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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『エクスカリバー』

「『エクスカリバー』!!!!」


 その声その響き渡る音は、手を翳し今にも劇場を破壊しようとしていたエキドナへと向けられ、その声の一瞬直後に放たれた聖剣『エクスカリバー』から放たれた絶正の極光によってその顎を穿つ。

 大きく体を仰け反らせ、後ろに後退したエキドナ。

 そこに、次々と様々な声が聞こえてきた。


「魔術を、展開します。『闇より現れ、光の側に。我が右腕は現を湾曲させん。【モルゴース】』」


「もう一つの聖剣、耀しき極光よ!! ここに仮想の太陽を顕現せん!!【ガラティーン】!!」


「『湖の精霊に請い願う、我が尊剣の真の力を。【アロンダイト】』!!」


「『大敵にこそ、叛逆は発生せり!! コイツを喰らえ、麗しき王剣を!! 【クラレント】』!!」


「『音撃ちの絶技をご覧あれ。【フェイルノート】』」


 次々に、様々な武器から放たれる魔術や特殊アーツが溢れ出し一瞬にしてエキドナの体力を大きく削る。

 『騎士王』アルトリウスは、聖剣から放たれる莫大で極限の聖なる極光を顔面に浴びせ。

 『黒の魔女』モルガンは、青く凄まじい空間を歪める様な魔術でエキドナの腹部を破壊し尽くし。

 『太陽の騎士』ガウェインの聖剣は、黒狼の『始まりの黒き太陽(ファースト・サン)』の現場で確認されている最大火力を上回る莫大な熱量でその腕を焼く。

 『最優の騎士』ランスロットは、青く水のように魔力の性質が変化しそのままウォーターカッターのように用いたソレでエキドナを切り裂いた。

 『叛狂の騎士』モードレットは魔力を流し赤黒く変色し赫雷を纏う王剣を用いて万雷と共にエキドナを貫き。

 『遊鳴の騎士』トリスタンはその弓を用いて音の矢を四方八方に成立、そのままにエキドナを射抜いた。


 血盟(クラン)『キャメロット』、その中でも最強が集うとされている『円卓の騎士』。

 その活躍は目覚ましく、この戦いにおいてもその強さは遺憾なく発揮された。

 先程までの苦戦は何処へやら、彼らが到着しただけで一気に状況が変化する。

 戦闘特化の最上位プレイヤーの強さは、比較にならないほどにバケモノ染みているのだ。


「状況から劣勢と判断し我々の最大火力を浴びせたのだが……、このまま戦線に加わっても良いだろうか?」

「勿論です、そんなことを聞かなくてもいいぐらいには!!」

「そうか、有難い。では、遅れた非礼の詫びはその活躍で返すとしよう。【エクスカリバー】!!」


 ほんの少しの会話、それだけでアルトリウスという人物がどれほどの人間なのか。

 その強さなのに驕らず、その強さでありながら他者を尊重し、その強さでいながら慕われている。

 ほんの少しの会話で理解できる情報だけでこれだ、この上なく正義を象徴するにふさわしい人間だ。

 

 耀き極光を放つ正義の象徴、準古代兵器である聖剣『エクスカリバー』を持つ人間。


 その肩書きにふさわしい人格をしていることがわかる、わかってしまう。

 先程まで絶望していたプレイヤーは、勝利の確信に顔をいい意味で歪める。

 空気が持っていかれた、彼に、アルトリウスに。

 

「最ッ悪、だな。」


 だからこそ、黒狼はその言葉を思わず吐き出した。

 憎らしい、憎たらしい。

 目の前の男は、目の前の極剣を持つ存在は。

 黒狼にとって、最も唾棄すべき存在であると認識させられた。


 黒狼は悪人ではない、同時に聖人でもない。

 悪でも善でも、どちらの境界にも存在しない。

 自分の在り方が全ての男、それが黒狼という人間だ。

 だからこそ、目の前の存在はひどく憎たらしかった。

 目の前の男は、その自分の在り方が正義そのものなのだろう。

 悪という要素が存在しないのだろう、そしてそんな在り方だからこそ意図せず意識せずに彼は中庸に潜む人間を悪とするのだろう。


 ああ、憎たらしい。

 憎い憎い憎い憎い、どこまでもどこまでも。


 もし皮膚があれば眉間に皺がより、手が震え、剣を掴み取るだろう。

 ソレを理性で抑え込み、憎たらしく剣を離し、未練がましく睨み続けるだろう。

 

