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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online 間話『探求会』

 「で、あるか。」


 探求会、盟主。

 『インフォメーション教授』、ポリウコス。


 彼は、イベントに参加していない稀有なプレイヤーでいながら……。

 プレイヤーの中でも膨大な情報網を構築し、動かずして全てを見通す名探偵のような人物だ。


「ミ=ゴ……、確か古い文献では今のCRPG(クリエイトRPG)の原型となるTRPGの大元。クトゥルフ神話と呼ばれるモノに記載されていた生物だった筈だ。」


 頭を捻り、掲示板経由で与えられた情報から今回のイベントがどのようなものか? ソレを持ちうる知恵を使い読み解く。

 まさに緋色の研究、持ちうる知識は非常に多く此度のイベントを緋色の糸とするのならそこに絡まる余計な知識はカラフルな糸である。

 ソレらをゆっくりと解き、一本の長い緋色の糸を手繰り寄せる。

 それは『インフォメーション教授』ことポリウコスという老人が最も得意とすることだった。

 

「ふむ、ミ=ゴであれば確か……。おおやはり文献があったか、どれどれ……? 頭は渦巻いたような模様と、多数の触角がある。この頭の色を変える事で会話する。体組織は地球で言えば菌類に近いものであるが、地球の生物とは異なる物質で構成される為、見たり触る事はできても、化学的に適切な処置を施した写真でなければ、写真には写らない、か。なるほど……、続きを見るに相当厄介な種族のようだ。ふむ……、そうだな……。ニケ、こちらへ来たまえ。」

「なんでしょうか、ポリウコス教授。」


 ニケ、『探求会』の幹部とも言える女性プレイヤーの一人。

 『勝利の方程式』ニケ。


 彼女は戦争に関する歴史研究家にしてこのクランの戦闘指揮担当。

 そもそも戦闘が得意でない『探求会』のプレイヤーを統率しボス討伐すら行ったことがある二つ名持ちのプレイヤーだ。


「一応同格なのだから敬語は不要だといってるはずだが……、まぁいい。さて問題だ、今回のボスと思わしき存在はこの資料の生物らしい。どう思うかね?」

「……一読してみたところ奇異な能力が複数ありますね、場合によっては人体を乗っ取り内側から組織離反をおこせるのでは?」

「ああ、実際に行われたらしい。モルガン嬢曰く、プレイヤーに擬態するとのことだ。素人質問で悪いが、キミならどうするかね?」

「簡単ですね、1分毎に共有掲示板にランダムな文字列を配布し及び生存報告を一時間毎に行わせます。」


 一瞬の思考すら行わず用意されていた台本の内容を語るように告げられたソレにポリウコスはその有用性を考えた後ギルドに所属しているプレイヤーに一斉に布告を行う。

 一斉に、だがログを流さないように了承の返事が返ってくるとともに別の掲示板が作成されそこで生存報告が行われた。

 同意に、インフォ教授は適当な文字列を入力すると現在流れている別の掲示板を閲覧する。


「他人と会話する時ぐらい掲示板を見る癖をあらためてみてはどうでしょうか?」

「この悪癖ぐらい知っているだろう? ソレにキミ相手だから行っているのであり、この行動はキミに対する信頼の証と言っても過言ではない。」

「……よくはないですが見逃しましょう、で? 私を呼んだ理由はそれだけでしょうか?」

「『征服王』及び彼が率いる『王の軍(ヘタイロイ)』が動きだし、また各地に大規模な破壊痕が発生している。これをどう考えるかね?」


 その言葉を聞き、ニケは眉をあげインフォ教授を見る。

 インフォ教授はニケに視線を合わせず、掲示板の流れるログを見ていた。

 

 口を開こうとし、そしてとじたニケはゆっくり情報を吟味する。

 目の前の男? インフォ教授はそもそもこの件に関して真面目に思考していない。

 彼が真面目に思考していれば態々ニケに聞くはずがないのだ、何せ彼女の専門は戦術であり歴史であり間違っても政治ではないのだから。


「前提情報として幾つか聞きたいのですが、傭兵団『伯牙』の団長である『伯牙』のレオトールは未だ生存も死亡も確認されていませんね?」

「で、あるな。情報として集まっている内容では未だ『王の軍』からも追手を差し向けられている状態らしい。話を聞けば……、とはいえ三次情報ぐらいだがな? まぁ、内容によればヒュドラの毒を服役させたのちなんらかの特殊なスキルを発動、ソレと共に数キロに及ぶ破壊痕を作成しながら逃走した。この事案は我々がこの世界に到来した直後あたりに発生してると聞くしている……、おっと余計なことだったか?」

