Deviance World Online ストーリー3『十二勇士』
「いくぞ!!」
その叫び声と共に、建物から出る。
ネロは黒狼の背中で前を指しているのはご愛嬌だ。
破壊されている街並みを視界の端に、黒狼たちを見つけ追いかけてくるミ=ゴに対しロッソは遅延の魔術を発動した。
「やばいわね!? まともに相手したらキリがないわ!!」
「そりゃそうだろ、主力の奴らが復活するまでに俺たちがすることはあの化け物の弱点の暴露!! 雑魚狩りはその後ででも十分だ!! 何せプレイヤーは数だけはいるからな!! クッソ、このロリ重いんですがァ!?」
「わかってるわよ!! そんなことは。愚痴ぐらい言わせなさい!! 見てみなさいよ、近づけば近づくほど増えていくのよ!? 碌に相手したく無いわ!!」
「うむ!! コレが祭りと言うものだな!! 余もテンションが上がってくる!!」
三者三様の反応をしつつ、街を駆ける。
明朝というには少しばかり遅く、とは言え昼前と言うには早すぎる世界。
瞬やかしく輝く太陽は、地面を駆ける黒狼たちの影を彩る。
それと共に、大敵であるバケモノどもの姿もだ。
見るに堪えない醜悪なその姿は、精神保全装置が組み込まれたVRCであれど人によっては受け付けないだろう。
「『ファイア・エンチャント』!! 身体能力を活性化させてるわ、ただこの魔法……。」
「ナイス!! 活性化ってことは俺アウトなやつだろうな、なんで近接職に補助魔法が使えないんですかねぇ!!」
「そんな種族を選んだ貴様が悪い!!」
「今回はネロの言う通り過ぎて反論できねぇ!! 『跳躍力増強Ⅰ』!!」
さらに加速し、街を走る。
疾走といえるその速度、それを止める存在はただ一つのみ。
ミ=ゴだ、奴らはその醜悪な体躯を動かしそのかぎ爪を用い黒狼たちを。
自らの繁栄という野望を阻まんとする存在を打倒さんとうごめく。
KsyaaaaaaAAAAAA!!!!!
叫び声とともに突貫する化け物を、こう苦労は冷静に剣で振り払うと背後のネロに気を向ける。
こんなお姫様プレイに興じる彼女でも、類まれな化け物が一人。
黒狼が知るそのバッファーとしての能力だけでも侮れるはずがない。
「『地よ、障害となれ!! 【アース・ウォール】!!』 ダメね、STRが少なく見積もって100はあるわ。こんな雑魚敵の様相して、なかなかに強いじゃない。」
「けどそこまで強い印象はないぞ、言うなら戦闘慣れしてないみたいだ。」
「まぁ、そういうことでしょうね。生まれてきたばかりで戦闘慣れしていたら怖い話だけど、もしそうならどこの戦闘民族よ……。」
あきれとともに厄介さを嚙み締めつつ、どう攻略するかを考え直す。
土の壁では数を対処できない、それに近ずいてるとはいえ依然その距離は大きく離れている。
さらに問題となるのは……。
「ダメ、そろそろ休憩しないとスタミナが持たない。座学以外でもいろいろしておくんだったわね……、こういう時に響くわ。」
「スタミナなんて言う概念があるのかよ!? 初耳学だな。」
「肉体がないからじゃない? そう考えれば羨ましいわね、アンデットって。物理職の人間は全員スタミナ管理で悪戦苦闘しているっていうのに……。まぁいいわ!! とりあえずいったんあの建物に入りましょう!!」
そう、スタミナ問題だ。
肉体がアンデットな黒狼にはさして関係のない話だったがここからはそういうわけにはいかない。
団体行動をする以上、其処からは逃れられないのだ。
であれば、気を使うほうが得だ。
「ロッソ、先に飛び込んでくれ!! 俺は追いかけてくるやつを押しとどめる!!」
「了解、ネロはどうするの!? 最悪預かるけど!!」
「投げるから受け取れ!! お前も大人しく投げられろよ!!」
「余の扱い、酷くないか!?」
