Deviance World Online ストーリー3『バイオ結界』
結界に到着した5人、そこで待ち受けていたのはキャメロットのプレイヤーだった。
「あ!! 他の人が来た様です!!」
「……何故? 貴方たちがここに? キャメロットには情報を渡していなかったはず……。」
「いや? 普通にガウェインは儂と共にここに来たぞ? 言ってなかったか?」
「……そう言う話は真っ先に言いなさい、しばしお待ちを。」
そう言うとヴィヴィアンは黒狼の腕を掴み木陰に隠れる。
呑気に木の葉っぱの数を数えてい黒狼は急に腕を引っ張られグワングワンと歪む視界から数秒、息を整え逃れるとヴィヴィアンに文句を言った。
「何をするんだよ!? あー、視界が歪む!!」
「すぐに変化の魔術を教えなさい、キャメロットの人間に私の顔が見られては厄介です。」
「……? まぁ、いいか。魔法陣はコレ、一回見るだけで大丈夫だろ? お前なら。」
「……ほぅ、これは凄い。認識の阻害に、感覚の麻痺、他にも難解な術式が織り込まれているのに要求される詠唱数はたったの1ですか……。これ、後で戴いても? あ、流石に駄目ですか……。」
研究者、もしくは探求者としての側面がヴィヴィアンにその言葉を言わせたが……、さすがの黒狼でも頂きモノをそう簡単に渡すはずがなかった。
少し残念そうに顔を伏せながらヴィヴィアンは魔法陣を目でコピーし、軽く手で書き上げる。
そして即座に魔術を展開ししばらく待つと不気味さを醸し出す女王ではなく、衣装こそ同じではあるがそこには貞淑な姫が1人降臨した。
「お前も女性ってわけか、外面は良くしたいんだな。」
「そのデリカシーのなさには感嘆しますね、黒狼。」
「おっと、心はガラスだぞ? と言うかどう誤魔化す気だ?」
「まぁ、いくつか言い訳を考えていますので。ご心配なく……。」
そう言い、ヴィヴィアンはいつも使用していいる杖をしまうと白色のトネリコの杖を取り出した。
そして着ている衣装も切り替える。
DWOの機能の一つとして戦闘や特殊行動以外での衣装替えは一瞬で行えるのだ。
その使用を使いヴィヴィアンは、黒い女王然とした衣装から白い無垢を表すかのような衣装へと変更した。
イメチェン、ではなく変装。
そして魔術を併用したその変装は黒狼の目から見ても完璧であった。
最大の問題は変装前の姿を1人に見られていることだろうか?
「さて、戻るとしましょう。」
「……ま、ヴィヴィアンがソレでいいならいっか。」
と、思考を放棄した黒狼はヴィヴィアンに連れられ再度4人の元に戻った。
木陰から現れ、キャメロットの人間と仲良く談笑する4人。
そこの会話に真っ先に加わったのはヴィヴィアンだった。
「すみません、ヴィヴィアンがリアルの都合で一時退出するらしく代わりに妹である私が来ました。ファタ、と申します。どうぞお見知り置きを……。」
「おう、よろしく。(変装したな? けど何故だ? 何故先ほどの姿を態々隠す必要がある?)」
「うむ!! よろしく!!(姉と妹では正反対の雰囲気!! むむ!! ライバルの予感!!)」
「どうも? まぁ、よろしく。(ファタ・モルガーナから取ったわけね、容姿まで変わっているのは黒狼の魔術かしら? 衣装は……、ああ。そういや祭典で着てた物ね、全くこの天才は二重の意味で変装する気はあるんでしょうけど騙すのは下手ね。)」
残る1人、つまりキャメロットの人間はどう返そうか少し戸惑いながら中々話し出せずにいる。
そんな彼に向き直り、ヴィヴィアン……。
いや、ファタは優しげに声をかける。
「キャメロットの方ですね? 姉から軽く話されたので知っています。」
「あ、はい。っと、どうやってここまで?」
「姉は彼にマーカーを持たせていましたので、ほら? 課金アイテムでマーカーさえあれば一度だけその人物のところに行けると言ったものがありますよね?」
「あー、はいはい。」
そう言いつつ、黒狼に話を合わせるよう睨みつつ和かな笑顔をそのままにする。
黒狼はやれやれと言ったように肩を竦めると、大人しく存在感を消した。
謎に仲が良い2人を半眼で見た村正は、生暖かい視線を半眼で向けつつキャメロットの人間に名前を尋ねた。
「え? 僕ですか? えぇと……、あ!! そうそう!! 僕の名前はキッルです!! どうぞよろしく!!」
その行動に黒狼たちは何かを思い出す、もしくは何かを調べたかのように感じた。
最も、何も気づかなかった人物もいる。
ファタとネロだ、特にファタはそのままキャメロットの人物と会話を続けている。
「(明らかに怪しいわね? 流石にゲームとはいえ自分の名前を忘れるかしら?)」
「(そこは……、ほら? 偽名とか? まさか、NPCが肉体を奪っている訳でもあるまいし。)」
「(天下のキャメロットがぁ? ありえねぇぞ? 別の目的があるに決まってらぁ。)」
「(……とりあえず警戒だけはしておきましょう、なんかきな臭いわ。)」
