Deviance World Online ストーリー3『ミ=ゴ』
本編中で少し読みづらい描写が含まれます。
ご注意ください。
「助力は、必要でしょうか? 『妖刀工』、千子村正。」
その言葉に驚愕するよりも先に襲い掛かったのは、純粋な疑問符だった。
その声は、静かながらに重圧感のあるその声は。
間違いなくヴィヴィアンのモノ、だが彼女は本来ここにいるはずがない。
何故なら彼女は、森の中で過ごしているはずだから。
だがその思考を巡らすより先に、オークの攻撃が放たれる。
「『転身』!!? 糞が!! おい手前!! 何が目的だ!? ヴィヴィアン!!」
「人間とは万能に程遠い知恵の奴隷であったということだけですよ、最もこの言葉に大した意味はありませんが。」
「あぁ!? 糞が!! まぁいい!! 今は手伝え!! っ!? 『パリィ』!!」
視線を逸らせないどころか、思考を逸らせば次の瞬間には重圧な斬撃が飛んでくる状況下。
優勢とも劣勢ともつかない、その状況。
きっかけさえあれば何方にでも転ぶこの展開で、ヴィヴィアンの助力はなによりも有難い。
故に、その怪しさはさておき助力を求めるほかはない。
消去法、導き出された答えは決して正解ではないものの今この場にては最善。
その行動こそが、ここで勝利を手に入れる最大の選択。
「『黄金の黄昏』」
発生する事象は、黄金からなる黄昏。
杖から魔力が供給され、ヴィヴィアンは魔術によって発生する黄金衣を羽織る。
魔術師、もしくは魔女。
または、魔女にして神秘を紡ぐモノ。
吟遊詩人、記録する存在。
冷徹な目で事象を観測し、未知なる神秘を現実に書き起こす幻想の執筆者。
空想は彼女の手の内であり、古代の神秘は現代に蘇る。
すなわち、魔術の展開。
魔術とはパンドラの箱でああり宇宙である。
未知なる神秘を言語化したプログラムであり古代の化物が扱った回廊でもある。
もっと簡単に言えば、人類が願った事象の具現であり世界に認められた未知の法則。
つまり、意味不明なもの。
魔法も根本的には魔術であり、世界という機構が在来生物のためにショートカットキーを用意したに過ぎない。
まぁ、何が言いたいかというと……。
「『黄昏は夜、夜は宵闇、宵闇は深淵。』『深淵とは魔なるモノ、すなわち魔女の領域なり』」
絶対領域、もしくは黄金色の黄昏。
神々の週末を思わせる魔力は魔法陣を描き記し、まるで詩のごとく世界に投影する。
「『抜刀』、『白屍』!! ほうれ、受け取れ『言霊』!! 『白き屍は病魔の証、天災の証明、つまり手前は病魔に侵される。』『内側から食いて蝕め、白き病魔よ!!』」
ソレに対抗するよう、村正は言霊スキルによって放つ言葉を詠唱化する。
縛る魂は魔刀の魂、放つ言葉は効果の限定。
本来ならば切断という工程を要求する魔剣の効果を、ソレを概念の拡大解釈により相手の体内に直接放つ。
「『我が領域に、許可なく及ぶ。その大罪、命を以って償い給え。【蝕む黄夜】』、と。呪いが原動力でああるせいか、いささか攻撃の効きが悪いですね。物理攻撃ならばもっと効きが悪かったのでしょうか?」
「肉体に通常の攻撃は意味がねぇ、儂みたいに肉体を蝕んで無力化するか呪いを払うかの二択だ!!」
そう言いつつ、怪しく魔力を纏う刀で魔剣を弾きヴィヴィアンがはなった攻撃の辺りをつける。
まず間違いなく攻撃の種類はデバフ関係、撃ち合った時の力が明らかに落ちていることからそう断定した。
ではその種類は? そこまで考え書き出された魔術の文言を脳裏に浮かべる。
主とされた属性は闇と炎、だがあこの二つは概念としての補強であり効果に直接寄与するモノでないと判断。
そして魔術の効果は細かく書かれた魔術の文言が重要であり、村正が確認した範囲では「停滞、宵闇、黄金」の3文字を確認した。
そこからデバフ関係であると推測し、その考えは実際間違いではない。
「肉体の出力を制限しています、本来なら体内の血脈の循環を阻害し殺害するのですがそこまでの効果は望めません。」
「上等上等!! ここまで動きが変化するなら文句はねぇよ!!」
地面が抉られる程踏み込み、切り上げる様に魔剣を押し返す。
ヴィヴィアンはソレを見つつ、矢の魔術を詠唱無しで展開。
オークを中心とし、円周状に展開したまま一気に放ちオークの首に刺し固定する。
首に刺された矢はオークの動きを大きく阻害し、オークはソレによってただでさえ慢性な動きがより遅くなった。
ソレを見た村正はオークの無力化から魔剣の強奪に思考を変えて、今まさに振り回さんとする魔剣。
ソレを持っている手首を狙い、村正は刀を振った。
斬……ッ!!
