Deviance World Online ストーリー3『検証』
ダーディスに連れられ、黒狼たちは街の中心部に向かう。
外縁部では物々しい戦闘系のプレイヤーが右往左往していたが、中心部まで行くと生産系プレイヤーや他にもさまざまな職種のプレイヤーがいる。
中には魔術を用いて簡単な家を建築しているプレイヤーすらいた。
「便利なもんだな、魔術ってやつは。これが現実なら半金属プラスチックとかを使って数日かけて一つの建物を建築してんだろ?」
「そんなことないんじゃない? 私も建築に明るいわけじゃないけど、こんな風に基礎を作らないのなら三時間程度だと思うわ。……まぁ、それでも規格外に速いのは変わらないわね。」
「まぁ、オレみたいな戦闘特化には関係ないけどなー!! って、そうか。『ウィッチクラフト』さんは生産系だもんな、割と関係ある感じ?」
「まぁ、ね? 魔力量の問題があるから安易に頷けないけど、大型の屋敷ぐらいは内装含めて1日で行けるかしら?」
自慢ともつかない言葉を吐きつつ、シャルからの賞賛を浴びる。
実際、彼女に与えられた『ウィッチクラフト』と言う二つ名。
そこに内包される意味は魔女の魔術(呪術)、まじない、占い、薬草などの生薬の技術など、魔女と関連付けられる知識・技術・信仰の集合を指すものであり、彼女が魔術や魔法を得意とはすれどそれだけの存在でないことを表している。
同時にこのゲームにおいて魔女や魔術師という単語や同義の意味が入った文字列が入った二つ名を持つ存在は非常に少ない。
コレが現実での話であればまた異なるのだろうが、この世界はゲームでありそして魔法や魔術という常識の埒外の理が存在する世界だ。
そこで与えられる二つ名に魔女などといった魔術や魔法のエキスパートを指す単語が含まれる、それは彼らが生半可な実力者でないことを示している。
例えば血盟『キャメロット』に所属しているはずの魔術師『黒の魔女』モルガン。
彼女はゲーム開始からゲーム内時間にして僅か90時間程度で『グランド・アルビオン王国』で一種の魔術の到達点ともされる空間魔法、空間魔術を体得した。
他に魔女や魔術師の名を受けている存在は両手で数えられる程度でしかない。
つまり、ゲーム全体を見渡してもプレイヤーとしては両手で数えられる程度しかいない高位の魔術師であるのが彼女なのだ。
「お喋りはそこまでにしてくれねェか? そろそろ到着する。」
「ホイホイ、了解っと。」
「うむ!! この一時は中々によかったぞ!! アストル!!」
「うん、ボクも中々に楽しかったよ!! ネロ!! また今度おしゃべりしようね!!」
なぜかなか良くなったアストルとネロ、その二人を保護者のように見守るローラン。
その横ではシャルとロッソが談笑をやめ、ダーディスの方へ視線を向ける。
黒狼は問答無用でボッチだ。
「んで、ここがお前らの拠点。でいいんだな?」
「ああ、そうなるなァ。とりあえず失礼のないようにしてくれや、カシラはともかく補佐が鬱陶しいんだ。」
「そうなのか? それはぜひ会ってみたいな!!」
「今から会うんだよ、シャル……。」
黒狼がそうツッコミつつ、中に入っていくダーディスに続く。
そこにロッソ、シャル、ネロとアストルと続き扉を潜った。
中はより一層騒がしそうで、何人もの人間がバタバタと駆け回っている。
その中でも最も多くの人間が出入りしている扉にダーディスが手をかけ開いた。
扉の先にはまだ通路があり、また別の扉がある。
大量の記録結晶を持ち歩いていたり、剣や弓や矢といった武器を持ち歩いている人間もいた。
そんな人間の群を避けながら通り、ダーディスは一番奥にある扉を開いた。
中には机と大量の記録結晶、そしてその机で作業している一人の少年とその補佐をしているスレンダーな女性が一人いた。
「あ、ようやく来たのかダーディス!! そっちの皆さんは『黄金童女』に『ウィッチクラフト』『冒険王』に『金剛体』『理性蒸発娘』か。うん、中々い良い戦力だ。僕は君たちを歓迎するよ!!」
記録結晶を開き一気に何かを書き込みつつ、横にいる女性にそれを渡すその少年。
彼こそが『黒獣傭兵団』の盟主にして『ヴォルフガング』の二つ名を持つプレイヤー、そんな彼の名前は……。
「僕の名前は、プロキオン。そしてこっちの名前は……。」
「私の名前はライラプスです、どうもよろしくお願いいたしますね?」
「と、いうわけだね。じゃぁ早速本題に入ろう、君たちが使える最大火力の攻撃を教えて?」
「いや、展開早すぎない? あ、いえ、ナンデモナイデス。」
思わずと言った様子でツッコミを行う黒狼、だがそのツッコミはライラプスの一睨みによって黙らされる。
確かに、話の展開はクソほど早い。
ビックリするほどにとても速い、少なくとも通常時ではこんなことはなかっただろう。
だが、今は通常時などではないことを留意していただきたい。
今は非常事態、レイドボス討伐を条件に出されているというのにトッププレイヤーは軒並みデスポーンしており一時間も待てばこの都市にモンスターが侵入しかねず安全を確保するのが難しい。
