表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
-【事実彼女】- 隣に越してきた1番人気の新入生はただの“後輩”なのに、なぜか俺の『彼女』だと勘違いされている。  作者: ななよ廻る
第11章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/36

第3話 デートの行き先は決めてなかった

「デート」


 あれだけ俺が躊躇ためらった単語を雫後輩はこともなげに言ってしまう。

 いいけど、いいけどさ。

 ため息のような『はぁ?』に続いたのが『デート』という単語。誘った側の俺はどうすればいいのか。待つのか? 待ちの姿勢なのか?


 なにもかもが初めてすぎてもはや脳がバグる。


「そう」

「デートなんだ」

「はい」

「そっか、デートか……華先輩が?」


 どういう意味だ。

 偽物でも見るような目つきだ。どんな目つきかというとジト目というか、もはや長方形。上から下から瞳を狭めて、これでもかってくらい俺を疑っている。


「そんなに俺がデートに誘うのが変か?」

「うん」


 これ以上ないあっさりとした返事だった。

 そっか、変か……そうだとは思うけどもっと言い方とかなったのかなぁっ?


 心の中の純情な俺がしくしく泣いている。

 ときに本心だとしても、人を傷つけることはあるんだ。男だって繊細な部分はある。


 見えない涙をぐっとこらえて、雫後輩からそっと視線を外す。


「や、なんだ……嫌ならいいです、はい」

「嫌とは言ってない」


 言ってないから、と重ねて否定してくる。

 でも、喜んでいないような複雑な顔で、唇がきつく結ばれていた。


 こちらに気を遣っている……わけでもなさそう、か?

 そうなると即答しないのは別件が理由で、思い起こさせるのは先日の電話。元気づけるつもりで困らせる提案をしてしまったかもしれない。


 それなら……と提案を取り下げようとしたが、こっちの内心を察したように「いつ?」と短く訊いてきた。


「……いつ?」

「日付と時間」

「あー、まだ決めてない」

「なら、どこに行くかは?」

「…………、まだ」


 連なっていく質問。

 普通に尋ねられているのに、どうしてか詰問しているように聞こえるのは、準備不足だったのに気づいてきまりが悪いからだ。


 雫後輩はただ見ているだけだが、その琥珀の瞳に責められているように感じてしまう。

 つい視線を、すすすと横に逃がす。


「すまん、もう少し考えて誘う」

「華先輩。さっきも言ったけど、責めてるわけじゃないんだよ?」


 慰めるように言ってくれるが、俺のプランが杜撰ずさんだったのは間違いない。プランと呼ぶのも烏滸がましいほどに中身がなかった。

 そうだよな。デートに誘うなら、なにか出かける場所の目星を付けておくべきだったよな。映画館とか、遊園地とか……とか? 普段、デートどころか遊びにすらなかなか行かないので、遊ぶ場所の引き出しが貧困だった。


「うん、そう……だね」


 現在進行形の灰色高校生活に落ち込んでいると、雫後輩が「なら」と提案してくる。


「行き先と時間はわたしが決めてもいい?」

「いいけ、ど」


 落とした肩を持ち上げて、唾を呑み込む。


「それは、あれか。なんだ。デートに行ってくれる、……と?」

「そう、……なるの、かな?」


 こわごわ尋ねると、化粧をしたように雫後輩の頬が赤くなる。

 人差し指で頬をかいて、ちらりと見てくる。親戚の子どもみたいに接すればいい――なんて思ってはいても、こうして女の子らしい反応に心ときめく。


「決まったら連絡……あ」


 なにかに気づいたように、雫後輩は肩にかけている学生鞄を叩く。


「そういえば、交換してなかったか、連絡先。もしかして、アパートの前で待ってたのって、そういうこと?」

「まぁ、そう」


 頷いたら、「直接、部屋に来てくれればよかったのに」と苦笑される。

 それが手っ取り早いのは確かで、わかってはいたけど『臆しました』なんて言えるわけもなく、口をもごもごさせて誤魔化すしかなかった。誤魔化すというか、まごついただけだが。


「はい」


 と、雫後輩がスマホを差し出してくる。


「交換しよ?」


 なんの気なしに連絡先の交換を提案されて、体が硬直する。

 クラスの女子とかに訊かれたときはさらっと交換できたんだが、この緊張にも似た躊躇ためらいはなんなのか。


 デートに誘って、変に意識してるのか?


 寝起きの視界のようにぼやけた気持ちに首を捻り、俺もスマホを取り出して……


「「あ」」


 落とした。


  ◆◆◆


 6月に入っても、空は相変わらず鉛のような灰色だった。

 平年ならまもなく梅雨入りらしいが、まだ本格的な雨は降らないらしい。雲ばかりの天気も重苦しいばかりなので、さっさと梅雨に入ってほしいなという気持ちもある。


 窓で切り取った景色が流れていく。

 天を突くような建造物を置いていき、遠くに見えていた山々が近づいている。横切っていく民家をただぼーっと見ていると、「華先輩」と隣に座る雫後輩が声をかけてきた。


「なにか見えた?」

「なんで?」

「さっきからずーっと外の景色を見てるから」

「いやー、景色っていうか」


 座席の肘置きに手を置いて、背もたれに倒れ込む。

 見上げた天井は白く、電灯は視界に収まりきらないくらいどこまでも長い。


「新幹線に乗って、なにしてるのかなーって」

「うーん」


 悩むように雫後輩が唸る。


「デート、かな?」


 最近のデートは新幹線に乗るのかー。

 ……いや、乗る? 普通。


 旅行とかであるかもしれないが、学生が『デートに行こうぜ!』と誘って新幹線に乗ることある? 俺が知らないだけで、高校生の遊ぶ範囲は日本全域に広がってるの?

 行動力ありすぎだろ、高校生。


 とりあえず、俺の想像するデートではなくなったなと、新幹線に揺られながら思い耽る。



  ◆第11章_fin◆

  __To be continued.


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ななよ廻る文庫(個人電子書籍)第5弾!
『事実彼女』
2025年11月4日発売!

BOOK☆WALKER
Amazon
楽天Kobo
dq8jd9ujlp7hd89fbk6lgrx46lm6_ib8_dc_lc_euxo.png

※画像をクリックすると外部ページに移動します※

ななよ廻る文庫
ライトノベル個人レーベル
かわいいヒロイン×糖度高めなラブコメがメイン!
電子書籍で販売中です!

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