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第二部 第五章 皇帝親征

第二部 第五章 皇帝親征 


 ユーグポルトゥスが有るのは、ネーデルラント地方と言われる場所で、以前はフリースラント王国と言われる小国があり、この国は様々な経緯を経て東フランク王国に併合されて、ザクセン公国領となっていた、皇帝ユーグは帝国建国と共にネーデルラントは皇帝直轄領としていたのだ。

 船を降りて街を歩いているとアラスターは

「ふむ、この街の地層は『フェンランズ』と同じだな、興味深い」 

と独り言を言っている

「フェンランズで何だ?」

「ああ、今はデーンロウになってしまっているが、昔は私の一族の領地があった所だ、私の一族は湿地帯の干拓の功績で、マーシア王国の貴族となったって言う話だ」

「へえ、そうなのか、あ、あれが市庁舎兼魔法教会の様だな」

 街で一番大きい建物は、市庁舎か教会と言う事になるが、建設途中のこの街ではその両者が同じ建物になっている、市長は司教も兼ねていると言う状態だった。

「邪魔するよ、これ皇帝陛下からの任命状だ」

ブライスはそう言って一番忙しそうにしている、司祭服の男に書類を見せる

「おう、やっと領主様が決まったのですね、これで私も魔法の研究に戻れます」 

と嬉しそうな表情を浮かべたのは、ネーデルラントに領地を持つホラント伯爵家の長男で、エグモント魔法修道院の院長を務めるディルク司祭である、博識なのと誠実な人柄を認められて皇帝ユーグから新たな街の市長と魔法教会の司祭の職を賜ったものの、あまりにも多忙な為に嫌気がさしていた所だった。

 だが、彼の希望は直ぐに打ち砕かれた、ブライスから皇帝親征の計画と船団をこの街に集積すると言う話を聞いて、絶望の表情を浮かべる事になる。

「そんな……」

「すまんな、とりあえず、私の副官と相談して頑張ってくれ、遠征から無事に戻れたら、領主として街の方も見るが、それまでは辛抱してくれ」

 ブライスは自分より少し若い、この司祭が過労死してしまわないか心配になった。

「さて、ではアラスター、俺は船の調達に行く、後は任せたぞ」

「ああ、給料分の仕事はさせてもらうよ」

 困難な仕事を友人に押し付けるのは少しだけ気が引けたが、皇帝陛下の勅命だから仕方が無い、ブライスは馬を用意するとすぐに陸路で、ノルマンディの公都カーンの街に向かった。

 カーンの街はブライスにとっては余り良い思い出のある街では無い、イングランドのアゼルスタン王の500艘の艦隊でノルマンディ攻略に海峡を渡ったのはまだほんの7年程前だ、そしてその時に艦隊の半数と兵5000をブルターニュ公ギョームの脅威的な風魔法で一瞬にして失い、ブライス自身も王と共に海に投げ出され、瀕死の状態でこの街の付近の海岸に漂着したと言う記憶はまだ新しい、その後六年の捕囚生活を経て、今は当時は西フランク王国の太公として敵だった皇帝ユーグに使える身となっているのは、自分でも不思議な人生だと思っている、肝心の任務の方は、皇帝の命令書があるので、船の手配は簡単だった、問題は船乗りで、それをどうしようかと悩んでいると、一人のヴァイキングの老人が話し掛けてきた。

「あんたか、船を集めているって奴は?」

「ああ、皇帝陛下の御威光で船は集まりそうなんだが、船乗りをどうするか悩んでいるんだ」

「船団を組んで何処に行くんだ、またイングランドか?あっちでは俺たちが優勢だと聞いているが」

「その様だね、でも今回はイングランドでは無いんだ、皇帝親征になるが、申し訳ないまだ場所は言えない」

「そうか、そこの街外れの酒場に行ってみな、暇そうにしている古兵が沢山いるぞ、そいつらに戦に行くと言って声をかければ、すぐに船乗りは集まるだろう」

その老人はそう言って笑いながら去って言った。

 そしてプライスが、その酒場に行って男達に声をかけると、なんと全員が待遇も聞かずに志願をしてくれて、更にそこから次々と人が集まり、あっと言う間に5000を超えるヴァイキングの船乗りが集まった。


 500隻以上の軍船を引き連れて、ブライスがユーグポルトゥスに戻って来たのはそれから二週間後になる、すぐに遠征準備に取り掛かり、軍馬や食糧、兵士達を満載した船団がユーグポルトゥスを出航したのはそれから更に一週間後になる、船団の後方には商人や鍛治士、コック、革細工士等の職人達非戦闘員を乗せた船も100隻ほど続いている、皇帝や王、大貴族の出陣とは一つの街がそのまま移動する規模の大イベントなのだ、当然彼らにも命の危険は有るのだが、遠征に付き従う事で得られる利益は、普段の商売より遥に多い、だから一攫千金を狙う者達は命を賭けて遠征に同行するのだった。しかも今回はユーグが皇帝となって初めての親征だ、なんとか自前で船を調達して船団に入り込む者が後を絶たなかった。

