Deviance World Online ストーリー3『合流と不安』
鋭敏になった意識、動く空気すら明瞭に感じる感覚。
大地を駆ける骨は、その感覚を以てその醜き化け物を観測する。
「一見すれば竜、二見すればミミズ、その実態はエイリアンを生み出す母体ってわけか。」
「それだけではなさそうだぞ!! あの化け物、猛毒の体液を撒き散らしているようだ!!」
幾つものスキルで己を強化した黒狼は、そのバケモノを見ながらニヤリと微笑む。
ようやく、この世界らしさが出てきたと感心する。
突如電脳世界に湧いて出たこのゲーム、プレイヤーは世界に放り出されるだけだ。
そこで各々が目的を見出し、生活し、そこでの生を謳歌する。
そんなことがテーマに思えてしまうこのDWO、だがこのゲームに黒狼は一つのコンセプトが見えて仕方なかった。
それは、理不尽だ。
何者でも贖えない理不尽、上位者による権力の理不尽、暴力により道理を効かせる理不尽。
何にでもいい、なんででもいい。
この世界はまるで現実のような理不尽の連続帯にしか黒狼は思えなかった。
「ロッソの状況は? 掲示板で会話してるんだろ?」
「本人もよく解っておらんらしい!! 本人曰く周囲で複数のスキルや魔術攻撃が敵味方問わず乱舞しており、まともに状況を確認できる状況ではないとのことだ!!」
地面を走りながらそう言い合い、現状に対する理解を深める。
まず掲示板情報だが、あの竜から、エキドナから排出されるミ=ゴを相手にプレイヤーは戦っているらしいがその戦況は芳しくない。
ミ=ゴの生産速度は毎秒一体、処理速度は毎秒で0.5体。
全てのミ=ゴがバイオ装甲を纏っており、通常攻撃はそのバイオ装甲を消費させ切らなければ無意味になる。
もちろん、無効化可能な攻撃や無視可能な攻撃を行えばその限りではないがそれを行えるのは一部のトッププレイヤーのみ。
である以上、数でこそプレイヤーが上回っているが押されているのはプレイヤーに他ならない。
「とりあえず、近づくぞ!!」
元から全力であったが、より一層全力で。
速度は変化ないが、意識的にはより速くなったように感じつつ一気に化け物に近づく。
近づけば近づくほど脅威と見えるその巨躯は、森から出た時点で捉えていたが1キロ以内に入ればソレは見上げざるを得ない状況となる。
同時に心底気色悪い声が聞こえ、耳を塞ぎたくなる不快感に駆られる。
これがミ=ゴの声なのか、そう認識した黒狼は色んな意味で戦いたくない敵と認識した。
「せめてドロ率が高けりゃいいんだけど……、まず何がドロップするか知らないんだよなぁ。」
「む? イベントモンスターのドロップアイテムはイベントポイントで固定のはずであるぞ?」
「え!? それマ!!? 知らなかったんだけど!?」
事前情報を確認しないのは現代人の悪癖ではないだろうか? 少なくとも世の中を探ればこの社会を風刺した論文の一つや二つは見つかりそうなものだ。
実際黒狼はそう言った人間のテンプレのような人間なのだ、ネタにもならない。
是非とも、詐欺などに遭わない事を願おう。
「と言うか!! 早速ミ=ゴが襲ってきてんだけど!?」
「『ファイヤーボール』!! うむ、効かん!!」
「使えねぇー、このロリがぁ!! 背中から落とすからうまく着地しろよ!」
「余を丁重に扱え!!!」
そう言いつつ、早速ネロを落とし落とされたネロは完璧に着地し、ピースサインをする。
そんなことは一切認知せず、一気に地面を蹴り歯を食いしばりながら黒狼は突貫する。
「『スラァァァアアッシュ』!!!!」
叫びながら浴びせた一撃、鈍重な一撃だが間違いなくミ=ゴの体を捉えていた。
だが、ダメージにはなっていない。
ダメージにはなり得ない攻撃でしかない。
振り下ろした剣、それはバイオ装甲によって押し止められ腕によって弾かれる。
そのまま反対の腕で黒狼の頭部を狙い……、偽装の上からダークシールドを貫き破壊した。
そう、破壊した。
破壊したのだ、黒狼の頭蓋を。
「今、俺を攻撃したな? 喰らえ!! 『復讐法典:悪』!!」
ニヤリと笑い、復讐法に基づいた拝火の正義を騙る。
今までなら、今までであればミ=ゴと黒狼の身体構造は大きく違う、ゆえに基準を設けることは出来ない。
では、この攻撃は不発に終わるのか? 否、そんなわけがない。
復讐法とは本来、眼には眼を歯には歯をという基本理念に基づいた等価罰のものでありそれをわかりやすくしたのが同部位の破損だ。
