや言葉にすると余計訳がわからねぇな?」
めんどくさい設定だな、と思いながらもノリで理解する。
こう言うのは深く考えれば沼でしかない、しかも底が無いタイプの。
そんな沼に囚われて目的地につけないぐらいなら、そう言うものと認識して放置しておくのが吉と言える。
「じゃぁ、本命の魔術の説明に入るわよ。さっき村正が言った通り、魔術とは魔法以外の全てを表せるわ。今回の説明ではその中でも詠唱を中心にやっていきましょう、詠唱は魔術の華にして最重要な要素だからね。まず詠唱スキルっていうのは、術式をストックしておくスキルよ。このスキルは使用者が意識的に詠唱となる文言を告げると同時に発動、その詠唱と照応する魔法陣を描き出すスキルね。基本的にそれ以上の効果はないけど、確認数自体は少ないものの他のスキルを用いる魔法陣の場合詠唱中に勝手に他スキルを蜂起させることもあるわ。」
「おー、俺の『始まりの黒き太陽』もそういうタイプだな。勝手に『深淵』と『暴走』が発動してるし。」
「貴方が前にモルガンに言ってなかったかしら? まぁ、そんなことどうでもいいわ。『詠唱』の効果はこれだけ、単純ね。さてこの効果を踏まえた上で機能として、魔法陣と詠唱を作成する必要があるのはわかってるわよね? この中でも詠唱は自分で作成する類のものなのは知ってる前提で進めるわ、自分で使ってるし。さて、この詠唱文だけど基本的に魔術の難易度につれられて文字数というか節が増えていくわ。作成する特に節を設定しろって画面ができるのも見てるはずだし詳しくは説明しないわよ? さて、この増えていく節だけどこの数はINTが上昇すればするほど短縮可能になっていくの。これを基本的に短縮詠唱や簡略詠唱というわ、この簡略化された詠唱は基本的に威力が下がるけど減衰率はスキルレベルによって変動するわ。詠唱スキルのレベルがカンスト、すなわち10レベルなら減衰率が50%になる。あと、基本的に簡略詠唱は鍵言葉だけにすることが多いわね。」
「モルガンが言っていた基本的な詠唱を全文詠唱、鍵言葉のみの詠唱を簡略詠唱、その後に詠唱するのが後述詠唱っていうのはこういうことか。」
その話を覚えているの!? と驚くロッソ。
実際そこそこ前の話なのでロッソ自身、忘れかけていた内容だったのだ。
黒狼の記憶力に驚きつつ、その認識を肯定する。
「ちょうどいいし後述詠唱についても語ろうかしら? 後述詠唱は、さっきの簡略詠唱の後に詠唱を行い発動した術式により多くの魔力を流すテクニックよ。他にも詠唱の発動でイメージを強固にして安定させる側面もあるし、使い勝手は悪いけど威力が不足しているという時なんかに使えば最後の一押しにもなるわね。ああ、後詠唱スキルが関連しない詠唱もあるわね? 詠唱スキルが関係しない詠唱っていうのもあるわね、コレはイメージの補強を指すわ。例えば炎といえば炎を連想するでしょ? そういうのをより仰々しくいえば大きな炎や火力の強い炎を連想する。そのイメージを行えば結果的に魔術の強化につながるわね、些細なことに思えるかもしれないけどこういうのが重要なのよ。」
「転化っていう技術に関しては?」
「ああ、それは……。魔法と魔術の差がない以上魔法を魔術として扱うこともできるわよね? だからスキルから展開された魔法陣を自力で操作して威力とかを上昇させるだけの技術。詠唱に関しては転化した後の後述詠唱だから関係は低いわね。こういうのは意表を突く時とかに使えるわ。例えば弱いファイアボールを発動した後に消さずに転化させておいて後述詠唱で新たな魔術を発動させると警戒させた隙に背後からそのファイアボールで襲わせるとか。」
「案外実用性は低いんだな? もう少し面白い使い方ができるのかと思った。」
