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第三部 第十章 フィンランド

第三部 第十章 フィンランド


 ダークナイト・ユーグとエリク・ビョルンソンは町の中心広場で対峙する事になる。

「貴様何者だ、良くも俺の獲物を掻っ攫いやがったな?」

怒気を孕んで、ダークナイト・ユーグは剣を抜いた。

「そういうお前は誰だ? 戦場での名乗りの作法も知らんのか?」

いきなり剣を向けられたエリクもまた剣を、持ち直した。

「(こいつは強い、今までで一番の強敵かもしれん)』

とエリク

「(若造だが、かなりの腕だな、気を抜くと危ない)」

とダークナイト、二人はお互いを心の中で評価した。

「陛下おやめください、後ろの旗をご覧ください、あれは味方です」

 ダークナイトは部下にそう言われて、町の鐘楼に翻る旗を見ると確かに魔聖ローマ帝国の旗が翻っている。

「俺は魔聖ローマ帝国、スロバニア王ユーグ・ホゾン、ダークナイト・ユーグと呼ばれている、貴殿は?」

とここでダークナイトは初めて名乗った。

 それを聞いてエリクは剣を納める 

「魔聖ローマ帝国デンマーク侯爵、エリク・ビョルンソン、貴方が帝国一の剣士、ダークナイト殿でしたか、大変失礼いたしました」

と先に頭を下げた。

「いやこちらこそ、戦場でつい興奮していたすまん、しかしデンマーク侯はグヌーバー・オーロフ殿と記憶しているが?」

「はい、義父は先頃の戦いでバルハラに召されました、私が今は跡を継いでおります」

「そうか、あのオーロフ殿がな、それはお悔やみを申し上げる、それで貴殿は何故ここに?」

「我らは皇帝陛下とブリタニア王の指示によりスウェーデンを攻略中でした、そこでスウェーデン王がフィンランドに遠征中と言う話を聞き後を追ったのです」

「なるほど、我らも皇帝陛下の命で帝国の北方を攻略していた所だ、このフィン人の土地はフィンランドと言うのだな」

「はいその様です、スウェーデンの王都を落とし、王を討った事で我らの戦いはこれで終わりです、我らはこのままスウェーデン王都シグトゥーナに戻ります、この町の後始末は陛下にお任せしてもよろしいですか?」

