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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『【剣聖】柳生』

 【剣聖】柳生、彼女の強さは驚異的だ。

 30世紀半ば、現代にしては珍しく彼女は地球上でその生命を受けた。

 生誕した時、彼女は剣道に触れた。

 科学の発展による古文化の衰退、宗教すらその栄華をすぎ収束に至ろうとするその時に彼女は廃れた剣道と言うモノを彼女は知ることとなったのだ。

 単純な剣技はもちろん、その抜刀速度や切断能力は31世紀のコンピューターですら観測できても模倣は不可能とされるほどに最上級であり、その神速の抜刀は人体が観測できる200fpsでは知覚を許さない。

 その領域に至った彼女は30世紀において『人間国宝』と認められ31世紀の現在、齢83歳にしながらもその驚異的な能力と様々な経歴から現実世界にて生きる伝説と呼ばれている。

 そんな彼女がこのゲームにて与えられた二つ名は『剣聖』。

 剣の頂点、頂に君臨すると言う意味で送られた二つ名だ。


「って、言うのが私の理解なのだけど……。え、本当にお酒をかけて戦ってる!? 適当な冗談かと思ってたわよ!?」

「はんっ!! 経歴だけ見ればそれは物の怪の類だが実態はただの老体よ!! 糞っ!! あー、あのばーさんに雇われてなきゃ刀の一つでも突き立てるところだがな!! 糞が!!」

「ま、まぁ落ち着いてください。」


 謎に不機嫌な村正を宥めつつ玄信は今まさに戦闘を行っている柳生の視線を向けるため、玄信は溜息を吐く。

 玄信は、かの剣聖の現実世界での弟子に当たり二刀流を扱う青年の剣士だ。

 その実力は非常に高く、柳生からは第二の剣聖になれると太鼓判を押されるほど。

 実際、その剣術の腕前は非常に高く二つ名持ちの中でも戦闘能力は非常に高い。

 彼、いや彼らはゲームの本リリースからのプレイヤーだがその実力はβ版の時からトッププレイヤーとして君臨し続けたアルトリウスらに匹敵、もしくは追い越しているだろう。

 勿論、アルトリウスが保有する『聖剣』や下部組織なども含めた影響力などを加味すればそんな簡単な話ではないが……。


「おーおー、やってらぁ。というか良くやりやがるな? あの相手。ばーさんの剣速を一応は見えてやがる、抜刀の時が最速だがそれ以外でもなかなかの速度の筈だが……。」

「あ、アレ豚忍よ!? 良くトッププレイヤーの中でも屈指のエンジョイ勢があの『剣聖』と戦えてるわ!? プレイヤー最速の異名は伊達じゃないようね?」

「彼も相当強いですね、後で是非とも一線交えたい……。」


 そんなことを言いつつ野次を飛ばす3人、他にも観客は沢山いてその歓声は建物を揺らしている。

 会場全体がが熱狂し、野次が飛び合い賭け事が行われ手に汗握りながら血眼で勝負の行方を見ているのだ。

 