ザクっと手首から切られたオークの手、瞬時に暴れていたオークの体躯は静かになる。
いや静かになったわけではない。
元々魔剣の効果で無理やり動かされていた死体が本来の状態へと戻っただけ。
首を落とした人間は動かなくなるように、血脈が尽きたミイラは朽ちるように。
本来のあるべき姿に戻っただけ、ソレを確認した村正はハッと息を吐くと疾ッ、と刀を振り血液を飛ばした村正は目の前の憎き理包丁にずかずかと近づくとサッと手に取った。
「魔剣ですか、いいモノですね。」
「舐めてんならやめとけ、儂だから持てるが本来なら沈静化してなお触れてるだけでMPが吸われる位の代物だ。」
「その程度なら問題ありません、私の杖は特別性ですから。」
「さっきみたいに活性化したら困るだろ? 触んのは辞めてくれ。」
そう言って、憎き理包丁に向かって腰に携えていた金槌を取ると殴りつける。
金属同士がぶつかり合う音、カーンと小気味置き響く音は清々しさを感じさせるモノでありヴィヴィアンは村正の行為に凡そのあたりをつける。
「邪念の排除ですか、しかしソレでは魔剣としての質が下がってしまうのでは?」
「魂さえ払わなければいい、そこらの鍛治士はソレもわからず適当に槌を振るってるから質が悪いと噂されんだがな。」
「……? 良い刀を作るのに魂が関係あるので?」
「詳しい因果関係は後でな? 儂も完全に理解している訳じゃねぇ。っと、んなこたぁどうでもいい。重要なのはヴィヴィアン、手前が何故ここにいるのかだ。」
「説明すると面倒なので省略できませんか?」
ヴィヴィアンが珍しく提案するかのように弱々しい声で村正にそう告げたが首を横に振る村正を見てそのお願いが叶わないことを悟る。
実際、村正たちを騙していた関係から説明が面倒臭いのは事実だが……。
その美しい貌を悩ましげに歪ませながらヴィヴィアンはことの顛末を語り始めた。
*ーーー*
さて、私がどういった立場でどんな二つ名を得ているか知っていますね? ですよね、安心しました。
ではまず私の目的及び、その達成手段。
そこから前述で用いる予定の能力、ソレとあなたたちを集めた理由を語ることにしましょう。
ん? あの3人には伝えなくてもいいのか? 今この場で言うのは偶然時間があったのと、貴方が私が何故ここにいるのかを疑問に思ったからです。
彼女らにはこのイベントが終わってから伝えるつもりですし、ね?
長くはなりますが、ご了承の程を……。いいからさっさと話せ? そうですね、街に向かいながら話しましょう。
どうせ、一度は寄らなければなりませんし。
さて、まずは私の目的ですが……。
基本的には何の裏もなく血盟『キャメロット』に痛手を与えること。
さらに踏み込めば、『騎士王』アルトリウスに聖剣を保有するにたりうる資格があるのかどうかを問う試練を与えることです。
私としては問答無用で聖剣を奪い去りたいのですが、それは契約に反するので泣く泣くこの様なややこしい手段に訴える事となりました。
これが私の目的です。
まぁ、過去に語りましたしね? まさか忘れてたなどとは言わせませんよ?