 エリクの獲物は町では無く王の首だった、なのでここはあっさりと町をダークナイトに明け渡して

シグトゥーナに戻る事を選んだのだった。

「すまんな、貴殿の手柄を奪う様で気が引けるが気遣い感謝する、それでここから西の情勢は?」

「既に、我らが主要な村を押さえております」

「そうか、では我らもここの後片付けを終えたら一度戻る事にしよう、良い航海を祈っている、いずれ帝都で逢おう、その時は酒を奢らせてくれ」

「は、ありがとうございます、陛下も良い旅を」

 そう言って挨拶を交わしてから

「(ふう、焦って斬りかからなくて良かった、命が無かったかもしれん)」

と額の汗を拭うエリクだった。

「(それにしても皇帝陛下は別格として、ウィリアム殿に今のダークナイト殿、以前会ったジョルト殿と帝国の戦士達は皆強いな、俺ももっと精進しないといけない)」

 とヴァイキングの戦士の若者らしく強くなると言う新たな目標を手に入れたエリクだ。

「みんな、シグトゥーナに戻るぞ」

「おお!」

とエリクとその兵達は船に乗り、海に漕ぎ出した。


 一方でダークナイト・ユーグも街の治安を回復した後で、帝国に帰還する事を決めた。

「お前ら、この後はどうする?」

ダークナイトは街に臨時に設けた本営で、捕虜とした、インヴィルドとテューラを謁見している。

「どうするって言われてても、金を払ってくれる王が死んだし、私達はヴァイキングだけどヴァイキングじゃ無いし……」

「それはどう言う意味だ?」

「私達、氷の魔女の娘達はヴァイキングの中では別なんだよ、なんと言うか一応部族の仲間だけど仲間では無いみたいな」

「うん、ちょっと何を言っているのか理解だできないな、まぁ飲め」

「あんた、私達に酒を飲ませて何を考えているのさ、女房が腹ボテだからって私達に手を出そうってのかい?」

「違うわ馬鹿、そんな事をしたら、女房に殺されるわ」

「確かに、あんたの女房マーリカと言ったっけ、強かったものねぇ」

「どうだ、いっその事俺に雇われないか、生き残った氷の魔女達全員俺の軍で面倒を見てやる」

「あんた、やっぱり私達の事を……」

とティーラが言いかけた所を、インヴィルドは止めた、そして

「あんたの国の騎士達っていくら貰えるの?」

「騎士も、魔術師は後は働き次第だ、お前達の強さは俺が保証してやるから、男爵並みと言う事だな」

「それって幾らよ?」

「男爵と言う事は家臣を30人以上は養える金額と言う事になるな」

 ダークナイトユーグは他の王達の軍と比較して自分の軍の魔術師の層が薄い事を予々憂慮していた

ここで、インヴィルドの傭兵団と氷の魔女の生き残りを自分の軍に入れられれば大きな戦力になると思っているのだった。

「良いわ、全員まとめて雇われてやるわ、ただしあんたじゃなくてあんたの女房にね」

「なんだそれは、まぁ同じ事だから構わんが」

「だってあんた品が無いから」

 どうも以前の戦いの時に使ったヴァイキングの悪口はかなり印象の悪い物だった様だ。

帝国に帰還してとりあえずの本拠地にしているフランケンのフランクフルトに戻ると、この事をまず妻マーリカに報告をすると、彼女達と会ったマーリカは喜んで全員を自分の部隊に加え、インヴィルドに副将の地位を与え、ティーラには自分の指揮下にある魔術師と呪術師の部隊の部隊長とした。

「あんた達の実力は、戦った私が一番知っている」

との事で、この待遇に感激した二人はマーリカに忠誠を誓う事になった。

「(まぁ、結果的に同じだから良いか)」

と、どこか釈然としないが、納得するダークナイトだった。


 シグトゥーナに帰還したエリクは、今後の事をここ妻ゲイラに相談する事になる。つまり自分の拠点を

ここシグトゥーナにするか、デンマークのイェリングにするかと言う事だ。

 今までの先例を見れば、スウェーデンは皇帝陛下からエリクに恩賞として与えられる事は間違いが無い

だが、もしシグトゥーナを本拠にするとデンマーク領から離れすぎる事になり、同様にイェリングを本拠にすればスウェーデンに目が届かなくなる。

「難しいですわね、私はこの町も好きですか、冬は寒そうですね」

「ああ、そうだな、そう思うとイェリングの方が良いかもしれないが……」

二人共結論を出す事はできなかった、そしてその状態でエリクは自分の権限内でできる戦後処理に取り掛かる。

 シグトゥーナの宮殿から押収した金銀財宝は、祖父や父に所縁の物以外は惜しげも無く今回の遠征で

功績の会った各部族の長達に分け与えた、捕虜とした王族の女子供達も同様で、これも全員奴隷として分割した。

 この時点で王族とその富、兵士となった男達を失ったシグトゥーナの町は、エリクが本拠地としてここを選ばない限りは衰退する未来しか無くなる。

 エリクはとりあえず『ジトーミル』の街に居た頃からの弟分で一番信頼ができ、エリクの軍団では第二の戦士『レイフ』に1000名程の兵と町を預けて、ここで全軍を一度解散させて、デンマークに帰還する事にした。

 この遠征に参加した各地のデーン人の族長達は全員が金銀財宝や奴隷を手にした事で満足して

「エリク王よ、良き戦いだった、次の戦いも是非呼んでくれ」

と礼を述べて自分の領地に戻って行った。彼らの中では既にエリクはヴァイキングの王なのだ。


 デーンマークのイェリングに戻った頃には既に秋の終わりになっており、エリクは帝国の侯爵として

帝都『ユーグウルブス』に向かい、皇帝ユーグに拝謁して戦いの結果と詳細を述べた。

「デンマーク侯、見込み通り見事な成果だな、正式な恩賞はおって沙汰をするが、それまでは帝都でのんびりして居ると良い、侯爵は帝都に屋敷を持っていなかったな、誰かエドモンド・ストラスブルグ伯爵を呼んでこい」

とユーグは衛兵に指示をする。

 30分程で、ストラスブルグ伯爵は飛ぶようにして謁見の間に入ってきた。

このストラスブルグ伯爵はヴァスコニア公爵の右腕のトゥールーズ侯爵の息子で以前ユーグが才能を見込んで貴族病の治癒をした人物だ、今は帝都の市長兼建設大臣的な立場にある。

 帝都に召喚されたエドモンド子爵は、建築中のアラビアの様式を取り入れた新宮殿『パンテオン城』……これまで『城』と言う建物はこの世界には存在していない、王や貴族の住居と政庁を兼ねた宮殿や軍事上の拠点に置かれた城塞都市は存在したが、それを合わせ持った『城』は無かった、城に一番近い存在は旧コルドバ帝国のマジェリトの『マイリット宮殿』やコルドバの大神殿と宮殿だろう……の建築責任者に任命されると、即座に費用を50%節約した上で工事の進捗状況を大幅に改善させたのだ、この功績を喜んだ皇后マロツィアはユーグに推挙して空席だった『ストラスブルグ伯爵』に陞爵させたのだった。


