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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『敗北』

「馬鹿な……、アレが……。『エクスカリバー』が、『準古代兵器』……!? いえ、まぁ別段驚くような話ではないでありんすが……。根拠を寄越してほしいでありんすね、それだけでは情報としての価値がほぼないでありんし。」

「そうですね、これぐらいならばいいでしょうか……? 最初に聞きたいのですが、貴方はどこから『準古代兵器』の情報を獲得しましたか?」

「別料金を取るところでありんしが……、まぁあいいでしょう。わちきは『王の軍(ヘタイロイ)』と繋がっているプレイヤーからでありんし。」

「ああ、ソレであれば納得です。確かにかの軍勢ならば知らぬ方がおかしな話ですから。」


 そう言って一旦言葉を区切り、思考を張り巡らせる。

 情報の開示、ソレは己の有利を捨てると言うことに他ならない。

 だがその有利を捨て確証を得るのであれば我が身を切り裂く程度など安いモノ。

 だが、問題となるのは目の前の物の怪は1の情報から1000の情報を引き出す獣であると言うことだ。


「私は、『グラアンド・アルビオン王国』の王城。そこの図書館である『王国記世ブルート』の『アーサー王記』または『正史・建国記』から入手しました。ああ、これの情報は販売をしない様に願えますか? 一応コレ、禁書なモノで……。」