っと、話を本題に戻しましょう。
目的の次は手段です。
『キャメロット』相手に痛手を与える、もしくは『騎士王』の称号を預かった『最強のプレイヤー』であるアルトリウスに試練となるモノを用意する。
これは相当な難題です。
私としては毒を飲ませたり暗殺させたりする方が好きなのですが、目的が目的であり本心ではいくら破壊したいと望んでいてもその行為は契約……、いえグランドクエストを出した側の意志に反します。
正面から、正当な形での難題を。
そんなもの、こちらにとっても相当な難題です。
まぁ、手段は用意したんですけどね? 凄いでしょう? ……つれないですね、まぁいいでしょう。
私が考案した対『キャメロット』攻略案。
ソレは、かの円卓を内部から崩壊させキャメロットの地盤を壊しアルトリウスの権力としての絶対性が薄れたタイミングであの城へ超巨大軍事兵器を用いての圧殺を行うと言うモノ。
大味ではありますが、この世界でも物量作戦は有効であり、この方法を用いればキャメロットを半壊させられることは間違いないでしょう。
重要なのはアルトリウスという個人の撃破ではなく、彼の存在を失落の底に落としたいのです。
もう二度と、この世界に訪れられぬくらいに。 例え、どれほどの現地人の命を奪おうとも。
失礼、少々興奮してしまいました。
これが私の目的と手段です、ではここからはこの方法を成立させるために必要な能力です。
まず一つ目は、そもそもの数です。
母数と言い換えてもいいでしょう。
頭数がなければどれだけ私が優秀でも時間と手間が不要にかかりすぎます。
ですので、私は人間から精霊へと種族を変更しました。
容易いモノではなく、世界の理を読み解き本来ならば存在せぬ位相へ干渉し過去から託されていたモノを受け取った訳です。
これにより私は9の姿と名を持つ魔女となり、その能力の一つに多重に分身する能力を得ることとなりました。
え? ヴィヴィアンはその九つの名の中に含まれるのかって? まさか、含まれませんよ。
彼女の、もとい断絶した種族である精霊であり本来の『魔女』の称号を持つこの肉体の保持者の名前です。
そしてこの無理難題を課した……、いえ何でもありません。
無駄に脱線する癖は私の悪癖ですね。
さて、この九つの姿と名を持つことで私は9の能力を得ることができます。
そのうちの一つに劣化コピーを量産出来るものがあり、ソレにて人員は補助出来ます。
今回私が二人いたのもソレが原因ですね、少し別の能力ですが。
さて、ここまで言えば私一人で十分なのではないかと思いますよね? まぁ、実際にはそうは行きません。
そもそも私、近接戦闘が酷く苦手なのです。
それなのに装甲として起用可能なモンスターは殆ど全てが近接推奨ですよ!? ふざけているとは思いませんか!?
え? ふざけてない? ゲームとしては妥当だ? コホン、確かに取り乱しました。
まあ、そういう理由ですので貴方たちを招集しました。
イベント内で多少でも良いアイテムを入手できればそれで上々、もしイベント後も付き添っていただけるのであれば私からも助力を惜しみません。
そういうつもりで貴方たちにクラン契約を正式に結ぶ時に話したつもりなのですが……。
言葉足らずが過ぎる? ……私の悪癖ですね、以後気をつけるようにしましょう。
さて、漸く本題です。
彼方に置いていた私の分身体が殺害されました。
分割思考ではあったので、状況を完全には把握出来ていませんでしたが……。
詳しい話は前提を話してから。
大前提として我々プレイヤーは罠に嵌められました。
いえ、この言い方は正しくありません。
我々は想定が甘かった、もっと確と考えておくべきでした。
そもそもおかしいのです、あの結界然り、あの電撃銃然り。
此度の敵対存在が高度な化学文明を保有するのは目に見えてわかっていました、ですが私は。
私たちは考えてなどいなかったのです、あの存在は果たしてどこからやって来たのかを。
『キャメロット』の報告によればあの存在は金属筒に生きた状態の脳を保管する虫型生命体です。
そして現場から察するに余った肉体を加工し、我々のように擬態することも可能らしい。
これだけの高度な外科技術は我々現代人でも達成し得ません、そんな存在がこの星の、もしくはこの大陸の生命体であるはずがないのです。
ここまで考えていればわかる話でした、彼らの目的とこの魔法陣の役割は。
イベント開始、その時点で我々に与えられていたシナリオは変更不可能なモノだったのです。
ええ、その通り、正解です。
あの存在の、『探求会』曰くミ=ゴと呼称される存在の目的はこの星に仲間を呼ぶこと。
この星に一生命として根を張ることこそがあのモンスターの目的なのです。
その結論に辿り着いた私は、呑気に紅茶を飲ませていた分体を用いて森林の中心に佇んでいた建築物の探索を行おうとし。
殺されました。
詳細な情報は不明です、背後から暗殺系スキルを用いた一撃と予想していますが詳細は不明ですね。
ですがおそらくモニュメントは破壊されていません、なので黒狼とネロはあそこでリスポーンするでしょう。
あの建造物の探索は彼らに任せます、我々は別の役割を。
すなわち襲来しているミ=ゴへの対処、及び彼らの殲滅。
時間外労働となりますが、協力していただけますね?
ヴィヴィアンの語り口調で後半を進めてみましたがいかがでしょうか?
お試しでやってみましたが相当難しい、二度とやらんわ!!
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