「伯爵、紹介しようデンマーク侯爵エリク・ビョルンソンだ、侯爵は爵位を継いだばかりでな、まだ帝都に屋敷が無い、どこか良い場所を見繕って屋敷を建ててやってくれ、ウィリアムやダークナイト達と同じ格式でな」

「は、かしこまりました、直ちに」

ストラスブルグ伯爵はそう言うと、エリクに頭を軽く下げると謁見の間から出て行った。

「伯爵は無愛想な男でな、まぁその分仕事ができる、勘弁してやってくれ」

と皇帝ユーグに言われて、エリクは

「はい」

と言うしかない、そこにグレートブリタニア王ウィリアムが入って来た。

「皇帝陛下、それにエリク……いやデンマーク侯爵殿」

「これはウィリアム殿」

とウィリアムとエリクは挨拶を交わす。

「二人揃った所で、今後のヴァイキングの処遇について話がしたい」

と皇帝ユーグは、玉座から降りて、テーブルの上の地図を見ながら話を始めた。

「二人のおかげてほぼ全てのヴァイキング達が帝国に臣従する事になった、まずは礼を言う」

「は、ありがたき幸せ」

「そこでだ、そのヴァイキング達の中から希望者を募って、この辺りに移住をさせて欲しいのだ」

とユーグは地図を指差した。

「イスパニア王国の地中海の入り口ジブラルタルですね、成程アラブ人対策ですか」

「ああ、そうだイベリア半島のこの辺りにヴァイキングの入植地を作り、地中海航路を抑えたい、イスパニア総督からの報告では対岸の『マグリブ』は現在アラブ人同士の内戦状態の様で難民がイスパニア王国にまた押し寄せて来るかもしれないと言う事だ」

「陛下の監修された『コルドバ帝国盛衰記』は拝見させて頂きました、コルドバ帝国衰退の原因は大量の難民の襲来による食糧不足と言う事でしたね」

「ほう。さすがだなあれを読んだか、ヴァイキングは海の民だ、だから地中海でも自活ができるだろう

だが、アラブ人達は違う、彼らは基本的に遊牧民だ、アラブ人達が再び押し寄せる前にヴァイキングの町をいくつか作って置きたいのだ、協力してもらえるな」

「はい、陛下すぐに志願者を募ります、冬でも暖かく、魚も豊富、陸地は麦やオリーブが収穫できると言う事ですので、直ぐに志願者が集まるかと思います」

とウィリアムは答えた。

「ウィリアム殿、そんなに良い土地なら、今まではなぜ人が少なかったのですか?」

とエリクが聞く。

「海沿いは危険だからだよ、この辺りの漁村は過去にアラブ人やヴァイキングの襲撃を何度も受けて壊滅しているんだ、君のお父上も一度この辺りを荒らし回っていたはずだよ」

「ああ、なるほど、だから我らヴァイキングなんですね」

エリクも納得した様だ。

「では、二人ともこの件は早急にな、船が必要ならユーグポルトゥスで用意させてある、ネーデルラント侯爵を訪ねるが良い」

「はい皇帝陛下」

 二人は謁見の間から退出した。

「ウィリアム殿は、やはり凄いですね、陛下と普通に話をされている」

「まぁ陛下とは長いからね、陛下の御前に出る前に何の話か予想して調べておくんだ、こういう話は陛下は私かルテニア王のジョルト殿にしかしないからね」

「そうなのですか、では後の方々は?」

「エリク殿もダークナイト殿には遭ったのだろう、どう思った」

「ああ、そうですね、理解いたしました」

「帝国では今まではイスパニア王エルベール殿やダークナイト殿の様な武力が必要とされていた、だがこれからは武力だけでは駄目なんだ、エリク殿も武力と同じ様に政治力を磨いて欲しいと思っているよ」

「わかりました、非力ですが精進したいと思います」

「ああ、そうだ、それともう本拠地は決めたののかな?」

「いえ、まだですが……」

「そうか、私ならスエーデン中部に新たな街を作るかな、そうしない統治に困るだろう」

「そうですね、御忠告ありがとうございます」

 エリクはその後ウィリアムの進言を受け入れて、スェーデン中部ゴトランド島の北、ボスニア湾から少し南に行った『スターズホルメン島』を中心に周囲の島を合わせてヴァイキングらしい街を作る事に成功する。

 後にエリクの新たな本拠地となるこの街は『デーンシヴィタス』と名付けられる。この街の有る場所は我々の世界では『ストックホルム』と呼ばれている都市と同じだ。

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