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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『テレポート』

 遅かった。

 全てはもう既に手遅れだった。

 一晩で作り上げられた町、さまざまな商品を並べ賑わっていた町は猛毒の()()()によって侵される。

 大地は毒沼に沈み、生半可な耐性では近づけない魔境になった。


「ふ、ざ……!!!!!」


 言葉が喉から突き出る。

 九死に一生を取り留め、だがその一生すら儚くもこぼれ落ちようとするその一時。

 男は叫び声を上げた。


「ふざけるなぁぁぁぁあああああああ!!!!! こんな話、聞いてなi……。」


 激昂し、叫ぶように叫んだ男はそのままポリゴン片に変化する。

 スリップダメージ、言い換えれば継続ダメージ。

 そこで発生したダメージはHPを超え、そのまま彼の命を奪った。

 

 生命の頂点、単体で環境を作成する化物。

 全ては、遅すぎた。

 

〈ーーレイドボスが降臨しましたーー〉


〈ーーレイドボス名:◼️◼️◼️◼️ーー〉


〈ーーレイド、開始しますーー〉


 これは、今より少し未来の話。

 変えられない未来の話。


 一匹の、化け物が降臨する話。


*ーーー*


「んで、長々と話を聞いたわけだが……。儂が協力を断ったらどうする気なんだ?」

「断らないのでしょう? 少なくともこの話をしても断らないと信頼する程度には、あなたという人物っを理解し始めているつもりです。」

「言外にこの爺はちょろいと言われてる気がするが……、まぁいい。暇な事には変わりねぇ、協力してやらぁ。」


 若干テンション低めに、だが不機嫌ではないと言ったようで言葉を返す村正。

 ソレに対しヴィヴィアンはにっこりと満面の笑みを浮かべ、「そう言うと思って居ました」というような顔をするヴィヴィアン。

 はぁ……、とため息を吐いた村正はそのままヴィヴィアンに行き先を尋ねる。


「どこに向かってるんだ? まさか宛先がねぇ、とは言わねぇよな?」

「『狐商会』です、あそこなら聞かれなければ何も言いませんから。」

「ああ、正体が露見したら問題だもんな。手前の場合、そこそこの要職だし。」


 そう言って村正は欠伸をすると、軽く体を伸ばす。

 退屈感が強まった為か、もしくは何らかの不穏な雰囲気を感じ取り脳が無意識に覚醒したのか。

 

 泥沼の中に落ちていく思考、宵闇の影響で眠気を無意識に感じている。

 今はゲーム内時刻で12時を少し回った所であり、規則的な生活を社会全体が促すシステムを社会全体で構築している現代において空間の光量が一定以下になれば夜であり大抵のAIや機械は就寝を促す。

 そんな不摂生や生活習慣病絶許の現代人は周囲が暗いというだけで眠気っを感じてしまうのだ。


「おや? 眠たいので? 叩き起こしてさしあげましょうか?」

「まさか、眠気を感じる程度に退屈しているだけだ。と言うか、陽炎(ようえん)はどこにいるんだ?」

「ここら辺でぼったくりの素材屋があると聞きましたので暫く歩けば……、ほらあの様に。」


 大量の福袋(ゴミアイテム)を渡してニッコニコの『化け狐』陽炎と騙されたことに気づいていないプレイヤーがいた。

 