そう叫びながら建物に突撃、背に乗るネロを投げ飛ばしつつ黒狼は地面に剣を突き立て急ターンする。
土煙を上げながらターンし目にとらえるのは、3〜4匹のミ=ゴ。
それら相手に有効打は……。
「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』」
太陽という概念の顕現、神の権能がごとき偉業。
英雄殺しの魔術、理論すら超越したソレ。
白に追われた黒、蛇に追われた豹。
「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術』」
片手を天に、術式を背後に。
発せられる結果は、己が後光とするように。
「『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡』」
豪胆不遜、しかして最弱。
虎の威を借る狐のように、神威を借りる。
53年を13回、気が遠くなるほどの年数の間太陽を収めた神の威光を。
「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する』」
術式が歪み、『深淵』スキルが勝手に発動する。
魔術? 魔法? アーツ? いいや、違う。
それは、その言葉で喩えられるものではない。
「『第一の太陽ここに降臨せり、【始まりの黒き太陽】』」
指を折り曲げ、太陽が降臨する。
襲いかかってきていたミ=ゴは、降臨する術式を妨げることはできず。
また同時に、黒狼もそのHPを大きく削られた。
コレがHP全損で敗北する決闘であれば黒狼の敗北は決定している、だがコレは決闘ではなく戦闘。
そうであれば、黒狼の勝利は揺るがない。
「どうだ? 太陽の味はよォ?」
骨の真躯を表し、焼け焦げている地面の中心に再構築される黒狼。
周囲の空気は揺らめき、三つの存在が真っ赤になっている土地の上に蠢く。
まだ生きているソレを見た黒狼は地面を蹴り、重心を低くしたまま一気に突撃した。
「ダメージはかなり入ってるなぁ!!」
曲がりながらにも、その攻撃はレイドボスのHPを消し飛ばした一撃だ。
弱いはずが無いソレ、だがミ=ゴを消し飛ばすに至らなかったソレ。
では、何故一撃で消し飛ばせなかったのか?
その疑問は、やはりヘラクレス戦のレオトールの行動で氷解する。
レオトールはあの狭い空間でゾンビ一号を守るため、氷属性を付与する道具を用いた。
何故、ソレを用いれば対処できたのか? ソレはファースト・サンの術式を見れば容易く理解できる話であり、結論として黒狼のその魔術は魔力欠乏状態で発動されているからだ。
魔力欠乏状態、ソレは本来の発動を行うための最低限の魔力すら足りていないという状態。
そのため、中途半端でしか効果が発動しなかったり一瞬しか発動しなかったりすることが多い。
ファースト・サンは後者だった。
効果継続時間が驚くほど短い、だからこそ広範囲にその影響は伝わらず直で浴びれば即死しかねない攻撃であれど一度何かを挟めばその効果は大きく減衰する。
例えばそう、氷属性を纏わせてその影響を大きく減衰させたりバイオ装甲により熱を完全に遮断したりなどを行えば。
「絡め手に弱いのは俺の弱点、だな!! 『スラッシュ』!!」
だが、例えソレらの処置を行ったとしてもファースト・サンの影響をゼロにすることはできない。
特に、軽減することにより要求されたエネルギーを大幅に抑えたレオトールと違いバイオ装甲による防御は完全な隔離であり、防ぐために要求されるエネルギーは前者の比にならない。
一瞬にして破壊されたバイオ装甲、その後に残る多大な熱。
ソレは、ミ=ゴに延焼ダメージを与え半身を重度の火傷に追い込むほどに酷い。
地面に横たわるミ=ゴに、剣を突き立てる。
