Deviance World Online ストーリー3『ライラプス』
一旦戻ることにした、とはいえ得た情報をまとめずに戻ると言うわけにもいかない。
と言うわけで、とりあえず他者が学習できるか試したところ……。
「うん、無理ね。基礎となる術式は火を発生させるだけのものだからわかってた話だけど……、発生過程で考察するのなら何かのスキルが悪さをしているんじゃないのかしら?」
「多分、深淵ってスキル。この魔術を発動する時に毎回毎回起動してるからな、どう言う理屈かは分からんけど絶対ロクな状態じゃないことだけは断言できる。」
「深淵ねェ、聞いたことはあるな。PKなんかの悪どいことをやってる奴らが持ってることが多いらしいな、つっても研究者的な奴らも持ってるし殺人鬼なんかの一発アウトでもねェからなァ。けど、俺が聞いたんじャ名前が違ったような……。」
「深淵ね、私は持ってないのよねぇ……。何故かしら?」
三者三様の反応を行いつつ、とりあえずは再現性が低いことを確認する。
彼らは知り得ない話だが、この魔術は魔術のような別の何か。
言うなれば、魔術ではなく祈祷に近い。
炎を発生させる術式を媒介とし、神の権能を借りる。
対価として莫大な魔力を消費する、そんな魔術。
逆を言えば、対象となる神がいなかったり居たとしても力を貸す気がなければこの魔術は使用不可能とも言える。
「とはいえ、術式が成立すれば私達でも発生させられるのね。最悪、術式はあなたが用意して私たちの誰かがそれをアレに運ぶって言う手段を取ってもいいんじゃないかしら?」
「どうだか、俺の場合種族特性で光で死ねば蘇生までの時間が滅茶苦茶短縮されるんだよ。だからこれを使って死亡、ダメージを完全に回復して再度展開っていう荒技ができるんだが……。他だったらそのまま戦線離脱になるだろ?」
「あー、そうなっちまうな。アレだけの攻撃だァ、何度も使い慣れてるお前ならまだしも他のやつなら……。」
「最後の最後に日和って万全な効果を発揮できないかもね? それに参戦するのなら最低でも合計1000を超えている上位のプレイヤーでしょう? ってなれば失うのは非常に痛いわね。」
当たり前の話だが結構重要な話でもある。
いざ実践でまともな効果を発揮できないとなれば、意味は微塵もない。
それをわかっているからこそ、ここで話し合っている側面もあるのだ。
「……もう一回模擬戦、やるかァ?」
「え? 嫌だって言う話じゃないのか? 二度も食らうのは。」
「仕方ねぇだろ、お前の実力が関係あるのならお前の実力を試す必要もある。まァ、二度も受ける気にはなれねェのは変わらねェが……。舐めんなよ? 俺はこう見えても大手クランの三席だぜ?」
「男ってどこか負けず嫌いよね……、はぁ。やるのなら早くやりましょう、時間がないわ。」
そう言ったロッソに合意しつつ、二人は少し離れて向かい合う。
ダーディスは拳を合わせ、野獣のような笑みを浮かべて黒狼を睨み、黒狼は剣を片手に左手の籠手で受けられる姿勢を作る。
今度は黒狼から勝負申請を行い、開始の合図が鳴るのを待つ。
3
2
1
表示されたそれ、眺める黒狼と突撃の姿勢を取るダーディス。
3、2、1と投影された数字が変化しゴングがなる、同時にダーディスが体を沈み込ませたまま両手を突き出し突進し黒狼を捕らえた。
「『突撃』『貫通拳』!!!」
「『強靭な骨』!!」
スキルとアーツを用い、一気に加速したソレを一瞬遅れながらに籠手で防ぐ。
完全耐性を保有するその皮に攻撃はヒット、本来ならばその一撃で黒狼のHPの三分の一となる40を削り切るその攻撃は『強靭な骨』とネメアの獅子皮によって衝撃を伝えるだけの動作にしかなり得なかった。
若干の驚愕と、スキルとアーツによって発生する硬直時間。
そこを狙い黒狼は逆手で持った剣で迎撃をおこなう。
地面を片足で掴み、カウンターとして放ったソレ。
硬直時間を狙い放たれた一撃は、ダーディスの髪を数本切り裂きそのまま避けられた。
上位クランの三席、その地位に至った強さは伊達ではない。
いくら近接ができるとは言え魔術師的な攻撃を主とし、レオトールに寄生していた様な行動ばかりの黒狼の攻撃がまともに当たるはずはない。
「『ダークシールド』『魔力活性Ⅰ』『腕力増強Ⅰ』!! さすが近接職、一撃の重さが違うねぇ!!」
「『八極拳』『半獣半人』、お前もなかなかやるじゃねぇか!!」
黒狼はそう叫びながら背後に跳び、構えを行うダーディスを睨む。
間合いが狭い、槍という中距離を補う武装がないせいで近接での戦闘を行わなければならないのだ。
鋭く息を吐くダーディスは、そのまま接近戦を行う。
間合いを離そうとそのまま後退する黒狼、だがその後退分以上に距離を詰められ防御を余儀なくされる。
人外じみた能力を持たないからこその、堅実な攻め。
地面をふみ、大地を壊し、バカみたいな脚力を持って破壊の拳にする。
