Deviance World Online ストーリー3『魔術とは』
情報が少ない。
前々から自覚していたことではあったが、ここにきて更に明確にそれが表面化された。
今までは狭いコミュニティでしか活動していない黒狼。
それが一気に広がった影響がモロに出たといってもいい。
そういうわけで黒狼は……。
「まぁ、取り敢えず一旦キャメロットを測るのは置いておこうか。計画の立案者が居ない中であーだこーだ言っても仕方ない。」
「手前の意見には賛成だ、あの魔女の隠し球が幾つあるのか分からねぇ中の議論は不毛でしかねぇ。それに儂は生産者であり依頼を受けただけの人間だ。下っ端が上の意向を知らぬままに行動したら結局頓挫するのが吉だ、それこそ不要な船頭多くして船山に登るってな? まぁ、何やら特殊な兵器を知ってるようだが……。」
「まぁ、取り敢えずあのバカが本格的に杜撰な計画を立ててるのならギッタギタのメッタメタにしてやりましょう。個人的な恨みもあるしね?」
「取り敢えず俺たちは強い武器を集めることに尽力しようか、それが今の俺たちの目的だし。多分ヴィヴィアンのいう強い武器ってあの電気銃みたいなもんだろ。……ああ、その前に俺の進化がもうすぐだから協力してくれるか? 低レベルだった関係もあんのかレイドボスを倒した時に結構な経験値を獲得したらしい。」
という結論に至る。
要約すると地味な戦力強化が今できる最善の行動ということで、敵を倒したりしようという事だ。
「そうだな、それがいい。ついでだ、このイベントで戦ってみたい化け物がいるんだ。それも刀の素材に成りそうな、な? 手前の経験値取得の次いでに狩りたい、過剰に倒せば武器の一つぐらいあしらってやるよ。」
「え、代金は?」
「過剰に手に入ればって話だ、余分な素材はインベントリを圧迫する。其奴は儂の望むところにないんでな、それにメリットがない訳でもない。初見の素材の練習ができる、儂に限って失敗なんざありえねぇがそういう緊張がないのはいいってもんよ。」
「ふーん、モンスターの名前は? あ、いいわ。大体わかったから、多分だけどアイアンホーミガーでしょ? 『探求会』の情報まとめにそれらしいモンスターはこれしか居なかったわ。」
ロッソの質問に肯定で返した村正はそのまま生息地を伝える、今回も例に漏れず中心地。
つまりエキドナと戦闘をしたところより結構な距離があるようだ。
その情報を聞き、歩く手間を考え辟易とした様子を見せる黒狼だが仕方ないとばかりに意識を切り替える。
若干顔を陰らせ、廃墟ばかりの街を出る。
そのまま草原にいたスライム数匹を倒し、森に入った。
森に入ると一気に雰囲気が変化する、小鳥の囀り虫の羽音。
モンスターの鼓動すら聞こえそうなその環境、森という既に消えた大自然を体感する。
「ここから10キロ歩けば到着だ、どうする? 走るか? 五度ほど休めば行けんだろ。」
「ちょっと厳しいわね、私のSTRは低いのよ。頑張っても10キロなら7回かしら、戦闘が控えているのを考えればそれ以上……。」
「あのー、俺の背中で伸びてる児童をお忘れで? 村正。」
「手前ら体力なさすぎんだろ、生産職の儂より体力低いってどう言うことだ?」
後衛系生産職に骨に殺人系アイドルだ。
そりゃ前衛をこなせる鍛治士よりスタミナが少ないのは当然だろう。
まぁ、一名スタミナが関係ないのもいるが。
生産職の……、と言っているが彼は己が平均ではなく上澄ということを自覚していただきたい。
「あー、なんだ? どうにかできねぇのか? 体力関係の刀は儂も持ってねぇしな……。」
「私も無理、多少のバフならあるけど効果に対して魔力の消費が酷いのよ。」
「俺を見ないで、持ってないから。」
「余も持ってないのだ!!」
顔を顰めた村正だが諦めるという手段はないらしい。
結局ゆっくりではなくとも、そこそこ遅めに進んでいる。
その背中を見ながら黒狼とロッソは会話を始めた。
「魔術に関してだけどなんか教えてくれない? 基礎的な話でいいからさ。」
「無理って言ったでしょ? 時間が足りないわ。魔術って言うものはね、本格的な指導をしようとすると本人の才能というかテンションというか性格が関わるのよ。テンションが高ければ高いほど、万能感が高ければ高いほどより効果が高まるわ。他にも不安定な部分は多い、魔力自体種族や人によって様々な使い方ができるわ。魔術って一言言っても村正が使うような物品を媒介とし明確な術式を持たないものがあれば、あなたのように魔法陣が変化し続けるものもある。もちろんスタンダードとして魔法陣が変化しないのは当然なのだけど、それ以外の特殊な使い方は言葉通り山のようにあるわ。それを事細かに教えようとすれば丸丸一日欲しいわね。」
「そこまでじゃ無くていい、基本的に……。それこそ魔術に関する基礎知識でいい、そこからの応用は自力で考えるさ。」
