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Deviance World Online 〜最弱種族から成り上がるVRMMO奇譚〜  作者: 黒犬狼藉
一章中編『黒の盟主と白の盟主』

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Deviance World Online ストーリー3『救出活動』

「んで、捉えられてる場所はここか。」

「市街地が、意外だな?」

「そうか? そうか。儂は別にそうは思わんがな?」


 そう言って、マップを睨む。

 そこに表示されているのは、ただの家。

 いや、店だろうか? 少なくとも人一人を閉じ込める為の大層なものではない。


「……、本当にここにいるのか? アイツ、サボってケーキでも食ってんじゃねぇの?」

「だったら殺す、所詮儂らはプレイヤーだ。一時間半きっちり反省しやがれ。」


 冗談めかした問いに、冗談めかした回答を行う。

 だが、その言葉はどちらも本気だ。

 そのもしもを想定している、少なくとも二人は。


「回復薬はどれぐらい持ってやがる? というか、一度ぐらいそのつぎはぎの外套を脱ぎやがれ。」

「ポーション? ああ、一応ある。というか、コレがないと俺死んじまうよ。」

「はぁ? 死んじまうだぁ? 冗談はよせ、外套が脱げたぐれぇで死ぬ輩なんざ、いやしねぇ。」

「マジマジ大マジだっつーの!! というか、俺人間じゃねぇし!!」

「はぁ? なら何だ? 怪魔か妖怪の類だとでもいうのか?」

「間違いじゃねぇ……、まぁ捕まってる場所まで行ったら正体ぐらい明かすよ。」


 そう言いながら、インベントリから取り出してる槍剣杖をクルクルと回しながら地面にタンっと着ける。

 移動時間は約10分、くだらない雑談を交わしていたがその場所を見た瞬間二人の顔から表情は消え去った。


「なるほど? 俺は訳わかんねぇ。」

「『マッシャー料理人』、か。」


 黒狼は肩をすくめ、村正は眉間の皺を深くする。

 若く、良い顔ではあるのだろうが村正は常に眉間に皺が寄っているせいで実年齢よりかなり高くみられそうだ。


「マッシャー料理人? 誰だソレ。」

「有名な人殺しだ、その界隈では程々の有名人だな。」

「えぇ? ってことは強いってことだろ?」

「さぁ? わかりゃぁせん。有名だから強いのなら、世の有名人は悉く強くなきゃならん。」

「たしかに? 道理だな。」


 そう言って黒狼は剣を抜き、村正は刀を取り出した。

 そして、同時に目の前にある店に突入する。

 扉を蹴破り、雪崩れ込んだ二人。

 清潔に保たれた空間には、一つの大きなホールケーキがあった。

 真っ赤で、真紅の鮮血のような赤さ。

 だが黄金で彩られたホールケーキ、大きさは幼児一人分は優にある。

 結婚式場などで出てくるだろうケーキ、ソレと比べても遜色ないほどに大きい。


「うむ!! 助けに来てくれたのだな!! 二人ともよ!!」


 思わず、二人は押し黙る。

 あまりにも()()()なそれを見て、言葉が発せなくなったのだ。

 真っ赤でいながら黄金で彩られたケーキ、その中心には直視できぬほどに場違いなソレがあった。

 黄金のティアラを被り、ホイップクリームとイチゴ。

 金箔や砂糖菓子で飾り付けられたソレ、あまりにも端正であまりにも美しい何か。


「余自身がケーキだ!! なんちって!! とな?」


 そこには、首から流れ出る血液。

 それをケーキに流し続ける、頭部しか見えない『黄金童女』ネロの姿。

 その上には、ポーションが流れ出ており回復エフェクトがケーキ全体に常に広がっている。

 また本来は真っ白であっただろうホイップの類は血液により赤と染まり、だが本来はネロが来ていたであろう洋服のようなもので飾り付けられた赤と金の彩りにより明確に美しさが表現されている、