「いいえ、重要なことです。あなたも常々情報はすり合わせと更新が重要だと言っていたではないですか。」

「クックック、ソレもそうだな。」


 愚問だったか、と呟きながらゆっくりと視線をあげニケの言葉を待つ。

 インフォ教授が聞きたいのは戦術家として役割を与えられたニケが、少なくともそう自覚しているニケがどのような返答を返すかのみ。

 その内容は重要ではあるがさしたる興味は無い。


 だからこそ、彼女の答えは良くも悪くもインフォ教授を落胆させるものだった。


「順当に考えれば準備が整った、なんらかの秘策が完成したということでしょうか? 今把握している戦力は前述したレオトールの配下であった傭兵団『伯牙』の残党及び傭兵団『ズカルナイン』、傭兵団『賢者の叡智』傭兵団『獣の墓守』。どれもがこちら……、『聖剣神授騎士王国 グランド・アルビオン』の最高戦力である第一騎士団の戦力を上回っています。」

「既知の情報のみだな、そこからどう情報を組み立てるかね?」

「わかりません。いえ、わからないというよりは情報がなさすぎます。我々が把握しているのはせいぜいが主要とされる傭兵団……、もとい血盟の名前のみ。名が知られている人物も『伯牙』レオトールを除けば『征服王』イスカンダルや『賢者の叡智』のプトレマイオス、『ズカルナイン』副団長の『無貌の魔術師』へファイスティオンのみ!! はっきり申していつどう動いてもおかしく無いのです!! コホン、はっきり言いましょう。私には分かりません、少なくとも3W(When Whe)1H(re Who How)のほぼ全てが欠けている現状で出せる推測は妄想でしかない。」

「ふむ、だろうな。」


 はぁ、と息を吐き予想通りの答えを聞き届けたインフォ教授はニケを下がらせる。

 期待していないわけではない、いやインフォ教授にとって少なくともこの血盟に、盟約として『世界の探求を行い未知を存在させなくすること』を契約として行っている存在は全て期待の対象だ。

 だからこそ、万人が答えられる回答ではなく論理的道筋を用意しておきながら万人が出せない回答を求める。

 今回の場合は妄想であったとしても、それを説明することでありソレこそがインフォ教授の求めていた期待だ。


「……まぁ、とはいえだ。」


 だがニケの性格を考慮すればこの解答は当然の結露とも言えるだろう。

 確かに落胆はしたが全ての人物を同じ物差しで測るのは間違いでしかない。

 故に落胆と言ってもソレは本格的なものではなく、日常という不変に対する落胆でもある。


「ふむ、精神的な抑えが効かなくなり出してるのはやはり老化と関係があるのだろうか? ……いやこの話題はやめておこう、自認ほど不正確なものはない。ここで断定し、ソレを正解だと思うことほど愚かな話はあり得ないからな。」


 そう言いつつ、インベントリからクリスタルを取り出しメモを書き込むとそのままインベントリに収納する。

 記録結晶、俗にそう言われるもので元々教団が持っていた技術を『探求会』が交渉の末入手し改良したものだ。

 一定量(数値にするとおおよそ10MP)の魔力を特定の魔法陣で結晶化させることで情報を記録可能な結晶に変化させられる。

 中に刻まれた情報は長期間保存可能であり、膨大な文章を記録するのは難しいがそこまで情報が多量でなければずっと保管できる優れモノだ。


 そこに何かしら記録を入れたインフォ教授はそのまま、幾つかの掲示板を徘徊する。

 仲の良い知人からは掲示板狂と呼ばれるほどにこのゲームの掲示板に入り浸っているインフォ教授にとってこの行動は日常生活の一環でしかない。


「ふむ、なるほど。やはりステータスとスキル、スキルとアーツ、そしてアーツと技術は別々の演算が行われている可能性が高いな。」


 ただの独り言、だがその一言に込められた意味は酷く膨大だ。

 インフォ教授が見ていたのは『【悲報】俺氏、最高速度で剣聖に劣る【人間国宝には勝てない定期】』と言うスレッドだ。

 そこではスレ主である『豚忍』トン三郎が超高速戦闘を繰り広げてる動画と『剣聖』柳生が『妖刀工』千子村正と戦っている動画の二つが挙げられておりそこからさまざまな議論が交わされている。

 その大部分を占めるのは、豚忍を弄ぶ言葉だが本格的に研究されたコメントもあり何も考えられていない訳ではないと理解できる。


「AGI500のトン三郎がAGI200にも満たない柳生に敗北する、しかも純粋な速度で。確か、アチラ(現実世界)柳生の抜刀は音速にも到達しうると言う話だったな? 人体の神秘と言われた話だから覚えていたが……、可能性として考えられるのは……。」


 ブツブツと呟きながら動画を再生する。

 インフォ教授が把握している限り、この世界で観測された最速の事象はNPCによるムチの鞭打だ。

 その時に観測された速度は音速を超える、なぜなら音速を超えた時に発生した爆音が鳴り響いたからだ。

 

 映像で繰り広げられている戦闘をスロー再生で見比べながら、すぐに画面酔いを起こし近くの構成員に水を持ってくるようにお願いする。

 その移動速度は時速に変換すると、トン三郎はおおよそ60−90km/h。

 ソレに対し柳生はおおよそ、50−60km/h。

 一見大したことがないように思えるが、この速度で急カーブや急ターンを行なっているのだ。

 映像も追いかけるように動いている関係からスロー再生だとしても目で追えば一瞬で画面酔いを誘発させる。

 

