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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『レイドバトル』

「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜。』」


 偉大なる大神、恐怖の具現。

 世界に足を食らわせ大地を作り、煙を吐く鏡としてそこに降臨した創造神が1柱。

 死の象徴、敗れた戦神。

 されど、その神が有する権能は依然絶大なり。


「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』」


 術式が広がり、架空は莫大な熱量を描く。

 虚空は実在し、実在は現実となる。

 現実は実証され、実証は事実として刻まれる。


 魔法に、魔術に意味はない。

 ただそこに存在するだけであり、そしてこの魔術はその存在が神に依るものであるだけ。

 ただそれだけの事実は、決して無視できない事実でもある。


「『それは戦争、それは敵意、山の心臓、曇る鏡。』」


 走り続ける、ただそれだけでいい。

 今の黒狼の役割はただ一つ、目の前の敵に自分の最強の技を叩き込む事だ。

 このレイドボス戦(戦争)に、最大級の(敵意)を以て、この権能を貸し与えている(山の心臓)の実在証明とも言えるその能力(曇る鏡)を。


 敗北を喫することはない、黒狼にとってこの戦いに敗北条件はない。

 同様に、勝利条件もない。

 少なくとも彼の手のうちに、その条件は存在しない。


 基本的に黒狼は背水の陣でなければその実力の全てを発揮できない、絶対不変の大きな壁が迫らなければその全てを出し切ることはできない。

 だが、それにも例外はある。

 一つだけを行うので有れば、万全の状態と同じだけのことができる。

 求められている役割は単純、行う手段は手の内で二つしかない。

 簡単だ、ならばあとは実行するだけ。


「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する。』」


 形容するならそれは世界、世界という複雑奇怪極まりない螺旋を描く極小の魔法陣だろう。

 常に変化し続けるその魔法陣は、その道の求道者にとって奇跡そのものだろう。

 だがその奇跡は、黒狼にとってのありふれた日常に過ぎない。

 さぁ、祝砲をあげよう。

 黒狼のありふれたモノを、奇跡のソレを。

 プレイヤーに知らしめろ、名を叫べ。

 最凶の神の権能を。


「『第一の太陽ここに降臨せり、【始まりの黒き太陽(ファースト・サン)】』」


 声高らかに告げたその術式は、その脅威を発露する。

 狂気じみたその術式、ソレは現実を一気に蝕むように熱を発露する。

 その術式の根底は、魔力を熱へ変換するだけのモノ。

 だが、ソレを神の権能によって太陽と世界に誤認にさせるほどにさせられた。

 故にその効果は、脅威となる。

 

 背景となっていた二つ名持ちが、驚愕に顔を歪める。

 その脅威を、無名の骨の脅威を知ることとなる。

 この時を以て、この戦いを以て彼には一つの諡が与えられた。

 後に、その最弱に与えられる名前はただ一つ。


      (       )』にして『 の盟主(ノワール)』、『不死王』黒狼の誕生である。


*ーーー*


「マジ、ですか!? アレは、アレだけの破壊規模!? 一体、どんな魔術なんですか!?」

「だから言っただろ、カシラ!! コレはヤベェってなァ!!」


 ライラプスとダーディスの会話、その他にもその様子を眺めていた二つ名持ちのプレイヤーは驚愕に眉を動かす。

 驚くべきその魔術は、ただの一撃で再度再生しかけていたバイオ装甲を破壊しソレどころか腹部を抉りそのまま焼き付けて再生を阻害したのだ。

 しかも、ただの一撃で。

 

「やっぱり、アレは規格外ね。」


 遅れてやってきたロッソがそうつぶやき、魔法を発動するとそのまま黒狼が開けた穴に次々と攻撃を放つ。

 攻撃の手を緩めることはない、既知の攻撃である以上驚愕するに値しない。

 だがその後ろで走っていたシャルは、その限りではないようだ。

 

