Deviance World Online ストーリー3『魔剣』
先手は村正、2メートルを超える巨躯のオークを相手に抜刀した刀は剛刀『阿修羅威』。
強靭な巨躯を以て振り下ろされた肉切り包丁を、下から掬い上げる様に弾く。
「所詮そんな程度かぁ!? 豚頭!!」
ブルルルルッッッッッツツツツ!!
下から力を込める村正、ジリジリと押し返される肉切包丁に脅威を覚えたオークはより一層力を込めた。
だが、その抵抗は村正の刀の勢いを弱めるだけ。
対抗するには余りにも弱い。
「『筋力増強Ⅰ』!!」
ブゥゥゥウウウウ!!!?
下から一気に膨れ上がった圧、それに気圧されるオーク。
だからこそ、より一層力を込める。
上から何百キロの力が込められ、村正を刀ごと両断しようとするその攻撃。
剣は触れ合っており、基本的に下段にある村正の方が不利だ。
だが、その村正の刀はオークの肉切り包丁を押し返している。
この摩訶不思議は、しかしてここに実在していた。
「まだ、力が足らねぇってところか。なら、底上げするまでだっ!!」
村正とて決して余裕があるわけでは無い、それどころか条件的に不利である以上余裕など無いに等しい。
だが、そんなモノは手段の豊富さで誤魔化せる。
キッルとの戦いの時には使わなかった、使えなかった手段。
今足りないのは突破力では無い、単純なステータスだ。
「破壊しろ!! 望むがままになぁ!! 『阿修羅威』!!」
ブッガァァァァァアアアアアア!!!!!
剛刀に特殊アーツのエフェクトが纏われる。
怨念、もしくは修練に見出す神聖さ。
そんなものを醸し出す白と黒の特殊なエフェクトは雷をなぞるかの様に村正の腕から全身に纏わりつき、そのままオークの肉切り包丁を大きく弾き返す。
剛刀『阿修羅威』
その刀は武人の刀。
修練の体現、努力への報い。
もしくは無念の権化、未達成の怨念。
執念が怨念となり、怨念が憧憬となり、憧憬が執念となる。
即ち、怨嗟の武器である。
フレーバーテキストより引用
その文言の通り、怨嗟を吐きながら村正を蝕み力を与える。
村正が見てきた憧憬と怨嗟を象徴するかの様に。
「『兵法・五輪』!! どうだ、此方の餓鬼が作り上げたアーツだ!! とくと見やがれ!!」
執念に体が蝕まれ、その精神を汚染する。
だが、そんな妄執などいざ知らず。
村正は玄信が作り上げたアーツを発動、そのままオークの手を狙う。
オークもその狙いに気付き、村正から半歩離れようと動く。
その動作は100キロを超える巨大に似つかわしくない素早いもの。
AGIが200を超えていると思わせるその速度、死の危機を目の前にしたことによるその回避行動。
あっけなく村正の刀は空を切る。
だがここまでは織り込み済み、そんな行動を予測していなければ柳生の攻撃を仮にでも避けることなど不可能に決まっている。
そもそも、このアーツである『兵法・五輪』は特殊なスキルエフェクトを発生させるもの。
つまるところ、結果と効果は違えど『極剣一閃』と同じタイプでしかない。
そこにスキルエフェクトが発生しているという状況こそが重要なのだ。
ブモォ!????
「『縮地』、『兵法・地踏』。」
後方へ飛び退いたオーク、その距離を詰めるため発動したスキル。
瞬間で目の前に現れた村正、オークからすれば転移したかのように見える速度。
その到達した時に発動したアーツは、単純な踏み込むだけのアーツ。
だが『兵法・五輪』が発動していなければ使えないアーツであり、そんなアーツがただの踏み込みであるはずがない。
右足で地面を捕らえ、大地の力を己が重量に加算し技の限りを及ぼす。
村正の戦闘能力は柳生やアルトリウス、ガウェイン、玄信などの一線級のプレイヤーに大きく劣るのは間違いない。
だが、それでもただの鍛治士にしては強すぎるその実力を発揮する。
振り抜いた刀、伸び切った腕を捻りながら刀から手を放し逆手に持つ。
現実にて、急所を切り裂くだけでは足りないその攻撃手段。
だがここは仮想であり、逸脱したもしくはもう一つの世界だ。