「拙者に酒を寄越すでござるよ!! 『【名月】火焼』は拙者のものだァァァアアア!!!!! 『転身』!!」

「フン!! あの鍛治士と女好きの弟子に飲ませるって決まっているさね!! そう簡単にはやれないよ!!」

「あの糞婆!? 儂に飲ませる気かよ!?」

「アルコール度数87%の代物を!? 師匠ふざけすぎてません!? 俺酒苦手なんですけど!?」


 驚愕の真実に体を震わせ、全力で『豚忍』トン三郎を応援する二人。

 そんな二人を呆れながら見つつ、ロッソは多少空いている座席に座る。

 試合は佳境を越えたようで、トン三郎の攻撃が精彩を欠き始めていた。

 それに対し、柳生の剣術は見事に美しく一切の疲労を見せない。

 アバターは20歳ごろの彼女のモノの様だが齢83の老人が入っているとは思えない程に元気な彼女の剣戟はますます勢いを増し、未だ青年であろうトン三郎を追い詰めていた。


 結果は見えきっている。

 だから彼女は椅子に座り、長く歩いたという精神的疲労を癒すために座ったのだが……。


「隣、座ってもよろしいでありんすか?」

「ゲェ……、なんでアンタがここにいるのよ。この嘘吐きキツネ、私の魔道具を買い叩いたのは覚えてるからね!!」

「まぁまぁ、過去の事は水に流すでありんし。それに、わちきのお陰で有名になったんでありんすよ?」

「悪名の方でね!! 絶対に許さないから!!」


 そう言い捨てると、ロッソはインベントリから取り出したサンドウィッチを頬張り始める。

 まぁ、語るまでもない。

 横に座ったのは『化け狐』陽炎だ。

 彼女はロッソがサンドウィッチを頬張っているのを見つつ、油揚を食べ始め……。


「ちょっと待ちなさい、なんで油揚げを素手で掴んでいるのかしら?」

「はむ……、もぐもぐ……。わちきの食べ方に問題でも? はむ……。」

「……何枚ストックしてるのよ……。と言うか油揚げって結構、値が張ってなかったかしら?」

「ワンセット一万でありんしね。わちきが買い占めているからこれほど高いでありんしが。はむ……、もぐもぐ……。」


 最低な汚物を見る目で陽炎を見ながらロッソはサンドウィッチをさらに頬張る。

 そして耳に届く、一際大きな歓声と直後にどよめく声を聞きながら次の展開を予想した。


「結果に納得いかない二人が乱入したってところかしら?」

「お? レートが上がってきたでありんし、ふむはむ……。二人に8倍ってところでありんしか、低いでありんしね。」

「8倍で低いって相当ね……、さっきでどれぐらいなの?」

「さっきで13でありんす、元締めはわちきでありんしが……。掛けるでありんすか?」


 首を降って拒否し、再度サンドウィッチを頬張る。

 見えすいた賭けに賭博する金はない、そう言わんばかりに視線を逸らすとロッソはステータスに現れているインベントリのアイテムを確認した。

 目の前の売人は安く買い叩こうとする癖はあるが金を払わせるだけのメリットを示せばそれだけの金を払う。

 それでも交渉を怠れば即座に買い叩かれるが……。


「いくつかポーションがあるけど買う?」

「即金で10000でありんす、内訳は?」

「部位欠損の回復が10、長期的な病気の回復も可能なのが10、即効毒が5、麻痺毒が8ってところかしら? 60万ね?」

「ッチ、流石に所持金では騙せないでありんしか、10でありんし。」


 子供じみた値段の交渉、だが互いは真剣だ。

 この世界の公用金銭、このゲームの沼に浸かっている人間にとってそれは現実での貨幣以上の価値を持つ。

 31世紀現在、全ての人民には一定以上の金銭の配布と生活の補償が行われている。

 2000年台の日本の貨幣価値に変換すると10万円、それが毎月労働をしなくとも手に入る金銭だ。

 全てがデータ化し、労働の必要性がひどく薄れた世界での貨幣など碌な意味は篭っていない。

 その程度に貨幣価値は貶められていた。

 それこそ、人によってはどれぐらい自分が金銭を保有しているのか把握していない人間もいるだろう。