「殺す気でありんしか!!? あの国の禁書といえば内容だけでも下手すれば恒久的に監禁になりかねないモノでありんすよ!?」


 恒久的監禁、すなわち事実上のアバターの再使用不可能を意味する。

 勿論、脱出できるのであればそうもないが……。

 現在、そこまでの処分を受けたプレイヤーは居ないモノの監禁処分を受けたプレイヤーが誰一人とも脱出できていないことから結果は目に見えているだろう。

 しかも一度捕まればステータスに重犯罪者の烙印、もとい称号が発生し一部街や都市には入場不可能になってしまう場合がある。

 当然商売をする上でそんな不利になる要素を受けたくない陽炎は、慌てて大声で叫んだのも必定だろう。


「逆を言えば、それだけ準古代兵器の情報は秘匿されているのです。私もおおよそ正規の手順で見た訳ではないのでこの話を後悔しない様に願いますね?」

「断ったら?」

「別段問題はありません、アルトリウスに貸与されていたものをコピーし精読しただけですので。少なくとも偶々見たと言う言い訳が通用しますよ? 貴方とは違い。」

「嫌な言い方でありんすね……、まぁいいでしょう。」


 今度、黙ったのは陽炎の方だった。

 ジャブとして放たれた内容があまりにも重すぎる。

 価値をつけるのは陽炎、ゆえに場の空気を握っているのも陽炎。

 ソレは間違いない、間違いない筈なのに……。


 そんな戯言は()()()()()()ことすら許されない。


 目の前の女は、目の前の魔女はまさしく魔女なのだ。

 たった一つの情報を口から零すだけで、葉から溢れ落ちる朝露がごとき量の情報で万人を蝕む毒とする。

 そんな魔女と話している、その認識が呼び起こされる。


「情報の続きを。」

「いいですが……、一度落ち着いてはどうでしょう? 動悸が……、1.2倍ほど早くなっていますよ?」

「化け物が……、よくわかるでありんしね? ぜひその憎たらしい口から理由を漏らしてほしいものでありんし。」

「生憎と、この情報は貴方みたいな財宝の奴隷に言えるほど安いモノではありませんので。」


 ウフフフフ、と笑い口をドレスの裾で隠す。

 その所作、その一連の動きは女王然としており高貴さが見え隠れするほどに精錬されている。

 ソレと同時に意図的に陽炎を煽っているのもわかり、ソレが陽炎の怒りを加速させた。


「……本当に、憎たらしいヤツ……。」

「おあいこでしょう、貴方も私も所詮同じ穴の狢ですし?」

「早く、続きをいうでなんし。わちきをこれ以上怒らせる前に。」

「ではそうしましょう。」


 所詮同じ穴の狢、つまりお前も自分も所詮は悪であることに変わりはない。

 そう明言はせずとも明確に告げ、その悪意を露わにする。

 所詮ヴィヴィアンは善悪で定義すれば悪なのだ、ソレも他者を騙し目的を遂行するために手段を選ばないタイプの。

 同時に本人は否定するだろうが、陽炎も悪なのは間違いない。

 他者を騙し金銭を得て、経済という形なき悪魔を手中に入れようとする。

 ソレを認められるほどに精神的に、もしくはソレを認めてしまえば何かが崩れ去るからこそ認められないのだろうが……。


 結局、変わりはないのだ。

 まさに言葉の通り、同じ穴の貉でしかない。

 互いに目的に邁進し、そのために手段を選ばない悪。

 ソレを的確に突いた発言は自覚なく……、少なくとも自覚していると認めないながらに嘘を身に纏っている陽炎に突き刺さった。


「『正史・建国記』の内容ですが……、簡単に言えば初代『騎士王』の英雄譚です。その内容も半数以上が解読不可能であり、もしくは原典でないからこそ情報が幾つも隠されていました。ですがそこに書かれていた内容がありその内容として『かの騎士王は地を駆け数多の凶悪な赤痣の化け物を斃し、青疵率いる化け物を圧殺した。その偉業は神話の申し子である三子の大英雄が一人であり準古代兵器【Excalibur】を用いていたからこそできた偉業である。』というように。」

「そのコピーは見せれないでありんし……。いや、くぅぅぅうう。計ったでありんすね!! その情報、価値の割に……。」

「売れない、でしょう? そうに決まっていますとも。逆に何故貴方に売れる情報をやすやすと渡すとお思いで? あまり魔女を舐めないように、肝に刻んでおいてほしいものです。」


 ニヤリと、陽炎を見下すヴィヴィアン。

 半して陽炎はヴィヴィアンを睨みつける、何せ売れない財宝……、いや例えるならば大きな一塊の銅像だろうか?

 重く容易には動かせず、切るのにも労力が発生しその労力を支払ったところで元の価値には届き得ない。

 してやられた、その言葉が脳内で踊り狂う。

 対価が準古代兵器に関する情報であった時点で気づくべきなのだ。

 欲を張り、少しでも価値を求めたことが間違いだったのだ。


 目の前の魔女は、その欲を唆し逆手に取る悪魔だったのだから。


「これからも懇意にさせていただきますね? 『化け狐』陽炎(ようえん)。最も化かされたのは私か、貴方か……。ふふ、楽しくなってまいりましたね? ねぇ? 村正。」

「煽るのも交渉だが、そこまでにしておけよ? ヴィヴィアン。儂は手前の親でもなきゃ、兄貴でもねぇ。」

「ではお爺さまというのはどうでしょう? 口調にピッタリですよ?」

「はっ!! 笑わせんなよ? 手前におじいさんなどと呼ばれんのは後60年は御免だね、こう見えても若いもんでなぁ?」


 性格が捻れた二人の会話、その目の前で血涙をあげんばかりに歯を噛み締める陽炎。

 態々勝敗など告げるのは不要、いやこの場合は敗者をより辱めるだけにしかならないだろう。

 

 勝者は悠々と退散するのみ、ソレはどこの世界であると変わりはない。

 席から立ち上がり、一口も着けていない冷え切ったお茶の味を想像しつつ見せつけるかの様な動きで正面扉から出る。

 その後ろに着くのは村正、帰る手段を案じるように眉間に皺を入れつつもそのまま彼女に追随する。


「ああ、帰りの送りは結構です。ここの座標が分からなかっただけであり、転移魔術の発動などひどく容易いものですから。」


 目を見開き、死体撃ちとでも言うべき言葉を吐く。

 間違いなく彼女らを連れてきた手段は彼女にとっても容易く扱えるものではない。

 それだけのモノを彼女は容易いと小馬鹿にしたのだ。


 商人としてのプライドは交渉の前に粉砕され、プレイヤーとしての研鑽は容易いとあっさり再現される。

 言い訳などできない、この世界の己の研鑽の全てで敗北したのだ。


「次に来る時にはもう少し、上質で鮮度の高いモノを用意していてくださいね? 貴方の価値のままに買い取らせていただきますから。」

「二度と……、来るなでなんし……!!」


 反骨精神だけで吐いた言葉、ソレすら笑われる。

 猛犬に噛まれれば痛いが、チワワに噛まれて果たして痛いだろうか? 結局はそう言うことでしかない。

 