 流石に哀れ、だが哀れとはいえ騙される方が悪いのが道理。

 特に陽炎はそう言う行動を主にしている、故に情報収集をせずに騙される奴が悪い。

 だが根っこは比較的善良な村正としては、あまり好きな展開でもなく苦い顔となる。

 勿論、そんな顔で近づくものだから陽炎は鬱陶しい存在が来たとばかりに不機嫌な表情を露わにした。


「何でありんす? 村正殿といえども一銭も負けないでありんし?」

「いえ、今回用事があるのは私の方ですので。勿論、私のことは知っていますよね? 『化け狐』。」

「ッ!!!? 何でここに貴方が!? ック、『テレポート』!!」

「逃がしませんよ? 『バインドスネーク』。」


 陽炎が即座に出した札、ソレに魔力を流し使用した陽炎だったが直後にヴィヴィアンの拘束魔法が展開され体を縛り上げられる。

 そしてそのまま拘束している蛇が札を飲み込み魔術を無効化した。


 呆れた、と言うよりは阿呆を見るような目を向けるヴィヴィアン。

 ソレに対し猛犬のように顔を歪める陽炎。

 何となくだが二人の関係性を察せられる状態だ。


「店じまいでありんす!! テメェに売る物なんざ一つもないでありんし!!」

「ソレを許すとでも? 私の、ヴィヴィアンの影響力は知っているでしょう?」

「知ってるから店仕舞いでありんし!! テメェは大っ嫌いでりんす!! シッシッ!!」


 グルルルルル、と唸るように歯を剥く陽炎。

 見た目20代前半、下手をすれば10代後半(ティーンエイジャー)にも見える彼女がソレをすると本当に残念美女感が拭えない。

 

 とは言っても彼女の本性は割と広く知られており強気に交渉すればあっさり本性を表すので、この残念美女はDWO名物の一つと数えられている。

 同時に彼女が相当な守銭奴でありぼったくりであると言うのも有名だ。

 

「まぁまぁ、落ち着きやがれ。ほぅら、良い刀だぞー。」

「ック、ズルでありんし!! ハァハァ……、ジュルッ……。は、話だけは聞くでありんす。は、早く言うでありんし、刀を寄越すでありんす!!」

「ちょろいなこの狐。」

「所詮、金の前にプライドを捨てた獣ですから。」


 そして商売人と言うのは大概、生産者に弱い。


 そも、商売というのは需要と供給によって成立するのだ。

 需要というのは消費、消費というものは結局として自ずと発生するものであり態々他人が作り出すものではない。

 だが供給は違う、供給というものは生産者の行動によって行われるものであり商売人からすれば意図して入手しなければならない

 であれば、商売人にとって天敵となるのは生産者に他ならないのだ。

 特に村正が作り上げる刀は現状このゲームにおいて最高品質であり、逸品である。

 それが彼にとっての数打ち品でもそう称される代物なのだ、そんな彼が良い刀と称する代物。

 そんなモノならば守銭奴の陽炎にとっては当然、垂涎モノに決まっている。


「ここで話すのはやめておきましょうか、どうせ貴方のことです。『移動式店舗(ポケットストア)』を用意しているのでしょう?」

「……仕方ないでありんし、こっちでありんす。」


 嫌々、もしくは渋々。

 そんな様子で陽炎は表に出していた屋台の裏に招待する。

 屋台、もしくは出店。

 荷馬車を改造したように見えるその店舗の裏は当然何もなく、荷馬車の裏は荷馬車の裏でしかない。

 何もないところにつれて来られて不審がる村正、あまり関わりがないとはいえ村正も一端の商売人だ。

 『移動式店舗(ポケットストア)』、すなわち1センチ四方のキューブから構成されている10トン未満で特殊な刻印処理が施されている建造物を保管できるアイテム。

 だがその刻印処理や、そも『移動式店舗(ポケットストア)』の本体であるキューブの値段がふざけているほどに高価、他に個人では所持できず血盟(クラン)としてギルドに資金的援助をしなければ所有権を入手できないことから基本的に保持者が少ない。