 それこそ黒狼のように。


「は? 買い叩くき満々じゃない、五十万よ。」

「いやでありんす、15。」

「ふざけないで、45万。」

「はぁぁああああ? 20。」


 全力で不満を吐き出しつつ、本格的に不機嫌そうな声を上げる陽炎を意識しつつロッソは妥協点を探す。

 ロッソは村正と同じく、生産系プレイヤーでありその道のトッププレイヤーと言っても過言ではない。

 そんな彼女が得意とする分野がポーションや魔道具などある程度魔術が関わってくる分野だ。

 その効能は市販品の2倍以上と言われ、その価値は2倍どころでは済まない。

 示した品の数を考えれば50万でも払う人間は支払うだろう。

 だが、陽炎はそれでも納得いかないのかもっと値下げ交渉を行っていた。


「40万、これ以上は無理よ。」

「…………………………………いいでしょう、非常に不服でありんすが………………、35。」

「下げないって言ってるでしょ? いい加減にしなさい。」

「クッ!!!」


 そう言いつつ、ロッソは四本指をあげ漸く視線を合わせる。

 陽炎は口から告げていた悔しそうな声とは裏腹に存外余裕がありそうな顔でほくそ笑んでいた。


「ッチ、まぁいいわよ。40万でいいかしら?」

「まぁ、売値が100万超えそうでありんすから十分でなんし。」

「やっぱり50万に釣り上げようかしら……?」

「ふざけんなでなんし!! 早く渡すでありんす!!」


 バンバンバンと叩く様に急かしながら陽炎はロッソにアイテムを要求する。

 ロッソはやれやれと溜息を吐きながら先ほど告げた品をザザーっと取り出し、陽炎に渡した。

 それをホクホク顔で受け取りインベントリに保管すると、対価の貨幣が入った袋で渡す。


「……、アンタ最初からこのつもりだったわね?」

「なんのことでありんし? ()()用意してあっただけでありんすよ。」

「ッチ、便利だから利用してるけどもし騙せばどうなるかわかってるわよね?」

「おおきに〜」


 そう言って、彼女が立ち上がると同時に大きく歓声が聞こえる。

 決着が着いたようで、耳を澄ませば二人の絶望した声が聞こえてきた。

 見えていた答えだがコレは酷いと苦笑しながらロッソも立ち上がる、心傷気味の二人を慰めてやろうかとでも思っている様子だ。

 人混みの中、ロッソは二人に向かって歩く。

 人々の濁流によって平均女性並みの身長体重であるロッソは押し流されそうになるが、そこは気合で踏みとどまりシミュレーションゲームなどで稀に見る渋滞を再現したかのような混雑具合に辟易としながら二人に手を振り助けを求めた。


「助けてー!! 流されるー!!」

「っと、連れが流されてやがる。連れてくるからしばし待ちやがれ。」

「構わんさ、他者を助けるとはいい心掛けさね。」

「時間がかかるのが嫌なだけでねっ!! と。」


 人混みに早速入り込み数メートル先のロッソの手を掴む。

 そのまま、足を突っ張り一気にロッソを引き抜くと村正は彼女をお姫様抱っこした。

 それを受けて、玄信はまたかと言う顔をし柳生は目を細める。

 

「手前!? 重っ!? 糞!!」

「乙女に向かって重いなんて言うんじゃないわよ!!」

「……あの人、デリカシーさえ良ければ絶対に女殺しになると思うんですがどう思いますか? 師匠。」

「門下生が惚れているって話は聞くさね、全員一癖も二癖もある子だったけど。」


 とは言え、その身体能力は決して低くない。

 ゲーム的な身体能力を発揮し、一足で跳び上がり天井を軽く掴みつつ即座に人混みを脱した。

 具体的に言えば先ほどまで戦闘を行なっていた土の闘技場へ、降り立った。


「ほらよ、自分で立てるな?」

「その気遣いを他でもできなかったのかしら? 村正。」

「気遣いなんざ面倒ったらありゃしねぇ、降ろすぞ。」

「クッソ!! この鍛治士ドSだわ!?」


 夫婦漫才のような何かをしつつ、村正はインベントリを開くと布に包まれた刀を取り出す。

 先程の戦闘で多用していた『鈍』と言う刀だ。

 