実直な感想に若干睨みを聞かせるロッソだが、村正からの警鐘の声を聞き杖を構える。
今度はオークやゴブリンではなく、コボルトが五匹らしい。
そこそこ面倒臭い予感を覚えつつ黒狼も剣を抜く。
「とはいえ、理論は聞いた。ならあとは実践あるのみだよな?」
ニヤリと、口を歪める。
骨の癖に骸の顎を上手く歪め、黒狼は早速魔術を新造した。
中心には闇の魔法文字、その周囲には複数の文字の羅列。
図書館スキルの中に内包されていた単語を手癖とともに書き連ね、新たな魔術を成立させる。
「闇の……、何? 字が汚くて読みづらいんだけど……。」
「ねぇ、ひどくない? そんなに汚いか? 俺の文字。」
「汚ねぇんじゃねか? 儂は知らん。」
ぶっきらぼうに返す二人に涙目になりながら、背後のネロがウトウトしているのを見て息を吐きそのまま魔術を展開した。
その攻撃は闇の剣を作成するだけのもの。
それを動かす術式は入れていない。
だがそれだけで十分だった。
一瞬、作成された黒い剣が揺れるとそのまま動き始め黒狼の意のままに周囲で揺れ動く。
「なるほど、確かに魔術はイメージだ。思ったように、それこそ自由自在に動いてくれるな、悪くない。」
「驚いた、確かに不可能ではないけど相応に難しいはずよ? あっさり熟すなんて……。ある程度の事前知識があれば動かす作用文字に囚われて動かすことをイメージできないはずなのに。」
「教えがよかったんだよ、教えが。」
カラカラと笑いかけ、そのまま突進していく。
作成された黒い剣は一本だが、手を使わない剣というのはそれだけで十分でしかない。
一気にコボルトに接近するとそのまま切り付ける。
「お、いいね。」
剣で切り掛かると同時に、右側から襲いかかってくる黒い剣。
棍棒で黒狼の剣を防いだコボルトは、そのまま後ろに後退したが……。
急速に直進し、そのままコボルトの腹を貫いた。
慣性すら関係無い、そもそも闇に質量はない。
思うがままに動く夢想の剣、それは一気にコボルトを混乱させる。
一撃で理解し、大きく避けるコボルトだったがそれすら無意味。
急加速し、急停止し、急回旋する。
その様子は、まさしく踊る剣の乱舞。
獰猛で勇ましい愚犬の戦い様。
一瞬で体を切り裂き、各所から血流を噴出させた。
その横では村正が二刀流で一気に切り裂き、四肢を切り飛ばす。
飛んでゆく腕は草むらに入り、血溜まりを作り上げた。
気持ちの良い戦い方でこそないが、殺人には特化している。
まさしく鬼武者、そう例えれる程度の戦い様は村正の無表情と相反しており恐怖を呼び起こす。
背後ではロッソが魔術を用いて、そのまま他三匹を牽制していた。
森の中、炎を得意とする魔術師であるロッソにとって不利な環境。
だが、取れる手段がないわけではない。
風を用いて刃を作り、土を用いて足止めを果す。
水で小さな沼をなし、そのままコボルトを誘導しつつ他二人の様子も確認する。
結果とし戦いは5分と続かず、一瞬で決着はなされたようだ。
「一件落着、か。」
「だろうなぁ? しかし、魔物も多くなってきやがった。気を抜けばまた襲いかかってくるぞ、口ばかり動かさず多少は気を張ってくれ。30分も話したんだ、基本なんざそれぐらいで十分だろ?」
「そうね、というかもう30分も話したの!? 自分でもびっくりだわ……。」
「確かに長くなったな……、さらに詳しく踏み込もうとするとまだまだ時間かかるんだろうし……。確かに安易な質問をした感じがあるな、もう少し時間があるときに踏み込んだ話を聞きたいんだがいいか?」
そのままロッソもその話を肯定し、四人は再度森を歩き出す。
時々談笑はしているものの、先ほどのレベルで話に熱中しているわけではない。
現れるモンスター相手に魔法や剣で切り倒し、そのまま森を進んでいく。