「よっ、ロッソ。オレ、復活!!」

「……、キレていいかしら? その効率にも、その異常性にも。」

「やめろよ、女性の激情ほど怖いものはないからな?」


 そういって、ニヤリと笑う。

 そう、ここはリスポーン地点なのだ。

 プレイヤーたちが作成したドーナツ状のランダムリスポーンを免れるための大型の拠点。

 その中心に築かれたセーブポイントであり、そして危険な安全地帯という矛盾をはらんだ場所。


「さて、もう一発やるか。俺のもう一つの最高火力を。」

「お? お前やっぱヤバいじゃん!? さっすが黒狼!!」

「ヤバくねぇよ、普通だよ。」


 それだけ言うと黒狼は再度走り出した。

 黒狼の攻撃手段は多彩ではない、それどころか数えられる程度には少ない。

 最高火力に至っては、たった二つだけ。

 一つは『始まりの黒き太陽(ファースト・サン)』。

 そして、もう一つは……。


「『我が道にソレは有らず。』」


 過去の遺物、不慣れで書きなれていなかったお陰で成立できた黒狼に最もふさわしくない極光。

 正義の象徴、並の人間ならばその光に焼き焦がれるモノだろうが黒狼にとってはただの攻撃手段が一つでしかない。


「『我が胸にソレは有らず。』」


 正義も悪も、良しも悪し一切の関係ない。

 この男にとって、それはただの社会的道徳に他ならない。

 ただ世界が、社会が彼を悪と断定するのなら彼は悪であり、社会が正義と断定するのなら彼は正義に他ならない。

 その体現となるこの魔術は、彼を最も分かりやすく表すモノとなる。


「『されど、我が名を以て告げる。』」


 奇跡も慈悲も慈愛も願いも、関係ない。

 これは、黒狼にとってただの道具。

 攻撃手段に過ぎない。

 

「『万象を照らし光り輝く極光、あり得ざる十三よ。』」


 四極、其処に刻まれた【 】はエネルギーを収束させそして一転からそれを放出する。

 属性攻撃の極致ともいえるソレ、間違いなく規格外ともいえるその攻撃。

 仲間の技の改造の結果は、齎された効果が答えを示していた。


「『今ここに、あり得ざる光を放て。【光り輝け(エクスカリバ)悪虐の聖光(ー・アコーロン)】』」


 莫大な、だが決して太くはない。

 残存HPを一切残さないその攻撃は、目の前の巨体を貫く。

 大抵の魔術を凌ぐその攻撃は、正に驚愕の一言に尽きる。

 再開しかけていた攻撃の手が、またもや緩む。

 ほかのプレイヤーにとっては見覚えがある、いや見覚えしかないその攻撃。

 そう、『騎士王』アルトリウスの聖剣の極光と酷似したそれは他のプレイヤーにとっても驚愕の一言に値する。


「アイツ!? エクスカリバーの光すら使えるの!? 化け物なのかしら!?」

「おえ!? すげぇしマジでかっけぇじゃねぇか!! オレも使えるか!? って、それどころじゃないな。攻撃しなきゃ。」

「そうね、私ももう少し頑張ろうかしら? 詠唱の関係で使いたくないのだけど『燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ燃えろ、【実験用魔術その1】』!!」

「聖剣よ、オレの仲間と戦う許しをー!! 【黄く染まれ、その名はローラン】!!」


 シャルの聖剣が黄色く変色し、そしてシャル自身も黄色いバフを受ける。

 その余りの大きさと、其処に空いた大きめの穴に突撃。

 剣を一気に振り、その巨体を揺らす。

 衝撃が一気に走り抜け、今だ地中に埋まっているその肉体を出すかのようにひと際蠢いた。

 