速度だけではない、その拳には明確な重さがある。
「(重い、思った以上に!! ステータスが高くないからこその技術による攻めか、なるほどクソ厄介じゃねぇかよ!!)」
「(ッチ、面倒くせェ。軽いくせに完全に防いでくる、蹴りですら動こうとした瞬間に間合いから外れてくるなんざどんな経験を積んだ? こっちの攻撃が碌に当たりやしねェ!!)」
だが、黒狼も負けてはいない。
そもそもⅫの難行は全てが即死級の戦いだった、現れる敵の攻撃を受ければ全てが即死とも言える。
その戦いを必死に潜り抜けた黒狼は、相手の攻撃を避けることに特化していた。
捌けない攻撃を避け、避けれない攻撃を捌く。
当たり前のようで難易度の高いソレ、積み上げてきたレベルにならない経験は間違いなく黒狼の力となる。
「『スラッシュ』、『ダークバレッド』!!」
「『避拳』、おいおい!! 詠唱はしねェのか!!」
「ほざけ!! しようもんなら即座に殺すだろうが!!」
叫びつつ横に飛ぶ、先ほどまでいた空間を拳が通った。
地面を転がりながら、氷魔術を発動するがソレも拳で粉砕される。
武器による飛来攻撃の破壊という攻撃力が上昇する攻勢カウンターの仕様、ジャストガードという攻撃が到達する直前からその一瞬後までに防御を行えばダメージが軽減される仕様。
ソレを用いたダメージの無効化、ライトとは思えないほどの時間をかけたらライトプレイヤーの黒狼では絶対に使えない攻撃。
ソレを巧みに用いてダーディスは黒狼を追い詰める。
「『爆裂拳』!! クッソ、無理か!!」
「『パリィ』!! って、当たらないのかよ!!」
互いに鼬ごっこの様に、だが着実にダメージを蓄積しつつ攻防を行う。
重要なのは蓄積、最大火力を一発当てることではない。
というより、現実において最大火力という符号は意味をなさない。
スキルを用いた見え見えの偽装、その奥から放たれる弱い攻撃。
攻撃の花形とも言える全ては囮でしかなく、だが囮と断定させるにはソレはあまりにも火力が高すぎるソレ。
回避を怠れば次に訪れるのは死であり、死を恐れれば与えうる攻撃はダメージとならない。
「無駄、だなァ!! こいつもヒットしねェ!!」
「逆にヒットさせてやろうか!! なんてナァ!!」
一撃で骨を破壊されるほどの攻撃力はない、故に『復讐法典:悪』は有効打になり得ない。
ダメージによる反転? ソレこそ無意味でしかない。
ほとんどの割合で相手を行動不能にできる状態反転と、雀の涙ほどのダメージを通用させるだけのダメージの反転。
どちらが有用であるかなど、考えるまでもない。
「チッ、スタミナが……。『気力活性Ⅰ』!! このままじゃ俺が不利だなァ!!」
「仕方ない、決めに行ってやるよ。『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』!!」
「詠唱を始めたか、最初の目的を考えれば前の強さは十分だしなァ!! こっちも最大火力を浴びせてやるよ!!」
黒狼が詠唱を始めたのを聞き、構えをとるダーディス。
目的は十分に果たしている、ならばあとは遊びだ。
最もその遊びであろうとも、互いに負ける気はない。
詠唱を、構えを取りながらも互いに拳や足、剣や籠手を用いて戦っている。
口から放たれた詠唱は、魔術の体裁をなす。
開かれた術式は魔女の叡智を持ってしても再現できないナニカ。
通常であれば理性が理解を拒もうとするソレを黒狼は無理解のまま扱う。
「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』!! 『それは戦争、それは敵意、山の心臓、曇る鏡』!!」
「『拳術』『体術』『殺人拳法』、一気に決める。」
一気にバックステップを行い、足に力を圧縮する。
それに対し、腕を振り上げ術式を展開した黒狼。
双方を光らせ、互いに笑みを浮かべ最大の一撃を見舞おうとする。
魔法陣が変質し、理屈はなさそう屁理屈となった。
世界は矛盾に塗れながら、矛盾をそのまま出力する。
神の権能、常識の埒外、最奥の神秘。
ソレはまるで奇跡そのもの。
だが間違えることなかれ、その奇跡は決して希望の秘跡などではいということを。
常人ならば発狂もしたくなる情報量が類畜しているソレを黒狼は容易く扱う。
「『5大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』『第1の太陽ここに降臨せり、【始まりの黒き太陽】』」
「ッチ、先手を打たねば死ぬってか!! 喰らえ、『我が拳は鉄をも貫く、【魔狼・貫鉄拳】』!!」
技の発動は同時、ならば問題は事象の発生までの時間。
もしくは相手に到達するまでの時間だ。
黒狼の魔術は事象を織りなし、ダーディスの拳は魔力を纏いながら黒狼を襲う。
結論として、先に相手に到達したのはダーディスの拳だった。