「……理解できなくても知らないからね?」
そう一言断りを入れると、ロッソは早速口を開き始めた。
内容としては黒狼も既知の属性の魔法文字について、つまり火、水、土、風、光、闇、無、空間、不明、不明の十種類。
それを軽く話しつつ、そのまま魔術の効果の作用に関する作用文字を話し始めた。
「魔法文字は大元の効果、それに対して作用文字はその細かな効果なのは知ってるわよね? その作用文字だけどこれは基本的に術の発動のイメージを補う文字よ。だから最悪、これがなくても魔術だけなら発動できるわ。それこそ、こんな風にね?」
「おお、マジか。確かに炎が出て……、消して消して!! 俺のダークシールドの消耗がぁ!!」
「あ、ごめん!! ……、よく考えればダークシールドで太陽光を浴びないようにしてるのよね? こんな火でそこまで消耗するのかしら……? 純粋にスキルレベルの問題? もしくは種族の特性とか……?」
「スキルレベルのはず、なんか聞いた覚えがある。あと、消耗が早いのは光量が原因じゃなくてそこにあることも原因だと思う。光源が近くにあるのが問題なんじゃね?」
うろ覚えの記憶でそう返し、再度ダークシールドを形成し直す。
ついでにダークシールドがどのようなものかを考えた黒狼だが結論には興味はない。
そのままスルーしロッソに話の続きをせがむ。
「興味深いけど今はいいか、私も使えるし検証はまた今度でやろうかな? で、話の続きね。作用文字が不要なのはさっきのでわかったと思うけどこの答えに行き着くと次に魔法文字が本当に必要なのか、疑問に思わない?」
「まぁ、一応。」
「実はそれにも答えが出てて、魔法文字も実際には不必要なの。というか、魔法文字は人類が持つ属性を帯びていない魔力。つまり無属性の魔力を変化させるために用いているだけ、魔法文字を使わなくて魔力を変換できるのなら魔法文字も不要ね。そういう理屈で魔術は働いているのよ。」
「ん? ちょっと待って。それなら詠唱とかで魔術を使うときに要求される魔法陣にも魔法文字は不要なんじゃないか?」
「それは違うわ、魔法文字は確かに魔力の変換を要求しない、自力で魔法陣を描く魔術に不必要かと思うけどその魔術の場合は作用文字を成立させるために必要なの。簡単にいえば歯車ね。魔力は軸、魔術は横に広がる歯車そのもの。作用文字は横に広がっている歯車だけどその歯車を動かすためには軸と魔法陣を接続しなければ行けない。そこで使われるのが魔法文字。魔法文字がその軸と歯車を繋ぐ訳。けど例外的にその繋ぎを必要としない属性があるわ、それは無属性。無属性は作用文字という歯車を強制的に回させるモノ、そのために軸を大きく。つまり消費魔力を爆増させる必要があるの、もちろんそんな力技をしているから魔術自体も簡単なものしか発動できないわ。無属性の外部出力はこういう事情で有用性は低いわね。」
空中に魔力で歯車を描きながら解説していくロッソ、その説明を必死に理解しようとする黒狼。
話しながらテンションが乗ってきたのか、徐々に饒舌になっていくロッソを見つつ魔術の難解さを理解する。
最も理解はしていくが、それを活かせるのかは微妙といった感想を抱いているが。
「ここまでが基本知識ね、これすら理解できてなければ魔術を使うのに向いていないわ。……流石に言い過ぎね、自力で組み立てるのは辞めておきなさい。」
「大丈夫、まだ理解できる。簡単にいえば魔術を発動するのに魔力が必要、魔術を発動するのに魔法文字が必要、想像力を補うために作用文字が必要って訳だよな? 正解なら続けてくれ。」
「詳細な説明の大半がカットされた……、けど理解自体は問題ないわ。じゃぁ、続けるわね? ここまでが基本知識で、ここからが魔法陣を作成するときに必要な知識よ。魔法陣は魔力を現象に変換するためのものなのは知ってるわよね? その現象への変化、その前提の知識として魔法陣の文字は魔術を成立させるための魔術の認識の補助というわけ。さっきも言った通り作用文字がなくとも魔術は発生させられる、その事実は間違いないのだけどソレを難解な魔術で行えば絶対に崩壊するわ。例えば驚異的な、ソレこそ星間移動を行う魔術を行うとしましょう。その魔術を行うためには着地点と始発点の入力が必須なんだけれど、ソレを想像で補う場合写真そっくりな映像とその経路を思い浮かべなきゃならないのよ。しかも発動中ずっと、ずっとよ!? 考えられる!? ずっと写真のような精密な絵を思い浮かべなければならない。これって実質不可能よね? だから魔法陣で補助するの。空間魔法的にいえば世界を座標化してその座標を作用文字として魔法陣に入力すると言う感じかしら? こうすることによって使用者はイメージすることなく魔術を発動し続けられるわけ。これが魔法陣の役割、今言った内容を一言で言えば想像力の補助っていう一言に尽きるわね。」
「……長い!! もう少し簡単にまとめてくれ!!」