非現実は、もう一つの現実を以て補うのみ。
「ーーーーーー!! 『回転切り』」
片手剣スキル、そこに内包されるアクティブスキルの回転切り。
その効果は火力の微補正と、横から運動エネルギーを与えることで発生する180度の回転。
範囲の攻撃にはこれ以上のない攻撃ではあるものの片手剣を主として扱うプレイヤーからは後隙が大きく、その癖決め手にかけるロマン技と称されて居るソレ。
だが、武術を会得しアクティブスキルと肉体の駆動に違和感を感じさせないほど熟達した人間ならば話は変わる。
踏み込みの威力、『兵法・五輪』と『兵法・地踏』の二つのアーツによる運動エネルギーの収束。
剛刀『阿修羅威』の妄執と執念から齎される純粋な破壊力に、村正本人の技術。
全てが収束し、放たれたその回転切りは間違いなくオークの腹を抉り切る。
オークの回避行動は無駄に終わった、もとより村正相手にそんな行動ができるほど優秀な存在ではない。
本能のままに武器を振るい、恵体のままに暴虐を許されていたオークは技巧と修練によって倒されることとなった。
「此れにて一件落着……、ん?」
切り裂き、残心を行う村正。
そして刀に溢れた血を振り払いインベントリに入れていた懐紙にてサッと刀身を拭った村正、そこでようや悪違和感に気づく。
解体スキルを用いたわけでもないのに、未だ死体が消えていない。
違和感に顔を顰め、『阿修羅威』とは別の刀に手を添える村正。
先程は相当な警戒も行っていたが、根本的には狩でしかない。
脅威を感じるはずなんかない、故に単純な威力強化という突破力を担う『阿修羅威』を構えていたが今は違う。
「なるほど、魔剣の類だったか。こりゃあ、ちと下手を打ったか?」
感心、または感嘆の感情と共に改めて武器を鑑定する。
肉切包丁改め、正式名称:憎き理包丁『ミートクラッシャー』。
村正の鑑定レベルでも付属効果や詳細情報は弾かれるほどに強い怨念が篭った包丁。
妖刀が作成者の情熱によって魂が籠ってしまったものとすれば、魔剣は使用者やソレを受けた存在の負の感情を浴びせられて魂が作成されたもの。
似て非なるその武器は、やはり結果だけを見れば同じ代物であり。
そして村正にとって非常に都合のいい素材でもある。
「原型で欲しいところだが……、最悪両断程度は考えるか。」
徐々に、徐々に刀から黒色の呪いとなった魔力が滲みだしオークの体を蝕む。
もう遅い、今止めるにしても呪いによる汚染で先に村正が倒れてしまう。
ソレに、正面から粉砕できる自信があるのに何故、態々その変生を待たないのか? 何故、妖刀工である自分が魔剣風情に怯えねばならないのか?
自己に対する絶対的な自負、己が能力の果てに作成された成果物はこんな紛い物とは比較にならないという認識。
それが村正を強くたらしめる最大要因。
『妖刀工』千子村正という人間が、『妖刀工』である最大原因である。
「どうすっかねぇ? 魔剣つーものは常々厄介な代物というのは常説だが……、能力を見破らねば鼬ごっこの始まりでしかねぇ。」
抜く刀は決まった、まずは様子見で十分。
だがもし、様子見で死んで仕舞えば? その時はその時で十分だろう、もとより何度も復活する命に大した重みはない。
そんないかにも現代人らしい思考に苦笑しつつ、ギリギリ若者と言える脳味噌を回転させ突破口を測っていた。
呪いの種類によっては即死しかねない、別段即死しても問題はないがおそらくボス級でありかなり強い武器を収集する機会を逃したくはないのもまた本心。
ソレにヴィヴィアン……、彼女に呪いのまま渡してもいいだろう。
彼女が要求する類の武器には間違いない、それにあの魔女には村正は割と結構な頻度で迷惑をかけられているのだ。
ちょっとした意趣返しもいいだろうという想いがあったりもする。
なお勘違いしない方がいいが、こう見えて村正は20代中盤である。
口調が爺さんっぽいのは本人の癖だ。
BuuuuuuurrurururururrrrrrrraaaaAAAAAAA!!!!