 彼女はこの一幕で、猫をかぶる必要が無くなった魔女に完膚なきまでに敗北した。


*ーーー*


「全く、最初は手前が余計な事ばかりするから激昂させないか冷や汗をかいたもんだが……、結果は上場ってい言うところか? あの『化け狐』相手に情報を巻き上げるなんざ。」

「まさか、実際は見当違いもいいところです。もし最初から冷静であれば、もしくは『準古代兵器』の情報の危険性を知られていれば次に出せる情報は稀有な物しかありませんので。そこまで詰められていれば私もそこそこの痛手を負っていたでしょう。彼女が私を舐め腐っており、怒りで思考がまとまらずその上で出された対価が大きかったため目が眩んでくれましたが……、次はそうもいきませんね。」

「ふーん? そんなもんかねぇ?」


 実際そうなのだ。

 ヴィヴィアンが一枚上手だったことは違いなくとも、その実態は彼女が参加した過去の交渉で陽炎から見下されていたのを利用し上手く策が嵌まっただけに過ぎない。

 どちらも相手を知らない状態から始めれば十中八九、陽炎がこの舌戦で勝利を掴んでいただろう。


「んで、()()()()()()()()()()()んだ? まさか、愁傷にその『正史・建国記』の内容を告げたわけではないだろう? ああ、安心しろ。儂はあの化け狐の回し者でもなけりゃ、易々と情報を流布する愚か者でもねぇ。」

「安心してください、仲間である以上そこは疑っていません。しかし……、よく分かりましたね。彼方にはそのニュアンスに気づかせないために散々煽ったのですが……。」

「交渉や舌戦にゃぁ苦手だが、こう見えて武器には一家言ある身だ。っと、そう安易に口にしないほうがいいか?」

「そうですね、一旦別の場所に飛びましょう。」


 まるで近くの公園まで行きましょう、と言うようなニュアンスで言いつつ魔術を展開する。

 彼女が展開した魔術は、一瞬で鏡のようなものを形成しその先は別の空間……。

 いや最初の草原が写っていることが確認できた。


「行きましょう、足元に気をつけて。やや高さが違うことが多いので。」

「心配ご苦労さん、まぁ体幹は強いほうだ。そう心配すんな、惨めになるだろう?」


 ニヤリとジョークを飛ばしつつ、そのまま怖気付くこともなく鏡をくぐる。

 古来より鏡は異空間への繋がりを示し、その概念には強固に異なる場所という概念が付属する。

 ソレを用いた水系統の魔術であるヴィヴィアン命名の『蓮華鏡』という魔術。

 その効果はまさしく規格外だった。


「んで、さっきの続きだが……。あんの聖剣は未だ『準古代兵器』として目覚めていない、そう考えていいんだな?」

「その前に『準古代兵器』というものが何かを解説しましょう、おそらく完全には知らないでしょう?」

「強い武器、じゃねぇのか?」

「本質的には、ですがその強いというのに明確に基準が定まっています。」


 一言区切り、インベントリに入れていたティーポットを取り出し同じく取り出したカップに注ぐ。

 同時に椅子も二つ取り出し片方を村正に目線で勧めつつ、新たに出した机に皿を出した。


 ティータイムと言わんばかりだな、そう言わんばかりに非難の目を向けつつ明るくなり始めている空を望む。

 満点の星空は消え、ただ一つの極星が浮き上がろうとしている。

 その神秘としか思えない雄大な自然は偉大であり、その偉大さはちっぽけな人間の心を満たす。


「『準古代兵器』、何かに準じた古代兵器なのか古代兵器に準じているモノという意味なのか。ソレらは私には分かりません、ですがコレに認められる条件は知っています。その条件というのは、最大出力が『ワールドエンド級』に分類されること。」