 船団は帝国の沿岸を西に進み、カレー、カーンに停泊して、大西洋に出て、ビスケー湾沿岸の帝国側の都市ブルターニュのブレストに入る、そして、コンカルノーを経てサン=ナゼール、ロワイヤンと停泊して行く、この様に度々港に寄るのは皇帝の親衛隊兵の多くがフランク人で、バイキング兵と違い船での移動に慣れずに船酔いをする者が多かった為だ。戦場についても船酔いで使い物にならなければ意味が無いからだ。

 この事についても皇帝ユーグのブライスに対する評価は高い、船を操るバイキング達に馬鹿にされようが、兵達の健康管理に心がける事は重要な事だった。

 そして、ブライスの副官となったアラスターは、どこで入手したのか、行く先々の海図を手に的確に航路を指示して行く、これについては歴戦のヴァイキングの船乗り達からも信頼される様になり、旗艦の航海長と呼ばれる様になる。

「海の道案内はできるけど、俺は戦闘は全くダメだから、みんないざと言う時は俺を守ってくれ」

と正直に言って古参のヴァイキング兵達の笑いを誘っている。

 今回の遠征に志願したヴァイキング兵達は、ロドルフとギョームの遠征に参加できなかった初老の者達が多い、彼らは皇帝親征と聞いて

「ありがたい、皇帝陛下は俺たちにも戦場で死に場所を与えてくださるそうだ」

と喜んで志願して士気は高かった。

 こうして船団は安全な航海をして出港から二週間で『ヒホン』の街の沿岸に到着した。


 魔法歴935年秋

 「大変だ、ヴァイキングの襲来だ」

この時代、海から来る船団は侵略者のヴァイキングと相場は決まっている、だからヒホンの街も直ぐに臨戦体制になり、女子供は街から避難を始める。

「全く、南からアラブ人に攻められて大変な時に海からヴァイキングとは」

 この時国王ラミロ2世は要塞都市サモラでコルドバ帝国軍と熾烈な戦いを繰り広げている、

ヒホンの街の太守は王の次男オルドーニョだが、彼はまだ9歳の子供で母と共に王都レオンに居る、なので実質の太守は、叔父のカスティーリャ伯ガルシアだった。

 ガルシアがそう嘆いている所に、海岸の物見の兵から報告が入る、

「あの船団はどうやらヴァイキングでは無い様です、船団の旗印は赤字に黄金の鷲と月桂樹、あれはローマ帝国の旗です」

「ローマ帝国だと?馬鹿な何百年も前に滅びた国だぞ、いや確かフランク王国が先頃魔聖ローマ帝国と名乗っていたが……」

「船団から白旗を掲げた使者が来ています、どうされますか?」

「会おう、敵では無い事を祈ろう、念の為領民の避難の準備だけはしておけ」

 こうして、太守の館で、使者としてブライス伯爵と親衛隊長のアンハルト侯爵は太守代行のカスティーリャ伯ガルシアと面談する事になった。

「こちらが皇帝陛下から、アストゥリアス王国国王陛下への親書です、現在我が帝国はコルドバ帝国軍による侵攻を受け、国境線でこれと対峙しております、皇帝陛下はこれを背後から攻撃する為にアストゥリアス王国領の通過と叶う事なら食料、水の補給を要請しております、もちろん対価はお支払いいたします」

「なるほど、つまり我が領内を通過して、ピレネー山脈へ向かうと言う事ですね、しかし……」

「何か、問題でも?」

「現在わが国もコルドバ帝国と交戦中で、恥ずかしながら我が軍は劣勢、王自ら王都レオンから出撃して南方のザモラで帝国軍と戦っている最中でして、領内はもはや安全では無いのです」

「なるほど、では我らの上陸を認めていただきますか、まずはそのザモラへ救援に参りましょう」

「本当ですか、しかし……いや、敵の敵は味方と言いますからな、上陸を許可いたします、それと水と食料の補給も」


 こうして、皇帝軍20000……親衛隊15000にヴァイキング兵5000が加わっている……は、皇帝ユーグ自らが四頭立ての戦闘用馬車に三人の皇妃と共に乗り、赤に金の飾りの甲冑の親衛隊兵とヴァイキング伝統の甲冑に身を包んだ古参兵を率いて、まずは王都レオンに向かう事となる。