あれだけ拒まれた鈍が、いとも容易く突き刺さり一つの命を奪う。
その様子を見て、もがく2匹目を籠手越しに殴りつけ籠手で光を遮りながら安易に火力の出る火魔法を用いて倒す。
そして3匹目を見て笑い、首と思わしき部位に手を突き刺した。
「済まねぇなぁ? 俺の体は骨なもんだから、こういうことも出来ちまう。」
突き刺した手で、内部の筋肉を掴みそのまま引きちぎる。
曲りながりにも、そのSTRは190に届いている黒狼だ。
ソレぐらいは容易いと言わんばかりに、ブチブチブチと嫌な音を立てながら一気に鮮血を上げるミ=ゴを見下す。
「とりあえず、コイツらの処理は終了か。増援が来ないうちに俺も隠れますかねぇ?」
ボソボソと呟き、剣を腰に下げる。
戦闘の勝手が多少変われど、大きな変化はない。
元々得意だった剣を用いた近接戦の割合が大きくなるだけだ、その程度でしかない以上何の問題もない。
「おかえり、早いわね。」
「俺の持つ事実上の必殺技が強いんだよ、並大抵の敵ならワンパンできるぜ? まぁ、喰らって生きてたやつも割といるけどな。」
「さっきの魔術よね? 今度、術式見せてくれない? できれば入手経路も。」
「いいぜ? だけど、今はその余裕はないがな。」
『始まりの黒き太陽』、その攻撃力は凄まじい。
だが、ソレでも一撃では葬れないという事実は即ち他のプレイヤーでも安易に倒す手段が少ない事を意味する。
黒狼はⅫの難行を経験しレイドボスを討伐をした(NPCの力を借りたとはいえ)唯一のプレイヤーだ。
言い換えればトッププレイヤーと称してもいい。
その実力は、進化を行なったといえど依然健在。
ステータスが3/4になっているとはいえ、並大抵のプレイヤーでは比類できない。
「うむむ、辺りが騒々しくなってきたな……。先ほどの攻撃で居場所が割れてしまったのではないだろうか?」
「でしょうね、どうする? このままじゃ、碌に進めないわよ。」
「……どうしようか?」
「アンタ、何も考えずにあの規模の魔術を使ったワケ!?」
その通りである。
コレは黒狼の戦闘が、レオトールという絶対的最強を中心に据えたものであったがためにどうしても発生してしまったモノだ。
基本的に戦闘とは連戦が想定されるモノではない。
一度戦えば、一度休む。
そうしなければいつしか、体力や魔力切れが発生し取り返しのつかない失敗が発生するからだ。
だが、その失敗はⅫの難行を行う上では一度も発生しなかった。
ソレは何故か? ソレはレオトールという規格外が存在し、黒狼という何度もリスポーンによる完全回復が可能なプレイヤーが存在し、ゾンビ一号というスタミナがない近接職がいたからに他ならない。
レオトールという規格外がおらず、ゾンビ一号というタンクがいない今、その連携を前提に思考するのは悪手でしかないのだ。
「まずい……、不味いわね。このままだと囲われて襲われてソレで終わりにしかならないわよ?」
「うむむぅ……、誰かを呼ぶことは出来んのか?」
「掲示板経由でなら……、一応呼びかけるけど期待はしないで欲しいわね。」
「俺もダチがいるはずだし、そいつに通話を繋げてみる。」
黒狼とロッソ、互いにステータスを操作し其々の伝手を辿る。
ステータスに表示されているフレンド欄、そこにある数少ない名前の一つをタップし。
もしくは掲示板を開き、現在地点の特徴を告げ助けに来てもらうように要請する。
互いに送信から数十秒である程度の反応が返ってきた。
「よし!! 『黒獣傭兵団』に協力を要請できたわ!! 数分ほど持ち堪えたら助けに来てくれる!!」
「こっちも同じく、ダチが何人か連れて助けに来てくれるらしい。」
そう二人が言った直後、物凄い爆音が鳴り響き粉塵が舞う。