故にその罰は肉体構成が大きく異なる生物には適用されなかったが……。
「よく考えたらわかる話だ、なんでコイツは『復讐法典:悪』なんだ? 単純な復讐法を執行するだけなら『復讐法典』でいいじゃねぇか。じゃぁ、なんでわざわざ悪と付け加えたのか。答えは簡単だ、このスキルは。」
使用者が罰を定義する、だからこそ悪なのだ。
等価罰という絶対定義を遵守すれば、その罰の内容は使用者が定義できる。
復讐者がその法を、その罰を定義するからこそ、このスキルは悪なのだ。
理解が足りなかった、そこに置かれている道具の意味をわからず扱っていた。
だからこそ十全な扱いをできなかった。
だが違う、いま黒狼は走ることで何かを掴んだおかげでソクラテスが説いた無知の知を得ることができ何かを知ろうともがき足掻く考える葦となった。
故に、彼のスキルは彼に応える。
「雑魚狩りには適してないが、それでいい。今の俺に必要なのは、ダメージを防ぐ相手に対する攻撃手段だ。」
『復讐法典:悪』、その此度の効果はダメージの共有。
その時点でのダメージを共有し、ミ=ゴを倒す足掛けにする。
この生物は倒せない敵ではない、倒せる存在だ。
「ネロ!! 力をかせ!!」
「うむ!! 『炎となりて、かの者を祝福しろ!! 【喝采の熱情よ】』!!」
攻撃バフを受けた黒狼は一気に力を増す。
ネロが攻撃系バフを使えるのは知っていた、何せ相手はレイドボス攻撃手段を共有するのは先頭において基本のき。
その前段階の戦いとして、目の前の敵はちょうどいいとも言える。
何せ目の前に存在する敵は決して侮れない存在、油断などできるはずがない。
ネロは精神汚染で単独での撃破をなしえたが、それだって精神汚染が通じたから。
それにあの汚染はそう簡単に行える者ではなく、使えば味方から嫌悪されかねない。
ネロも精神的に問題を抱えているとはいえ、味方から嫌われたいとは思わない。
「うん、力が湧いてくるな。最高だよ、ネロ!!」
それにこの状況はまるで劇のようではないか? 骨の荒男が真紅の童女を守るため、果敢に敵に挑む。
定番とは少し離れているが、まるで物語のヒロインの様。
それであれば、条件は満たされていない。
「いくぜ? 『強靭な骨』!!」
kyiiiiiiiiiiiiii———rororroorrrrrrrrr!!!!!!!
自己バフを行い、一気に剣を叩き込む黒狼。
頭部から生えている触手に向かって剣を振り下ろし、そのままバイオ装甲で防がれる。
先程の『復讐法典:悪』を警戒し攻撃こそ放ってこないが、おおよそ仕組みは看破されているだろう。
何せ異星からきた旅人だ、それだけの技術を扱える技術がある生命体、そのコピー存在であったとしても相応の知性があるのは想像に難くない。
もう少し後で出せばよかった、そういう後悔を抱きながら黒狼は闇魔法を展開する。
「『ダークバレッド』……、やっぱり攻撃力がない。『我が手に形をなせ、氷の槍よ【氷結矢(改)】』!! っと、やっぱこのスタイルじゃなきゃバランスが悪い!! 『インパクト』!!」
片手に槍を、片手に剣を持ったそのスタイル。
杖がないということは通常時よりもさらに魔術や魔法の攻撃力が低いがそんなことは織り込み済み、重要なのはその攻撃が通用しないという情報だ。
一気に接近し、氷の槍を突き立てる。
ミ=ゴが保有するバイオ装甲に突き刺さる氷の槍、それを腕で砕きそのまま攻撃を開始する。
このまま待っていても埒が開かないと判断したらしい、雄叫びをあげミ=ゴは黒狼に突貫。
槍をあっさり砕かれた黒狼は少し顔を歪め、襲いかかってきたミ=ゴに剣で応戦する。
腕と剣、剣と腕。
ダンスのように繰り出されるソレ、だが戦っている二人は異形でありダンスに見えるそれはやはり地獄の産物にしか思えない。
ダメージは徐々にではあるが黒狼に蓄積している、蓄積したダメージは黒狼を蝕み最終的に彼を殺すだろう。
だが、それはミ=ゴも同じだ。
見方によってはミ=ゴの方が劣勢とも言えるだろう、何せ与えたダメージは全部返ってくるのだから。
耐久勝負となればどちらのHPの方が大きいかが鍵を握ることとなり、互いにステータスは閲覧不能。
黒狼がダメージを与えられれば状況は一変するのだが……、そういうわけにはいかない。
「……いや、待てよ?」
そんな耐久戦、する必要がないのでは?