「見ろよ、あれが魔聖ローマ帝国軍だそうだ、あの金の鎧が皇帝様らしいぞ」

 この時ユーグは新調した黄金色の甲冑に赤いマントと言う姿になっている、そして三人の皇妃達も同じ甲冑姿だった。

 沿道には見物人が多数詰めかけている。

「陛下、あれを披露してもよろしいですか?」

「ああ、派手に見せてやれ」

三人の皇妃はそれぞれの宝剣を抜くと上にかざし、絵画魔法で炎のドラゴンを描く、ドラゴンは口から炎を吐きながら天に昇っていった。

 沿道の見物人達から大歓声が起こり、道案内に先導するカスティーリャ伯ガルシアとアストゥリアス騎兵は唖然としている。

 ヒホンからレオンまでは馬で約半日、夕刻にレオンの城壁に着いた、魔聖ローマ帝国軍は街の外で野営をする事になる、ユーグも豪華な幕舎を持参しているのだが、今夜は妻達と軍団の士官達は王弟であるカスティーリャ伯ガルシアの招きで、王都内の屋敷で一夜を過ごす事になる。レオンからザモラまではたった140kmほどで馬を飛ばせば6時間ほどの距離だ、つまりコルドバ帝国軍は王都の目前まで迫っている事になる。

 簡単な夕食の後、ユーグはガルシアの案内で王宮の監視塔に登った、ここから狼煙でザモラの状況を確認しているそうだが、戦況はかなり悪いらしい。

「さて、どんな物かな」

とユーグは千里眼魔法を発動させる、これは転移魔法と共に会得した魔法で転移魔法は、記憶にはっきりと残っている場所か目視できる場所にしか転移できないと言う制限がある、それを補うのが千里眼魔法で、意識を集中すれば300km先までは見通す事ができる様になっている。

「敵は城門のすぐ近くまで迫っている様だ、明日の朝、出立して間に合えば良いがな」

と心の中で呟いた、同盟国と言うわけでも無いので、救援に向かう義理は無いのだが、間に合わなければコルドバ帝国軍と直接対峙する事になり、それはそれで面倒だと思っている、そして更にザモラの街の後方に展開しているコルドバ帝国軍の方も気になる。

「包囲軍と後方の両軍合わせて、30000程度かさてどんな手で行くかな」

そう思ったユーグはガルシアに礼を言って自室に戻る、そして飛行魔法で空に上がると転移でザモラの包囲をしている敵軍の大将が居ると思われる豪華な幕舎に、雷魔法『ディヴァインサンダー』の雷を落として転移魔法で帰還する。

「これで少しは時間が稼げるだろう、見殺しにしたとなると寝覚めが悪いからな」

 ユーグはそう思うと、ベッドに入り眠りに着いた、流石に他国の他人の家で妻達と夜を過ごす事はしなかった。


 同じ頃、ヴァスコニアでは、戦線は一進一退を繰り返している。

「敵は攻撃力に勝るが、防御は全く弱い、これで敵の手に渡った街を取り返すのは何回目だ、このまま無意味な消耗戦をするつもりか?、だがこちらは食料も水も余裕があるが、奴らはそうでは無いだろうに」

ヴァスコニア公サンシュ4世は苛立ちを隠せないでいる。

 国境付近の街や村を占拠した敵軍に攻撃をかけると、敵は後退して行く、だが街を解放しても直ぐに

敵の圧倒的な火属性魔法の前に、こちらも撤退するしかなくなるのだった、既に少しずつだが死傷者も増えている。

「辺境候、我らが敵の背後に回り、敵の攻勢に合わせて叩いてみましょうか?許可をいただけますか?」

「(敵の攻撃力、私にはそれ程高いと思え無いのだが)」

とアンリは進言してみた。現にアンリの部隊は全くの無傷だった。

「なるほど、それで敵の攻勢を止められるかもしれんな、ポワトゥー公爵頼めるか?」

「お任せください」

「(ヴァスコニア公は良将だな、これは戦い甲斐がある)」

 自分の意見を即決で取り入れてくれる度量がある司令官だ、そう思ったアンリはその日の内に

夜の闇の中、自分の兵達を連れて一度北に向かいそこから東に移動して、今度は南下、

敵の背後と思われるあたりで、北西に向かう、アンリの指揮下にある兵は全員が騎乗した魔法騎士なので

機動力は帝国軍の中でも随一だった。


 本営を出て三日目に、斥候が敵の本陣を発見する。

「敵軍、約20000と言った所だな、夜襲をかけて敵の食糧を焼くか」

アンリの部隊の特徴は、騎乗で移動しながら魔法を発動できる事にある、防衛戦より機動力を生かした奇襲攻撃を得意としているのだ。

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