だが早急に対策を打つためにはトッププレイヤーを含めた全プレイヤーの助力が必須であり二つ名持ちに拘らず実力があるプレイヤーがいるのなら例えそれが猫であろうともその手を借りたいぐらいなのだ。
「私の最大火力は……、そうね。環境型とシステム依存型の二つがあるわ。」
「俺は魔力次第だが超高温の太陽を出せるぜ?」
「オレの攻撃? オレの聖剣はバフ型だからなぁ……、近接で殴るのが一番強いかなー?」
「うむ、余は劇場によるバフしか行えんぞ!!」
他にもアストルはヒポグリフを用いた特攻、ローランは壁役には適しているとだけ告げる。
その話を一通り聞いた上で、プロキオンは右手で文字を書く動作を一切止めず左手でステータスを操作し始めた。
「いくつか質問、えっと……。そこの骨さんだけど、君の出せる太陽ってどれぐらいの規模? 理論上最大でもいいよ。」
「うーん、分からん。2000以上のMPを注いで魔力欠乏状態の判定になってるんだよなぁ、理論上最大って言われても現状青天井としか。」
「私から補足だけど、かなりの火力よ。欠乏状態とはいえ私の最高火力と遜色ないわ、ただ問題は一瞬しか降臨していない様子だったから少し離れれば影響から逃げれられるところかしら?」
「……魔女と遜色ない一撃、か。しかも魔女本人からのお墨付きね、いいね悪くない。無所属なら僕のところに来ない? 優遇するよ。」
生憎と、という黒狼。
それに対しプロキオンは気が変わるのならいつでも受け入れると告げつつ、横でステータスを操作し指示を出しているであろうライラプスに質問を行う。
質問の内容は保管している魔石の量、譲渡可能なMPの値。
つまり、黒狼の『ファースト・サン』を扱うにあたってどれだけのアイテムを投じれるかという思考実験だ。
その思考実験を行ったプロキオンは……。
「大体1万と考えて……、さっきの話から2000で大体『インフェルノ』とした場合……、いや術式次第で……。あぁぁぁぁぁあああああ!!! もう無理だよ!! 火力計算するのに適してないなぁ!!」
発狂する。
そりゃそうだ、見たこともない魔術の火力を大体概算で計算しようとしているのだ。
他にも忙しいこの現状で発狂したくなるのもわかる話だろう。
「プロキオン、Calm down。ここは私が行いますのであなたはゆっくりと一旦お休みください。それはそれとして、ダーディス。彼の攻撃を把握しないとは何事ですか。Are you stupid?」
「うぅぅ、僕……、休む……。」
「はぁ……、いや俺ェに言われても。そもそも使うタイミングなんざねェし、そこらは勘弁してくれや。」
「……まぁいいでしょう、とりあえず彼の火力の計測を行なってください。もし私たちが求める水準に達していれば彼を主力とした作戦を組み立てましょう、もし彼の火力が水準に満たなければ……。Shit!!! Too much to think about!!!」
叫ぶようにそう言い、一旦ログアウトした彼に変わってライラプスが彼の作業を行う。
目は見開いており、そのクールビューティな外見からは想像もできないほどに荒々しく旧主要言語とされた言葉を吐く。
相当なストレスがかかっているらしい、注視すれば額に血管が浮き出ているのもわかるだろう。
「早く行きなさい、ここに居られては迷惑です。あと『冒険王』、あなたは可能であれば参加可能なクランメンバーを集めてください。さぁ!! Come on, come on, come on!!!」
睨むようにそう言われて仕方なく全員で出る黒狼たち、扉から出ると中からまた発狂している声が聞こえる。
相当忙しいらしい、全員一旦顔を見合わせると全員でため息を吐く。
「とりあえず俺たちは火力の検証をしてくる、シャルたちは……。」
「オレはもちろんメンバーを集めてみるさー!! って言ってもオレのクランは自由人ばっかりだしなー、一体何人来てくれることやら……。」
「最悪ネロとか私とかの名前を出せばそこそこ集まるんじゃないかしら? 曲がりながりにも有名人だし。」
「いや、他人をダシにするような真似はオレのポリシーに反するからな!! とは言っても祭り好きなやつは来てるだろうしそこそこ来るんじゃないかなー?」
そう言いつつ、またな!! と言い三人で走り出すシャルたち。
この自由奔放さゆえに彼の異名は『冒険王』なのかもしれない。
まぁ、そんな一幕を終え黒狼たちも火力の検証のための特設設備を借りるために移動する。
設備、とはいえど必要なのはある程度の大きさがあるフィールドでしかない。
前にも述べた通り、このゲームには模擬戦というシステムがある。
詳しい話は神が絡んでいるらしくややこしいので割愛するが、互いに互いを高め合うという目的のもと装備の損耗やアイテムの消費などがない状態に戻せるシステムがあるのだ。
最も模擬戦で得た経験なども終わって仕舞えば消えてしまうのでそこは一長一短だろう。
だが検証を行うという一点において、コレほど便利なシステムはない。