 理解できないのではない、その在り方が理解できるほどに。

 同族嫌悪に等しいほどに分かるからこそ、ここまで憎たらしいのだ。

 

「何を怒ってやがる? 落ち着け、黒狼。」

「ッ!? 村正!? なんで此処に……、いやお前もリスポーンしたのか。」

「はん、そういう事だ。全く、ヴィヴィアンの奴め。儂はレイド戦に興味なんざねぇってのに、連れてきやっがった。とはいえ、上等な素材が手に入るやもだ。少しばかりは働くべきか?」

「まぁ、状況を見るに問題はなさそうだ。石でも投げればいいんじゃないか? 冗談だよ、そんな目で見るなって。」


 結構なレベルの冷たい目で見てきた村正に、黒狼はそういって誤魔化す。

 荒んでいた心も、その目で見られれば戻さざるを得ないというもの。

 一息で落ち着き、そのままハァと息を吐くと体を少し捻る。


「んで、ヴィヴィアンはどこに? 俺には彼処で宙に浮きながら魔術を放ってるモルガンって言われている女性がどうにもヴィヴィアンに見えるんだが?」

「なんだ、わかってんじゃねぇか。そうだよ、あれがヴィヴィアンだ。別というか諱で『黒の魔女』って呼ばれてたりもする。本名、もといプレイヤーネームはモルガンだ。」

「……、あれ? ということは俺以外全員二つ名持ちってこと? お前も『妖刀工』って言われてるしロッソは『ウィッチクラフト』、ネロは『黄金童女』だろ?」

「そういうことだ、手前だけ無名ってわけになるな。とはいえ、それだけの奇怪な特徴を持ってんだ。表に出てきたんだしすぐに二つ名、諱ぐらい送られるさ。」


 そう雑に言い捨てると、村正は「一応、戦っておくか」と言い刀を取り出す。

 上空に表示されているHPバーが残り2割5分となり再度形態変化を遂げたことが少々不安になったらしい。

 『キャメロット』の連中にフルボッコにされてるとはいえ、さすがレイドボス。

 ゲロビを打ちつつ、なんとか持ちこてているようだ。


「緊張感の欠片もないな、こりゃ……。戦いというより狩りだ、俺たちだけならともかくプレイヤーの上位を主戦力とするなら……、うん。バランスもひどく悪いわけじゃなさそうだ。」


 戦闘中はゲームバランスがふざけているんじゃないかと疑っていた黒狼だったが、実際のところ最上位のプレイヤーを見てみればあっさり追い詰めていることからそんなこともないと理解する。