10キロ、言葉にすると長いように感じるが実のところそこまで酷く遠いわけではない。
真面目に歩けば90分、黒狼たちが会話していた時間を省き一時間もあればその周囲に到達することは難しくない話なのだ。
十数回ほどの戦闘も含め時間で二時間ほど、そこそこの量の素材をもとにホクホク顔の黒狼たちはようやくそのモンスター。
メタリックホミガー、つまり金属蟻の巣を発見したのだった。
そして同時にボスコールも流れる。
〈ーーボス級イベントに遭遇しましたーー〉
〈ーーイベント名『蟻地獄』ーー〉
〈ーーイベントを、開始しますーー〉
「まだ、気付いてはない感じ? かな? これは。」
「だろうな、無闇矢鱈に顔を出すんじゃねぇぞ? レイドバトルと比べれば数段劣るが下手な強さじゃねぇ。」
「……まぁ、否定はしないな。」
その言葉を聞き、展開しかけていた魔術を一旦取り消す。
止められなければ魔術を完成させていたところだろう、それも結構な魔術を。
この一時間強で黒狼が作成した魔術は『舞い踊る黒剣』、『蠢く水鎧』の2種類のみ。
どちらも黒狼の知識ないではあるがさまざまに改造し、結構面白い状況となっていた。
『舞い踊る黒剣』は一本の闇魔法で構築された剣でしかないものの、結構な弾力と切断力を持っていて村正の刀を参考にしたその鋭さは面白いほどに良く切れる。
流石は妖刀工の作品の模倣だろう。
『蠢く水鎧』はヒュドラ戦で用いた毒の鎧をもとに考え抜いた水の鎧だ。
切断攻撃に対する防御能力こそ低いが、衝撃などはよく防ぐ
黒狼が苦手とする打撃攻撃を防ぐには十分な魔術だろう。
「魔術はまだいいだろう、一旦ここは広がり儂の合図で襲うっていうのはどうだ?」
「悪くないんじゃないかしら? ネロはもうすっかり寝ちゃっているし、私はここで遠距離専門の砲台になれば十分でしょ?」
「あぁ、そうだな。じゃぁあ、それで行こうぜ?」
意見はあっさりまとまったようで、早速移動を開始する。
蟻どもがいる地形は簡単で森が一際広く開けたところに大きな、それこそ小山のような蟻塚がありありが大量に蠢いている。
基本的には黒狼たちの膝に及ばない程度の大きさのアリが葉っぱや木の枝を持ち込んでいるだけだが、中には結構な大きさのアリが大きな顎を鳴らし警備している様子も見えた。
今は
黒狼たちも見つかっていないものの、こんな近距離ではいつ見つかってもおかしくない。
最大限警戒しながら黒狼と村正は動き出す。
時間にして10分ないし5分程度。
だが体感時間は一時間近い。
冷や汗をかきながら、ゆっくりと音を立てずに移動しアリたちが少ない場所まで移動する。
無事移動した二人はアイコンタクトを取りつつ、それぞれの得手物を抜き去った。
黒狼は剣を、村正は派刀を。
それぞれが抜き去り、戦う準備を整える。
そのまま3呼吸、緊張をやわらげながら吐いた息を感じつつゆっくりと蟻塚へ向かうために森から身を表した。
最初はありも気ずいていなかったが、徐々にその姿が露わになるにつれて是認が黒狼と村正を認識する。
同意に戦闘ができそうなアリが顎を互いにならしゆっくりと近づいてきた。
「戦闘、開始だ!!」
黒狼が叫ぶと同時に一気に黒狼が近くにきた軍隊アリを攻撃する。
一気にあげて振り下げられた剣は蟻の脳天をわりそのまま割るように叩きつけた。
痛恨の一撃はそのまま通用し、蟻の顎が砕かれる。
そのまま行われた蹴りでありを大きく飛ばすと黒狼は村正の方を見た。
村正は村正で刀でアリを両断している。
相変わらずの戦い方に黒狼は苦笑し、戦いを続行した。
説明が長い
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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