 そのまま次の詠唱を行ったかと思えば、彼が持つ聖剣が再度変色し今度はピンク色となる。

 その瞬間、ライオンが表れた。

 騎獣として召喚された獅子は、そのまま恐れることなくエキドナに突撃し黒狼が開けた穴を大きく広げるのに一役を買う。

 一人でいるはずなのに妙に騒がしいヤツだが、その実力は実に高い。

 あまりの巨体からはるか上空に示されているそのHPバーはシャルの到達によって一気に減った。


「どけェ!! こっちの準備も整ったァ!!」

「オーケイ、一回引くぞー!!」

「結構結構、それじゃァカシラ!! 一発頼んだ!!」

「Shut up、見ればわかります。いきますよ、ライラプス!!」


 黒獣傭兵団、そのリーダーとその相棒が互いに目で示し合わせ事前に用意していた彼らの兵器が登場する。

 それは、その姿は後ろで見守っている黒狼にも見覚えがあった。

 

 電気銃、それとひどく似たその姿かたち。

 そして魔石をいくつも用いて、魔力を補充した結果その銃口と思わしき部分はスパークを放っていた。

 考えなくてもわかる、あそこから黒狼も体感したあの電撃を放つつもりだと。

 あの電撃は、確かに強くなかった。

 火力としては決して強いものではない。

 だが、アレとコレを比べる事は出来ないと黒狼は認識した。

 なにせ、元々人が手に持てる程度だった大きさの電気銃。

 だが今の大きさは、その比ではない。

 なにせその体積は人の三倍、いや四倍はあるだろう。

 勿論、銃口の大きさは元の銃の3倍はある。

 威力も3倍とは言えない。


「各地で集めたミ=ゴの情報を基にビリーさんと一緒に作成した『超大型電気銃 Mark.10』だ、僕らの兵器を受けてどれぐらいHPが減るかな!!」

「行きます、ワン、ツー、スリー!! 発射します!!」


 電気が収束し、放射を描きながら前方に電気の塊を発射する。

 それは正にビームそのもの、さすがのミ=ゴの親玉といえどこの一撃はひとたまりもないはずだ。

 バイオ装甲の復活を阻止しつつ、ダメージを与えていたほかのプレイヤーが一気に逃げると同時にその雷撃は放たれた。


 スパークを放ちながら、発射されたエネルギーはそのままエキドナの巨体にぶつかり復活しかけていたバイオ装甲を伝って前進へと拡散。

 そののちに、傷口から体内に電撃が侵入するとその巨体で暴れだした。

 のたうちながら地面をたたき大地を揺らすエキドナ。

 全員が退避していなければ、ここで半数近くが死んでいたかもしれない。

 実際に退避している現在でも、半数には遠く及びはしないが数人死に戻っているのが確認できる。


「……、これはこれは。少々、耐久をなめていたかな? ヴィオラ、火力バフを。」

「はい、神父様。」


 『脳筋神父』に祈祷系統の魔法によってバフを生じさせたヴィオラといわれた少女。

 それを確認すると、神父は大きなメイスを取り出した。

 先には十字架とそれを覆う七角形の板が付属した巨大なメイス、その威容から神父以外では扱えないと思わせるソレ。

 実際、持つのに最低でもSTRが300を要求されるだろう。

 それを、重々しくも片手で持ち上げた神父は地面を蹴りつけ跳躍し、一気にエキドナの体躯に接近する。

 未だ暴れているエキドナ、その体躯に叩きつけたその一撃。

 重々しい一撃は、エキドナの体表を陥没させより一層激しく蠢かせた。


 驚くべき強さ、彼の攻撃は先ほどの電撃と合わせエキドナのHPの二割を削るに至っている。

 彼単体で見ても五分削っており、相当の火力であることは間違いない。

 全身から蒸気を噴出させている彼は、スキルの硬直時間によりエキドナの攻撃を食らい吹き飛ぶがそのおかげで硬直自体は解除されたらしい。

 地面に着地したと同時に、そのまま地面と接面している部分を殴りつけた。


 そして、黒狼の準備も整った。


 再度詠唱を完了させた黒狼が突撃し、莫大な熱量を開放してエキドナの体内を焼く。