そう言って、ロッソは周囲を見渡そうとしファタの杖に嵌め込まれている宝玉に映った太陽の光の反射で目をやられる。
目を抑えて疼くまるロッソを何やってんだ? と言う目で見ながら村正も同様に周囲を見渡すが……、目ぼしいものは何も見つからなかったようだ。
だが、その不振げな様子を見た黒狼は奇妙な一点を発見する。
ファタやキッルに勘付かれないよう、忍び歩きながらその奇妙な一点に向かうとそこには金属でできた何かがあった。
「なんだこれ?」
「……へぇ、腰当てか。全身鎧の腰の辺りに着けるやつだ、キャメロットの連中が着てるやつにゃぁ着いてたはず。なんでここに落ちてんだか……、なぁ?」
「返す? 私は反対だけど。」
「隠しとこうぜ? 別にバレても良くわかんなかったって言えばいいし。」
黒狼のソレに賛同する2人はコソコソ動きながら、ファタとキャメロットの人物の会話に加わる。
とはいえ、ファタとキッルの会話は続いており加わったのもその話し合いがひと段落した後だったが。
「で、他の人はいるのか? いるのなら是非会いたいんだけど。」
「ここに駐在しているキャメロットの人物ですか? ああ、ソレなら僕の他にイケタと坂読英吾がいますね。どっちも気のいい仲間ですよ? 今は……、結界の奥に行ってますね。皆様も行きますか? 目立った危険は我々には発見できなかったですし。」
「へぇ、なら是非とも儂らを案内して欲しいところだな。……ん? まて、結界を破ったのか?」
「あ、い、いえ。結界の穴を見つけまして……。」
「ほぉーん。」
一応は納得したようにそう相槌を打つが、その瞳は疑心暗鬼に歪んでいる。
信じるべきか、ソレとも敵と断定すべきか。
何方にせよ、判断材料が足りない現状。
なんにせよ、ついて行くべきだと村正は判断した。
「では、お願いいたしましょう。その穴までの案内を。」
「は、はい。お任せ下さい!!」
絶世の美女、深窓の姫君、傾国の女王。
いかようにも例えられるその美貌に、無垢にも見える笑顔を向けられては男であれば照れると云うもの。
ドギマギしたようにそう返すキッルだったが、違和感に気づいて仕舞えばどうも嘘っぽさを拭えない。
疑いの目を向けた3人はそのまま彼の指示に従うように、その穴とやらに向かった。
*ーーー*
その穴に向かうこと数分、当たり前のようにモンスターが現れた。
とは言え、今回の敵は猿のモンスターではなくゴブリンでありその強さは高が知れている。
キッルが軽く剣を振るい、ゴブリンを瞬殺した。
「おかしいですね、この周囲にはモンスターを近づかせないようにしているはずなのに……。後で出力を上げますか。」
「ん? 薬ではないのか? 魔除けの香とか!!」
「あ、そ、ソレです。そうそう!!」
慌てたようにそうつげ、キッルは早く穴へ向かうように足を急かす。
そしてまた歩くこと数分、黒狼たちはついにその穴の場所に到着した。
目で見える要素はない、結界は触れなければ表面化しないからだ。
だが、そこの周囲だけは明らかな穴があった。
それも正円の。
「尋ねる必要もねぇか、此処だな?」
「はい、大きさは2メートル程度ですね。」
そう言いつつ真っ先にキッルが通り次に黒狼、村正、ネロ、ヴィヴィアン、ロッソの順で入った。
特段違和感を感じることもなく、そこを通り抜けると対して変化もない森が続く。
まぁ、そんなことは結界の外側から見ていても十分わかる話なので特に驚いた様子はない。
ただ、大したことのない変化とはいえ一つ明確に変わった点があった。
少し、居心地悪げに村正は腰に刺している刀を構える。
また黒狼も同様に、結界の外では出していなかった槍剣杖を手に持っていた。
「(手前も感じるか? 雰囲気が変わったのを。)」
「(だよな? 明らかに……、こう……、ほら!! なんか違う。)」
「(荒事は管轄外なんだがなぁ……、こう言うのは剣豪や豪傑に頼むべきなんじゃないか?)」
「(は? お前、十分強いじゃん。タイマンだったら俺が負けるのが確定するぞ?)」
伊達に全ステータスの合計値が1000を超えている訳ではない。
それに種族的に耐久が低い黒狼は人に近い種族である村正より遥かに弱体化している。
現に物理系のステータスはソレ以外と比べ大きく劣っているのが証明となるだろう。
「(……いや、儂。弱いぞ? たかが武器を生産できる鍛治士以外の何物でもねぇよ。)」
「(たかが武器を生産できる程度のやつはここまで動けねぇんだよ、少なくとも俺は聞いたことないんだが?)」
「(……まぁ、個人でやってる関係でそこらの戦闘特化と同程度ぐらいはできん事もないが。)」
「(そいつを弱いとはいわねぇよ!!!!)」
ヒソヒソと言葉を交わしつつ、浮世離れした常識を持つ村正に驚きと羨望と嫉妬と呪詛を込めたツッコミを決める。
ソレに対して頭を掻きながら『別に儂は強くないんだがなぁ……。』とぼやく村正を冷めた目で見ながら周囲への警戒を怠らない。