 また、流れ出た血液はケーキの下に存在する何らかのアイテムにより回収され凝固することはない。

 常に新鮮な血液が流れ出ているというわけだ。


「どうだ!? すごいだろう!!」


 そして、半笑いでハイライトを消しながらネロは笑うように歌うように常に己へ賞賛を求めるような声をあげていた。

 いや、正しく言い換えるならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、舞台の中心で己に陶酔している演者のように。

 今にも崩壊しそうな精神で、そう叫んでいた。


「……ああ、お前はすげぇよ。」


 黒狼はそう告げ、村正は唾棄するように刀で捌いた。

 その一連の動き、その一連の攻撃すらまるでケーキに入刀し切り分けるかのような。

 そんな、ある意味で酷く美しく。

 そして、笑えないほどに残酷なモノだった。


 込み上がる激怒と憤怒を抑えつつ、黒狼は魔術を展開する為詠唱を始める。


「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜』」

「何っ!!?」


 だからこそ、飛んできた食事用のナイフに咄嗟に反応できたのは村正だけだ。

 襲いかかる幾本のナイフ、それを刀で弾きながら村正は黒狼を睨み黒狼は即座に詠唱を止める。

 はっきり言おう、あまりの衝撃で警戒を解いてしまった。

 ここは敵地、先程まで店々が並ぶ市街地だったとしてもネロが捕えられていた此処は敵地に違いないのだ。

 で、あるのにも関わらず黒狼はネロを可哀想に思う余りネロを不憫に思うあまりに。


 そして、自分が酷く気持ち悪いが故に。


 この店舗ごと破壊できるであろう最大規模の破壊魔術を使用しようとした。

 コレを、油断以外に何といえば良いのか?


「どこにいるッ!!」

「聞かれて素直に出てくる訳がねぇだろ!! 手前は馬鹿か!?」

「テンプレってやつだよ、そしてそこまでが天麩羅だ。『ダークシールド』」


 魔法を展開、飛んでくるナイフの数々を流石に凌ぎきれないと判断した黒狼は闇で構成された半透明の壁によって防ぐ。

 同時に大きくバックステップした村正は丸ごと消えたケーキを認識し、生きたままケーキに加工されたという残虐性の限りを認識する。

 狂気の産物、間違いなく相手は狂人の類だ。


『「本日はお越しいただきありがとうございます。」』


 店内に女性の声が響く。

 魔術によるものか、もしくは拡声器といった機材を使っているのか。

 どちらにせよ、この場に居ないことは確実だ。


『「先ほどは、(ワタクシ)の傑作である。【黄金童女】のウエディングケーキを台無しにしてくれてやがりありがとうございます。」』


 無機質、無感情。

 だが、言葉使いから相当激昂していると見える。

 そして、その証拠にその言葉が告げられた瞬間店内の陳列棚が一斉に爆発した。


「起爆魔術か!? よくそんなもんをこの短時間で仕込みやがったなぁ!!」

「魔術なんて所詮はプログラムだ、量産方法さえ確立してればそれは難しくない!! 問題は……。」


 店内、そうここは店内だ。

 そして二人は壁から飛んでくるナイフを捌いているだけ。

 ナイフが飛んできている大元の調理場には一歩も辿り着けていない。


 そして、先ほど陳列棚が爆破した際に全ての照明が壊れナイフの投擲が止まると同時に何かが開く音がした。

 つまりは……。


「敵のお出ましってところだな? 村正、いけるか?」

「なるほど、調教師(テイマー)って訳か。ああ、黒狼。やってやるさ。」


 先程の激昂はどこはやら、いや戦いになったからこそ無理矢理にでも冷静になったのかもしれない。

 その証拠に、二人がそれぞれ己の得手物を握る手は震えている。

 二人は善人ではない、この世界にとって二人は悪人とも言える。

 