そして、水色を基調とした装いをした男が吹き飛ばされながら建物数個を突き破りながら部屋に侵入し、ヤッバと言いながらヒポグリフに載っている少女とソレに掴まれている半裸の男が乱入した。
それぞれが、軽装であり『キャメロット』の兵士や傭兵のようには見えない。
その中の一人、飛ばされた男が起き上がると体をはたきながら三人に近ずく。
「やぁやぁ!! オレの名前はシャル!! 黒狼は……、お前で合ってるよな?」
「よぉ、久しぶり。地球では元気にしてるか? してねぇわけがねぇか。」
「あったりまえよ!! をだれだと思ってるんだ? 元気さには定評のある男だぜ?」
「ねぇシャル~、早く二人を乗せてよ!! このままじゃ、ボクたちが侵入した穴からミ=ゴが侵入するよ!!」
黒狼が笑いながら喜劇のように侵入してきた男を、シャルを出迎えシャルは変装が解けている黒狼を見ても驚かずそのまま接する。
彼こそが、黒狼の友人であるシャルという人物。
「そう急かすなよ、こっちは旧友との再会なんだ。別にちょっとしゃべるぐらいいいじゃないか、ローランもいるしさ? ほら!! あと少しピンチなところから逃げるほうがカッコ良くない!?」
「何考えてんだよ!? このまま行けば俺たちも死ぬぞ!? ここはコイツのいう通りにしろよ!!」
「半裸の男がそう言ってもね……、というかなして半裸なの?」
「む!! 余より登場が目立つなど……!! これがライバルというやつか!! うむ、余の血もたぎってきたぞ!!」
混沌にカオスを混ぜたような頭の悪い空間となりつつある状況だが、そんな状況はシャルたちが引き連れたミ=ゴが建物内に侵入していることに気付いた事によって一気に空気が変わる。
黒狼は腰に下げなおしていた剣を握り、シャルは腰のさやから黄色に輝く刀身を持った剣を引き抜く。
それを見たネロはライバルに派手さで負けているのが悔しいのか地駄を踏みロッソはそれをなだめ、なぜか知らないがヒポグリフに乗った少女はミ=ゴに突撃しようとしローランと呼ばれた半裸の男に止められる。
簡潔に表すとカオスが二乗された。
そんなカオスをどうにかするかのように遠くから何かのスキルを発動する音が聞こえ、同時に建物が完全に倒壊する。
瓦礫が降る中を普通に慌てる黒狼と、その状況すら楽しむようなシャルを片目に登場した男が一人いた。
「『ウィッチクラフト』に呼ばれてきてみたはァ良いが、これだけの戦力に俺ァ必要だったのかねぇ?」
「言いたいことはわかるわよ、確かに二つ名持ちがあなた以外で三人も来てくれたわけだしね。」
「ちょっと待て、となればシャルたちって二つ名持ってんの!?」
「ん? あるぜ? ちょうどいいし、オレは自己紹介がてら名乗りを上げるか!!」
そういって、心底楽しそうに笑うと男は名乗りを始めるためフォーメーションをくむ。
具体的には戦隊モノのようにシャルを中心として、斜め後ろに他二人が並ぶといった具合だ。
それを見たロッソは少し呆れ、ネロは面白さを期待するかのように目を輝かせ黒狼は黙って呆れる。
「我が名はシャル!! 血盟『十二勇士』をまとめもっとも陽気な聖剣こと『ジョワユーズ』を握る、『冒険王』なりー!!」
「ボクはアストル!! 彼の配下の一人にして『理性蒸発娘』だよ!! よろしくね!!」
「えー、この流れって俺も? いや、いつものことだけどさ。というわけで、『金剛体』のローラン。よろしく!!」
そう、名乗りを上げた。
いよいよ面白いことになってきましたね。()
というわけでうるせぇ奴らです、個人的には結構前から出す予定だったキャラです。
全員が個性的なことを心掛けて作成してるけど個性だけはメインキャラ並みに強いんだよな……。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