 また名称どおり、店舗以外での使用は原則ギルドの規制で許可されないため使い勝手も悪い。

 そんなモノであるから通称、序盤のエンドコンテンツと呼ばれており商売人にとってはソレを持つことが目標という人間も多い。


「少し待つでありんしね、わちきの債務者(フレンド)に連絡を取るので。」

「(此奴……、金貸しもやってんのかよ……。)」

「(違法賭博を経営してますからね……、いえ未開の土地ですから違法というのはどうなんでしょうか?)」

「(最低だな、陽炎……。)」


 最低である。

 だが実際に真っ黒に染まっているグレーとはいえ、グレーはグレーなのだ。

 彼女は法を犯しているわけではないし、また債務者はいくら高利とはいえその契約を飲んだのは債務者自身なのだ。

 である以上、自業自得という他ない。


「では、転移するでありんし。魔力は貰えるでありんすか? くれるのならこの魔石に流して欲しいでありんし。」

「その程度ならば良いでしょう、最も座標さえ教えていっただければ私が魔術を展開したのですが……。」

「テメェ相手に教えられる訳が無いでありんす!! このイベントでのわちきの拠点でありんすよ!! 教えるか、バーカ!!!」

「……魔力を、流します。」


 冷ややかな、もしくは冷徹な目で陽炎を見下しつつヴィヴィアンは魔力を流す。

 MPに変換してその量はおおよそ2,000。

 ヴィヴィアンにとっては高等魔術を扱う時の通常量程度だったが、それだけの量を渡されるとは思っていなかったのか陽炎が持っていた魔石の貯蓄容量をこえ発熱し出した。

 

「アッ、熱ッ!? ど、どれだけ魔力を込めたでありんしか!?」

「あら、随分と質の悪い魔石を使っているようで?」

「わかってやったでありんしね、この女狐ェェェエエ。」

「何だこりゃ……? 此奴ら……。」


 地面に転がる魔石、ニヤニヤと悪女然とした笑みを浮かべ陽炎を見下すヴィヴィアン、そんなヴィヴィアンに噛み付くように睨みつける陽炎。

 そして警戒の意味がないと確信し、呆れたように見る村正。

 女3人よれば姦しいというが、二人でも喧しくあるのは間違いない。


「ああ、もう決闘でありんす!! 喧嘩でありんす!! わちきの狐火で炎上させてやるぅ!!」

「望むところです、骨の髄まで燃やし尽くしましょう。」


 だが此処まで来ると流石に問題だ。

 誰にとっての問題か? 村正にとっての問題だ。

 そもそも此処にいる理由はヴィヴィアンの我儘、もといイベント攻略の為であり貴重と言って差し支えない時間を溝に捨てるためではない。

 そのため、村正としては主義に反するが流石に口出しすることにした。

 

「火事と喧嘩は江戸の華とはよく言うが、ここは江戸でもねぇんでな? とっとと魔術を起動しやがれ。特にヴィヴィアン、手前は要らん手出しをすんな。」

「むぅ……。」

「けど……。」

「叩き切るぞ手前ら……、いつまでも儂が優しいと思うなよ?」


 若く青々しいとはいえ、やはり経験を重ねている職人。

 その目力からは強く、醸し出す雰囲気は非常に剣呑だ。

 ソレに手加減されていたとはいえ村正は『剣聖』柳生と打ち合えるほどに戦闘経験も豊富だ。

 そんな彼の威圧は、戦闘を。

 ソレも近接戦を主とせず、基本的に遠距離からの打ち合いが主となるヴィヴィアンや、そもそも戦闘行為を基本的に行わない陽炎をたじろがせるには十分だった。


「魔力は十分でしょう? 早く術式を展開なさい。」

「テメェは絶対許さないでありんす!! 『テレポート』!!」


 瞬間、空間がねじ曲がる感覚が発生する。

 位相の置換、座標の書き換え。

 ヴィヴィアンが用いるのは始発と終着点に穴を開け、つなぐ転移魔術とすればこれは物質そのものを置き換える魔術。

 どちらも転移魔術に変わりこそないものの、だからこそ大きな違いがある。


 その中でも最大なのは魔力消費。

 空間に穴を開けるヴィヴィアンの魔術はその性質から莫大な魔力を消費するが、位相の置換であるコレは世界を騙しているとはいえ入れ替えでしかなく物理的につながっているわけでは無い為消費する魔力は少ない。

 