 だがそれでも、だ。

 善人でないから善行をしてはいけないのか? 悪人だから悪行をしなければならないのか? いいや、違う。

 善人であるから残虐を嘆き、悪人であるから悪虐の限りを尽くすのか? いいや、違う。

 我々人間は、悪と善。

 それらを互いに持ち合わせているからこそ、人間足りうるのであり。

 その激情を飲み込み、燃え上がるような炎を押し留め。


 悪人が正義を執行するからこそ、善悪とは安易に図れるものではないのだ。


「かの二天一流や新陰流、巌流には及ばねぇが……。手前ら風情にはそれでも上等だ、儂の剣技をとく味わえ。」


 いうが早いか、抜刀された剣は襲いかかる敵対存在を切る。

 敵対存在は、無機物で構成された言わばゴーレムだ。

 本来の刀剣できるのは非常に難しいだろう、だが村正が出した刀は一味違った。

 刀身に常時魔術的エフェクトが発生している、つまりは魔術が発動されており的に触れた瞬間に無機物で構成されたゴーレムの体に罅が入る。

 さらに、決して上等とまでは言えないものの下手ではない剣技で相手を切り裂き半壊させているのだ。

 確かに、二天一流や新陰流及び巌流の使い手には及ばないだろう。

 その始祖と言われている宮本武蔵や柳生但馬守宗矩、佐々木小次郎には遠く及ばない剣術だ。

 だが、刀に携わり刀剣の真髄を知っている村正の扱う剣技は美しくそれでいながら冷徹なものでありただの剣術家程度と比べても見劣りしない。

 アクロバティックに、それでいながら華麗に。

 己の羽織を羽ばたかせ、敵を切り裂く。


「おい!? お前、十分強いじゃねぇか!? さすが二つ名持ちだ!!」


 それに対し、黒狼は異形の武器を巧みに扱い現れるゴーレムを上手く倒す。

 村正みたいな武器に付加効果がついたものではないが、そこはⅫの難行をクリアした経験でカバーし上手く敵を倒した。

 ソレに湧き出る量も大したことはない。

 いや、狭い室内ということを考えれば十二分に多いのだがⅫの難行にて数百と言ったレベルの数を相手にしていた黒狼にとって数十にも満たない敵は多いとは言えなかった。

 互いに技を放ち、敵を無力化する。

 

「はんっ!! 他愛もねぇ。」

「まぁ、弱いな。」


 5分もたたず、完全に制圧した二人。

 だが、室内は酷く錯乱し先程までの店としての様相は消え去っている。

 元々陳列されていたケーキやパン、クッキーなどと言ったお菓子類がそこかしこに散らかっているのがより異常性を際立たせているといえるだろう。


「先に進むか。」

「さてなぁ? 一旦、外に出るのも手だと思うぞ?」

「面倒臭い、一気に炙り出す。」


 そう言いながらも、黒狼より先に先に進もうとする村正。

 呆れたようにソレを見た黒狼は、槍剣杖を握りしめる。

 そして、黒狼は詠唱を始めた。


「『夜の風、夜の空、北天に大地、眠る黒曜。』」


 この魔術に刻まれている文字はたった四つ。

 本来ならば五節とかかる詠唱ではない。

 だが、何故この魔術が五節もかかるのか? その答えは酷く単純だ。


「『不和に予言、支配に誘惑、美と魔術。』」


 神の権能の顕現、極小とは言え莫大な熱を保有する太陽の作成。

 ソレこそがこの魔術の真髄であり、深淵スキルを媒介とし神の権能を降臨させているがために神を讃える詠唱が要求される。

 

