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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online 間話『遠方より、愛を込めて』

 雪が降っている。

 寒い、ひどく寒い。


 俺はそんな感想を抱きながら、ゆっくりと本から顔を上げる。


「ああ、今日は……。そうか、もうそんなに経ったのか。」


 過去に邪竜を殺した聖クリステルを祝う祭、通称クリスマス。

 親から子へと贈り物をし、子はその生きた軌跡を親に見届ける日。

 年が変化する前の最後の祭。


「団長!! また本を読んでいるんですかい!! 『王の友』の姉御が探してやしたよ!!」

「ん? ああ、そうか。すぐに向かうと伝えてくれ。」


 一息吐く、北方と南方の境目。

 エルフの森、横に広く連なるその森に我々は今滞在していた。

 ゆっくり息を吐き、北方では決して見られない息が白くなる様を見る。

 そして俺……、私は水晶剣を片手に部屋を出た。


*ーーー*


「早いじゃないか、レオトール。伝令を向かわせてから少しも経っていないな?」

「軍であれば規律がある、規律があれば当然破るものもいる。それを防ごうとするのなら、上に立つ人間が規律を示さねばならない。当然の話だろう? へファイスティオン。」

「……、あまり其方の名前で読んで欲しくないのだがな? 私としては、へファイスティオンよりも『王の友』と呼ばれたい。」

「次回以降は気をつけよう、最も改善するとは言わないがな?」


 いつものやり取りを行い、そのまま森の中であるにもかかわらず雪を被っている天幕の中へと入る。

 中ではいつものように、『征服王』イスカンダルが地図と睨めっこしていた。

 だが、いつもと違う部分も多い。


 普段は食料の消費を抑えるために分散させている大御所の傭兵団にして血盟の盟主まで揃っていたのだ。


 驚きにいつもよりやや大きく瞳孔を開きつつ、レオトールは椅子に座る。

 同時に『王の友』へファイスティオンも『征服王』イスカンダルの隣まで行くと彼の右斜め後ろに立った。

 そして流れる沈黙、この場では『征服王』が口を開かなければ誰も喋り出さないだろう。

 それを思わせる重々しい空気の中、レオトールはいつも通り渋茶を啜る。

 エルフの森で行われている最大級の産業、すなわち茶葉の生産。

 そこから採れる茶葉は一級品であり、非常にうまい。

 絶品の味にしたが肥え始めたことに気づき苦笑し掛け、慌てていつもの無表情を繕う。

 その時だった、『征服王』が口を開いたのは。


「うむ、よくぞ集まった。わが強者共よ、今宵はクリスマス。邪竜滅し聖者の記念祭ではあったがこうして諸君らを集めたことをまずは詫びよう。」


 誰も、何も返さない。

 ここで何かを返して仕舞えば、『征服王』に詫びさせたという事実ができてしまう。

 王に、謝罪させる。

 その重みは同格の王以外では決してあってはあらぬことだ。

 故に、誰も何も返さない。


「さて、では本題を告げるとしよう。儂の見立てによれば、かの王国『グランド・アルビオン』が擁する準古代兵器は計4つだ。この事実の重さ、貴様らであれば再度言わずとも分かろうな?」


 全員が静かに、粛々と。

 だが肯定を示す。


 ここにいるのは、一騎当千万夫不当の益荒雄達。

 全員が個人で、見上げるほどに大きく偉大なレイドボスを殺し切ることができる。

 そんな化け物しか、ここにはいない。


 そんな化け物共がざわめくほど凶悪な兵器、兵装。

 準古代兵器、それが4つもある。

 その事実は、益荒雄を戦かせるのに十分な情報だった。


「ほう、準古代兵器。それも制御可能なのが四つ、恐ろしい話だ。」

「『賢者の叡智』、何か文句があるのか? 話次第では……。」

「まさか、文句などあるまいさ。ただ、その使用者はいるのか? いないのならば、あの程度の軍勢ならば恐るるに足らんとは思うけどな?」

「それに関してだが、皆も承知の通りあと四半期もすれば異邦の者どもが現る。儂はその中に、四つの準古代兵器を担う存在が現るのではないかと危惧しておるのだ。」


 会議は進む、準古代兵器への対策、兵站の貯蓄、『グランド・アルビオン』の戦力に対処するための人員。

 最終進行は年終わりの今からおおよそ6ヶ月後、そこで征服王軍は『グランド・アルビオン』王国を征服する。

 そのためのありとあらゆる行動を予測し、軍略会議は進んでいく。


 だが、レオトールは最初の一刻だけ参加しそのまま退出していた。

 天幕から出て、現在の自分の住処に戻ろうとしたレオトール。

 だがそんな彼を呼び止める存在がいた。


「ヨォ、レオトール。久々だなぁ?」

「何の用だ? 軍略会議に私が参加する必要性は高くないはずだが?」

「まさか、ソッチは俺も途中で抜けてらぁ。それで忠告するのならお堅いお前を呼び止めたりしねぇよ、お前を呼び止めたのは別の件だ。……お前、妹がいるらしいな?」

「まぁ、そうだが? それがどうした?」


 険悪な雰囲気から始まり、眉を顰めたレオトールだったが当の本人は忠告ではなく別の要件できたらしい。

 その事実を認識したレオトールは声を和らげた。


「イヤ、クリスマスだしなんか贈り物でも買わないのかと思ってな。」

「心配は無用だ、私の後に続こうとしていた悪癖こそあれど彼女は才能溢れる向上心の高い人間。態々私から何か贈らなくても……。」

「チゲェッて!? 今日はクリスマスだろ!? 何か買ってやるとか思わねぇのか?」

「……まぁ、そういうのも悪くはないか。何かいいモノを知らないか? 私は生憎と、こういうセンスがないのでな。」


 レオトールの言葉に大男はニヤリと笑うと、そのままズンズン進み始めた。

 諦めたようにため息を吐いたレオトールもそれに続く。

 歩くこと数分、エルフの店にやってきたレオトールは若干眉を顰めた。


「ここは魔法陣の店か? 贈り物で血生臭いものは少し遠慮したいがな?」

「イヤいや!? 魔方陣と聞いて戦いしかイメージできないのか!? 氷の魔法陣で何か驚かせてやったりとか考えようぜ!?」

「氷の魔法陣、か。拘るのも面倒だ、後で改造するように機能もあまり付属していない……、そうだな。アイスアローでいいか。」

「……お前、本気で選ぶ気が……。まぁいいか、どうせお前はそんなやつだろうしな?」


 中々に酷い言い草を聞きながらも、何も言い返さずレオトールはそのまま代金を払うと店を出た。

 読みたい本がある、そう男に告げ彼は今の住処に戻った。

 部屋に戻ったレオトールは薪を燃やし部屋をあたためつつ、外を見て一つの異変に気づく。


「そうか、そんなに寒かったのか。」


 雪が降り始めていた。

 いつの間にか、空は翳っている。

 気づけば部屋の中も若干暗くなっていた。

 ランタンに火をつけ、読書を嗜むレオトール。

 彼の未来は、告げるまでもなく確定している。


 これは、彼が黒狼と出会う少し前のお話。

メリークリスマス!! みなさん。

みなさんはどのようにお過ごしでしょうか? 私は昨日と一昨日で風邪をひき家で寝ていました。

まぁそんなクリスマス、今回焦点が当たったのはレオトールでしたね。

本編にて最強格のキャラクターである彼、そんな彼がまだ征服王の軍に所属していた時の話です。

内容が薄くはありますが、本編にそこまで関わらないので問題ないでしょう。


 では、良い夢を!!

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