そんなどうでも良い思考がひと段落した時、呪いに絡みつかれていたオークがその体躯を動かし『ミートクラッシャー』をつかむ。
いよいよ戦闘、ソレも本格的な。
油断を一瞬で切り捨て、居合の姿勢になり上目でオークを睨む村正。
初手で切り捨てるのが最高、初手で刀を切り離させるのが最善、初手でカウンターを食い即失するのは最悪。
スキル『咆哮』にスキル『威圧』、スキル『百人殺し』が混ざった咆哮を身に受けながらそんな思考を回す。
「行くぜ?」
誰に向ける宣言でもない、だが挑戦者となったことを自覚させられるその高揚に口から吐いて出たその覚悟。
発される吐息、熱が彼を包み込む。
燃える情熱が、炎であり炎が鉄を赤くするように情熱が体躯を熱する。
そして、その宣言と同時にオークは動き出した。
先ほどとは打って変わって疾走、そして捨て身の攻撃。
死人のような、いや誠に不死者のために些細な攻撃など無視したその行動。
ソレに対抗し、村正も『縮地』を用いて対抗した。
初手の速さは戦況につながる、遅れればそれだけで敗北の決め手となるだろう。
故にその行動を起こし、振るわれた互いの武装は拮抗した。
勝てないわけではない、純粋なパワーならスキルを用いられていない以上以前こちらが有利。
なのに、押し込めない。
拮抗しかしないというのはおかしい、純粋な脚力を上回るだけのパワーが村正にはあるはず。
進化という可能性もあるが進化を行えばステータスは大なり小なり低下する。
元から優っていた村正に押し負けれど拮抗する通りはない。
では何故? その疑問よりも先に、オークの拳が襲い掛かる。
視認からのバックステップ、バックステップからの拳に刀を振るう。
抜いた刀は、魔刀『白屍』。
怨念が宿った魔剣を砕き、ソレに幾許かの魔石と特殊な金属の錆鉄を混ぜ合わせたものを刀に直したもの。
分類としては刀ではなく太刀、しかも魔刀であり魔剣。
宿る力は純粋な呪いであれば他を凌ぐ。
で、あればだ。
発生する効果は、特殊アーツなしでもソレと同等のものになる。
「糞が、勘のいい彼奴め。」
生前より凶戦士じみた戦い方でいながら、その思考は何歩も先。
触れれば相手を白骸化させる魔刀ながら、その効果を察したオークは直前でその凶刃を逃れる。
そのまま振り下ろされた憎き理包丁、その攻撃には黒い魔力エフェクトが纏っており見るからにやばい存在であると感じさせるモノ。
ソレから即座に逃れ、刀を納刀スキルを用いて収納する。
『白屍』の効果は、相手の白骸化。
生者であれ死者であれ火葬後の骨のようにする魔剣であり、元々はとある村で火葬がわりに用いられた儀礼用の魔剣。
だが、その武器の呪いの強さに惹かれたボス級モンスターがソレを食したことによりボス化しそして村正に倒された。
その報酬としての魔剣を打ち直した結果がこれであり、幾重にわたって魂と肉体を属していた魔剣の呪いは半ば絶対的な強さを誇る。
Buuuuu………!!
「そんなに怖いか? こいつがよ。」
勿論デメリットなしで振るえる物などではない、発される威圧は冷気であり生者が掴めば死を予感させ死者が使えば消失という恐怖を呼び起こさせる
相手を斬れば心の臓を掴まれたような感覚に襲われ、第二の創造者であり相当気に入られている村正ですら内臓を触られているような恐怖からは逃げられない。
そんな刀である以上、もう死者であるオークも恐怖を覚えるというの当然の話だろう。
目を血走らせ、刻一刻冷たくなるその体躯を動かし村正を攻めるオーク。
口からこぼれるその威勢はいくつものスキルと共に焦りと恐怖を覚えさせるもの。
ソレらを『白屍』から『阿修羅威』に持ち替えた村正が捌く。
受けながら尋ねた挑発に真横からの一撃で答え、一気に責め立てるオークに焦りを醸し出しながら腹に剣を当て捌き。
だが一切の怯みがない事を感じてため息を吐く。
大方予想通り、オークは自発的に動いているのではなく魔剣に動かされている。
である以上、肉体は動かないレベルの損傷が無ければ目の前のオークは攻めることを優先するだろう。
血脈の通ったがないくせに、血脈が流れていた時より満足に考える姿は嘲笑モノだ。
だが嘲笑えば、次に飛ぶのはこの首に違いない。
「っ!! 『パリィ』!!」
BouuuuuuuuUUUUU!!!
スキルで殴るオークに対してスキルで反撃を行う村正。
スキルの反撃に技術を加える村正と、受けた攻撃に対して対して気を払わずに攻撃を続行するオーク。
インベントリから取り出した刀を掴み、独特な魔術を使う村正に対し。
己の体に現れた謎の刻印から発せられた魔力により発生した黒雷を纏うオーク。
互いに扱う魔術が衝突し、霧散しながらまた衝突する。
一見すれば村正有利だが、謎に強化されたオークの脚力の理由は依然不明。
ソレに与えた攻撃は時間経過で回復している、これも確認されているスキルである『自然回復』であり攻略難易度を上昇させている要因でもある。
「『阿修羅威』!! 『筋力強化Ⅰ』っ!? か、『空蝉』!?」
基礎の強化、特殊アーツによって己の肉体を大幅に強化した村正。
しかし、その言葉を吐く隙をつかれて憎き理包丁が凪がれる。
回避スキルを巧みに扱い、咄嗟に避けたはいい物の折角詰めた間合いがまた開く。
一進一退、単純な破壊力で退けてくるその攻撃を受けるのは不可能でありソレを見破って攻撃してくるオークは非常にいやらしい。
突破するにしてもその時間を稼ぐ必要があり、その時間は簡単には許されないもの。
焦りから背中に汗が垂れる感触を覚えた村正の耳に届いたのは、覚えのある女性の声だった。
「助力は、必要でしょうか? 『妖刀工』、千子村正。」
さーて、オーク戦が長引いてるぞー?
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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