あまりにも長い話に黒狼が音をあげ一旦休憩を申し出る、どちらにせよ村正がモンスターが迫っていることを示しているので説明の休憩は必須だろう。
テンションが乗っていたところに水を刺され若干不満そうなロッソだが、休憩とするには丁度良いのもまた事実。
大きく意を唱えることもなく、そのまま戦闘体勢に入る。
敵はオーク、手には立派な斧を持っている。
木陰から現れたそのオークを視界に捉えた黒狼は早速剣を持って突撃する。
前方のオークは黒狼を視界に捉えた途端、斧を振り上げそのままったき潰そうと振り下ろした。
ソレに対抗すべく、黒狼は小手で斧を逸らしながら右手の剣で突刺す。
脂ぎったその腹、剣を引き抜けば一気に鮮血が飛び散る。
斧を振った勢いもあり一気に剣が突き刺さった状況、あまりの激痛で動きが止まったオークだがその停止は致命的でしかない。
「『王花紅紫方』、血の花を咲かせろ!!」
初手、村正の刀による攻撃。
放たれる斬撃、舞う鮮血は桜吹雪が如き真紅を作り上げる。
特殊アーツ、『王花紅紫方』
美しくそしてあまりにも残酷な斬撃は、敵の視界を奪い尽くす。
そしてソレに続くように黒狼も追撃を仕掛けた。
黒狼の攻撃は至って普通で面白味のない、籠手で殴りつけるだけの攻撃。
だが、殴りつける部位が部位であればダメージ以上の効果を発揮する。
オークが殴りつけられたのは睾丸、陰嚢すなわち金球。
残酷なことにこのオークは男であったらしい。
息が詰まったように、そのまま数歩後退したあと地面に斧を突き立てる。
腹部に剣、頭部に残痕、そして睾丸への攻撃。
このコンボによって行動不能となったオークは睨みつけるように黒狼を見るがもう遅い。
「『ダーク・アロー』」
止めはただの魔法攻撃、ただ間違いなく強い。
そもそもの話、努力した弱者とはひどく厄介なものだ。
弱者であるゆえに弱きの自覚をもち、重ねた血潮ゆえにその実力は確固たるものとなる。
勿論これは、努力が実った場合の話だ。
ただ間違えてはいけない、黒狼はその努力が実った側の存在であることを。
この男が全力を用いれば、無駄なく戦えることを。
「よいしょー、いい感じだな。これぞ仲間!! って感じ。率いられるのも悪くないけど、やっぱり協力プレイじゃなきゃゲーム的な面白味はねぇな!!」
「何がいい感じよ、私は全然攻撃できてないわよ? 武器持ちのオーク相手に近接職二人で十分って普通に平均が高いわね。流石はある程度選別された人間ってだけはあるのかしら?」
「不足無し、って訳でもねぇさ。戦力的に十分に思えてんのかもしらねぇがステータスが千を超えてる輩がいりゃぁこの程度は当たり前でしかねぇ。他にも初手が良かったと言うのもある、あれがなくまともに打ち合えば……。いや、関係ねぇか。儂なら兎も角、手前なら十中八九熟すか。」
「さてな? 俺は答えるのを控えよう。自画自賛にしかならないし?」
惚けながら答える黒狼を見ながらロッソは手を上げて魔術を放つ。
同時に藪に潜んでいたゴブリンが撃ち抜かれそのまま地面を転がった。
その早業を冷や汗と共に見た黒狼は、惚けた様子を消し去りロッソの凄さを思い知る。
いや、再認識したと言うべきか。
元より彼女の技量が高いのは知っている、だが索敵能力も低いものではないことまで知らなかった。
心の中で評価を書き換えた黒狼は、そのままの流れで話を再開する。
「それは想像力で魔術を発動してるのか? ……、けどそれなら完璧に同一の魔術は扱えないんじゃねぇの?」
「そこは経験ね、最初は不安定な部分も多いけど慣れればどうと言うことはないわ。貴方は呼吸をするのに意識するの? 息を吸う、息を吐くって言うことを。違うでしょ? そう言うこと。ペンを持てば握り拳で持たないように、文字を書けば共通言語で書くように。何回も何回も繰り返して脳内で魔術名を浮かべた瞬間に魔術が展開されるぐらいに熟達しただけよ。ゲームシステム的な無詠唱も無いことはないけど、威力が減衰するから私は余り使わない主義ね。」
「それは前に言ってた後述詠唱とかと関係あるのか?」
「うーん、ややこしいわね。前述詠唱、後述詠唱なんかはシステム側の話で今してるのは魔術の発動原理よ。関係がない訳ではないけど殆ど応用みたいなものだし今話しても前みたいに理解できないと思うわ、あの時はあの魔女と張り合って無駄に余計な話をしたのもあるけど。」
ロッソの説明を聞き、ようやく色々と理解してきた黒狼はそのまま次の質問を纏める。
未知を無造作に出されては理解できないが、整理して出されればある程度は理解できるのだ。
intが高まりますねぇ()
ようやく真面目な魔術の解説です。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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