 同時に、結構な難易度もあったことも理解したが。


「多分正規の攻略手段は外部から徐々に攻略するんだろうな……、絶対内部まで走って本体を一斉に叩く行為が正規法なはずがねぇし。」

「あら、暇そうね? 黒狼。」

「暇なのはとても良いことなのだぞ!!」

「ロッソにネロ!! あっちに参加しなくていいのか?」


 嬉しさを滲ませつつ、疑問を質問した黒狼だが十分に貢献したという言葉を聞き納得する。

 ネロは大量のミ=ゴから黄金劇場でプレイヤーを守り、ロッソは普通にアタッカーとして参加している。

 黒狼も自爆特攻で十分に貢献した関係もあり、これ以上出しゃばるつもりもない。

 そういうわけで暇人三人は、エキドナが倒される瞬間までペチャクチャと喋っていたのだった。





 〈ーーレイドボス級が討伐されましたーー〉


 〈ーーレイドボス級ボス名:『魔獣胎母』エキドナ、及びイベント『異星からの襲撃』ーー〉


 〈ーー攻略完了ですーー〉


 〈ーー引き続き、当イベントをお楽しみくださいーー〉


 アナウンスが響き渡り、参加したプレイヤーの歓声が聞こえてくる。

 ここに存在するミ=ゴ全てを討伐し終えたようだ。

 アナウンスを聞きながらそれぞれで歓声をあげたり讃えあったりしている中、黒狼はヴィヴィアン……。

 いや、『黒の魔女』モルガンに近づいていた。


「よぉ、()()()()()。モルガン?」

「えぇ、()()()()()()()。黒狼?」


 気づいたぞ? と言う意志を皮肉染みて告げた黒狼と、その皮肉に対して解りましたと言う意志を込めて皮肉で返すモルガン。

 互いに湾曲ない言い回しで意志を伝え合うと、まるで初対面かのように会話を続行する。


「さっきの魔術はとても素晴らしかったな、是非よければ教えていただきたいところだ。」

「ふふふ、そうでしょうか? もし暇があれば、王城へお越しください。よければ様々な魔術を教えて差し上げますよ? その代わりと言っては何ですが、良ければあなたの種族を詳しく調べてもよろしいでしょうか?」

「それは、それは。別に構わないぜ? 暇な時に是非とも調べてくれ。」

「それは、僥倖です。では暇な時に調べることにしましょう、この出会いに感謝します。」


 そう言いつつ、モルガンはそっと黒狼に記録結晶を渡す。

 黒狼はそれを無言でインベントリに入れつつ、そのままサッとロッソや村正たちの元に走って行った。


 同時にクランチャットに通知が入る。

 内容は今後の行動について、本人からは「現在から私は『キャメロット』所属として行動しますので物理的な協力は不可能です。あと基本的に今の私はヴィヴィアンと、『キャメロット』がいる中でこのクラン所属の私に話がある場合はモルガン・ル・フェイと呼んでください。」と送られてきた。

 これに関して、仕方ないと黒狼は諦めつつ記録結晶の使い方をロッソに聞く。


「ロッソ、これさ。どう使ったらいいんだ?」

「記録結晶ね? 普通に魔力を流せばいいわよ。それより、これで全員が彼女……。そう、ヴィヴィアンの本名を把握したのよね?」

「そうなる……、っていうか変装下手すぎない? アイツ。少し見るだけで判明するレベルの変装は変装とは言わなんだけど? 変わってるっていってもメイン武器があの黒い杖から白い杖に、腰に剣を刺してて髪にはティアラから魔女っぽい帽子になってるだけだが?」

「流石になんともいえないけど、確かにあれは酷いわよね……。暇な時にアドバイスでもしてあげようかな?」


 悩んでいる二人を尻目に、ネロの首根っこを掴んで現れた村正。

 ネロはジタバタ暴れているみたいだが、知ったこっちゃないとばかりに歩いてくる。


「ったく、手前……。勝手に歩き回るなんざどういうつもりだ? 大人しくここで待ってろっていったよなぁ? 儂。少し目を離したすきに歩き回るなんざ……、手前は犬か猫か?」

「むぅぅぅううう!! 酷い!! この扱いは酷いではないか!! 余をもっと丁重に扱え!! 余は犬猫の類ではないのだぞ!!」

「なら犬猫のような真似をするんじゃねぇ!! 大人しゅうここで待ってれば儂もこんな真似をせずに済むんだ、手前がありことを自覚しやがれ!!」

「相変わらず、だな。」


 苦笑いしながら二人を見ていた黒狼、その横ではロッソも苦笑いをしている。

 相変わらずな一人と、厳しいもう一人。

 正反対だからこそ、その凹凸が噛み合い相性は悪くないのかもしれない。

 