「ワールドエンド級? 何やら穏やかな文字列じゃねぇ、どういう意味だ?」

「文字通り世界……、厳密に言えば星ですね。この惑星を破壊しうるレベルという意味です、この場合は世界を破壊しうる兵器と行ったところでしょう。」

「なるほど? 一応だがその兵器っていうのは作れんのか?」


 目を輝かせ、童のようにそう訊ねる村正に呆れ、同時にほっこりとした謎の感情を抱きつつヴィヴィアンは朗らかに笑う。


 ええ、その通りです。


 言葉として告げはしなかったがそう言うように動かした首を見て、村正は目を輝かせながらニヤリと犬歯をのぞかした。


「ああ、くっそ!! 夢が広がるじゃねぇか!! 儂じゃ辿り着けない領域があるんだろう? 今の儂じゃ見れない世界があるんだろう!? 最高じゃねぇか!!」

「貴方は本当に、武器職人なのですね。」

「我が身も魂も人生も、炉中の焔に捧げた身だ。そりゃぁ、もう。最高の刀を作るのが儂の使命にして生き甲斐、人生の目標と言っても過言じゃねぇ。そして其奴はここでできると確信がある、そこで見せられた完成地点だぁ? そりゃぁ、興奮しねぇはずがねぇ!! っと、ちと喋りすぎた。すまねぇ、続きを話してくれ。」

「あ、いえ。情熱を持っている人間を見るのは楽しいので罪悪感を感じなくともよかったのですよ?」


 そう言って早く続きを、と急かす村正を見て求めている答えではなかったと悟る。

 こう言う失言には気をつけなければならない、内心でそう言いフンス!! と気合を入れ直したヴィヴィアンは一旦紅茶を啜った。

 鼻腔を通るアルコールの香りと、そこに含まれる紅茶特有の甘さ。

 ソレを感じつつ一旦落ち着くと、話を再開する。


「はい、でそれが『準古代兵器』と言うものなのですが。今の聖剣『エクスカリバー』はその条件を満たしていません。」

「そうか? 内包するエネルギー的には相当なモノを感じるぜ?」

「……わかるのです? 私でも外部からの観測は困難なほどに丁寧に隠蔽されていたのですが……。」

「んにゃ、別段難しい話でもねぇ。こう言うのは感覚よ、感覚。剣には剣の、刀には刀の声っていうもんがあるんだよ、あの剣はその声が随分でけぇ。常に何かを言ってやがる。まるで魔剣や魔刀の類だ。」


 その言葉を聞いたヴィヴィアンは、驚いたように顔を歪めそしてそのまま無表情になる。

 顎に手をやり少し考え込んでいる様子も絵になる美しさ、だが有無を言わさぬ威圧があった。

 そして、その威圧感を保ったまま彼女は。


「……まぁいいでしょう、多少気にはなりますけど。本来のエネルギー、その攻撃能力について論を進めましょう。その攻撃は、あの本にはこう記載されていました。『かの騎士王は地を駆け数多の凶悪な赤痣の化け物を斃し、青疵率いる化け物を圧殺した。大地を焼き付け、焦土を成し光り輝くソレはまさに正義の象徴であり不浄を祓う恐怖の体現であった。一度振るえば山々は消え大海は蒸発し邪竜の体躯を消し飛ばした。その偉業は神話の申し子である三大の英雄、根源となる歴史を作った妖精に不可能の難題を超えた不死の人間、ソレに続く生存圏を作った星食の大地を割る人類の導き手の騎士王こそが彼でありそんな彼が準古代兵器【Excalibur】を用いていたからこそできたのが我らが王国の繁栄の偉業である。』と。」


 化け物、と。

 そう言いたくなる偉業を口ずさんだ。

なお正面戦闘に限ればプレイヤー最強でもレオトールに敗北する模様

おかしいなぁ、未覚醒とは言え準古代兵器って作中最強武器のはずなんだがなぁ。


追記(2023/11/29 13:04)

最近の内容の情報量が多いと思われている方が多く存在すると思われていると思いますがこれらの情報は視点がプレイヤーの中でも割と最前線を走ってるヴィヴィアンや村正の視点のためです。

読みづらい内容が続くとは思われますがご容赦ください。


ぶっちゃけな話、予定が完成してグダってるのが緩和されたせいで情報量が爆増してるだけだったり。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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