 太陽の具現かと思わせるその火力は、エキドナをもがき苦しませるには十分だ。

 先ほどから行われていたプレイヤーたちの攻撃と合わせ、最後のダメ押しとして黒狼が放った太陽はエキドナの全体HPの三割を削り切ったのだ。

 これにより、エキドナは奇声を上げる。


「まずい!? ミ=ゴが集まっている!? この叫び声か!!」


 誰の叫びか、その確認などこの際どうでもいい。

 外部に集まっていたプレイヤーに任せていたミ=ゴが一斉にエキドナを守るために集まりだしたのだ。

 ライラプスや、他の後方支援及び頭脳担当のプレイヤーが焦りを隠さず目の前のエキドナをにらむ。

 彼らにとってこれは想定していた中でも最悪のシナリオだ。

 勝ち目が、一気に薄れるような。

 そんな錯覚を感じ始めるプレイヤーたち。


 だが、そんな絶望は彼女に一声によって激情へと変換される。


「うむ、余の役目は外敵からの守護であるな!!」

「あわわわわ~、ボクのヒポグリフもおびえているよ!! 早くしてね!!」

「任せよ、至上の歌声を聞かせてやろう!! 『夜の帳』」


 一気に、上空に黒い帳が下ろされる。

 現実を蝕む心象世界、現実を置き換える心象世界。

 時にそれは万人を閉じ込める檻となり、時にそれは万人を守る要塞となる。


「『極星は落ち』」


 黒い帳で輝いていた光が徐々に、地平に落ちていく。

 その外でエキドナが暴れているのか、黒い帳にひびが入り始める。

 だが、それを一切気にせずネロは詠唱を口ずさむ。


「『洛陽に喝采は消え』」


 音が消えた、光は徐々に弱くなっていく。

 一瞬の混乱でざわめく中、再度ネロの声が聞こえた。


「『暗く、昏く、闇く』」


 音も光も何もない、完全な暗黒空間。

 ただ、その一点にスポットライトが当たり再度暗黒の世界に光がともる。

 そう、スポットライトのようにネロが照らされたのだ。

 彼女のフランベルジュから一層炎が立ち上り、いつの間にか表れていた三つの魔法陣は彼女を中心にして開かれる。

 三重の魔法陣は収束をはじめ、いよいよ帳は壊れだす。


「『演者は独り』」


 互いが認識できない、認識できるのはネロただ一人。

 それ以外に見えるのは、彼女が立っている地面だけ。

 いつの間にか、彼女は石作りの壇上に立っていた。

 そこで悲壮に何かを踊るように舞っている。


「『雲雀は鳴き』」


 帳は壊れた、夜は開けた。

 真っ青な空と醜悪な化け物が見える、それでいい。

 この心象世界に、あの化け物を入れられないことで弱体化は不可能だがバフは撒かれた。

 全員が沸き上がる力に驚く、溢れた力は驚愕そのものだ。


「『開け、【黄金の劇場(ドゥムス・アウレア)】よ!!』」


 心象世界は完成した、バトルは第二フェーズに移行する。

 ネロの黄金劇場によって足場は整えられ、莫大なバフが周囲にばらまかれる中ネロは中心でエキドナを眺めた。


「うむ、余の黄金劇場にふさわしくない化け物。それを倒すは、我ら異邦の旅人!! うむ!! 良いシナリオだ!! 気分が高ぶる、これこそが高揚そのものであるな!!」


 ウォーーーーーーー!!!!! と。

 一斉に声が上がるとともに、高揚したプレイヤーが一気に攻撃を叩き込む。

 心の底から、体の奥から力が沸き上がり目の前の化け物を殺そうと笑い動く。

 戦闘開始から合計5分、大量死したタイミングのプレイヤーが復活するまで残り5分。

 未だHPは半分も削れていない。

ギリギリだった……。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
あれだけの攻撃をくらいながら半分も減らないなんてレイドボスらしい性能で良かったし、ヘラクレスがどんだけ初期で戦うにしてはどれだけバグった存在だったか再認識した
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