Deviance World Online ストーリー3『ドゥムス・アウレア』
ネロが剣を突き刺し、極大の魔法陣が展開される。
輝くその魔法陣は黄金色であり、ソレは三重に分かれながら回転を始めた。
「『夜の帳』『極星は落ち』」
詠唱が開始される、輝く黄金色の魔力が黄金の鱗粉を振り撒き彼女の極大魔術が開かれ一つの建造物を形作る。
麗しき絶頂、耀き黄金、世紀の収束、終末の獣。
ネロが、『黄金童女』ネロ・クラウディア・アルフェ・トロリウス・ビズ・ガンゲウス・カエスル・オクタビアが、666を関するバビロンの大淫婦が。
そして、誰にも止められない燃え上がるような黄金色の激情を持っている彼女が開く、最高峰の魔術。
否、魔術ですらない。
魔術の皮被った境界の降臨、超自然的でいながらされど人の手で届く極限の究極。
ソレをみたモルガンは酷く興奮し、ロッソはその異常性に畏れ慄く。
理屈も理論も、魔術としての常識が通用しない。
魔術とは元来、数式である。
緻密な数の連なり、0と1で全てを示せる単純でいながら複雑な機構。
無限に続く、ただ一つが魔術でありその理論は全て結果から過程を導けるモノ。
「『洛陽に喝采は消え』『暗く、昏く、闇く』」
大きく魔法陣が回転し唸りを上げる。
黄金色は周囲に振りまかれ、幻想の劇場はその形を心象から現実に下ろす。
極星が如き輝きの中心、泥臭く必死に戦う2人と魔術に見惚れる2人を見ながら狂ったように自分に酔っている彼女は文言を綴る。
ソレは狂気だ、余人には理解できない狂気だ。
黄金色に輝く劇場で朱と金の装束を纏い、黄金色の燃え上がる情熱を吐露する。
村正ならばその情熱を観れるだろう、だがソレ以外では駄目だ。
その情熱はあまりにも眩しく、ソレ以外の他者では目を焼かれてしまう。
「『演者は独り』『雲雀は鳴き』」
黄金色は収束し、幻想が現実に開かれた。
空間が断裂するように、現実に何かがこぼれ落ちるように。
もしくは、黄金色が物理的に変化するように。
現実が塗り替えられ、この森林にそぐわぬ古ローマ式建築物が。
黄金の劇場としか例えられぬソレが。
夜の帷は開かれた、朝の雲雀は泣き始めた。
暮れを表す明星は転じて夜明けを示し、ただ1人の演者は舞台に立つ。
「『開け、【黄金の劇場】よ!!』」
今、ここにネロの終末、ネロの心象、ネロの夢幻。
すなわち彼女の、そして観客の燃え上がる様な激情。
その激情を共有し、ソレを糧とし活力となす。
DWO、そこで異邦人と称される存在の中でも未だ1人しか扱えない理論なき魔術の極地。
心象世界『黄金の劇場』が展開されたのだ。
「えぇ、ええ!! 素晴らしい!! 最高です!! 記録でしか確認できなかった魔術の最奥、神秘の具現!! この世とは異なる境界の現実化!! すなわち、個人の心象を一つの小世界とし、この大世界と呼応させ己が心の在り方を現実とする!! 仮想の仮想、現実の否定!! 人類の収束点にして、使用者の精神を殺す魔術!! 心象世界!! もしやとは思っていましたがこれがソレですか!! 素晴らしい、ひどく素晴らしい!! 讃えなさい!! 感嘆しなさい!! これこそが、叡智では辿り着けぬはるか神秘の収束点なのですから!!」
非常に喧しいヴィヴィアンを半目で見つつ、ロッソは形作られた黄金の劇場を観察する。
見た目は完全にローマ風建築の劇場でしかない、だが肌で感じるそれはただ戦いの舞台が変更されただけでないのを予感させた。
いや、実際に舞台の変化以外も発生している。
「ちっ!!! スキルの使用は控えやがれ!! この空間? この魔術の発生しているうちは、儂等じゃ制御できないものが作られる!!」
「俺を切った後に言うんじゃねぇよ!? クッソ!! 力加減が難しすぎる!? なんの魔術だよコレ!!」
村正が刀を抜いた瞬間、意図せずして衝撃波が走り、黒狼が様子見とばかりに『ダークバレット』を使おうとした瞬間巨大な暗黒球が形成される。
過剰すぎる、1+1=10や20となっている。
ただの攻撃に入る動作で、コラテラルダメージが発生し黒狼は命の危機に晒された。
ヴィヴィアンは未だ何やら興奮しているようで、魔術を使う様子はないがもし発動すればどうなるか……。
まぁ、そんな狂人どもはどうでも良い。
重要なのは、この現象が発生したということだ。
「……!? おい手前ら!! 気をつけやがれ!! 精神的状態異常がバフで発生してやがる!? なんだ? このバフは……!!」
「こ、高揚? もしかして……、ネロ!! あなたはヴィヴィアンに何をしたの!?」
「余は何もしておらん!! と言うか気色悪い!! なんだあの人は!?」
「……(アレを素でやってるって言うのが一番怖いんだが?)」
割と全力でヴィヴィアンに恐怖するネロ、そして呆れた3人は一瞬目の前の敵の存在を忘れた。
一瞬の閃光、パフっという気の抜けた発砲音、そして雷速で迫る攻撃。
ソレは性格無比にネロを捉え……、無効化された。
無効化、いやその言葉は正確では無い。
純粋に、ソレこそ無効化するまでもないほどに攻撃力が低下していたのだ。
ソレを見た3人は現状を冷静に分析し始め、キッルは驚愕のあまり声を漏らす。
「なぜだ……、なぜ効かない!? なぜなぜんなゼナぜ!!? おかしい、我々の技術力は普遍のハズ!! 未開の大地だろうと非タンパク質から構成される生物にも通用するはずなのだ!? なぜだ!? この権能はんだ!? お前たちは何をしている!?」
(私たちは大幅強化され、相手は大幅に弱体化しているようね。外敵を排除し、味方を強化する単純な効果? これが彼女の心象なの?)