「制御が難しいとはよく言ったモノだ、移動四輪と大差ない速度で戦うなど私には考えられん。」


 そう言って水を持ってきた構成員に礼を言い、水を飲みながらゆっくり思考に耽る。

 映像を解析しようかと考えはしたものの、あの程度に酔うのであれば再度みても結果は変わらない。

 そもそも画面酔いとは目からの情報が耳からの情報や体からの情報と違うことで脳が混乱し自律神経が乱れることによって生じるものであり、基本的には脳が原因だ。

 その脳をどうにか出来ない以上、たとえ同じものを見た所で再度ようのは変わりない。

 いや何度も見直して慣れればマシにはなるのだろうが、生憎とそこまでの情熱はインフォ教授になかった。


 目線を上げ探求会本部の様子を見る。

 一番奥に、全体を見渡せる形で設置されたインフォ教授の座席。

 そこから近くに名の知れた、もしくは非常に優秀な幹部級のプレイヤーやNPCの座席がありその奥には一般構成員の中でも解析などが得意なインドアな人物の座席がある。

 三大クラン、構成人数が最大である『キャメロット』や戦闘に特化し強さに応じた様々な補償を行うプレイヤークランの『黒獣傭兵団』にならぶ三つ目のクラン『探求会』。

 その構成人数はDWOのプレイヤーが盟主となるクランにおいて二位を誇る。

 だがそんな大規模クランの本部であるココだがプレイヤーの姿は少ない。

 何せ、今はイベント開催期間だ。

 ほとんどのプレイヤーはイベントエリアに存在し、ここに残っているのはクランを円滑に運用するために必要なプレイヤーと『探求会』に王国、及び血盟の盟約を受けその盟約を第三者として管理する世界統括盟約協定連合(冒険者ギルド)の一部職員やそこから派遣され探求会に入ったNPCしかいない。

 その中でこの映像を解析できそうな人物は……。

 

「仕方ない、『ワンコ探偵』君が帰って来た時に頼むとするか。戦闘も得意な彼ならきっとこの映像でステータスと技術に関することの考察を行ってくれるさ。」


 そうぼやきながら、己の無力を噛み締める。

 人間には総じて得手不得手があるようにインフォ教授にとって戦闘の解析などは管轄外だ。

 そういうものは得意な人物に任せるに限っており、特に緊急性がなければ殊更そうであるべき。

 少なくともインフォ教授はそう考えるため、そのスレッドにブックマークを付けてそのまま別のスレッドに切り替える。

 次のおスレッドはモフモフを愛でたいと言った趣旨でありそこには大量に可愛く愛いらしいモンスターや動物の記録が……。


「ッ!? 未確認モンスターー、だと!?」


 癒されようと思って開いたスレッドに存在していた未確認のモンスター。

 見ていなければ無視したものだが、見てしまったからにはそうも行かない。

 数多の論文を書いたことによって鍛えられたタイピング能力を駆使し、即座に独特なキャラ付けと共にスレッドに乱入する。

 スレッドの趣旨に関係ない要求を行う、こういうのはマナー違反として嫌われることも多々あるが『探求会』への情報提供はプレイヤーネームを明かせば幾つかの金銭や素材的支援を受けられ、場合によっては『聖剣神授騎士王国 グランド・アルビオン』の高位貴族へ顔繋ぎを行うことすらしてくれる。

 ソレに長々とスレッドを占領することもなく、もし長々と情報交換を行う必要があれば別スレをを立てるといった誠実な対応を行なっているため多少の無礼は見逃されている。

 

「見た目からはホーンラビットの亜種のようだが……、ツノの形状が剣にも見えるな? ソレに毛が全体的に金属質……、冒険者ギルドから貸してもらった魔物大全にはそんな魔物の記載がなかったはずだ……。画像から見てとれる植生から考えるに大森林を降った先……、北の方か? 興味深い。」


 この世界は魔力が存在していたりする関係で植生も面白いことになっており、薬草一つ取っても地域によって特色がでる。

 故に周囲の植物を見ればある程度の地理的場所を推測でき、インフォ教授は自分の知識からおおよその位置を割り出した。

 

 しばらくして獲得した詳細な情報とともに、冒険者ギルドに赴くためいくつか装備を差し替えるインフォ教授。

 部屋着としてスリーピーシープの毛皮を用いた灰と紫のセーターでは先方に迷惑がかかる、というかそんな服で行けばこちらの品位を損いかねない。

 故に相応しい、そして下に見られない程度に正装と思える厚手のコートを着たインフォ教授はそのままいくつか構成員に言伝を行うと冒険者ギルドに向かった。

探求会と世界観説明ですね。

クランやギルドに関する設定はあったのですが、ぶっちゃけ黒狼くんがⅫの難行しかやって来なかったため説明ができなかったという現状があります。

……本格的な世界観の説明はまだ出来ない(流石に主人公を無視して話せない)のでイベントが終わってから話しましょうか。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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