発動は同時、離れている距離も同じ。
だが、意気込みが違った。
勝つ必要がない戦いであったからこそ黒狼は回避に専念した、勝つ必要がなくとも勝ちたいからこそダーディスは攻め続けた。
その違いが如実に出た。
「ーーーーーーーーーーッ、マジか……!!」
「お前の負けだ、骨ェ!!」
黒狼の魔術が熱を発するより先に、拳が黒狼の頭蓋を粉砕する。
破壊力が高いそれは、黒狼の頭蓋を粉砕しながらきっちりと彼を殺害した。
それと同時にYOU WIN という表示が発生し、そのまま黒狼が復活する。
やられたー、というように骨の顔を歪ませ大袈裟にリアクションをした後に彼はダーディスに手を差し出した。
「GG、今回は俺の負けだったが……。まぁ、負けは負けだな。大人しく負けを認めてやるぜ?」
「勝てると思ってんのかァ? いいぜ、暇な時にもう一度勝負をしようか。」
「いい勝負だったわね、けど時間が押してるわ。早く報告にいきましょう。」
「もう少し余韻に浸らせてくれない? ロッソ。」
そう嘯くも、急ぐ必要性はわかっているのかそれ以上言わない黒狼。
ダーディスもゲーム内とはいえ組織に属する人物であるということを思い出したのか報告しなければと焦り出す。
それをヤレヤレと見たロッソはダーディスを急かしながら先ほどの部屋に戻った。
扉を開くとそこにはシャルとローランが椅子に座ってトランプをしており、その奥では先ほどの光景の焼き増しのように書類仕事をしているライラプスがいた。
その部屋に黒狼たちが入ってきたのを視線だけで確認すると彼女は早速、『始まりの黒き太陽』の詳細を訪ね始める。
「Welcome back、どうですか? 効果をお聞きしたいのですが。」
「分類としたら範囲攻撃の超火力、一度受けたが場合によっては精神的なデバフも受けるだろうな。確かに主軸に沿えるに問題ない程度だとは思えるなァ。だが問題は『ウィッチクラフト』でも再現は不可能な再現性のない魔術であることだなァ。術式を完成させた後なら譲渡も可能だが……。」
「式として完成させた後では魔力による強化率を上昇させられませんね、It's a shame。ですが、予定は大きく外れることはないでしょう。攻略に関してですがおおよそ1000名のプレイヤーに協力を得られました、それらを主軸にすれば……。ふむ、とりあえず、攻略に参加可能なプレイヤーを招集します。貴方達は……、第三会議室にいてください。『冒険王』と『金剛体』もですよ!! 聞いていますか?」
「よし、これでロイヤルストレートフラッシュだ!! て、あ。き、聞いてますよ〜。第3会議室ってあれだよな? 三つほど隣の部屋のことだよな?」
そうだ、とダーディスが返すとヨシ!! と元気よく叫び、そのまま先に行くぜ〜と言いながら部屋を退室する。
ロッソもダーディスも彼らに続き退室し、黒狼も部屋を出ようとしたところで止められた。
「何の用だ? ライラプスさん?」
「いえ、複数質問を。その攻撃にはどの様なスキルを用いているのか詳細に聞いてもよろっしいでしょうか? 主軸で立てるとは言っても暴走などを……、Fuck。なんで逃げようとしているんですか? 大人しく話しなさい。」
「……はい、とりあえず暴走と深淵、詠唱スキルは使ってるな……。あと、魔力を捻出するために蛇呪、実際に起動してるかは知らないけど怪しいところなら呪術とか精神汚染(深淵)とか汚染強化(深淵)とか魔力活性とか……。」
「Wait a minute、え? 何個未発見のスキルを所持しているのですか!? 環境汚染? 汚染強化? なんですかソレ……? 魔力捻出のための蛇呪? は? え? 詳細効果を……、ァァァアアア!!! 時間がない!! Fuck、 fuck、 fuck、 fuck!! What is this, a punishment!? Ohhhhhh, I just want to make out as Procyon's sister, why do I get these nasty problems!? It's not the worst!! I don't give a shit about raid bosses, just let me have my sweet sibling life as soon as possible!!」
なんか発狂し出したライラプスを尻目に逃げるように脱出する黒狼。
過去の言語を知らないからこその幸せもあるのだろう。
結構ひどい言葉を吐きながらクールビューティーな見た目の彼女は髪をかきむしる。
そして狂乱のままに彼女は机を叩いた。
現在1794ポイント!! 1800目前だぜ!!
あと英語を翻訳した皆さん、彼女は未ではなく市の方です。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