(儂の刀の概念が昇華されてる臭いな、魔術にゃぁ精通してねぇが……。この現状、どう見るべきだ? なぜ彼女はこんなおおそれたことができる? やはり、あのフランベルジュが関係してやがんのか? くっそ!! こういうのは儂じゃなく探求会の仕事だろうが!! 野生の化け物を放置してんじゃねぇよ!!)
(……ステータスの強化だったらこれが収束した時に俺の全身がボキボキに折れてそう。あー、怖い怖い。)
三者三様と言うか1人だけ呑気な感想というか……。
そんな感想を内心で思いつつ、3人は武装を展開する。
村正は名刀、妖刀、宝刀をかきわけ酷く数少ない付属効果のない刀を取り出す。
乗算か足し算か掛け算か、バフの性質は不明だが村正が先程まで扱っていた『鈍』と言う刀は抜刀しただけでその概念が拡大し本来ならば斬撃属性となる攻撃が打撃属性となる程度の効果の代物が衝撃波を放ったのだ。
この刀、『鈍』は依頼品であり、今回扱っているのはその様斬でもある。
故に手を抜いた代物ではないため、その完成度は高いがソレでも村正が心血を注いで作り上げた一級品には遠く及ばない。
ソレなのにこの結果を生み出しているのだ。
もし、全力の品を。
それこそ通常時ですらあまりにも危険なため封印している代物を紐解けばどうなるのか……。
「嗚呼、くっそやってみたいと思うのは儂が刀に命を捧げてるからか?」
「さっさと攻撃して? 痛くないとはいえ、バイオ装甲はあいかあらず強いし……、なんかヤバそうな武器取り出した、シィッッツツツ!!!」
黒い棒の様なもので殴りつけながら、電気銃を発砲してくるキッルに黒狼は槍剣杖で対抗する。
一眼見てわかる程度に黒狼が優勢だ、先程までの戦いが熾烈を極めたというのならば今は児戯でしかない。
4人が必死となっても有効な攻撃が入らなかったそのバイオ装甲は、黒狼のスキルで全て剥がされ潰される。
「今の私は気分がいい、退きなさい黒狼。私が対応します、ええ。」
「んじゃ、一思いにどうぞ。」
そうつげ、未だ狂乱の中にいるキッルに向け魔術を放つ。
展開されたのは黒狼が扱うのと同じ程度の最小限の術式。
手早く数文字で描かれた彼女が普段扱う芸術品とは違う別物の児戯。
だがそこから放たれた魔術は、周囲を一瞬で凍り付かせた。
「魔力を1000ほど入れてみましたが予想外です、素晴らしい!! 単純な威力比較で10倍は硬いでしょう。」
「アンタねぇ……、1000って私の全MPの半分なんだけど? 1000程度って軽々しく言わないでくれるかしら?」
「おいおい、ソレを言い出したら俺なんて200ないんだが?」
「余は500程度だぞ!!」
なんの自慢か? と呆れる村正は、取り出した刀を仕舞い劇場の中で胡座を描く。
そして、インベントリから取り出した食用アイテムである干し肉を齧りつつ凍りついているキッルを眺めた。
思考が回る、様々な可能性が考慮される。
おそらく、この違和感を感じれているのは村正だけだろう。
なぜ、NPCがプレイヤーの肉体を乗っ取れているのか?