「転移魔術、にしては簡素だな?」


 転移が終わり最初に飛び込んだ光景は、森の中に佇む一軒家だった。

 大きな看板に血盟『キツネ商会』のマークと名前が記載されており、そこが明らかに陽炎のポケットストアであることがわかる。

 だがそんな建築物よりも村正が気になったのは転移魔術が異様に簡素だったことだ。

 転移魔術はこの世界の中でも高等技術であり、ゲーム内時間が1ヶ月経過しある程度極めたプレイヤーが出てきた現在でもソレは変化しない。

 コレがNPC、しかも相当高位とされる魔術師であれば不思議はない。

 ソレこそ『万色の魔術師』リリム・シャーロットや『古き漆黒』グ・ルーズレイ、歴史的人物では『楽園の魔術師』マーリンや『妖精女王』◼️◼️◼️◼️◼️◼️・ル・フェなども該当する。

 だが今回の使用者は陽炎であり、魔術特化のヴィヴィアンですらない。

 しかも詠唱もないとなれば、転移先への興味より転移方法の興味が湧くと言うものだ。


「言わないでありんしよ? わちきの中でも常用は躊躇われるものでありんすし。」

「お凡そ、金銭を用いた対価魔法ですね。詳細な仕様は不明ですが彼女のジョブから察するに商業神への奉納を行うことで転移する術式を、もしくは本来は使えないスキルを一時的に使用できるようにしてもらうのではないでしょうか? 術式及びスキルは私も持っている空間魔法の『テレポート』と酷似しますので。」

「……残酷だな、才能って。」

「だからテメェは嫌いなんでありんしよ!!」


 一瞬で仕組みを看破された陽炎は激昂しながら、ついて来るように手で示す。

 ソレをみたヴィヴィアンは当然の権利のように威風堂々と、肩で風を切るように歩き村正はそんなヴィヴィアンを呆れた目で見つつ着いていく。

 コミュニケーションに難がありすぎるヴィヴィアン、その会話は本人としては意識していないのだろうが他人の神経を逆撫ですることに特化している。

 だからこそ、このような形で二人きりの会話を行うとすぐに脱線するらしい。

 

(もう少し、何とかならんのかねぇ? ならんのだろうなぁ。)


 半ば諦観、つまり諦めを含んだため息を吐く。

 おそらくだが、己に絶対的な自信があるからこそこのような他人を馬鹿に。

 もしくは自分より下に見るような行動を行うのだろう。

 だがそんなことを考えても事態は発展しない、こうなれば気分的には進まないが最終手段を行うしかない。


(まぁ、最終手段と言っても儂が表立って会話するだけだがな。儂も会話は苦手だが……、まぁ多少はましだろう。此れがあの骨だったら……、いや言うても変わらんか。)


 流れで参加したクラン、そこに参加している人間が自分含め欠陥だらけであると確信しため息を吐く。

 そもそも会話できてるようでできてないネロ、他人の神経を逆撫でするヴィヴィアン、真面目ではあるがどこか抜けてるロッソ、自分の独特な世界を持っている黒狼、そして情熱ばかりの村正。

 

「やれやれ、何でこう……。逝かれている奴しか居ねぇのかねぇ?」

「文句ですか? 村正。」

「文句だよ、聞いての通り。とりあえずヴィヴィアン、手前はやりたいことだけ言ってくれ。手前に交渉を任せると碌なことにならねぇと思うんでな。」


 そう言って、村正はハァとため息を吐くと救世主を見たような顔をしている陽炎を見る。


「はぁぁああ……。」


 今度のため息は、しっかりと二人の耳にも届いた。

こう、このクランの人間って会話に難があり過ぎるんですよね。

村正でも口調が強めで喧嘩越しと取られるのにヴィヴィアンとかは明確に喧嘩を吹っ掛けてますから。

黒狼くんも場と状況を考えないですしネロに至っては会話が通じているのかどうか……。

本当に人間として欠陥のある人間しかいないな……。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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