「ほらよ、依頼の品だ。白鞘に入れてないのは……。」

「さっきまで確認していたから、だろう? 別に文句は言わないさ、しっかし銘が『鈍』とくるか。良い名前、とは言えないさね?」

「品が品だ、それに儂は見合った名前をつけたと自負するぞ?」

「……フン、代金は? 即金で1000万程度なら払えないこともないが……。まさかそんなぼったくるつもりはないさね?」


 そう言われて村正は紙を、領収書を丸めた物を投げて渡す。

 そこに書かれた代金は38万、彼女が出せると言った代金より大きく減ったものだった。

 だがその代金を見た彼女は即座にインベントリから魔銀貨ミスリンクスを3枚投げ渡した。


「お前さんの腕なら100万は取れるだろうに……、やれやれ。釣りはいらんよ、チップってやつさ。」

「毎度有り、あと勘違いすんじゃねぇぞ? 金に見合う代物しか儂は作ってねぇ、しかも相手は手前ときた。多少のおまけが人情だろうよ。」

「一体いくら負けたんだい? まさか10万とかじゃあるまい。」

「んにゃ、ざっと50万。そこいらの凡百なら100万は取ってたところだ。」


 そう言い捨てると、村正は再度刀を取り出す。

 今回は鈍のような鞘がない代物ではない、華美な装飾が施された逸品だ。

 それを片手で抜刀すると、村正はもう片方の手で装備していた金槌を手に取る。


「お試し切りにゃぁ、丁度いいだろう。さっきの戦いの続きだ、存分に試すがいいさ。」

「はん!! 試せる程度に強いのかね? ホラ、決闘申請だ。」

「上等上等、窮鼠猫を喰むってなぁ!! ほら、邪魔者は退いた退いた!!」


 決闘特有のフィールドが展開され、先程の戦いの再演が行われようとする。

 それを見た幾人の観客と、ロッソ。

 及び玄信は慌てて闘技場から退き、観客席に向かった。


「わちき、こんなの想定していないでありんすが? と言うか、ギャラリーが消えて賭けの旨味が……。」

「知らないわよ、それより何か飲み物ない?」

「水一杯で1000でありんす、それで良ければ。」

「ぼったくりにも程があるでしょうに……、馬鹿なの?」


 呆れたように半眼で陽炎を睨んだロッソは、溜息を吐くと決闘のフィールドが広がり切り今にも戦いを始めようとする二人を見た。

 村正はいつもの和装から片肩を出し、各種の武装を装備している。

 死の商人、鍛治士にして武器商人である村正の持つメイン武器は金槌などの鍛治道具及び彼が作り上げてきた刀の数々。

 本人曰く戦闘は不得手だが、その実力は近接先頭に絞ればあの5人の中でトップに君臨する。


「隣、いいですか?」

「貴方もここなの? 別にいいけど。」

「わちきの横に座るでありんすか? 1000Gでありんす、払うでありんす!!」

「生憎今は持ち合わせがないので、解説で手を売っていただきたく?」


 和かに笑い、自然な動作で陽炎の横に座った玄信はそれだけ言うと真剣な目で二人を見つめた。

 先程までのおちゃらけた雰囲気はない、一武芸者として然りと眼を開き二人を見ていた。


(その雰囲気のままなら存分にモテそうなのにね……、いやこっちが素でアッチは作ってるのかしら?)


 ロッソはそんな感想を持ちつつ、彼から視線を逸らし闘技場に立っている二人を見る。

 抜刀し、独特な構えを取る村正に対し柳生は納刀したまま神速の抜刀を放つ体勢に入っていた。

 何度も何度も映像で、VRCで見た世界最速の抜刀術。

 肉体改造無し、ただの人間が行き着いた技術の域。

 

「……始まります。」


 神域に至った達人、その雰囲気に気圧されたロッソとは反対に至って冷静に玄信は開始のタイミングを測っていた。

 彼が言の葉を紡ぎ、手から汗がじわりと滲み出す。

 それを知覚する直前に二人の刀は、ぶつかり合った。

神速の剣士っていいよね!!


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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