その思考に至ったのは、視界の端に映るネロを見たからだ。
彼女が持つフランベルジュ、『トラゴエディア・フーリア』は炎という性質から溶ける物体ならばほぼ問答無用で切断する。
「ネロ!! こい!!」
「うむ!! なんであるか!?」
「コイツをその剣で切れ!! その間、俺が守ってやる!!」
「うむ!! 姫が働くのもまた一興であるな!!」
そういうと、剣を『心操剣術』によって浮かせそのまま剣を振り回す。
突如宙に浮いた剣、それが描く無軌道はミ=ゴに襲い掛かる。
その能力が何であるか? それを理解するよりも先に二本の爪が生えた腕で防衛行動を行う。
だがその行動は、黒狼の剣で防がれ無防備となった頭にフランベルジュが叩き込まれる。
一瞬、ジリッという何かが蒸発する音。
先程までは体表が太陽光を反射していたが、その攻撃によってそれが消えバイオ装甲の消失を察した黒狼は一気に剣を振り回す。
ネロ本人も知っていたがミ=ゴに扱えばこんなことになるとは知り得なかったその効能、それはあまりにもミ=ゴに特効性を持っており一気に黒狼を優勢にする。
一気にバフを纏い、そのまま突き刺し蹴り払い殴る。
「オラオラオラオラァ!!」
珍しく声を上げながら攻撃を浴びせ、数多の裂傷を全身に刻み込んだミ=ゴのHPは一気に減る。
勝負は一気に、そして序盤の苦戦からは考えられないほどにあっさりと決着した。
*ーーー*
「案外あっさり合流できたわね? 黒狼、それにネロ。」
「まぁ、コイツの剣がミ=ゴに対して優秀すぎたからな。」
「うむ!! 余、最強!!」
「……その様子だと、ミ=ゴが持ってる装甲に炎が有効なのは知ってるみたいね? 私がアイツらの装甲を剥がすからネロはバフを黒狼は前衛を任せられるかしら?」
互いに肯定の意を示す。
ここはエキドナが潰した町の外縁部、都市の端っこ。
その中でもまだ商店の役割を果たしている場所だった。
「はぁ、最悪ね。元々土の魔術と建築系のスキルで作ってたこともあるから脆いのは想定内だけど……、この中心にこんな化け物が現れるなんて想定してる人がいたのかしら?」
「掲示板を見る限り『探求会』? ってところの人がなぜこの周囲だけ森林がないのか、疑問視してた声もあるし案外わかってるやつはいたんじゃないのか?」
「そんなことより、早くあの化け物をどうにかせねば!! 余の劇場よりもでっかいのだぞ!!」
「見たらわかるわよ、そんなこと!! 実際、ネロの言う通り早く対処しなきゃいけないし……!! なんでこぞってあのタイミングで強いプレイヤーがあの都市にいたのよもう!!」
そう、ここまで劣勢になっている状況は上位プレイヤーと呼ばれるプレイヤーたちが現在軒並み死んでいることも原因の一つとされている。
なぜか、そうなぜかステータスの合計値が1000を超えている上位プレイヤーの過半数が都市部に殺到しており軒並み死ぬと言うことが発生したのだ。
噂によればその数時間前に何やら高名な剣術家が決闘してくれるという情報を聞きつけたどこぞの悪徳商人が転移アイテムを惜しまず用いて上位プレイヤーを呼び寄せ決闘の勝敗で賭博をしていったと言う噂もあるが関連性は不明だ。
「とりあえず私の魔術なら一発高火力魔術を当てれば装甲を剥がせるわ、装甲を再生するには一度あの母体に戻らなきゃいけないみたい。」
「ミ=ゴのステータスの鑑定は? 俺弾かれたんだけど。」
「種族としてそう言う性質を持ってるわね、あそこで会った時には普通に名前とかは見えたのに……、とりあえず看破系のスキルを持ってないと鑑定が効かないわ。その人物によると個体ごとに高レベルのスキルを一つ持ってるらしいわ。ただ彼らは持ってるスキルが個体によって違うらしい、まぁ技量だったりが適切でなかったりでやっつけ感が酷いけど。」
「了解、警戒する。あと俺の弱点で光があるんだよ、そう言うわけでそう言う類の魔術はやめて欲しい。」
ロッソはその言葉を肯定し、そのまま装備を変更する。
さっきまでの装備、魔術師然とした赤を基調にした装備は彼女曰く炎系魔術の特化装備であり火力が控えめに言って2倍ぐらい上がるとのこと。
その代わり他属性が半減したりするらしいが……、メリットをみればその程度のデメリットなどあってないようなものだろう。
だが、ほかの魔術を主とする場合確かにこの装備は不便だ。
そう言うわけで、早速装備を切り替えるロッソ。
いそいそと着替えながら、武装も多少変更する。
さっきまで使用していた緋陽秘妃の杖を、宝石があしらわれた剣に持ち変える。
「死亡状態じゃ掲示板も見れないのはきついわね、せめて後どれぐらいで復活できるかを知れればいいんだけど。」
「一気に死んだタイミングってどれぐらいなんだ? 多分そこらへんで死んでるだろ。」
「二時間ぐらい前、日が上り始めたぐらいね。全く……、とりあえずあと一時間ほどは来ないと予想してるわ。」
んじゃまぁ、とりあえずあのデカブツを攻略しますか、と。
黒狼はそう告げ剣に手をかける。
いつものように、いつもみたいに。
無理難題に挑むのは、黒狼の日常だとでもいうように。
「最強はいない、持ち手は微妙、唯一違うのは仲間がたくさんってところか? 良いじゃないか、気分がアガる。」
最弱は、笑う。
さて、今回のボスも一癖二癖ありそうですねぇ。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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