「『其れは戦争、其れは敵意、山の心臓、曇る鏡。』」


 魔法陣が展開しきり、文字列が蠢く。

 魔法陣が再度整列させられ、別の法則によって魔術が顕現する。

 魔力が熱となり、熱された空気は崩壊を起こす。

 崩壊した空気は輝き始め、極小の太陽が現れ始めた。


「『五大の太陽、始まりの52、万象は13の黒より発生する。』」


 世界が揺れる。

 黒狼の持つ、最上級の範囲攻撃が牙を剥く。

 単純にして最強な、明確にして明瞭な。

 原初の権能、星のエネルギーをここに広げる。


「『第一の太陽ここに降臨せり【始まりの黒き太陽(ファースト・サン)】』」


 極小の太陽が降臨した、レンガでできたその店を溶かし破壊し全てを燃やす。

 黒狼は展開直後にリスポーンし、村正はその魔術の展開と同時に店外に逃げ出した。

 同時に莫大な熱量が生じた店内は急激に高温となり大爆発を起こす。


 迷宮という絶対不変の場所でなければ甚大な被害が発生する、そう黒狼が確信を得た瞬間だった。


「おい馬鹿手前!! 唐突にそんな馬鹿力を出すんじゃねぇ!!」

「あ、ヤベ。こっちくんな!! 村正!!?」

「は? どういう……、なんで手前骨なんだ?」

「あーあ、バレちまったら仕方ねぇ!! 俺はDWOの中でも滅茶苦茶珍しいスケルトンなんだぜ? どうだ、すごいだr」

「……。」

「よっしゃ!! 復活、『ダークシールド』!!」


 自慢げに己の秘密……、と呼べるか謎な秘密を暴露した黒狼だったが即座に日光により蒸発。

 そして再度復活を遂げる。

 もう少し、自分の正体を明かす時ぐらいはシリアス調にならないのだろうか? 現に村正も呆れて言葉が出ないと言った様子だ。


「よいしょっと、コレを羽織っておかないと即座に死ねるんでよなぁ……。」

「……、難儀してんな。」

「案外便利だぞ? 弱点属性で死ねばリスポーン時間を滅茶苦茶短縮できるし。」

「へぇ、斯く言う儂も『藤鬼』って言う種族だがな。」

「え、人間じゃねぇの?」

「まぁ、大差ねぇぜ? 元は緑餓鬼(ゴブリン)だったことを考えればな。」

「……、何回進化したんだ?」

「7回程度ってとこか? まぁ、儂は興味がなくて碌に覚えてねぇがな。と言うか手前が見せた人間に姿は妖術の類か?」


 そして黒狼が明かした秘密より、もっと凄い爆弾を投げ込まれたせいでフリーズする黒狼。

 そもそもこのゲームをプレイしている人口は多い、魔物系のプレイヤーと出会う事も少なくはないだろう。

 最も、ここまで人間と大差ないというのも珍しい話だが……。

 

「とりあえず証明できるモノ……、アッハイ。」

「見えるか? 額にちっせぇ角が一本あると思うが……。」

「ワカリマシタ……、うぅ……。俺のアイディアンティがぁーー!!」


 そう言いながらも魔法陣を描き人化の術を行ったのは英断だろう、一応は街中での大暴発。

 数分もしないうちに野次馬が現れ始めた、ソレと共に騎士の格好をしたプレイヤーも。

 

 騎士の格好、字面を見ればコスプレだがこの世界においてソレはコスプレに有らず。

 現実問題、いくつかのスキルで重量と暑さを誤魔化せればフルプレートアーマーは案外有用なのだ。

 隙間が存在しないということは大抵の攻撃を防げるということである、ソレは間違いなく有用性の塊。

 最大のデメリットと言えるであろう、だがソレもスキルを使えば十分に誤魔化せる問題でしかない。

 つまり、白兵戦を前提にすればこの上なく強い装備。

 ソレがフルプレートアーマーなのだ。


「ちっ、『キャメロット』が来たか……、鬱陶しい。」

「鬱陶しい? どういうことだ?」

「はっ、詳しく説明すると面倒くせぇ。とりあえず先にあの黒魔女のとこに向かうぞ!!」


 ゲーム内とは言え、未だイベント開始から4時間を過ぎていない。

 だがそれでも物語は動き出した。

 歯車は、回り始めたのだ。

6000字にしたせいで露骨に文字数稼ぎが増えた気がガガガ……。

とは言え、中々に悪くない出来かも?

と言うか、黒狼くんさぁ……。

街中でファースト・サンなんか使うんじゃないよ……。


(以下定型文)

お読みいただきありがとうございます。

コレから黒狼、および『黄金童女』ネロや『妖刀工』村正、『ウィッチクラフト』ロッソ、『◼️◼️◼️◼️』    (ヴィヴィアン)の先行きが気になる方は是非ブックマークを!!

また、この話が素晴らしい!! と思えば是非イイね

「この点が気になる」や「こんなことを聞きたい」、他にも「こういうところが良かった」などの感想があれば是非感想をください!! よろしくお願いします!!

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