……とは言え、村正の発言は黒狼の自尊心を傷つける類のモノでありその警戒する様子は若干やけっぱちになっている。
だが別段、村正としても悪意を持ってこの発言をしたのではないとここに記したい。
村正のいう強くない、はプレイヤーとしての強くないではなくこの世界基準ならばの話だ。
理由としては黒狼と同様に村正も特殊な環境下でプレイしており、また半端にNPCと関わっていたことも含め村正の基準は高いながらも異質なものでないと言う認識になってしまっていた。
何せ村正が関わっていた人間の大抵は、村正が作り上げる高品質の武器を買い求める人々だ。
しかもその武器は過去に語った通り、非常に高く序盤で入手できていい物ではない。
もし得たとしても持て余すのが精々の武器、それを扱うのはキャメロットなどの上位のクラン。
さらにその中でも熟達したプレイヤーなどしかいない。
血盟単位ではなく個人で買い求めるプレイヤーもいるがその人数は少なく、知名度が高い存在しかいなかったりもする。
例えば現段階でプレイヤー最速の『豚忍』、例えば刀に限って言えば並ぶ者はいない『鎧武者』、銃の付属パーツとして現地人や生半可な腕では作り上げる事のできない代物を注文する『銃撃魔』。
他にも少ないながらも幾人かいるが、逆を言えばベータ版から活躍し続けている一握りと常に関わっているのだ。
その基準が多少狂ってもおかしくない。
同時に関わるNPCも村正の刀剣を扱える玄人のみだ。
接触を図る存在は、プレイヤーが主に所属する王国の重鎮であったり、知る人ぞ知る孤高の冒険者であったり、プレイヤーにも人気の実力がある花形だったりだ。
そう言う訳から村正の基準は浮世離れしていたのだった。
「そういや、キッル……さん。ここの大きさはどれぐらいなんだ? 大体200メートルぐらい?」
「呼び捨てで構いませんよ、さんとかつけられるのはむず痒いですしね。」
「じゃ、呼び捨てで……。キッル、ここの広さはどれくらいなんだ?」
「直径2キロ程度ですね、具体的な広さは分かりませんが……。地図スキルを持って居ないのですか?」
キッルの疑問に対し頷くことで肯定を示すと黒狼は地図スキルを起動する。
疑い深げに見てくるファタの視線を華麗にスルーすると黒狼はゆっくりと鑑定スキルを起動した。
行う対象はキッルではなく、この空間を仕切る結界に。
なぜ、そんなことを行うのか? 理由ははっきり言ってない。
気まぐれとも言えるし、思い出したとも言える。
もしかしたら、虫の知らせというやつかも知れない。
なんにせよ、黒狼は鑑定をこの空間を仕切る帷に向けた。
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鑑定結果:バイオ結界
・異星の科学者が用いる装甲に魔術的改変を加えて作られた結界。莫大な魔力リソースを用いて作成されているため物理的破壊、魔術的破壊は困難。
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そして現れた結果に目を丸くする。
興味深い内容が幾つもあるのだ、特に異星の科学者という部分。
ただのテキストならば驚くに値しないが、もしコレが演算されているモノであれば30世紀の技術力であっても異常異端の一言に尽きる。
「異星……。え、このゲーム宇宙まで演算してんのか? ちょ、村正。お前は結界を鑑定した?」
「あ? そういや、してなかったな。『鑑定』……、ほう……。なんだこりゃ? バイオ結界だと?」
「ヴィヴィアン……、というかファタは知ってんのかな? この情報。キャメロットのプレイヤー? とずっと話してて共有するタイミングがない。」
「あら、今更結界を鑑定したの? 遅くない?」
ロッソの煽りを無視した2人は、より一層濃くなる違和感により強い警戒を示す。
ある程度戦闘を生業としているからこそ感じるソレは違和感というには、どちらかといえば息苦しさ。
だが、それだけ。
感じる息苦しさが増しただけであり変化は一切ない。
だからこそ、村正が鬱陶しく纏わりつく髪の毛を払い除けた時に聞こえた音に2人は即座に戦闘態勢に入った。
言葉を交わさず、周囲を見る2人。
ソレに気づいた3人も足を止めた。
「何もんだ? 獣か、人か……。」
「木の葉が擦れる音が聞こえますね、魔術を……。おや?」
ファタが、杖を用いて魔法陣を描こうとした瞬間。
目の前に全身鎧の騎士が現れた。
さて、訓練された探索者の皆さんなら分かりますね?
(以下定型文)
お読みいただきありがとうございます。
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また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね
「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!