「はぁ、やれやれ。童のお守りは性に合わんのだがなぁ?」

「それは……、まぁ1番の適任だし。許せ、村正。」

「儂は木の葉の魔眼持ちじゃねぇよ、儂は鍛治仕事以外は碌にできねぇただの人間だ。」

「戦闘も割とこなしていたように見えたけど……、それは私の気のせいかしら?」


 照れ隠しで顔を背けた村正は、そのままネロをロッソの方に渡す。

 一応受け取ったロッソはそのまま地面に下ろすと、どこかへ行かないように見張りながら三人は話し始めた。

 話す話題の中で最重視されているのは今後の活動、そもそもここで集まって行動する必要はあるのかと言う点だ。

 ヴィヴィアン、もといモルガンの目的は打倒キャメロット。

 そのために水面化で戦力を蓄えたいと言う話だったが、改めて血盟『キャメロット』の実力の一端を見てその難易度を再確認した。

 劣勢だった戦況が一気に覆る、無くなった勢いが一瞬にして復活する。

 『騎士王』のその人望が、アルトリスという人物が登場するだけで場が一変する。

 それだけの能力を秘めているのが、ただの個人なのだ。

 しかもその傘下も彼には劣るが、かなりのカリスマと実力を持っている。

 プレイヤー最強と、そのクランの強さは伊達ではない。


「真面目な話、勝ち目はあると思うか? ジョークとか無しで。」

「無理、少なくとも正面からは不可能に決まってやがる。すこし前までは、エクスカリバーがどんなもんかと思ってはいたが考え方を改めざるを得なくなった。なんだありゃ? 普通のプレイヤーが当たればほぼ確定で死亡する攻撃を何発も打てるなんて武器制作の法則から外れてやがる。準古代兵器、少なくともその大層な名を与えられるに相応しい。」

「問題は、騎士王だけでそこまでの強さなのよね。他に仮にとはいえ彼女が技術提供をしていたりもするのよ、血盟全体での魔術の練度が酷く高いわ。火以外の練度なら私以上の可能性すらあるし……。」

「そうなのか? 俺にはそこら辺は分からないんだよなぁ。大量の魔法や魔術が降ってるのは分かるんだが……。とはいえ、相当強いのは理解できる。」


(多分あのエキドナってモンスターは泥沼の怪鳥と同じぐらい、もしくはそれ以上に強いんだろうな。少なくとも全体の厄介度合いで言えばこっちが上だろうし、もしレオトールがいれば……。)


 そのifに思考を巡らせ、無意味を知る。

 黒狼はレオトールの強さを把握しきれていない、それ以上に把握できるだけの知識がない。

 ここまでのゲーム内時間の殆どを黒狼はⅫの難行の攻略に当てて来た。

 ソレゆえに基礎的な能力は高いモノの、基本的な技能が殆どない状態になってしまっている。

 パワーレベリング、と言えば分かりやすい話だろう。

 本来の適正レベルより遥かに低レベルの状態で攻略を続けた弊害がここに出て来てしまっている。

 勿論、黒狼にとってはその手段しかない。

 だが、その手段しかなかった結果ステータスこそ他のプレイヤーを上回れど根本的な技能がない状態になってしまっている。

 

「正直な話、このメンバーだけで勝てると思うか?」

「無理、って言いたいところだけど不可能とは思わないわ。少なくともあの魔女は不可能なことを目標とはしない、正面戦闘を考えなければ十分戦える範囲ではあるはずよ。」

「儂も同意だ、不可能ではねぇだろう。少なくとも、あの聖剣と並び立つレベルの武器は作れる。あとは純粋な数だが……、其処さえどうにかすれば正面からでも戦いという舞台には立てるだろう。」

「数……、数ねぇ? 素人質問で悪いがこの世界って単純な個が強い世界じゃ無いのか?」


 素人質問、と前置きをしつつ村正に尋ねる。

 レオトールという存在がどれほどのモノなのか知らないが、黒狼にとってはあれだけの存在が普遍的に存在しているというのは考えられない。

 それ故の質問だったが、2人はその質問に対して悩み始めた。


「一概には言えないわね、プレイヤーの共通認識としては個人での最強は存在しないって感じかしら。とはいえ、この世界基準ではそういう事もなさそう。冒険者の中にはボスレベルの敵を軽く倒す存在もいるしなんとも言えないわ。」

「儂的には大差は感じんがな? スキルレベルや超人的な体の使い方が物を言っている気がする。」

「おー、マジか。思った以上に参考にはならないな……、俺の友人のNPCなら力になるかと思ったけどその評価を聞いてる限りなんとも言えねー。」


 そういうと、黒狼は息を吐いた。

ゲーム内の情報や黒狼くんのスキル習得はイベント終了後、つまり後編で行う予定なので黒狼くんと一緒に色々考察してください。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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