「おォ、闘技場も都合よく空いてるらしい。サブマスも気が立ってることだし早く検証しようかァ。」
「展開が早くて追いついてないけどいいぜ、とりあえず模擬戦のシステムを教えて?」
「ん? あー、俺が申請をするからそれを許可するだけでいい。詳しく聴きてェならそこの魔女にでも聞いてくれ、俺はめんどくさい。」
「潔くて楽に好きだぜ? じゃ、早くやってくれ。」
こういうモノはノリだと切り捨て、早速剣をとる黒狼。
それに合わせるように拳を構えたダーディスは黒狼に模擬戦申請を行う。
開始のアナウンスがなり、3、2、1と二人の間に数字が表示されそのままゴングがなる。
とはいえ、これは本気の戦闘ではなく検証だ。
幾つもの防御系スキルを用いて、耐える準備をしたダーディスは黒狼に来いとジェスチャーをする。
「じゃ、いくぜ? 『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜。』」
それは神の権能、太陽の具現。
詠唱開始と共に勝手に深淵スキルが発動し、足りない魔力を補うため黒狼は蛇の呪いを扱う。
HPはMPに、本来ならばあり得ぬ量のそれを注ぎ込み術式に封じ込める。
「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術。』」
術式に刻まれた文字は蠢き、正気を嗤う狂気を体現する。
光る方陣は黒に染まり、見るも悍ましい感覚を与えた。
「『それは戦争、それは敵意、山の心臓、曇る鏡。』」
封じられた魔力は唸りをあげ、結果を出力しようと足掻く。
この俺こそが真なる太陽だと、そう宣言するように光は力強くなる。
「『5大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する。』」
魔力は圧縮され、爆発し、術式より黒い現象が発生した。
漆黒のそれは一気に半径1メートル程度の大きさになり、そして赤い炎を纏う。
「『第一の太陽、ここに降臨せり。【始まりの黒き太陽】』」
ここに、一つの太陽が降臨した。
使用されたMPは1を除き全て、これは事実上の最大火力。
それを笑いながらダーディスに放つ。
ダーディスは、その魔術を見て少しどころではなく狼狽えていた。
本来ならば持たぬ器官、基本的には隠しているビーストの特徴。
獣の耳が、獣の尾が。
あらゆる叫びを上げる、今すぐ逃げろと。
これは、人智の攻撃などではないと。
ひどく恐ろしいその攻撃、問答無用で怯えることになるソレ。
だがその意志は脚が竦むだけに抑え、全力の防御姿勢でその莫大な熱を受け止める。
体が吹き飛ぶ、熱によって感覚が奪われる。
全身が焼ける、熱い熱い熱い熱い。
焼け爛れた皮膚に熱風が当たり、鋭敏となった神経を蹂躙する。
戦闘用パッチを入れた弊害とも言える現実以上にリアルな感触。
根源的恐怖である死を呼び覚ます一撃の前に、だがVRCの精神保護が働き精神は一時的に安定させられた。
目がやけ、失明し、瞬きをして次に見た光景は模擬戦が終わっているという結果のみ。
それを認識した時、ダーディスは安堵により膝から崩れ落ちた。
「ーーーーーーーーーーーーッ!!!! ハァッ!!! ハァッ!! ハァ……、はぁ……。なんだそれ……、火力もさることながら物凄い恐怖を与えてくんじゃねェか。」
「そうなのか? 俺は近距離で浴びてるけどなんも感じないけどな。」
「そうかい、そうか……。とりあえず、俺の防御……、VIT280そこらにいくつかバフを掛けた状態を軽く貫通して一瞬でHPを全損させてくるんだ。火力は下手な魔術より数倍ヤベーな。」
若干の恐怖を隠しきれずそういうダーディスを心配そうに見る黒狼だが、性能の説明に移った時点で興味は移る。
弱いはずがないクランの幹部、しかも全力で防御を構えている状態を瞬殺可能なのだ。
ダーディスの言うようにこれは下手な魔術より数倍やばい、さすがは大英雄を仮にでも殺した魔術だ。
「次は使用するMPを増やしたモノだがァ……。いや、この時点でこれだけの攻撃力を持っているのなら問題ねェな。」
「えぇ、俺はやりたいんだけど。」
「VRCの精神保護が働いてるって言う通知がきてんだ、さすがに二度も受けたかねェ!!」
「そうね、精神保護の警告が出てるのなら二度も三度もやらないほうがいいわ。これ以上やると強制ログアウト処理になるかもだしね。」
そう言われ、渋々と言った様子ではあるが諦める黒狼。
そんなふうに諌めるロッソも詳しい検証を行いたいとは思っていたが、流石にこの場で強行するわけにはいかないと断念し一旦彼女の元に戻ることにした。
深淵スキルが悪さして精神的恐怖を与えるせいでまともに検証できませんねー。
あとMPを1残したのはHPが1残っていたのは……、気にするな。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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