単純な話だ、だからこそ難解でもある。
これを問題提起すれば、求める答えはすぐ返って来るだろう。
だがソレでは、だめなのだ。
「魔術理論じゃねぇ、いやこのゲームシステムですらねぇ。一体全体、このゲームシステムはどうやってできてやがる?」
眉間に皺をよせ、徐々に消えつつある黄金の劇場を見る。
ネロが心象世界を解除したのだ。
村正は溜息を吐き、一本だけ刀を取り出す。
先ほどまで使っていた『鈍』、ソレに汚れが無いかを確認し軽く布で拭くと、こう呟いた。
「依頼の品は十分だったし、いい加減柳生のばーさんに渡すか。儂、あの人苦手なんだがなぁ……。」
ボソボソ呟きながらポリゴン片となりゆくキッルと、そしてわちゃわちゃと騒いで居る4人を見る。
そして溜息を吐きながら村正はボソリと告げた。
うるさいのは嫌いでは無い、会話に加わるか一瞬悩んだ後思考を放棄し村正は文句を告げる。
「女3人集りゃ喧しいが、男が混ざってもうるせぇのには変わりねぇな。」
皮肉まじりにそう告げると、村正はその馬鹿らしい笑い会話に加わった。
未だ、ここは敵の腹。
されどその事実を忘却して……。
*ーーー*
「サー・アルトリウス。サー・ガウェインとサー・ランスロットと共に謎の生命体の撃退に成功した。」
「そうかい、ありがとう。やっぱり強かったかい?」
「当然だ、我々3人だからこそ問題なかったとはいえ……。ああ、第一ポイントは本当に問題ないのか?」
「安心してくれ、モルガンが対応しているらしい。先程討伐成功の旨が知らされたしね。」
そう言いつつ、『騎士王』アルトリウスは魔力を放出し襲いかかってきていたオーガを切り捨てた。
ソレをみながら退屈そうに欠伸をする『叛狂の騎士』モードレット。
この集団は、現在プレイヤーが結成している血盟『キャメロット』の幹部とも言い換えられる『十三の円卓の騎士』、そこに数えられる『騎士王』アルトリウス、『守護の騎士』ギャラハッド、『叛狂の騎士』モードレットがそこにいた。
とはいえ、ギャラハッドは今さっき合流したばかりだった様だが……。
「つーか、ここに私がいる意味あんの? 正直、オマエだけで十分だろ? アルトリウス。」
「信頼は嬉しいが、そうもいかないさ。僕だってまだまだ力及ばない身だ。君たちがいてくれるだけで100人力だよ。」
「フン!! 笑わせるな、オマエの強さは誰もが認めてんだよ。『剣聖』も『銃撃魔』も『鎧武者』も敵いっこねぇな!!」
そう笑とばすと、モードレットは剣をつかみそしてすぐに手放す。
隠れていたゴブリン、ソレを発見したモードレットだったが剣に手をかけた直後『騎士王』が持つ剣から放射された光によって射抜かれたからだ。
ソレを見てやや呆れたように肩を竦めるギャラハッドは、索敵系スキルに引っかかった反応を共有する。
「どうやらトレントがいるらしいな? サー・モードレット、先駆けは任せた。」
「あぁ? アルトリウスにやらせりゃいいじゃねーか。どーせ、強くもねぇ敵なんだろ?」
「そういう問題ではない、所詮は雑務とはいえサー・アルトリウスにさせるわけにはいかないだろう。」
「いや、別に僕は問題ないけど……。」
そう言いつつ、アルトリウスは剣を掲げ未だ遥か前方に存在するトレントを睨む。
一瞬の思考、だが望んでいた回答は即座に得られたのかアルトリウスは剣に溜められている魔力を剣に刻まれた術式の展開のために使用する。
「少し、退いててくれるかな? 味方まで殺す気はないからね。」
「おうよ!!」
「どうぞ、お好きに。」
トレントが君臨しその周囲には数多のモンスターがいる。
必然より織り成された、奇しくも黒狼たちと同じ状況。
だが、一つ決定的な違いがあるとするのなら……。
「『エクス」
かの騎士王、アルトリウスが持つ剣は余人では扱えぬ絶世の聖剣であるということ、ただ一点。
聖剣『エクスカリバー』、未だその意味をなさぬ準古代兵器の名を冠し正義を翳す正しき聖剣。
自動で生成され続ける魔力に、邪悪を許さぬ特殊な属性。
ソレら二つの単純な権能、そこから織りなすのは世界を包む月光。
「カリバー』!!!!!」
莫大な光量が極線を描き、ただ一つの絶世を描き造る。
放射時間はわずか10秒、刀身から放たれたのは目を眩ます極光そのもの。
木々を打ち破り、モンスターを殺し、その光は5人が苦戦したトレントと同程度、またはそれ以上のそのモンスターを消し飛ばした。
「ふぅ、全リソースの半分を使ったけど流石にやりすぎだったかな?」
「五千も使うことはないでしょう。……まぁ、やり過ぎぐらいでも問題はないのでしょうが……。」
「さっさと行こうぜ? どーせ自動回復するんだし!!」
そう言いつつ、3人は目的地に向かう。
目的地、つまりバイオ結界が張り巡らされている場所。
未だイベントは開始したばかり、時間にすれば3時間程度でしかない。
だが、史上最強と言われ血盟『キャメロット』はもう既に行動を起こしていた。
運営が想定していた枠組みを大きく踏み外して……。
「さぁ、行こうか。まだまだ先は長いけど早く行動するのが悪いわけじゃないだろう。」
そう言いながらアルトリウスは、聖剣を仕舞う。
まだまだイベントは、始まったばかりだ。
国労が苦戦した相手を遠距離攻撃で殺さないでくださいお願いします。
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』 の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!
また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
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